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核心の革新を確信。「グランツーリスモSPORT」は1発で好きになれる走り味へ!!
ポリフォニー・デジタル山内氏「妥協なし」。恐るべき完成度を体感した
2017年6月15日 21:13
今度の「グランツーリスモ」はマジでスゴい。
E3 2017、Sony Interactive Entertainment Americaの巨大ブースの一角は「グランツーリスモSPORT(GT SPORT)」が占領。多数の体感型試遊機を並べた会場にて、シリーズのクリエイターであるポリフォニー・デジタルの山内一典氏が直々に登壇し、本作の発売日を「2017年秋」とアナウンスした。
「グランツーリスモ(Gran Tourismo)」はプレイステーションの歴史とともに進化を続けてきたドライビングシミュレーターの定番シリーズだが、その最新作となるこの「GT SPORT」は、“シリーズの正統な後継者”という表現だけでは片付けられない何かを持っている。むしろ、20年に渡るシリーズの歴史に、にある意味で断絶をもたらす存在になったかもしれない。取材を通じて、それほど大きな変革を感じることができた。
本稿では、山内氏によるプレゼンテーションおよび実機でのプレイを通じて得られたインプレッションをもとに、「GT SPORT」がいかなる存在に仕上がったのかをお伝えしたい。
別次元のドライビングモデル。1発で恋する、ソリッド&スムーズな走り味
実際の取材とは順番が前後するが、まずは筆者がおおいに感動した、実際の走り味についてご紹介したい。
山内氏も「根本から見直した」という本作のドライビングモデルだが、その味わいは、ハンドルを握ってわずか数秒で違いが感じられるほど、大きな変化を果たしていた。
ここは好みが別れる部分かもしれないので、ひとりのドライビングシムファンとして、筆者の好みを表明しておこう。
遍歴はこんな感じだ。初代「グランツーリスモ」でドライビングシムの面白さに目覚めて以降、「GT Legends」、および「GTR 2」といったSimBin作品を経て、Codemastersの「DiRT」シリーズ、あるいはTurn 10 Studiosの「Forza」シリーズをプレイしてきた。その他「rFactor」シリーズや「Raceroom」、「iRacing」など、いわゆるPC向けのガチシムを含めて、メジャーなドライビングシムは幅広く触ってきたつもりである。
近年ではSlightly Mad Studiosの「SHIFT Unleashed」や「Project Cars」の挙動もまあ悪くないとは思うけども、2015年以降はもっぱら「Assetto Corsa」のかっちりとしたドライビングモデルに惚れ込んでいて、ひとっ走りしたくなるとそればかりプレイしている(しかもSpaばっかり)。
そんな筆者にとって、PS3時代の「グランツーリスモ(5および6)」のテイストはあまり好きではなかった。特に、全般的に足回りの反応に鋭さが感じられにくかったことや、ロードインフォメーションの伝わり方がなんだか曖昧な感じであったところ、あるいは、グリップ・ハーフグリップ・ドリフトといった、それぞれにある閾値で急激に状態が変化する、いわば“グリップ状態の相転移”みたいなところを感じ取りにくかったところ。こういった部分が実車以上にクルマのコントロールを難しくしている気がして、少なくとも個人的には、やる気をそそるドライビングモデルとはいえなかった。
そして今日、「GT SPORT」のコーナーに設けられた8台の試遊台に日本の記者がまとめて招待され、即席のメディア対抗戦のような形でプレイする機会に恵まれた。ありがたくも、本作のドライビングモデルを実戦で確かめることができた(ちなみに、おかげさまでレースには勝ちました)。
結論を言うと、「GT SPORT」のドライビングモデルは、過去作とは完全に別物というレベルで変化・進化している。レース開始から数秒、第1コーナーに突っ込んだ瞬間に違いがわかる。正直なところ、ハンドルを切った瞬間に驚いたし、1周で1分弱の短いサーキットをひとまわりする頃には、本作の走り味が好きになってきた。
山内氏のプレゼンテーションでは、本作のドライビングモデルについてこう述べている。「本作ではリアリティ、ドライバビリティ、アクセシビリティの全てにおいて全く妥協せず、最高を目指しました」。これまでの作品では、リアリティの再現において限界があり、そこに何かが欠けていた結果として、クルマの運転が実際よりも難しくなってしまっていたという認識もある。しかし本来ならクルマの運転はもっと簡単だと山内氏はいう。「GT SPORT」ではPS4の性能を活かし、クルマの物理シミュレーションを1から見直すことで最高のリアリティを実現。これが結果として、ドライビングをより簡単なものにした、という主張だ。
