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センスと努力の積み重ねで作られている「グランツーリスモ」最新作の秘密

「グランツーリスモSPORT」スタジオツアー&試遊レポート

10月19日 発売予定

価格:
6,900円(通常版/税別)
9,900円(リミテッドエディション/税別)
7,900円(デジタルリミテッドエディション/税別)

 10月19日に発売が決定したプレイステーション 4用リアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモSPORT」。発売日に先駆け、ニュースメディアを対象にしたポリフォニー・デジタル東京スタジオのスタジオツアーが開催された。

 当日は、「グランツーリスモ」シリーズプロデューサー山内一典氏にご案内頂いての制作スタジオ見学から、製品版の試遊、そして山内氏への合同インタビューが行なわれた。
 本稿では、スタジオ見学や試遊の模様をお伝えしていこう。なお、山内氏へのインタビューは別記事にてお伝えしているので、そちらもぜひご覧頂きたい。

【「Gran Turismo Sport」Trailer July 2017 HD版】

山内氏による「グランツーリスモSPORT」プレゼンテーション

 この日行なわれた「グランツーリスモSPORT」スタジオツアーは、都内某所のポリフォニーデジタル東京スタジオを、シリーズプロデューサーである山内一典氏にご案内頂くという、開発現場レベルから「グランツーリスモSPORT」を知っていけるという、非常に贅沢な体験だ。

 ツアーの前にまずは、山内氏による「グランツーリスモSPORT」の基本的な収録モードや特徴を解説するプレゼンテーションが行なわれた。

 ホームのメニューから全ての機能にアクセスできるUIはシリーズ作同様で、そこから各ゲームモードへと入っていくわけだが、今作で収録されているモードは“より深く車を知り、より楽しむ”という方向性が感じられるもので、多様性のある楽しみ方となっている。

 レースモードの中心となる「スポーツモード」では、エントリーできる選手権やFIA公認の本物のスポーツライセンスが獲得できる「FIA Gran Turismo Digital License」のチャレンジなどがあり、初心者から上級者まで「グランツーリスモ」のスキルを高めていけるものにしているという。

 各種のスクールモードやチャレンジでは、シリーズお馴染みのゴールド、シルバー、ブロンズのトロフィーが用意されていて、ゴールドを目指して挑んでいくわけだが、今作ではより初心者に配慮して、ミッションやチャレンジごとに「プレイの解説動画」が見られるようになっている。単純なお手本プレイではなく、音声による解説もついていてよりわかりやすい。

 車を所有する喜びを楽しむという面では、所有している車を好きな写真の中へと自由にレイアウトして写真を取る「スケープス」がその最たるもの。スケープス用の写真は現実にある世界中の名所が用意されていて、その写真の中に、まるで本当にその場所で撮影したかのような写真を撮れるようになっている。もちろん撮影のカメラ設定も、シャッタースピードやf値によるぼかし、さらに流し撮りなど豊富に用意されている。

 カーディーラーはより深く車を知っていける「ブランドセントラル」というモードに進化した。ミュージアムという項目があり、そこを選ぶと自動車メーカーの歴史を学んでいける。メルセデスベンツで言えば100年以上前の1893年頃から現在に至るまでの活動が収録されている。また車以外の世間一般での話題や出来事も同時に閲覧できるようになっていて、時代の流れとともに、自動車業界の歩みを学んでいけるものとなっている。

 車の外観をカスタマイズする機能も充実している。塗装ではカラーピッカーによる自由な色選択だけでなく、その塗装の質感、フレークの量を増減させることもできる。デコレーションでは「リバリーエディタ」というステッカーを自由に貼っていける機能が待望の実装だ。このステッカーデータをどのように作成できるのかは今後に詳細が明かされるということなのだが、この日はメディア各社のロゴが事前に作成されていて、それを貼ることもできた。

驚きの職人的な制作スタイル - 「グランツーリスモSPORT」スタジオツアー

 続いては、いよいよスタジオツアーだ。ポリフォニーデジタル東京スタジオの各所には、「グランツーリスモ」シリーズの制作に使われてきた貴重な資料などが置かれていて、ファンにはたまらない空間となっている。こちらは写真を中心にご紹介していこう。

