インタビュー
「グルーヴコースター(アーケード版)」短期集中特集インタビュー・第1話
タイトーのものづくりが大きく変わった?
~「プロジェクトGENE」の立ち上がりから開発中止まで~
(2013/11/27 00:00)
GAME Watchでは、タイトーが11月5日より稼動を開始したアーケード向け音楽ゲーム「グルーヴコースター(アーケード版)」(GROOVE COASTER:GCAC)の特集をお届けする。このページを開いてくださった方々には、「音楽ゲーム(音ゲー)の制作ってそんなに大変?」と疑問に思われる部分があるだろう。筆者も取材前はそう思っていた。はっきり言えば舐めていた。だが、先にお伝えしておくが、「GCAC」が世に出るまで、プロジェクトには多数の苦悩や葛藤があった。少々話が長くなるが、どうか最後までお付き合いいただきたい。
それともう1つ、筆者が「GCAC」に深く興味を持った理由についても最初に触れておきたい。それは、5月に開かれた新製品商談会だ。当時の記事でも触れているが、製品紹介とともに取締役 ON!AIR事業部長 兼 AG事業本部長(当時)の庄司顕仁氏によるプレゼンが行なわれたことが印象深かった。このイベント自体、主にオペレーターに向けて開かれたもので、単に製品のコンセプトや運営施策だけでなく、本作を例にとり、その開発手法を具体的にわかりやすく説明することで、「タイトーのものづくりが大きく変わる」点を強調していた。
確かにタイトーは2006年にスクウェア・エニックスと合併し、完全子会社化した後、家庭用プラットフォーム向けのタイトルを縮小し、モバイル分野とアーケード分野に注力してきた。リストラの痛みを伴いつつ、だが。考えてみると、アーケードタイトルに関しては、合併後、話題となった「ダライアスバースト アナザークロニクル」、「エレベーターアクション デスパレード」といったシリーズタイトルを再生させる一方で、「NESiCAxLive」で様々なジャンルのビデオゲームを世に送り出してきたが、VALVEと組んでリリースしたFPS「ハーフライフ2 サバイバー」、「サイバーダイバー(現在も稼働中)」といった意欲作はあったものの、ユニークなアイデアで幅広い層を狙った「NO考ゲーム」シリーズのリリースが途中で止まり、ゲームセンター運営やスクウェア・エニックス側の「ロード オブ ヴァーミリオン」、「ガンスリンガー ストラトス」を運営面で支えているといった印象もあった。
タイトーといえば、言わずもがな「スペースインベーダー」で日本にアーケードビデオゲーム市場を創出し、セガ、ナムコ(バンダイナムコゲームス)、KONAMI、カプコン……といったメーカーとともに、アーケードゲーム市場をリードしてきた大手……だったはず。だが、インパクトのある製品はリリースされてきたものの、かつての勢いというものは感じられなくなっていたというのがここ数年の筆者の印象だ。合併後に生み出されてきた製品群も、愚直ともいえるまじめさが感じられるタイトルが多いものの、「電車でGO!」のような突き抜けたものはなりを潜めていたと思う。
そんなタイトーの「ものづくりが変わる」。その過程で生み出された第1号タイトルがこの「GCAC」なんだ、ということをプレゼンから感じ取りながら、それと同時に「タイトーの中でいま実際に何が起こっているのか?」そんな疑問がこの特集に挑むきっかけになった。
さて、記事冒頭に掲載した写真についての解説から本題に入っていこう。これが、「GCAC」に向けて開発チームが作った、「フルスペック治具」と呼ばれていた最初の筐体だ。21.5インチのマルチタッチ(10点)対応の液晶モニターを中央に備え、コンパクトに仕上げられた白のボディに、各種発光ギミックが仕掛けられている。パーツの各所に試作筐体と思える部分はなきにしもあらずだが、何も言われずにこれだけを見ると、素人目にはすでに「これで完成版?」とも思える。この筐体ができあがってきたのは、2年前、2011年8月のこと。
当時「GROOVE COASTER ARCADE GAME」と呼ばれていた「GCAC」が、どんな成り立ちで、どんな経緯を経て、どうやって世に出ることになったのか? 「GCAC」短期集中特集は、プロデューサーの白石雅也氏、ディレクターの花形琢真氏、筐体デザインを担当された藤川 剛氏の3人を迎え、その内情を赤裸々に語っていただいたインタビューから始めさせていただこう。今回の内容は、主に「GCAC」の筐体の成り立ちを中心に話が展開していく。なお、プロモーション担当の山田聡氏にも同席いただいている。
iOS版と同時開発でスタート。2011年12月稼動予定だったが……!