実際にプレイしてみて、この主張には一片の誇張もないと思われた。タイヤの反応は極めてソリッド。ハンドル操作への応答は機敏であり、加減速・コーナリング時といった様々な状況において、タイヤがどういった力を受けているのか、ビジュアルとサウンド、そしてステアリングホイールへのフィードバックを通じてナチュラルに感じ取ることができる。
荷重が一定の限界を超たときに訪れる、タイヤのグリップ状況が相転移するギリギリのラインもハッキリと認識できた。PS3時代からすると、本当に別物。別次元。画面の向こう側に、本物のクルマが実在しているという、強烈な説得力。それを映像のリアリティからではなく、挙動の確かさから感じられる。
このフィードバックの確かさを与えてくれているのは、「GT SPORT」のシミュレーションエンジンに加えて、本作のために特別設計され、同時発売を予定しているハンドルコントローラー「T-GT」のおかげでもある。
ポリフォニー・デジタルとThrustmasterの共同開発によるこのハンコンは、ステアリングの回転軸方向に駆動する通常のフォースフィードバック機構に加えて、ユニット全体を振動させるためのメカニズムが組み込まれている。2種類のフォースが組み合わさることで、ほかでは実現できない立体的なフィードバックを構成しているわけだ。
その結果として、すぐに思い通りのドライビングができるようになった。PS3時代のシリーズ作では挙動のクセやコツを掴むまでかなりの時間を要したものだが、今回は違った。4ラップレースの半分をすぎる頃には自分でもこれが初プレイとは思えないほどギリギリを意識して攻めていたし、最終ラップではベストタイムを刻めたと思う。とにかく、走っていて本当に気持ちが良かった。
本稿を執筆中の今もその感覚が手に残っているが、また走りたくてウズウズしている。惚れた。購入確定だ。本当に。
今後10年戦える。山内氏のプレゼンに見る「GT SPORT」
さて、実際の取材ではプレイ前に行なわれた、ポリフォニー・デジタル山内一典氏によるプレゼンテーションの内容をお伝えしよう。
山内氏によると、ゲームそのものはすでに完成しており、現在の開発段階は「リファインメント」のフェーズにあるという。ゲーム各所の完成度をひたすらブラッシュアップするという工程だが、実は、この工程を満足できるまで行なうことができたのは、20年前の初代「グランツーリスモ」以来とのことだ。
どうしてそこまで慎重に開発を進めているのかというと、本作を10年先の将来まで見据えた作品と位置づけているからだ。
それがよく現われているのは、収録車両の3Dモデル。本作の開発に合わせて全車両をゼロから作り直したといい、そのモデリング精度は、クルマメーカーが設計製造に用いるCADデータを除けば、他に類がないほどの精密さだという。
これは現行ハイエンドの「PS4 Pro」においてすらオーバースペックというレベルで、「将来を見据えて、今後10年戦えるモデルを作りました」という山内氏である。本作ではローンチで収録される140車種が、この精度で作られた「スーパープレミアムモデル」となるそうだ。
将来のためのベースという面では、ドライビングモデルをオーバーホールしたところも重要なポイントだ。その効果は前段でしつこくご紹介したとおり、非常に好ましいフィーリングをゲームにもたらしている。
さらに、グラフィックスクオリティの追求においても、本作は今後10年を見越した作りになっている。まず今作は「PS4 Pro」で4K/HDR/60fpsの映像表現を実現するが、それ自体は終着点とみなされていないようである。
例えば、色の再現。従来までのHDコンテンツは、sRGBカラースペースをカバーするディスプレイ、いわゆるSDR(Standard Dynamic Range)の表示環境を前提に各アセットが製作されてきていた。しかし現在ではより高コントラストかつ広い色域を表現できるHDR(High Dynamic Range)対応のディスプレイが出てきており、カッティング・エッジの映像表現を行なうためにはその最先端の基準でパイプラインを構築することがキモとなる。
そこで本作では、4K/HDRにおける最先端の仕様となるBT2020の色域、ワイドカラーと呼ばれる基準を前提に製作パイプラインを構築。sRGB比で64%増のカラースペースをカバーするBT2020は、人間が感知できる色域の99.9%を再現可能である。これにより、フェラーリの赤、マクラーレンのオレンジといった車両の色彩を、極めて現実に近い色で表現できるようになったという。
山内氏が力説したワイドカラー対応って何?