2014年にナイキがデザインした車を「グランツーリスモ」収録した際に、ナイキが作ってくれたという山内氏のレーシングシューズ
「グランツーリスモ」の制作はまず、世界に溢れている光をキャプチャーするところから始まるという。その取材のための機材がズラッと並んでいる
山内氏の作業スペースへ。まずはプレイ用のディスプレイ
ディスプレイの横には大量のカメラのレンズが。これは山内氏の私物で、まず自分の自腹で試してから会社のものとして導入しているのだそうだ
こちらが山内氏のデスク。タブレットもあって絵も描かれるとのことで、この日に表示されていたのは「グランツーリスモSPORT」に収録されているブルームーンベイのイメージスケッチ
こちらは休憩室。いろんなゲームを遊ぶコーナーもあり、ハードも網羅されている
サウンドスタジオにもなっているという喫煙スペース。「グランツーリスモ」の作曲を手がける嘉生大樹氏はここに住み着いているのだとか。中には楽器が一通り揃っていて、深夜にここで音楽を始めることがしばしば。制作中に何か音が必要になった時にはここですぐに録音してしまうことも多いのだという
グラフィックデザインチームのエリアでは、壁にUIやロゴ、パッケージなどのデザインが貼られている
実物でスキャンする車のパーツや、かなり昔に参考にしていたプラモデルなども取っておかれている。当然、今はもう使っていないが、見栄えがいいので残しているのだという

 なお、この日もスタッフの皆様が制作作業をしている最中であり、そうした作業中のフロアではお見せできないものが写る可能性もあるということで、撮影はできなかったのだが、そうした撮影不可のエリアでは、実際に制作中の様子を見学しつつ、今作の制作過程について紹介された。

・車のモデリング制作はアーティストによる手作業で1台あたり約6カ月で完成する

 車のモデリングでは、実際に1台のモデルが出来上がっていくまでの制作プロセスを収録した映像を早回しで見つつ解説頂いたのだが、その工程は、実車をレーザースキャンした点描のデータから始めて、後はひたすらにアーティストデザイナーの方が手作業でモデルを作っていくという、まさにハンドメイドなもの。1台あたり5,000枚以上という実車の写真を見つつ、おおまかな外観とフォルムから作っていって、細かなディティールまでを全て手作業で作っていく。

 エクステリア(外装)が仕上がったら、次にインテリア(内装)も制作していく。ここではシートの形状から質感もしっかりと作っていき、メーター類に至っては車それぞれにワンオフなフォントやデザインがされているのを忠実に再現していく。もちろんメーターの針の動きもしっかり作ってあって、それらが今作だとVRモードで楽しめる内装などに反映されている。

 聞けば聞くほどに職人仕事な領域なのを感じた次第だが、山内氏いわく「グランツーリスモ」における車のモデリング制作は非常にセンスがいる仕事であり、アーティストのタレント(才能)と努力によるもの。機械的な自動化はなく、1台あたり約6カ月ほどかけて完成していくという。

・車のモデリングのチェックパートは実車と並べて行なう

 そうして完成した車を、チェックするパートもある。今作では位置情報を持ち3Dモデリングをレイアウトできる写真「スケープス」があるが、その技術を使って実車の写真の横に3Dモデルの同車種を並べ、あらゆる角度からチェックしていく。光を当て、質感も見ていくのだという。この日実際に行なわれていた作業の様子では、かろうじて実車の方にナンバープレートがあるので見分けがついたが、ほぼ実車と3Dモデルは光の反射の質レベルでも見分けがつかないレベルになっていた。

・コース制作もレーザースキャンからの手作業

 コースの制作でも、やはり車のモデル制作同様にひたすら手作業での制作が行なわれる。コースでは全長が大きいことからデータの測定が重要となるということで、路面のデータはGPSと連動している車載型のスキャナーで測定するほか、歩いて測定するものも使いつつ繰り返し行なって精度を高めているという。精度としては高低差3mm内ほどのデータが取れるのだそうだ。