「グルーヴコースター」のアーケード版プロジェクトがスタートしたのは2011年初頭のことだった。
白石氏:「GCAC」は、最初「MUSIC TRIP」という仮題でプロジェクトがスタートしました。弊社の石田(礼輔氏)が家庭用で手がけていた「SPACE INVADERS INFINITY GENE」をアーケードにしないか? という話が発端だったんですが、「INFINITY GENE」をアーケードにするのは難しい、という話が出て……。そんな中、実は石田の方から「新しい音楽ゲームを考えているのでやってみないか」という提案がありまして。それが「MUSIC TRIP」という名前でした。まだiOS版「グルーヴコースター」が出る前の話です。
そして、2011年の1月に最初の筐体デザインイメージが上がってきたんですね。これは藤川でなく、別のスタッフがデザインしたものです。「照明の演出に特徴を持たせる」というコンセプトで、こういう感じになりました。
その後、7月にiOS版「グルーヴコースター」がリリースされることになるんですけども、アーケード版はそれと平行して、「プロジェクトTRIP」という仮の名前で始まり、「プロジェクトGENE」という名前になって……。ただ、筐体デザインがいくつか上がってきて、「これでいこう」と話がまとまりかけた時に、「他社の筐体にイメージが似ているよね」という話が出てきて、筐体のデザインを変更する話になりました。
藤川氏:「他社さんの音楽ゲーム筐体に少し似ている」ということと、「もう少しイメージを付加できないか」という要望がありまして。当時のものはまだ粗いイメージもあったので、「もう少し土台を煮詰めてほしい」という話になりました。
――プロジェクトは最初、どれくらいの規模でスタートしたんですか?
白石氏:当時は前任のプロデューサーら5人くらいでスタートしていました。私は元々、全てのゲーム企画にプロジェクトマネージャーという形で入っていたので、どちらかというとマネジメント側、違う立場から見ていたんですね。その立場から、このデザイン変更のあたり(2011年5月ごろ)の状況は、プロジェクトから1歩引いた形で見ていたわけです。
――花形さんと藤川さんは2011年の6月ごろにプロジェクトに加入されたそうですが、入った時はどのような形で呼ばれたんですか?
花形氏:これまでは実験段階みたいなところから、「いつリリースしましょう」とプロジェクトが固まったところで、足りない人員を補充する形といいますか、私の場合は企画担当、他にもグラフィックスのスタッフ、あとはプログラマーも追加してと。プロジェクトとして発足するタイミングですね。
――藤川さんもそんな感じで?
藤川氏:そうですね。僕もそれに近いですね。担当者交代に関しては、やっぱりちょっと新しいところを攻めていきたいということで、「この際変えてみようか」と石田さんから話がありまして。
花形氏:同じ人が同じ企画のデザインのリトライとなると大きな差異を付けづらいこともあり得ますので……。
藤川氏:イメージを変えるというところが大きかったと思います。
――石田さんはこのプロジェクトへどういった形で関わられていたんですか?
白石氏:このゲームの基本的発想は彼が手がけたものですが、部門が違いましたし(白石氏はアーケード向けゲーム開発のAM事業本部所属で、石田氏はモバイル向けゲーム開発のON!AIR事業本部所属)、iOS版の業務も継続してありましたので、アーケード版に関しては、「プロジェクトに入り込んでの参加はNG」と言われていました。監修という立場で都度ヒアリングして意見を出してもらっていましたね。
――この時点では、リリースはどれくらいの時期を想定されていたんですか?
白石氏:2011年度内、2011年12月稼動予定でしたね。
藤川氏:ソフトはiOS版が先行で完成するはずなので、アーケード版に仕上げることにそれほど時間はかからないだろうという予測があって、短期で開発しようという計画でした。
白石氏:ぶっちゃけていうと、その時、開発費を抑える傾向にあったんです。
花形氏:社内都合ですね(笑)。
――そのあたりは上層部からの意向だったんですか?