sRGBとかBT2020とか言われても、なんだかイメージが湧きにくいので、もうちょっと補足してみよう。
もともと、ディスプレイ装置というのは出せる光の強さや波長の範囲に限界があって、現実世界に比べると「色あせた」表示しかできない。例えば24ビットの色表現でRGB=FF0000とすると理論上は「完璧な赤」だが、それを画面表示した結果は、ディスプレイ装置が出せる範囲での「最善の赤」でしかない。となりに、ほんものの完璧な赤絵の具を並べてみたら、「なんだ全然赤くないじゃん」となるのだ。
この、ディスプレイ装置が出せる限界の色が、人間の視覚で捉えられる色彩の最大範囲をどの程度カバーするか。その基準を定め、ディスプレイ表示と印刷といった異なる出力方法の整合性をとるために標準化されているのが「カラースペース」だ。いま標準的に使われているsRGBはPCディスプレイ向けにMicrosoftとHPが1996年に策定したカラースペースで、当時のCRTや、まだ発展途上だった液晶ディスプレイ、でおおむね再現可能な色域が定義されている。
ディスプレイよりもインク等のほうが色の再現能力が高いため、写真や印刷用のカラースペースはこれより遥かに広い範囲に定義されている。例えばコンテンツクリエイターには馴染み深いAdobe RGBというカラースペースがあるが、これを前提に作られたコンテンツをsRGBディスプレイでそのまま表示すると、ダイナミックレンジが不足して非常に色あせた感じになってしまう。プロ向けにはAdobe RGBを直接カバーするディスプレイもあるが、極めて高価だったり、色再現以外の機能が犠牲になっていたりする。
というわけで実際には、異なるカラースペースでコンテンツを行き来させるため、それぞれの規格にフィットするよう「変換」を挟む。今の例の場合では、コンテンツの持つ色情報をAdobe RGBからsRGBの範囲に圧縮することになる。この過程で、本来あった色の情報が欠落したり、色飛びを生じるといったトレードオフを強いられる。
とはいえ最近ではディスプレイ技術が向上し、有機ELやLEDマトリクスなどの自発光素子を活用することで、従来比で倍以上の輝度や、大幅に上回る色域を表示できるようになった。だが、それを使って従来のsRGB用の信号をそのまま出力すると、想定を超える再現性のために色がギラギラしすぎる。そこで、sRGBと整合性をとりつつディスプレイの表示能力を拡張できるよう、新たな基準として策定されたのがBT2020というわけだ。
BT2020はかなり将来を見据えた基準になっていて、現在のところはこれを完全にカバーするディスプレイ装置は存在しない。つまり、BT2020を前提に作られた「GT SPORT」の車両その他の映像を、完璧に出力する方法はまだ存在しないのである。まあ、1フレームづつ紙に印刷し、パラパラ漫画方式でゲームをプレイすれば、ひとまず色域の再現は可能だ。
このBT2020カラースペースは4K/HDRに続いて開発が進められている8K/HDRでも採用される見込みで、まさに今後10年のディスプレイ装置の進化を先取りしたものになる。それに基礎の基礎から対応した「GT SPORT」がどれだけ未来を見据えた作りになっているのか、以上の説明でご理解いただければ幸いだ。
そしてVR対応も、信じられないレベルでスゴかった
上述したのは通常の(4K/HDRの)フラットディスプレイにおけるプレイフィールのご紹介だったが、もちろん本作はPlaySation VRにデイワンで対応するタイトルでもあり、PS VRオーナーならずともVRドライビングの手応えは気になるところ。
これも実際に体験することができたが、それも期待を上回る出来栄えだった。
PS4のドライビングゲームでは「DriveClub」がすでにPS VR対応を果たしているが、ちょっと解像感が足りない感じや、シェーディングがのっぺりする感じもあって、「GT SPORT」もそうなるのでは? とうっすらと不安をいだいていたのは事実。だが、心配不要だった。
PS VRのヘッドセットに表示される「GT SPORT」の映像は、極めてクリアだ。ほぼドット・バイ・ドットか、それに極めて近い解像度でのレンダリングを行なっているようで、路面状況からライバルカーの様子まで、期待以上のクッキリ感で捉える事ができる。それでいて動作は60fpsキープでスムーズそのものだ。