・コース周りの樹木もしっかりと調べ再現する

 コースには様々な草木があるわけで、それも世界中で異なっている。それもしっかりと種類を調べ、そのものをちゃんとゲーム中に再現しているという。そうでない樹を植えるとわかってしまうもので、ニュルブルクリンクにはニュルブルクリンクの樹が、鈴鹿には鈴鹿の樹があるのだという。葉の光の反射率や透過率を調べたりもしているそうで、葉っぱの撮影用のスタジオ作りから行なっているというのだから、とてつもない。

 そうして作った植生をレイアウトするにしても、走行中に枝振りがシルエットで見えるようなシーンもあるので、そうしたところにはセンスも必要となるそうだ。また、そうした植生に当たる太陽の光や天候も世界各地で異なる。それらを全て忠実に再現することで、本物が作れるということだ。

・コース外のオブジェクトもほとんど見えないようなところまで作り込む

 コース外のオブジェクト制作の一例として、鈴鹿サーキットの観覧車の制作模様が紹介された。車同様に完全に細部までモデリングしていて、ゲーム中には用途に応じたモデルを表示していく。フルモデルではボルトの1本までもしっかりと作ってあり、それが微妙な光の反射の違いを生む。そうしたところも真面目に全部作るのが大事とのことだ。

草や芝の生え方はノードベースの生成アルゴリズムによるプロシージャル モデリングで作成

 草や芝は、現地の実際のデータを調べてくるところまでは他の制作工程と同様だが、その先は、様々なノードベースのパラメーターを与えたアルゴリズムで、立体情報を含んだテクスチャを生成しているそうだ。ただ、その生成アルゴリズムにどんなパラメーターを与えるか次第でできあがるテクスチャの自然さが変わってくるわけで、そこはエンジニアのセンスが問われるところになるという。

 山内氏いわく、こうした広大でランダム性のあるものを作っていくという時に今後、こうした生成アルゴリズムで作るのがポピュラーになっていくのではとのこと。これまではデザインアーティストとエンジニアは別々のセクションとなっていたが、こうした作り方になるとアーティストがエンジニア的な仕事もすることが増えていくのではないかという話もされていた。

製品に近い最新版を試遊! 車の楽しさをたっぷりと味わえて、VRでも楽しめる

 スタジオツアーと山内氏へのインタビューを終え、最後に最新版の「グランツーリスモSPORT」を試遊させて頂いた。

 まずは各種モードに触れていく前に自分の乗るマイカーのデコレーションを……というわけで、ガレージの「リバリーエディタ」へ。ご用意頂いた「GAME Watch」のロゴステッカーを車体に貼ってみる。ステッカーのサイズや角度は自由に調整可能で、複数のステッカーをレイアウトすることもできる。このユーザーデータのステッカーをどのように作成するのかなどの詳細は今後に公開予定とのことだが、他のユーザーのステッカーに「いいね」をしたり、人気上位のランキングを見たりといった機能もあったので、公開したり共有したりといったところも楽しめるのではないだろうか。

 デコレーションができたところで続いては合成写真の撮れる「スケープス」へ。様々なロケーションがあり、日本でも秋葉原や渋谷などなど、お馴染みな地域や名所が多数収録されている。

 実際にスケープス写真の中に車をレイアウトしてみると、簡単な言い方をすればこれは、写真内の路面の部分に車を置けるようになっているジオラマのようなデータ。路面の距離に応じて車体のサイズが自動的に拡大縮小され、写真からの光源処理もリアルタイムに反映されるので、実際にその写真の中に車が加わったような質感になってくれるというわけだ。

 ただ、その作り込みは凄まじい。写真内の水たまりに3Dモデルの車を近づければ、その水たまりには車がちゃんと映り込む。車のライトをつければそれが写真内の様々なところに反映される。単に画像を重ねて置いているだけの領域を遥かに超えて、写真の中に加えるレベルになっているものだ。