白石氏:トップダウンではありませんが、自分たちで「早く作らないとヤバイ」みたいな危機意識がありましたね。
――タイトーさんの音楽ゲームというと、当時「ミュージックガンガン!」(2009年)なども稼働中であったことですし、いわゆる音ゲーのラインナップを次々拡充していくといった印象はなかったと記憶しています。
白石氏:まず「ミュージックガンガン!」は「1」と「増加版(曲がいっぱい☆超増加版!)」(2010年4月)と「2」(2011年1月)があったんですが、その後に大きなパネルで遊ぶ、「マジカルミュージック」というタイトルが進行していて。ショーまで出展したんですが(第49回 アミューズメントマシンショー:2011年)、お蔵入りになってしまいました。そのあたりから、次も音楽ゲームをやっていきたいという意向はありました。
――割と先手先手というか、ラインが途切れないように?
白石氏:この頃、「マジカルミュージック」と「プロジェクトTRIP」は並行して制作されていました。当時は「ミュージックガンガン!」のプロデューサーがその両方のプロジェクトを受け持っていたんです。
「ミュージックガンガン!」は、バジェット(予算)の関係で各楽曲に全難易度が揃っていなかったり、ネットワークにつながっていなかったため、楽曲の追加ができなかったりなど、いろいろあり、3作で終了することになりました。ただ、そこで得た曲の作り方や版権交渉のノウハウなどは今の礎になっていますね。
iOS版との差別化で行き詰った「プロジェクトGENE」
iOS版とほぼ平行作業でスタートしていたアーケード版だが、筐体の制作が先行しつつ、「プロジェクトGENE」としてプロジェクトが立ち上がり、陣容が強化、変更されていった。
白石氏:その後、形が変わって「プロジェクトGENE」として立ち上がったのが6月、7月くらいですね。21.5インチ液晶を使おう、という話になったのがその頃です。そして、ちょうど7月にiOS版「グルーヴコースター」が発売になって、いよいよアーケード版のプロジェクトがキックオフという時に、プリプロ(ダクション=本番試作前の準備版)をチェックした当時のトップから「アーケードならではの機能が入っていない」という指摘があって。
――当時はiOS版とあまり変わらないものだったんですか?
白石氏:そうですね。タッチパネルを使うところは一緒でした。筐体に関しては、それまでのプランではタッチパネルをもうすこし寝かせていたんですが(初期イメージにもその傾向が見られる)、パネルを立てよう、という話になって。
花形氏:グラフィックが凝ったゲームなので、ギャラリーにもアピールできるし、プレーヤー自身の遊ぶ姿がかっこよく見える角度にするために立てようという話になりました。
――最初のは相当寝てましたよね。これはタッチ操作しやすいようにですか?
花形氏:そうですね。
藤川氏:ギャラリーへのアピールもありますが、iOS版同様、縦に長い画面の上方からも譜面が流れてくるので、あまり寝かせると遠くて見えないということもあったので、プレーヤーに近いポジションにするために立てました。
白石氏:筐体と平行して進んでいたソフト面の話もしましょう。これが石田のiOS版の最初の企画書です。これを上層部に見せたところ「これではよくわからない」と言われたそうです。実はiOS版も、企画段階で1度蹴られているんですよ。石田の頭の中ではできていたのですが、「説明できない」ということで、石田はその後、業務時間外に有志を集めて作ってしまった。百聞は一見にしかずということで。
――たしかに、石田さんの企画書の内容はリリースされたゲームにほとんど反映されていますね。この時点で、ゲームの仕様はほぼ入っている。でも……これを見て完成形が理解できるかといわれると……(笑)。
白石氏:これがほんとの原型の原型です。完全に石田の中ではでき上がっていますが、人に説明できないと(笑)。
藤川氏:この企画書は頭の中をそのまま絵にしちゃったみたいな感じで、「ちょっとわからないよ」と(笑)。
白石氏:アーケード版のほうはこちらですね。
――iOSとアーケード版が同時並行開発というのもすごい。筐体の部分も派手に光るとか、いろいろ反映されてますね。アーケード版の対戦・協力もこの頃から企画書に入っているんですね。
