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「『グランツーリスモ』はオーバーアチーブで作っている、とても日本的なタイトル」
「グランツーリスモSPORT」プロデューサー山内一典氏インタビュー
2017年7月27日 23:00
10月19日に発売が決定したプレイステーション 4用リアルドライビングシミュレーター「グランツーリスモSPORT」。これに先駆け、メディアを対象にしたポリフォニー・デジタル東京スタジオのスタジオツアーが開催された。
当日は、「グランツーリスモ」シリーズプロデューサー山内一典氏にご案内頂いての制作スタジオ見学から、製品版の試遊、そして山内氏への合同インタビューが行なわれた。
本稿では、そのなかの山内氏への合同インタビューをお届けしていく。なお、スタジオ見学や試遊の模様は別記事にてお伝えしているので、そちらもぜひご覧頂きたい。
――発売日も決まった「グランツーリスモSPORT」ですが、今作にかける意気込みはどのようなものでしょうか。
山内氏:今日初めて、皆様に「グランツーリスモSPORT」の全容というものをお伝えすることができたと思うのですが、今回の「グランツーリスモSPORT」というのは、これまで20年間のシリーズ作の良いところのエッセンスを全て取り入れ、スポーツモードであったり、HDRやHDRフォトグラフィーにも対応しています。HDRフォトグラフィーは新しい写真の世界で、今回は車に限定していますけど、人物を合成したりもできるんですよ。ああいう新しいフィーチャーも加わり、新世代のグラフィックスへの基本系が整ったのが「グランツーリスモSPORT」だと思っています。
僕らにとっては、最初の「グランツーリスモ」を作っている時の気持ちで作りました。もう1回「グランツーリスモ」の、これからの20年間を考えてデザインをし直しています。
――レースやシミュレーションだけでなく、車を所有する喜びであったり、車のある生活や環境、歴史までも楽しめるものにしようというコンセプトを今作でも強く感じます。そうしたコンセプトやアプローチというのは、ここ最近の作品で方向性を定めたものなのか、それとも初代「グランツーリスモ」の頃からいつか実現したい夢としてあったのか。どちらになるのでしょう?
山内氏:初代「グランツーリスモ」が発売された頃なんですけど、電車内で「俺、○○(車の名前)買っちゃったよ」みたいな会話が聞こえてきたことがあって。おそらく「グランツーリスモ」がスタートしたときから“車を所有する喜び”というのがゲームの中心にあったのだと思います。
「グランツーリスモ」はシリーズごとにいろんなトライアルをしてきたタイトルで、それが正しかったこともあれば間違っていたこともあります。これまでいろんなことをやってきましたが、今回の「グランツーリスモSPORT」ではその中でも“本質的に重要なこと”というのを、過去20年間の経験から振り返り、きちんとインテグレート(統合)したいという気持ちがありました。
――過去作と比べて制作態勢は変わってきているのでしょうか?
山内氏:ビデオゲームの進化というのは凄まじいものがありまして。PS1からPS2、PS2からPS3、そしてPS3からPS4へと、いつもガラッと変わるわけですよね。なので制作態勢が同じであり続けるということは基本的になく、その都度、作り方から見直しています。
「グランツーリスモ」というタイトルは、先ほどスタジオツアーで車をモデリングしている工程についてお話をさせて頂きましたが、常に“やり過ぎ”なんですよね。ここまでで充分というような境界がなくて、それ以上のところまで実際にやってみる。それが特徴だと思っています。
なので、なかなか事前の計算通りにはいかないタイトルですよね。ある程度やることを絞ってしまえば未来を予想することは可能になりますが、「グランツーリスモ」は結果としてこの20年間、いろんな部分でやり過ぎたことによって、全世界で8,000万人もの人が購入してくれたという背景があります。僕らとしても手は抜けなくて。一体どこまでいけるのかというのを常に限界にチャレンジしているところがありますね。
――先ほどスタジオツアーで、車のモデリングを完成させるまでに1台あたり約6カ月かかるということだったのですが、過去作でのモデリング制作と比べてどれぐらい期間が伸びてきたのでしょうか?
山内氏:変わってないですね。過去の「GT5」や「GT6」でもやはり1台あたり6カ月ほどかかりました。制作プロセスの効率化であったりツールの進化であったりを含め、効率自体は上がっているんです。でもその分、僕らがターゲットにしているクオリティのレベルも上がっているので、結果として期間は短くならないんですよね。
――例えば、今後にそれを短くしていける可能性はあるのでしょうか?