さらに衝撃を受けたのは……バックミラーおよびサイドミラーも、ちゃんと3Dなのである(笑)。これまで存在したいくつかのVR対応レースゲームでは、ミラー内の表示まではステレオになっておらず、そこにどうにも違和感が残るものも少なくなかった。というよりはほとんと全部そうだった。
が、本作のバックミラーはちゃんとステレオ描画がされており、ミラーに映る風景にもリアルな奥行きがある。背後を走るライバルカーへの距離感が直感的に掴める。サイドミラーも同様で、実物同様の角度で車体後部を捉えている。こういったこだわりが、VRプレイの臨場感を最大限に高めてくれている。
デモ機はPS4 Proということだったが、それにしてもコンソール機の性能でよくぞここまで再現したものだと、感動しきり。それでいてシェーディングのクオリティがひどく下がるようなこともなく、フラットスクリーンで見ることのできた映像クオリティが(PS VRのパネル解像度による制限はあるにしても)、ほぼそのまま楽しめた。特に、鬼のように作り込まれたクルマの内装が美しく描写されているのが素晴らしく、運転を忘れて見とれてしまったほどだ。
ちなみに山内氏自身はVRについての質問を受けた際に、「まだまだ誰もが使うものではないですし、出たばかりということで機能的にも発展の余地が大きい段階ですが、せっかくコンシューマー向けのVRが出てきたということで、将来への重要なステップとしてしっかり対応しようと思いました」といったコメントをしている。その言葉、表情の節々に、“理想はまだまだこんなものじゃないぞ”という、山内氏らしいこだわりを読み取る事ができた。
eスポーツ? いや、スポーツなのだ
以上のように、歴史あるシリーズ作の1本という枠組みには収まりきらないほどの進化を遂げた「GT SPORT」。将来に向けての施策としては、本作をスポーツとして活用していく施策も用意されている。
本作ではローンチ時点で全145種類のレースイベントを収録し、時と場所やシチュエーションを変えてレースキャリアを積んでいく「キャンペーンモード」を始め、気軽にレースを楽しめるアーケードモード、クルマの各ブランドについて学ぶことのできるブランドセントラル、モータースポーツの歴史を学べるミュージアム、多彩なロケーションでクルマの撮影等を楽しめるスケープ、クルマのカスタムペイントを製作共有できるライブリーエディター、そしてプレーヤー同士の様々なコミュニケーションを支援するソーシャル機能など、「グランツーリスモ」らしい多彩な遊びを提供する。
その中でも山内氏がイチオシするのが「スポーツモード」という新要素だ。まだ詳細は明らかでないが、山内氏の説明によると「NBAやウィンブルドンのように全人生をかけてするトップレベルのスポーツと、ストリートバスケやジョギングのように、日々の生活を豊かにするためにおこなうデイリースポーツの双方をカバーする」というコンセプトだという。
ちなみに本稿では、ここまでe-Sportsという言葉を使っていない。山内氏自身が、e-Sportsという言葉を意識的に避けていたからだ。山内氏の中では、「GT SPORT」でのドライビングと、本物のクルマのドライビングを、おなじ「スポーツ」として捉えている。
それを反映するのが「GT SPORT」公式大会の存在だ。これまでも「GT」シリーズは様々な形で“e-Sports”の試合に使われてきたが、「GT SPORT」ではFiA(国際自動車連盟)と共同で、「FIA - Gran Turismo Championships」というチャンピオンシップを開催する。このチャンピオンシップは、国別対抗戦「Nations Cup」と、マニュファクチュア対抗戦「Manufaccturer Fan Cup」という、2つのプロフェッショナルリーグに分かれて開催されるという。
FiAの公式大会であるのだから、実車で行なう各種カテゴリーのレース・チャンピオンシップの中に、たまたまデジタルで行なう種目があるだけ、という感じである。だから“スポーツ”の前にわざわざ“e”をつける必要はない。人類が長い歴史の中で慣れ親しんできたものとは異質なもののような呼び方をする必要はない。というのが山内氏の信念だろう。
というわけで、あらゆる面で非常に頼もしいドライビングシムに仕上がったように見える「GT SPORT」。弱点らいし弱点といえば、もはや「PS4でしか遊べない」ことくらいしかなさそうだ。全世界5,000万人のPS4オーナーのみならず、日頃PC等で走っているシマーの皆さんも、ぜひその目で確かめるべきだろう。