白石氏:そうですね。アーケードならではという要素は必要ということで、せっかく用意したのですが、前任のプロデューサー以外、誰も説明できない状態でした。大画面、4人シンクロバトル、ソーシャルマッチングといった要素が入ってますね。
花形氏:ソーシャルマッチングは、仲間を作りやすくするというか。コミュニティの補助になるシステムをつけられないか? ということで考えられたものです。
――この時期には筐体もここにある白いものになっていたんですね。
白石氏:ほぼできていましたね。普通、「治具」という簡単なものを最初に作るのですが、いきなりP1(試作1回目)用の筐体を作る前に、フルスペック治具……「ほぼP1だろ!」ってものを作ってしまおうと。実際に開発期間が短かったこともありまして。
――結構前倒しでやっていたんですね。
白石氏:今考えるとぐちゃぐちゃなんですけど。
藤川氏:後は石田が「カッコイイゲーム」ということにこだわっていましたので、「プレーヤーがかっこよく見える」という要素を加味して、筐体案を出しました。仕様書で花形がやっていたような(※1)を見せられるといいのではないかと。
白石氏:「4人同時にシンクロすると演出が華やかになる」というようなことをやって、あとは「オンラインゴーストバトル」とか……。
――これは、ユーザーのプレイデータをサーバーに蓄積しておいて、呼び出して対戦させるという仕組みですね?
白石氏:ところが、これは「大人の事情」があって「できない」となったんです。「大人の事情」は、調べるといろいろあるんですよね。
花形氏:「大人の事情」というところもありましたが、まずは1人でじっくり楽しんでいただいたり、店内の仲間と盛り上がって頂きたいことを考慮して、稼働時にはオンライン対戦を実装しないことにしました。ただ当時は、「なぜオンライン対戦が必要か?」というところを深く検討せずに、オンライン対戦ありきで考えていました。
白石氏:オンライン対戦については、後々また入れることを考えるかもしれませんが、現状はここにいる誰かと楽しむことでいけるかな? と。
――アーケードの方は、iOS版との差別化を意識した結果、対戦よりになっていったという感じなんですね。
白石氏:トップに言われた「iOS版との違い」を意識した結果ですね。ただ、今考えるとこの当時、「プレーヤーと上層部と、どっちを向いて仕事をしているんだ?」と思いますね(笑)。このときは必死だったんで、「まず企画を通す」みたいな。他にも、ソーシャルっぽい要素もアイデアとしては出ていました。「自分が勝手に戦ってきてくれて、経験値が入る」ような、SNSゲームなどでよくあるものです。休んでいる間も勝手に戦ってくれると。
花形氏:当時、スマホ向けゲームでもそういったものが出始めの時期だったので、音楽ゲームにもそういった要素を取り入れれば面白くなるのでは? くらいの気持ちで作っていました。
白石氏:他にもリンク機能とか。いやぁいろいろ考えたなぁ……(笑)。
花形氏:お店に自分と趣味の合いそうな人がいると紹介してくれる機能ですね。
――iOSの「ZERO」で入った「RECOMMEND」みたいなノリですね。あちらは曲をオススメしてくれますが、こちらは店舗で曲選びが似ているプレーヤーを紹介してくれるんですね。
白石氏:曲選びの傾向が似てるよ、みたいな。
――これはこれで面白そうですけどね。
花形氏:結局でもまぁ、余計なお世話的なところが少しあったりして……。
白石氏:基本的に複雑になる方向になっていますね。
――アーケード版はソフト的にはiOS版の基本は変えずに、遊びの要素を加えて深く掘っている感じがしますね。すごく悩んでいたんだな、とも感じます(笑)。
花形氏:そうですね。単純に演奏だけを楽しみたいお客さまにとっては「余計なお世話だから、遊ぶところだけをやらせてくれよ」という気持ちも絶対あるんで、そういったお客様の気持ちを深く考えず、ただ盛っていっただけというゲームになっていたと思います。
――その後、懸案だったトップのチェックも通ったということなんですが、どうやって通したんですか?
藤川氏:「アーケードならではの機能」を改善する、という条件で承認が降りたんです。
――え? 今お話いただいた中にも「アーケードならではの要素」がいくつも提案されていたのにですか?