山内氏:車に関して言うと、難しいんじゃないかと思います。自動化できる部分に関しては充分に自動化していて、人間にしかできないところを人間がやっているというところで。常に超人的に仕事をしているところがあって、それをこれ以上に効率化するというのななかなか難しいです。
「グランツーリスモ」の車モデル制作は全て内製なんですよね。外注には出していないんですよ。それが「グランツーリスモ」のクオリティを支えているので、そこは「グランツーリスモ」として守らなければいけない基準なんだと思います。
――自動車メーカーさんとのやり取りもたくさんあると思うのですが、最近のやり取りで何か印象に残っているものはありますか?
山内氏:自動車メーカーの皆さんとのやり取りというのは常に刺激に満ちているのは間違いないですね。自動車業界というのはすごく競争の激しい業界ですし、面白い人もたくさんいます。デザイナーの方やエンジニアの方などとても仲良くさせて頂いているのですが、いつも興味深い話になることが多いですね。
そうですね……例えば、今作にはポルシェが収録されることになりましたが、そのきっかけになった話なのですが、昨年のル・マン24のレースで僕はポルシェのエンジニアの皆さんとお会いしたんです。そこで時間を頂いて、「グランツーリスモSPORT」のコンセプトや、どんなことをやっているのかというのをプレゼンさせてもらったんです。
するとポルシェの方々が「これは本物だ」と言ってくれたんです。
――それは、車のモデリングなどがリアルだみたいな言葉でしょうか?
山内氏:どちらかというと、コンセプトや考え方に対して認めてくれた言葉だと思います。ポルシェの方々は続けて「ポルシェとしても関わらないといけない」と言ってもらえたんです。
――車への熱意が通じたというところでしょうか。
山内氏:そうですね。熱意というのと、エンジニアリングだと思います。正しく車というものを捉えていたり、レースというものを捉えていたり。今回の「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ」に関しても、コンセプトやシステム、ルールに対して長年レースをやってきた人なりの共感というか、押さえるべきツボを押さえているということだったのではないかなと思います。
――シリーズを重ねるごとに細かなところまで作り込まれるようになりました。ウィンカーを動かせたり、パッシングができたり。いろんなもの増えましたが、ユーザーに体験して欲しいこともそれによって変わっていったのでしょうか?
山内氏:ウィンカーが動くとかハザードがつくとかは以前からやりたかったことなんですよね。以前はやりたくてもできなかったことが、やっとできるようになったということが大きいです。
もともと「グランツーリスモ」はとてもシンプルな作りで。車自身の美しさ、車を運転する楽しさ、車に光が当たったときの光の美しさ。おおむねそれぐらいの要素で成り立っていまるんですよ。車、ドライビング、光。それらを最大限の自由度で体験して欲しいと思って作っています。今回はそれが、僕らの考える全部ではないものの、随分と実現できました。
――今作ではPlayStation VRへの対応もありますが、表現の違いや制作にあたっての苦労などはどのようなものがありましたか?
山内氏:1番大変だったのはやはり負荷対策ですね。映像をステレオ的に2枚出力しなければいけないですし、VRに求められるフレームレートの基準も非常に厳しいです。それらは大変でしたが、結果として今PS VRでできる体験としては、最高レベルのものになったのではないかなと思います。
車のモデリングで内装を細かなところまで作ってきたのも、VRのような体験を見据えてのものだったんです。内装を体験するというようなものはVRでこそのものですよね。
――PS VRでのゲームプレイについてだと、例えば“酔い”に対する対策というのはどのようなものがありますか?
山内氏:VR酔いについてはできることはもちろん全部やっていますね。車という題材はVRでも酔いにくいものではあるんですよね、座って操作するものであること、操作系がステアリング、アクセル、ブレーキと限られていること、それから内装があってその向こうに景色が広がっているという作りなので、自分のポジションを見失わない空間になっています。それらから、ドライビングゲームとVRとの相性は良いですね。
あとは車の挙動ですね。ゲーム中の車の挙動が実際の車と同じように直感的なものになっていれば、プレイしている人は未来が想像できて“未来予測”ができるんです。人間って常に、こうして話しているときも、歩いているときも、コンマ何秒か先のほんのわずかな未来を予測しながら行動しているんですよね。その予測と光景にズレがあると酔うんですよね。それを徹底的になくしています。
――今日、拝見させて頂いたゲーム中のプレイ指南のような動画は英語版になっていたのですが、製品版ではそれは日本版になるのでしょうか?
