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Unite Tokyo 2016に見る、Unity×VR開発の最新事情
Oculus、PS VRが具体的なリリース手順を披露。インディにも門戸を開く!
(2016/4/6 16:03)
4月4日から2日間にかけて開催された、ゲームエンジンUnity利用者に向けた大型カンファレンス「Unite Tokyo 2016」では、いま注目を集めるVR開発についての情報も多く取り扱われ、Unityを使ったVRゲーム開発が非常に容易で、高品質かつ効率的に進化していることを確認することができた。
特に注目したいのは、最新のUnity 5.4系列で提供されるVRサポート、およびグラフィックス強化や、開発効率を高める数々の新機能により、VRゲーム開発がさらに加速されること。さらに、各デベロッパーが製品として各マーケットにアウトプットするための具体的な方法が、Oculus、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)それぞれから明確に提示されたことが、今回のUnite TokyoにおけるVR関連のハイライトと言える。本稿ではこれらをまとめ、関連情報を整理した上でお伝えする。
基調講演から読み解く、Unity×VR開発の最新事情
まず初日に行なわれた基調講演では、案内役として登壇したユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社の大前広樹氏が、世界初のVRキーノートを併催したことを報告。インターネット上のVR空間内で集会を行なうことに特化したVRアプリ「Cluster」を用いて、大勢のVR開発者やエンスージアストに向けてVR空間内でのライブ中継が行なわれた模様だ。
その大前氏によれば、今後のUnityは従来以上に「安定性」を重視し、2つのブランチでの提供が行なわれることが報告された。現行の5.3系列はこれ以上の機能追加が行なわれない安定版として提供され、多数の新機能が追加される5.4系列はβ版として、全ての開発者に提供される形だ。これまでβ版にアクセスできなかった無料版のユーザーにも開放されるという点がポイントとなる。5.4系列は既にβアクセスが提供中なので、すぐに利用することが可能だ(現時点の最新版は5.4.0b13)。
最新のUnity 5.4系列では、現在存在するほぼ全てのVR/ARシステムにサポートを提供することが機能上の目玉のひとつ。このあたりはGDC 2016のレポートにてお伝えした通りだが、Unity上に各VRシステムの差異を吸収するAPIレイヤーが用意されることで、機種依存を行なうことなくスムーズに多機種展開できることも開発者にとって大きなメリットだ。
さらに、5.4系列ではグラフィックス機能が大幅に強化され、プリレンダー級のリアルタイムグラフィックスをも表現可能になる。各種のポストエフェクトを随時ON/OFFもしくは自由に調整しながら、好みの絵作りをエディター上でリアルタイムに追求することも可能となった。このように高度な絵作りを手軽に行なえる機能が実装されたことは、ハイエンドなVRコンテンツを作りたい開発者にとって大きな力となるはずだ。
また、日本のVR開発者にとってありがたいのは、5.4系列のいずれかのタイミングで開発環境の完全日本語化を提供される意向が、この基調講演にて示されたことだ。開発環境に新たに追加される言語選択オプションにて、各ビューの表示項目が全て日本語化される仕組み。さらに、ドキュメントの日本語化についても大きな進捗が方向されている。ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンではプロの翻訳者と翻訳レビューチームによる本格的なローカライズ体制を発足させており、これにより今後はどのタイミングでも90%以上の翻訳率を維持していく意向だという。これまで英語のインターフェイスやドキュメントを読み解くことに難儀していた日本の開発者にとっても、Unityを使った開発にチャレンジしやすい環境が近々に整いそうだ。
PlayStation VR(PS VR)を開発するSIE(Sony Interactive Entertainment)の吉田修平氏も、Unityには大きな期待を寄せている。基調講演に登壇した吉田氏は、これまでの反響が予想以上に大きかったことから、潤沢なハードウェアの製造数を確保するため、また、各デベロッパーにより良いコンテンツを開発してもらうためとして、PS VRの発売を10月に延期した理由を語っている。