白石氏:ただ、今思えば、当時は我々も明確な「違い」というのを見つけきれていなかったんです、結局(笑)。
藤川氏:確か、当時はタッチデバイスをかなり優先……というか、僕らとしては「タッチ操作で結構いけるんじゃないか」と思っていました。同時押しが何点かできるという仕様があったので、「違いを出せるんじゃないか?」と思っていたんですが、それだけでは「弱い」と言う話になりました。
白石氏:最終的には「対戦」と「同時押し」の要素をAC版での違いということで推していきました。同時押しに関しては、マーカーに「8」と書いてあったら8本同時にタッチするという仕様を入れていて。難易度は上がりますが、これはこれで面白さはあるんですね。「とっつきはどうかな?」とは思いますが。
花形氏:当時、「違いを出すことが目標」みたいなところがあって。「違いは出せても、必ずしも面白いとは限らない」というようなところに行き着いてしまった。大画面になったことで、一気に2点タッチや、それこそ10点同時タッチを入れてみたんですが……「グルーヴコースター」って元々画面どこをタッチしてもいい、タイミングだけを狙うゲームじゃないですか。
なのに、そこに2点タッチなのか、1点なのかと判断しなきゃいけなくなると、せっかくリズムにノっているのに、判断のプロセスが1つ入ることでノりづらくなってしまう問題点があって。ある意味上級者は難しくなって面白い、みたいな利点もあったんですが、この仕様はそもそも「簡単にノれる」という、「グルーヴコースター」の最も魅力的な要素からズレてしまっているという問題点もありました。
――素人考えですが、マルチタッチを活かそうとすれば、例えば譜面レールを2本にしたり、いろいろ複雑にはできると思うのですが……。
藤川氏:そうですね。実はわりとその辺も考えてはいたんですよね(笑)。
花形氏:でも、それではやっぱり目標がぶれていると言いますか、「『グルーヴコースター』を使ったアーケードゲームを作る」くらいの緩い目標みたいなところがあって。さっき言った制作期間の制約もあったので、その中でできるベストの内容、と詰めていったところが、結局は「iOSでできるゲームをわざわざゲームセンターまでお客様が足を運んで、さらにそこでお金を入れて遊ぶというところまで達していないんじゃないか?」っていうところに行き着いてしまったという感じでしたね。
――「GCAC」がリリースされると聞いた当時、私も「なんでわざわざスマホでできるものを業務用にしなきゃいけないのか? アーケード版って何が違うの?」と最初は思いました。そこにばっちりハマる答えを模索していたってことなんでしょうか。
「アーケードならではって何だ?」……「作業停止」から「開発中止」へ
白石氏:そんなこんなでフルスペック治具というのができるんですね。(資料と治具を比較して)ほとんど同じものですね。スイッチの三角の位置が違ったりするくらいで。
――こうして見てみると、かなり派手に光りますね。
白石氏:筐体はこんな感じのものができ上がって、作業的にはかなり進んでいたんですね。そんな中、当時は11月にロケテスト、2月AOUショーに出そうとしていました。ただ、これがこのプロジェクトが迷走していることを物語っているんですが、結局この時期に、「(このタイトルの)ターゲットやコンセプトってどんなものなの?」という話が出てきていて……。
2011年の10月、ロケテ前の評価会がありまして、トップがプリプロの段階で1回OKを出していたんですが、最後まで「なんか、アレ(GCAC)はどうなんだ?」とひっかかっていたという話もあって、それがグルグル回って、ターゲットとコンセプトを再確認していたんですね。ゴーストバトルの「大人の事情」の件もクリアになって、実は作れることになってたんですが……。
藤川氏:結局はトップの思っていた「手触り感で違いを出せ」という要求に対して、我々の作ろうとしていたものが、iOS版との差別化と言えるレベルに届いていなかったというところだとは思います。
――ベクトル(方向性)の違いというか。
藤川氏:そうですね。トップはプレイの感触などを気にしているみたいでした。