山内氏:はい、日本版では女性の声で解説する動画になると思います。これまでのシリーズにも模範リプレイのようなものは入れていたのですが、レースゲームを初めて遊ぶ人や車の運転に慣れていない人にも気をつけるべきポイントがよりわかるように、今作ではただのリプレイではなく、より詳細を解説する動画を見られるようにしています。
――自動車業界という観点ですと「自動運転」というキーワードがあります。それは今後「グランツーリスモ」やゲームに、何かしらの影響を及ぼすでしょうか?
山内氏:自動運転っていろんな見方があると思うのですが、スポーツカーと自動運転の関係性とで言うと、僕はフェラーリにこそ自動運転が欲しいと思うんです。なぜかというと渋滞のなかフェラーリを運転するのは結構な苦痛ですから。サーキットに行くまでは自動運転で行ってくれるといいなぁと思いますね。スポーツカーであればあるほど、普段乗りの快適性ってどうしても落ちてしまいますので。自動運転が活きるのではと思いますね。
ゲームとの関係で言うと、「グランツーリスモ」を使って自動運転に関する開発をされている企業さんって結構あるんですよ。それは、自動運転というものが基本的にはシミュレーションベースで実験を重ねてかないといけないからです。実際のリアルな世界での実験というのはなかなか難しいですよね。事故が起きたら大変ですから。
なので僕らが望む望まないに関わらず、「グランツーリスモ」は自動運転に関わっています。この「グランツーリスモSPORT」も発売後は様々な形で、自動運転技術の研究に使われていくのではないでしょうか。
――今作の車やコース周りの作り込みやモデリングといった諸々の素材ですが、今後の数世代先まで使えるようなフルスペックで作り込み、その量も膨大です。開発チームの皆さんは、その終わりのない取り組みとも言えるものに、どのようなモチベーションで望まれているのでしょう?
山内氏:「グランツーリスモ」というタイトルは、僕はすごく日本的なタイトルだと思っているんです。ユーザーをもてなしたいという気持ちがあって。やり過ぎてしまう、オーバーアチーブする……必要以上のことをやってしまうというのは、僕は日本的な感性だと思えるんですよね。
これだけコストをかけたから、これだけゲインが得られないといけない……というような取引的な感覚がない。まず余計なことを考えずにオーバーアチーブすること、それを差し出すこと。そこから全てのコミュニケーションが始まるというのは、日本的なんじゃないかなという気がしますね。
――ここは誰も気がつかないかもしれないけど、やるべきだ、当然やるでしょう……というような、見返りを考えない気持ちから、ディテールを加えるようなことも多々あるのでしょうか
山内氏:ですね。そういうところって古き良き日本的なものがあるなと感じるんです。
――わかりました。ちなみに車等のモデリング制作についてですが、終わりや区切りはなく、これからも制作し続けアップグレードもしていくのでしょうか?
山内氏:現行のモデルは向こう10年ぐらいは充分に使えるものですので、これからも1,000台、2,000台という規模までその仕様で作っていくと思います。そして、10年先にそのモデルのクオリティが自分たちのやりたい事には充分でないという判断になったら……また1から作り直すのではないでしょうか(苦笑)。
ちなみに今回のモデルは「グランツーリスモ」シリーズで言うと4世代目ぐらいになります。その間にハードウェアのスペックは数十万倍という規模で上がってますので。
――開発チームの皆さんもそれを見越して、とことん、やれるところまでやってやろうというようなモチベーションなのでしょうか。
山内氏:そうですね。あとはやはり、ユーザーの皆さんに驚いてもらいたいっていうのがあります。
――ローンチ時の収録車種は150台ほど収録されるということですがスポーツカーに集中しています。例えばプリウスといったあたりの一般乗用車を追加する予定というのもあるのでしょうか?
山内氏:はい。アップデートやダウンロードコンテンツでどんどん追加していこうと思います。今回、スポーツカー、レーシングカーを最初の時点で多く入れているのは「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ」をやるために全てのカテゴリーのレーシングカーを用意する必要があったためなんです。
なので、スポーツカーやレーシングカーに比重が偏っているように見えてしまうのですが、「グランツーリスモ」の本質というのはレーシングカーだけでなく、ちょっと古い車であったり、ファミリーカーだったり、うんと古いクラシックカーだったり。いずれも大事な車です。そのあたりもどんどん追加していく予定です。
――今作のHDD容量は60GB以上となっていますが、もうBlu-rayディスクでも足りない、物理メディア容量との戦いというようなことが起きているのでしょうか?
