インタビュー

【Tankfest 2017】ミリタリースペシャリストRichard Cutland氏インタビュー

戦車乗りは人間性と忍耐力。軍歴30年の元戦車乗りが語る戦車戦の真実

6月23日収録

会場:ボービントン戦車博物館

 “The Challenger”と聞いてピンと来る人はよほどの「World of Tanks」ファンだろう。日本でWargaming.netのミリタリーアドバイザーといえば、ご存じ宮永忠将氏だが、同社の本拠地であるヨーロッパでミリタリースペシャリストを務めているのが“The Challenger”こと、Richard Cutland氏だ。

 「World of Tanks」ファンに向けて、現地まで取材に赴き、実車に関する情報を提供する動画「Inside The Tanks」を担当しており、ボービントン戦車博物館の目玉展示であるTiger 131や、今回のインタビューでもその印象を語っている“Sタンク”ことStrv.103などなど、ゲームに登場する魅力的な戦車達を取材し、その魅力を語る動画を公開している。

 言わば「World of Tanks」界のスターのひとりだが、今回、Tankfest 2017を取材に訪れていたRichard Cutland氏に話を聞くことができた。本来ならTankfest 2017やボービントンの戦車について質問すべきだったかもしれないが、軍歴30年の本物の戦車乗りで、様々な戦車に乗ってきたと聞いてしまうと、気になりすぎてついついそちらのことばかり質問してしまったが、それはそれでおもしろい話が聞けたので御容赦いただきたい。

【Inside The Tanks: The Sturmtiger - World of Tanks】
「Inside The Tanks」シュトルムティーガーの回

チーフテンからチャレンジャー2まで華麗な戦車登場歴。実戦とゲームの違いとは!?

Wargaming.net Head of Military Relations Europe Richard Cutland氏
「Inside The Tanks」より。センチュリオンに搭乗しているCutland氏

Richard Cutland:リチャードです。全世界向けに戦車関係の映像制作を担当しております。その会の名前がチャレンジャーと言います。もとチャレンジャーという名前の戦車に乗っていたので、そう言った意味でのチャレンジャーになったのです。

――元戦車乗りという経歴から、どういう経緯でWargamingで仕事をすることになったのですか?

Cutland:イギリス軍に30年勤務しておりまして、その30年の間に、2年だけヘリコプターに乗っていたのですが、それ以外は、全部戦車に乗っていました。その際に、ボスニアや、フォークランドにも行きましたし、アフガニスタンにも3度以上行っています。シリアやイラク、湾岸戦争の時もすべて参戦しました。

 妻と、子供もいて、私はゲームはあまりやらないのですが、子供はとてもゲームが好きです。ある日、妻に「そろそろちゃんとした仕事をしてほしい」と言われ(笑)、そこでたまたま声がかかったのがWargamingでした。Wargamingはゲーム会社で、私はゲームはしていないんですが、実際の戦車や装甲車両を使用したタクティクスには長けていたので、そういった知識をWargamingやプレーヤーの方々に提供したいと思っています。

――「World of tanks」は、実際の戦車乗りとして見て、一番近いところと、逆にこれ全然違うと思うところは、それぞれ何でしょうか?

Cutland:実際の戦車乗りとして近いと思う部分は、チームワークが非常に重要なところです。これは実際の戦車戦でもそうですし、ゲームで勝つためにもそうなんですが、チームワークがなっていないと何もうまくいかない。そして第2が、ポジショニングですね。戦車を、どこに、どういう風に配置して立ち回るか、ここが戦車戦において実際の戦車戦と全く同じような形で非常に近い部分だと私は考えています。

 逆に近くない部分ですと、やはり、実際の戦闘距離であったり、照準システムであったり、その部分が、似せてはいるんですが、現実とは実は全く違います。ゲームなので仕方がないのですが、ゲームに向けて調整されたものになっています。

――実際の戦闘距離だったり、照準システムはどういうものなのでしょうか?

Cutland:どの兵器にも有効射程距離というものがあるんですが、現代では電子化されているため、基本、視界以内にあればだいたい有効射程距離という形になっております。私が、以前イラクで戦車戦をしたときは、夜間だったんですが、約4km離れたT-64を視界で捉えまして、それに実質命中させました。そう言った面では、見えてさえいえれば、すべて有効射程距離になるという感じです。

――お子様が、ゲームをされているということですが、後ろから見ていたら自分から手を出したくなりませんか?

Cutland:息子と娘がいます。娘の方はまだ小さくて3歳と6歳なのでプレイはあまりしませんが、息子はゲームが好きなので、「WoT」をたまにやったり、それ以外にも、スポーツゲームが非常に好きです。私が見ているときでも、そんなにしょっちゅう「WoT」をプレイしているわけではないです。息子は戦車とかゲームよりも、今は馬の方がすきです。

――ご子息は軍人ではないですか?