花形氏:細かい機能があっても、「iOSでできるゲームがあるんだから、同じものがベースなら、わざわざゲーセンに行ってやらないでしょ?」という。
白石氏:いろいろ説明したんですが、根っこの方で納得していなかったんですね。ここでその違いを説明するための比較表の入った企画書などを作ったり、実際に先ほどのフルスペック治具を海老名開発センターから新宿本社に持ってきたりなどして、トップに説明をしようと試みるんです。でも、そもそもこちらが迷走しているような中で作成された企画書だったりしますから、どうしてもうまく説明できなかったんです。トップだけではなく、当時のiOS版の事業本部の庄司本部長、つまり石田の所属する部門の長からも、フルスペック治具を見て「これはこのままでは出すべきではない」という意見が出ていました。
――えー! ……それは現場は大変そうですね。
白石氏:かなりヤバい状況になって、結局「一旦(作業を)止めろ」と。作業停止の連絡がきたんです。社内用にイメージを作ってみたりしたんですけどね。11月7日に再レビューがあって。これが前任のプロデューサーが作成したその時の企画書です。メインターゲット、「GENE」を選ぶ理由とかいろいろ書いてますね。
――時間も限られる中、説得するのも大変ですね。
白石氏:他機種の比較とか、ほんとは今思えば関係ないっちゃ関係ないんですよね。このときはそういう感じで。
――話をうかがっていると、予算や期間の制約もあって、なおかつベースには石田さんが作ったiOS版もあって……という条件の中で、「差別化」を意識して開発側で作り上げた結果、マーケット主導の作り方と言われるものに近い感覚になっていた感じがします。市場の状況を見て、空いているゾーンを狙って……と。
白石氏:かなりマーケットからの影響は強かったと思います。なので、この資料にも比較が多いですね。要は「他社とは違うところを狙いますよ」と。この資料は最終的に見てもらったかもわからないですね。この辺になると本部長など、上の人間がトップと話をして物事が決まっていたところなので。……そして11月8日に「開発中止」の話が来ました。
――トップの方達が考えていたのは、明確な差別化といいつつも、それはあくまで「グルーヴコースター」で1曲をプレイする際の手ごたえに、iOS版とのはっきりした違いが欲しかったということなんでしょうか? やはりアーケードで戦う機械というものに対して、こうしたいという出発点、出来上がってきたものに対してお互いに感じていること、いずれも視点の違いが大きかったように感じます。
白石氏:今思えばですけど、無茶な感じのスタートで。ターゲット再確認を後でやってるとか、走りながら考えていた。
花形氏:まず、リリースすることありきで、後付けでターゲットを決めているというところがあって……。ターゲットに向けての物作りにはなっていないんで。無理矢理このゲームができているので、「多分このゲームはこのお客さまが遊ぶ」と後付けしていたところがありましたね。
――あくまで対立しているわけではなく、お互いが違う視点から試作版を触って考えて、それぞれが「こうなんじゃないか?」って「あるべき姿」を模索していったことで、おぼろげながら着地点は見えていたものの、妥協ではない「アーケード版ならではのもの」にたどりつくところまでは行っていなかったというか。ただ、お話を伺っていてもそんなに「間違っている感じ」はしないんですよね。
花形氏:やってる当時は「まぁまぁいけるんじゃない?」という気持ちはあったんですよ(笑)。
白石氏:ロケテストが11月からということがあって、筐体もできているので、「1回とにかく市場で世に問いたい」と。「それもないまま社内で止まってしまうのはどうなんだ」と。「それでダメなら納得するけど、これじゃ納得できない」と。「だったら最初からプロジェクトを進行させるべきじゃないし、やらせといて最後に梯子を外すみたいのはどうなんだ!」と。当時はものすごく消化不良だったんですね。
花形氏:従来はロケテストまでは出してみて、そこの反応次第で先に進むか開発中止かを決められることが多かったのですが、そこに至らないというケースは自分としては初めてで……当時納得はできなかったですね。