山内氏:完全にそうなっていますね。写真を撮る「スケープス」ですと、あれはHDRフォトグラフィーでRGB各32bitの情報を持ち、さらに空間情報までありますので、1枚の写真あたり数百MBになるんですよ。それぐらい情報を含んだ写真なのですが、それを発売日の時点で1,000ロケーションぐらい入れるんですけど、ディスクにはさすがに入らず。必要に応じてダウンロードしてもらう形式にせざるを得なかったです。
――昔ですとディスク複数枚という形式もありましたが、例えばBlu-rayディスク2枚組などの選択は、今だと難しいのでしょうか?
山内氏:できなくはないと思うのですが、今ですとディスクは1枚に収めておいて、必要に応じて追加データをダウンロードしてもらう方がユーザーさんの利便性は高いのかなと思いますね。
――車のモデリングですが、例えば自動車メーカーさんからデジタルカタログのようなものに使わせて欲しいというようなお話が来たりはするのですか?
山内氏:そういうお話はしょっちゅうありますね。今回のスケープスのようなテクノロジーは自動車メーカーさんにとっても初めてなものがあって、カタログ写真制作にはすごく向いてますよね。実際にそういう依頼が来ています。
僕らは「グランツーリスモSPORT」を完成させたら、そうしたエンタープライズ向け、業務用の「グランツーリスモ」を開発しなければいけないなとも思っています。
――それは先ほどお話しがあった自動運転技術向けなどにも求められるところがあるのでしょうか。
山内氏:まさにそうですね。今は市販している「グランツーリスモ」シリーズを使われているというお話で、例えば、車の車速を取るために画面上の速度を画像認識して使っていたりするそうなんです。そういうAPIも用意できますので、そのあたりに向けたエンタープライズ向けの「グランツーリスモ」を、「グランツーリスモSPORT」の次にやりたいと思っています。
――スタジオツアーでは“コース脇の観覧車の見えないようなボルトのひとつひとつまで作り込む”というところも見せて頂きました。ですが、見えないところを作り込む理由というのは、何かあるのでしょうか?
山内氏:実は“見えないわけではなく、見えるとき、瞬間もある”のがポイントで。観覧車は遠くにあるので、そこにあるボルトの1本まで見えそうにもないのですけど、そうした凹凸は最終的にノーマルマップという立体情報を含んだテクスチャーに変換されます。そのテクスチャーに太陽の強い光が当たったときにボルトの頭がキラッと光る瞬間というのがあるんですね。そういう瞬間が出るテクスチャーを作るためには、まず立体のモデルをちゃんと作らないといけないんですね。
――昨年の発売予定から延期したという経緯がありますが、その理由や背景について改めて伺えますでしょうか。
山内氏:はい。「グランツーリスモ」は先ほどもありましたが“全てをやり過ぎな状態でユーザーに届けたい”という思いがあるのですが、それがいつも叶うわけではないです。例えば「GT6」はPS3で作っていましたが、PS4の発売も迫っていて、その前に出さざるを得なかったです。そのためにいろいろな妥協を強いられたところもありました。
「グランツーリスモ」を作っているとき、もちろん、いろんな人の期待に応えたいんです。ユーザーの期待に応えたいですし、あるいはソニーの期待にも応えたい。そんな中で発売日って決まっていくんですけど……去年の発売日の時点では「出せなくもないけど、これで出してしまうと、きっと後悔するだろうな」と思ったんです。なので、わがままを言わせて頂いて、発売日を延期させてもらいました。
――昨年の時点ではクオリティに納得がいかなかった?
山内氏:そうですね。ゲームってどこで終わりとか完成とは決められないもので、1年で作りなさいって言われたら1年で作れるなりのものを作って完成とすることだってできます。それぞれの「グランツーリスモ」ごとにそうした物語があって、最初の「グランツーリスモ」は5年かけています。
「グランツーリスモSPORT」に関しては、やりきれるところまでやりきって勝負したいっていう気持ちが強かったですね。ぜひ、プレイしてみてください。
――わかりました。ありがとうございました。
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