Cutland:私の家族は、父は兵役をしたんのですが、これは自分から入りたくて入ったわけではなくて、戦争の終わりの方だったので義務という形で入りました。祖父は、元デザーツラッツの方で入っていたらしいのですが、そのあと捕虜として3年間収容所に入っていたそうです。そのキャンプで3年経った後に脱走したそうです(笑)。

 なので、彼自身は特に、軍人系の家系の出というわけではなく、ただ単に、ここ近辺のボーンマスというところに住んでおりまして、またこの近辺に引っ越してきたんですが、ただ幼少のころから、この周辺には軍事施設が多いですし、戦車訓練が非常に盛んに行なわれていた場所で、昔はここから道の向こう側には戦車訓練用のキャンプもあるくらいで、幼少のころからそういったものをずっと見いたので、この博物館もそうですし、戦車というものが昔から自分に影響を与えていたので、いつか軍人になりたい、戦車兵になりたいという思いで、16歳のころ、学校がまだ続いていたのですが、それを抜けて軍人として、軍学校へ入ったということです。

――これまで28年間、戦車に乗っていたということですが、担当したポジションはどこでしょうか。

Cutland:戦車兵としてはまずガンナー(砲手)から始まり、その次に何年かしてドライバーになって、そこから昇進を受けてローダー(装填手)になりました。それから5年後にようやく昇進があってコマンダー(戦車長)になり、コマンダーをしばらくして、レジメント(隊長)として複数の車両に対して指揮を出すようになって、最終的にはどの戦車長もそうなんですが、普通のポッと出の隊員としては、レジメントのコマンダーというのが、兵士として行ける最高ランクのポジションになります。

チーフテン
チャレンジャー1
チャレンジャー2
“Sタンク”ことスウェーデンのStrv.103

――28年間もいるといろいろな戦車に乗ったと思いますが、これまでに乗った戦車の中で、もっともお気に入りの戦車はどれでしょうか?

Cutland:ドライバー自体は、そんなに長期でやっていたわけではないので、たくさんの車両に乗っていたわけではないですが、実際に運転したものでは、まずチーフテンが最初です。これは車両としてはあまり良くなくて(笑)、しょっちゅう故障はするは、修理が大変だという感じでした。それ以外ではチャレンジャー1、チャレンジャー2にも乗りました。軍歴の中ではこの3車両ぐらいしかまともに乗っていなかったんですが、Wargamingに入ったおかげで、シャーマンをはじめ、様々な車両に乗ることができました。ここ最近で私が乗って非常に興味深く印象深かったのは、スウェーデンのSタンク。これはとても特殊な車両で、私としても非常に印象深く楽しく乗れた車両でした。

――レオパルド2は?

Cutland:レオパルド2もいいですよ。ただ本当にこのSタンクという車両は、通常の戦車であれば、アメリカ系であればハンドルがあったり、普通であればレバーで運転するのですが、これは、ジョイスティックみたいなやつで操作するという、今までの車輌とは全く違うシステムだったので、そういったところが非常に印象深かったです。あともう1つは、視界が本当に悪いです。視界ブロックという小さいのぞき窓があるんですが、ここが本当に全く見えなくて。そういった様々な操作系統であったり、視界であったりが非常に特殊なのです。実際は、1人でも運用できるように、そういう形で作られているということなのですが、本当、実際、どうやったら1人で運用できるのか不思議でたまらないです。

――ミリタリーアドバイザーとしてWargamingに入られてから、いろいろな国の同じミリタリーアドバイザーの方と会って話をすることがあったかと思います。国によって戦車の運用は違うと思いますが、同僚として違う経歴を持った戦車兵と話をしたり、また研究者の人と話をしてみて、どのような感想を持たれましたか?

Cutland:Wargaming.netに入ってそういった多くの方々と話すことができました。私個人としては、世界中の方と交流した中で一番印象的だったのは、バグダッドで米軍と遭遇して、私たちは一旦道を譲って、米軍の戦車、装甲車、支援車輌などを先に通さなけれならないことがあったのですが、その時にアメリカの物量作戦というものに非常に驚かされたことがあります。私たちは横に移動して待っていたのですが、4時間まるまるずっと車両が次から次へと流れていき、物量によってこんなに作戦や移動方法が変わるんだということに驚かされました。またドイツの方々に関しては、物資の使い方は戦術が違うので、そういったところでおもしろいと思いました。

――ちなみにリチャードさんは、いままで経験した戦場で一番ひどい戦場はどこでしたか?

Cutland:全体で見ると、イギリスの方のノースアイランドで起こった戦いです。これは戦車戦ではなくて歩兵戦だったのですが、たくさん犠牲が出ました。逆に戦車戦で言うなら、イラクが私が初めて戦車戦を体験した場所でもあり、そういった意味で非常に印象深い戦いでもあります。

――戦車乗りにとって、一番大事な資質はなんですか?

Cutland:いくつかあります。まず身長が高いと困るので小さい方がいい(笑)。それ以外だと人間性が非常に大事です。最大で4人ぐらいの乗員で、常に一緒に過ごすことになるので、これがうまくいかないとチームワークが機能しません。もうひとつは忍耐力。戦車は基本的に隠れられず、戦場では常に格好のターゲットになります。敵味方双方から目立つ存在です。そういった状況に耐えられる精神力が大事だと思います。

【センチュリオンのカットモデル】
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