――アーケードタイトルの作り方として、「とりあえずはテストまではさせてくれ」というのはよく聞くのですが、プロジェクトが走り始めてから、テストなしで中止、というのはあまり聞いたことがないですね。
藤川氏:「えーっ」ってなりますよね(笑)。
――お店に置くなり、社内に呼ぶなりでテストできるからこそのアーケードらしさというものはあると思いますし。「中止」という英断にいたった件に関しては、ご本人に話を伺いたくなりました(笑)。
白石氏:当時の心境をね。
――こうして完成後にお話を伺っているからこそ、言われることはわかりますが、当時の開発の方々の心境を考えると、複雑な気分です……。
花形氏:ただ、他社や既存のものと差別化できていても、この当時のものが「お客さんが遊びたいと思うところに達しているかどうか?」というと、差別化していれば誰かが必ず遊んでくれるわけではないので……。そういうところで、お客さまの動機というか、「これだから遊びたい」というところが欠けていたのかなと。
藤川氏:後から考えればそうですね。今だから笑って言えますけど(笑)。
――「その当時はねぇ……」って話ですよね(笑)。
白石氏:その頃、先ほど話に出た「マジカルミュージック」など、開発中止が続いていて、「何作ったらええんやろ?」となったりしてましたね。
藤川氏:そういう事情もあったんでしょうね。「出して中止」ということが続くと、イメージが悪いと。
白石氏:だから、「出す前に止めちゃえ」という考えがあったのかもしれないですね。
――とはいえ、現場の人からするとたまらない話ですよね(笑)。
一同:ですね(笑)。
白石氏:それに、当時、オンラインのネット課金が社内では否定的な空気だったんです。ネット課金は、とにかく設置してもらって台数を稼いでいかないといけない。
――ビジネスモデル的には台数が出てくれないと困るし、出回ってもちゃんとみなさんがプレイしてくれないといけない。
白石氏:当時、課金のシステムが適切に設定できず、うまく運営できないタイトルが何作か続いていて、「紐(LANケーブル)がついているのはダメだ!」という風潮でしたね。「スタンドアローンの機械を作れ」という感じでした。
――たとえ、ネットがなくても遊べるものを作れと。
白石氏:それはある意味においては正しいんですが。ただ、それだと結局は売り切っておしまいなんですよね。そういった中で「ソニックブラストヒーローズ」(2011年2月)が出たんです。これはネットに繋いでいません。
――そういう背景があったんですね。ただとにかく、「プロジェクトGENE」は2011年11月で「開発中止」という形で終わってしまったんですね……。
白石氏:1回プロジェクトが終わってますね。
花形氏:実はちゃんと遊べるんですけどね。
【試作版「GCAC」をプレイ!】
ここで、当時の筐体とソフトを実際に花形氏にプレイしてもらった。こうして見せていただけることは非常に珍しいことであるとともに、このインタビューのために試作版をそのままの形で残していただいていたとのことで、感謝の念に堪えない。
――(デモを見ながら)こうして見ても、違和感は全然ないですね。「ZERO」に入っている曲も入ってますね。ここまでできていて……。
花形氏:そうですね。じゃあ、1回プレイしてみます。ゴーストプレーヤーとマッチングした形ですね。「2」、「8」、「10」と書いてあるマークが多点タッチを示しています。知ってないと多点タッチがわかりづらい時点で良くなかったかもしれないですね。
――いきなり数字が出てくるのは一見、難易度が高いですね。
白石氏:ゲームとしてはここまでできているんです。
――ほぼほぼできてますね。
藤川氏:ただし、これが市場に出ていたらヒットしたかというと……?
花形氏:面白さとしては80点くらいで、合格点ではあると感じます。でも、お客様が80点のものにお金を入れるかというとね。
白石氏:今となってみれば、出てなくて良かったんだろうなと思えますね。では、プレイしてみてください。
――えーっと、このバーはなんですか? 肘置き?