その吉田氏は、Unityについて「PS VR向けの開発においても一番人気のツール」と高く評価。未発表のタイトルを含め、PS VR向けに多数のタイトルがUnityで開発中であることを明かした。その上で吉田氏は、「VRは全く新しいメディア体験。ユーザーの皆さんに良いVR体験をはじめから楽しんでいただくために、最初から品質の高いコンテンツを出していくことが大事です」と、会場そしてVR空間に集まった開発者にメッセージを送った。
このほかUnityは、プリレンダーの映像作品への活用も始まっている。その国内第1号となったのが、映像制作会社マーザ・アニメーション・プラネットによる「The Gift」という短編CGムービーだ。本作品はCGムービー制作工程のうち、撮影(レンダリング)にあたる工程をUnityに置き換えたもので、リアルタイムレンダリングではないものの、映像制作の大幅な効率化に成功。ワークフローにUnityを組み込むことで、同一のアセットを用いてゲームやVR作品へ横展開ができることが非常に大きなメリットのひとつだ。
本作プロデューサーの今村氏によれば、現時点では5分の映像を出力するのに20分必要だというが、Unity 5.4によるポストプロセスのさらなる効率化、また今後のハードウェアのさらなる進化を踏まえ、将来的にはリアルタイムレンダリングによるCG作品の展開も視野に入ってきているという。
ゲームエンジンによるプリレンダー品質のCGムービー制作についてはライバルのUnreal Engineが1歩先行してきた経緯があるが、Unityは物理ベースレンダリングをサポートした5.0系列以降、ハイエンドグラフィックス表現の最先端を急速にキャッチアップしてきている。この性能は将来のVRゲーム開発にも大きな力を与えるはずだ。
以上を踏まえると、現時点でVR開発を行なう場合、ハイエンドグラフィックスにこだわりのない場合は安定版の5.3系列を用い、映像表現によりパワーを注ぎたい場合はβ提供されている5.4系列を選ぶ、というのが最適解になりそうだ。
Unityにより各VRシステム開発が非常に容易に。VRゲーム販売への道筋も明らかに
5.3系列、5.4系列、いずれのUnityバージョンであっても、Oculus Rift/HTC Vive/PS VRへの横展開が可能となっている。それでは実際に、ゲームを作ってリリースするためにはどうすればよいのだろうか? その点がOculus、SIEそれぞれのセッションで具体的に披露されている。
VRゲームの開発自体は、OculusにしてもPS VRにしてもPC上で行なうことは共通だ。PS VRについては開発機を利用するためにSIEとの契約が必要となるため、インディ開発者にとって最も良いシナリオは、Oculus RiftやHTC ViveといったPCプラットフォームのVRシステムを使ってVRゲームの開発を初めてしまうことだ。これらのVRシステムの差異は、Unityがおおかた吸収してくれる。
実例として、エキスポ会場でHTC Viveを用いた自作VRゲームを出展していたある開発者は、Oculus対応版をHTC Vive対応に移植するために要した時間が、わずか1時間程度であったことを明かしてくれた。またSIEの秋山 賢成氏によるPS VRのセッションでは、PC用のゲームサンプルをPS VR向けにビルドして実行するまでの作業が披露され、プロジェクト設定でいくつかのチェックボックスを有効にしたのち、数行のスクリプトを加えるだけでPS VR対応がなされる様子を確認することができた。作業量的にはわずか数分だ。
Unityを使えばこのように、各VRシステム間の相互可搬性が高いレベルで確保できる。開発の初期にあたっては、どのシステム向けに開発してもすぐにターゲットを切り替えられるというわけだ。開発者にとって違いに留意しなければならないのは、どちらかというと各プラットフォーム向けにゲームをリリースするための手順の部分になる。
Oculusに関して言えば、公式のストアであるOculus Store上で販売するというのが、商用アプリの最も有力なイグジット先となる。Oculus Japanの井口健治氏および近藤義仁氏による講演で、そのための具体的な手順が解説された。
Oculus StoreはOculus Riftのための公式ストアフロントで、Steamのようにコンテンツの販売や自動アップデート、ゲーム内課金やコミュニティ機能といった、ゲームプラットフォームとして一通りの機能が提供される。Steamとの最大の違いは、Oculusが提示するVR-Ready PCスペックで快適に動作することなど、Oculusの考える「品質」を持ったコンテンツだけが配信されるスキームになっていることだ。