 一通りのモードを触ったあとはいよいよレースへ。主にアーケードモードで様々なコースを走ってみたのだが、広いコースであっても高精細な描画と安定したフレームレートは崩れることなく、凝縮感のあるかっちりとしたプレイ感を与えてくれる。

 また、この日はスラストマスターの「T-GT」がセッティングされていたので、操作系の手触りにおいても最高峰。ステアリングへのフィードバックと本体の振動機能で、路面の感触までも伝えてくるようなところがあった。

 今作ではアシスト機能が充実しているところに注目したい。スタッフの方いわく初心者の方や運転に慣れていない人にもかなり配慮しているとのことで、「自動ブレーキ」や「自動ブレーキ&自動ステアリング」の機能が搭載されている。

 こう聞くと、「自動ブレーキとステアリングなんて、ただアクセル踏むだけになっちゃうじゃないか!」と思われるかもしれないがそうではなく、この機能は、あくまで補助的なもの。ブレーキもステアも、ある程度自分で操作しているところを、よりスムーズに走る力加減に調節してくれるというものだ。例えば、大きく減速するべきコーナーなら、自分でわずかに減速すれば自動で大きく減速してくれる。ステアリングも同様で、フィードバックも軽くなる。

 例えるなら、上級者が一緒に運転してくれているような状態で、自動機能が働くことで「なるほど、ここのコーナーはそれぐらい減速するべきなんだ」とか、「これぐらいステアリング入れるのか」ということが肌感覚でわかるようになっている。アシスト機能とは言えども、上達のためのプロセスになっているというところに、ドライバーを育てていきたいという「グランツーリスモ」らしいこだわりを感じる。

 一通りのプレイを動画に収録させて頂き、下に掲載しているので、そちらもぜひご覧頂きたい。

【「グランツーリスモSPORT」プレイ映像】

 最後にPlayStation VRでのVRドライブモードも試してみた。選べるコースは2種類、同時に走る車は自分ともう1台の1 vs 1ということで、少々負荷の面から寂しいところも感じるのだが、それでもこのVRドライブでの体験は“VRならでは”なものに満ちていて楽しい。

 まずは内装だ。前述のようにたっぷりのこだわりで内装までも忠実さ重視で作られている3Dモデルを、VRではまさに自分がコックピットシートにいる視点で見回せる。VRドライブものでも内装の奥行き感はそれほどなくて平面的だったりもするのだが、「グランツーリスモSPORT」では自分の足先までも少し距離感が出ていて、非常に立体的に楽しめる。

 レースを走ってみると、その自然さが印象に残った。違和感がなく酔いを感じるようなことも全くない。それどころか、この日はレーシングシートにスラストマスターの「T-GT」というフル装備だったこともあって、実際に車内にいるような錯覚すら覚えるほどだった。環境を徹底して整える意気込みのある人ならば、ぜひこのVRモードも触れてみてもらいたい。

 こちらもプレイ動画を掲載しているので、ぜひご覧頂きたい。

【「グランツーリスモSPORT」PlayStation VR映像】

他にない「グランツーリスモSPORT」だけが持つ何かが、そこにある

 山内氏によるスタジオツアー&インタビュー、そして試遊と、「グランツーリスモSPORT」の表から裏までをたっぷりと味わった1日となったのだが、そこで感じたのは、今作が高いモチベーションと熱意で、信じられないほどのこだわりを持って作り込まれたものであること、凝縮されたものであるということだ。「グランツーリスモ」シリーズには他のドライビングゲームにはない独特な手触り感があると感じていたのだが、その理由がわかったような気がする。そもそものスタート地点から他とは異なるものなのだろう。

 車がある環境そのものをコミュニケーションの機能ごと作って楽しめるようにし、そのなかにレースという重要なファクターがある……そういった印象を持つぐらいに、「グランツーリスモSPORT」が提案する車との楽しみ方は多方面へと渡っている。

 10月19日の発売まではもう少し日があるが、あとわずかでもある。発売を楽しみに待ちたいところだ。