花形氏:肘を置いたり、荷物をかけたりといった便利棒ですね。
藤川氏:しばらくプレイしているとわかるんですが、これがあると安心するんですよ(笑)。あまりいい説明はできないんですけどね。
白石氏:人それぞれなんですが、「やりにくい」という意見もありました。タッチする際にここに手を置くと、手が起きて手首の角度がきつくなってしまうので。
――身長差があると難しいかもしれませんね。背が低い人は手を上げないといけないし、背が高い人は手を下げないといけないし。……(プレイしながら)マルチタッチはいきなりやろうとすると難しいですね。急に8とか出てくると、「えっ、なにこれ!?」ってなります(笑)。
花形氏:結局、「8」なので、「5」(左手)+「3」(右手)、「4」(左手)+「4」(右手)とか、指の配置を考えてプレイするんですね。例えば、8→3→8→3といった譜面が来る場合には、「5」(左手)+「3」(右手)だと、後に来る「3」も「8」も押しやすくなるんです。
――なるほど。
花形氏:ただ、それはマニアックな面白さであって、誰でも直感的に遊べるものではないんですよね。
白石氏:元々のゲームはいいので、この筐体でプレイしても面白いのですが、やっぱりアーケードならではの魅力が強いか? というと……という所なんですよね。
――プレイしていて思ったんですが、本当にこのバーに触れているとなんだか安心しますね(笑)。
藤川氏:僕らは、安心バーと呼んでいます(笑)。
――プレイしていて違和感はないんですが、多点タッチがあるだけで全然違った感じを受けました。これはこれで、本当にもったいない気がします。
藤川氏:それはそれでちょっと嬉しいです(笑)。
――何も知らずに「AC版はこれです」って言われたら「そうですか」って言っちゃいそう。特に何かiOS版から失なわれているわけじゃないですし。
花形氏:やっぱりそれこそ、このあと基本無料で遊べる「ZERO」が出る訳ですし、お金をかけて遊ぶかというと……?
――iOS端末を持っていない人には嬉しいと思うんですけどね。
白石氏:それは確かにそうですね。
――実際にプレイしてみて、「これ全然アリじゃん」という気持ちにはなりました。手も休めて、荷物もかけられるし(笑)。……これが中止になるんですねぇ。
白石氏:9月にショー(第49回 アミューズメントマシンショー)があったので、お得意様向けに営業資料を作ったんですね。稼動予定は2012年春って書いてありますね。
――筐体を売るものなので、製造にリードタイムが必要ですから、6カ月くらい前には注文をとっておかないといけない分、もう話は動いていたんですね。
白石氏:11月にロケテストして、年度内(2012年3月まで)には出そうと。
山田氏:私はその頃営業担当だったのですが、お得意様にちらっとだけお話させていただいた時からすごく評判がよくて。大手メーカー以外からも音ゲーが出るということで、オペレーターさんから期待のお言葉をいただきました。
――それなのに「開発中止」になってしまったんですね。ここまでできていたのに……。
短時間のプレイだったが、試作版の実機プレイで感じたことは、間違いなく「これが世に出ていたのであれば、これはこれで遊べていたのでは?」という違和感のなさだった。iOS版は、難易度を上げた場合はあくまで譜面のポイントと入力種類が増えていくという調整の方向だったが、「GCAC」の試作版では、マルチタッチを使うことで、それとはベクトルの違った難易度調整の方向へと進んでいた。
「試作版は80点」という点数の数値の大小はさておき、もの作りという観点において、誰にでもたどりつける「満点」というものはなかなか存在しないし、どんな方向性に行っても、これだけ悩んで真面目に作っていれば、当然ある程度のものはできあがるはず。それに、「あるべき形なんて無限にあるのでは?」というのが素人の自分の見解で、その点からみると、「プロジェクトGENE」のここまでの道のりに、「大きな間違いというものはなかったのではないか?」と思える。
ただ、これも今思えば、あくまでiOS版のタッチ操作ベースのコントロール系であることは変わっていないこと、そして追加要素の部分においては、花形氏の言う「グルーヴコースター」の魅力である「直感的な遊びやすさ」とは別の方向である、という意見も納得できる。
経営サイドがこだわった「アーケードならではの感触」が必要、という指摘もやはり、心のどこかにひっかかる指摘だったことも確かだ。開発チームはiOS版の操作感覚の基本を大切にし、手を入れることなく、どちらかといえばアップグレードの方向で要素を深く広く考えていたが、トップサイドは操作感そのものに「アーケードならでは」を求めていたという点ですれ違いが起こっていたといえる。
このプロジェクトにとって2011年は、「グルーヴコースター」のアーケード版、というプロダクトに対して、開発陣、経営陣それぞれが思い描く「アーケードらしさ」が人を通じてぶつかり合っていた時期。話をうかがっていると、まだ状況的には手探りで、完成形のようなものがおぼろげながら浮かび上がってきては消えていく、霧の中を走りながらゴールの場所を探しているような、そんな気分にならざるを得なかった。
【次回は12月10日頃掲載を予定しています】
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