これを実現するため、Oculus Rift向けに開発されたコンテンツについては、Oculus開発者ダッシュボードを通じたアプリの申請・登録が必要となる。アプリの配信までに必要な各種の登録作業がこのダッシュボード上で一元的に実施できるのが開発者にとって便利な点で、法人登記のないインディ開発者にも門戸が開放されているのが良いところだ。また、このシステムでは、コンテンツの製品版・β版、アルファ版といった各ブランチの同時配信が可能であり、また、実験的アプリの「コンセプト実証」レベルでの配信も可能となっている。このように、実験を続けながら頻繁なアップデートを行なう開発者にとって非常に有利な構成となっていることが特徴だ。
なお、複数のVR開発者から聞いたところによれば、現時点ではVR用のアプリ(動画再生や、コミュニケーションツール系統)よりも、VRゲームのほうがOculusのキュレーションを通過しやすいようだという。Oculus Riftのローンチ直後となるこの時期こそ、VRゲーム開発者にとっては大きなチャンスだ。
これに対して、PS VR向けにゲームを配信するためには、開発者が「日本に法人登記されている会社」である必要がある。この条件を満たしている開発者であれば、PlayStationフォーマットでのソフトウェア開発・販売のエントリーフォームを通じ、SIEと契約を締結ののち、PS4およびPS VRの開発キットを受領して開発し、SIEの承認を受けPlayStation Store上で配信していく形となる。
それでは、法人化していないインディ開発者はどうすればよいのだろうか? その点についてもSIEはきちんと出口を用意している。それは、国内に多数存在するインディパブリッシャーを通してゲームを配信する方法だ。
Unity Games Japan、Cygames、Playism、8-4、Mediascape、PigmyStudio、Cross Function、mebius、Flyhigh Worksなどなど、インディパブリッシャーとしてSIEと配信契約を締結済みの各企業は、個人や同人サークルなど、法人化されていないインディ開発者に向けて配信代行業務を行なっている。インディ開発者はこれらの企業に企画や、コンテンツを持ち込み、その品質を認められさえすれば、PS VR開発機の利用や、SIEによる各種の開発サポート(VR開発コンサルテーションサービスも含む)を受けたり、完成したコンテンツの配信にまつわる各種業務を代行してもらうことが可能だ。
このように、一般には難しいと思われがちなPS VR向けの開発・配信も、インディ開発者向けに大いに門戸を開放する体制が整っている。面白い企画、面白いコンテンツさえあれば、誰にでもチャンスがあるというわけだ。さらにSIEでは、インディパブリッシャーであるCygamesと、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンと共同して、PS VRゲームコンテストを開催予定だ。
講演で明らかにされたところによると、詳細はまだ調整中であるとのことだが、少なくとも、本コンテストはすべてのインディ開発者を対象としたものとなり、優秀作品にはPS4およびPS VRの開発機材が無償貸与されるそうだ。当然、PS VR開発機材を持たない開発者が多数参加することになるので、ほとんどはOculus RiftやHTC Viveを用いての開発および参加ということになる。
そこで優秀な作品を披露することができれば……個人、サークル、企業を問わず、全てのクリエイターに、PS VRの大きなマーケットへのデビューが約束されるというわけだ。本コンテストについての詳細は後日WebやTwitter等で明らかにしていくとのことなので、VRゲーム開発に興味のある皆さんはぜひ続報を追いかけてみてほしい。
以上のように、Unityの最新アップデートによりVRゲーム開発の理想的な環境が整い、ハイエンドグラフィックスのVR展開も視野に入ってきた。また、Oculus、SIE各社の取り組みにより商業化にむけての道筋もハッキリと見えてきている。まだまだ大きな未踏分野が残されているVRゲームの世界。ワンアイディアで勝負できる、インディ開発者にとって有利な状況はまだまだ続きそうだ。ゲームファンとしての立場からも、これが今後ますます加速していくことを期待したい。
【お詫びと訂正】
記事掲載当初、マーザ・アニメーション・プラネットの今村様の名前を誤って記載しておりました。お詫びして訂正いたします。