インタビュー

「グルーヴコースター(アーケード版)」短期集中特集インタビュー・第3話

さらに……?

さらに……?

――さすがに筐体デザインはこれで完成形にたどりついたわけですよね。

白石氏:いろいろありながらも、ようやく。そういや、人が減っている話をしましたっけ?

――えっ!? それは聞いてないです。

白石氏:2月のJAEPOショーがあって、横浜と柏の開発ロケテが終わったすぐ後なんですけれど、3月中旬に、会社の全体方針で人員の再配置が行なわれたんです。私たちの部署からも人がごそっと減ったんです。その時、自分たちがやっているプロジェクトは現実に動いているので、動いていないプロジェクトから減るんだろうな、とおぼろげに思っていたんですが、「REBOOST」からもごそっと減ったんです。プログラマー、メカ担当の人員と、あと楽曲ステージ制作の人員が全てウチの部署からいなくなる事になったんです。

――ステージ制作者が全て!?

白石氏:ステージ制作者は「GENE」から一緒にやっているメンバーだったんですよ。こういう人たちも例外なく。結果、ステージ制作をアウトソーシングせざるを得なくなりまして。

藤川氏:最初意味がわからなかったです。「このタイミングでステージ制作をする人がいなくて、どうやってゲームを作れというんだ?」と。

白石氏:ステージ制作って、企画が動かないとどうしても待ち(状態)になってしまうんですよ。でもウチは企画がすでに動いていて、重要な役割を担っている。だから絶対に減ることはない、という考えがありました。でもそこからごそっと減ることになって。

 「JAEPOショー成功した! 人もいっぱい来た! 120分待ちキターッ!」となって、その後ステージ制作者も一緒にロケテストに行ってるんですよ。その次の週にいきなり「4月からウチの部署にはもういない」と。「3月いっぱいだ」となりまして。

――えーーー!?

白石氏:まずそういう話があって、それまで、筐体デザインについては、グラフィックデザイン(GD)とインダストリアルデザイン(ID)を別々のスタッフが担当していたんです。藤川さんはIDで、筐体全体の担当だったので、筐体に印刷されるグラフィックなどはGDのメンバーが担当していたんですね。そのGDのスタッフもいなくなることになってしまったので、それからは藤川さんがIDからGDまで全部やることになったんです。資料にはさらっと書いてますが、ここはね……。

――大ピンチじゃないですか!

白石氏:ウチの部署からも人を減らさないといけない状況だったのは理解できたんですが、減り方がちょっと予想以上で……。

――ヘタすると暴動ものじゃないですか!

白石氏:暴れるかと思いました。私もだいぶ落ち込んだので、2週間くらい立ち直れなかったですね。

藤川氏:送別会で泣いてましたもんね、1人で。

白石氏:私、ぼろぼろ泣いて。たまらなくて……。だいたいその発表があった時点で泣いていましたし。ほんとに「アカン」と。「どうなるんだろう……」と。これじゃモノ(製品)出せないですよ。

――いくらアウトソースするといっても……。

白石氏:アウトソースする担当が必要じゃないですか。iPhone版の担当者などは残っていたりはしていたんですが、それにしても……。

――せっかくここまできたのに……。

白石氏:実はここが1番つらかったですね。あの夏休みもつらかったですけど。

藤川氏:ここが本当につらかったですね。

白石氏:「ようやく成功が見えた。後は実行するのみ!」みたいなとこだったんで。

――しかも2週間くらい後、資料によれば「出荷切り上げ検討」ってすごいことになってますよ……。これ、先ほど少し話があったリリース時期の繰り上げの話ですよね?

白石氏:ここはね、追い討ちなんでね。きつかったですよ。

――JAEPOショーの時、たしかリリースは「2013年の冬」って話でしたよね。

白石氏:オペレーターさんたちには「年内、遅くとも12月には出します」と言ってたんですよ。それを「7月の夏休み開始と同時に出せるように考えましょう」と言われて。「7月? 意味がわからない」と。

――無茶振りじゃなく、無茶ですね。

白石氏:これは、今思えばなんですけど、我々の取り組み方を見て「もっと効率化できるところはないか考え抜こう」という指摘だったと思うんです。これでまた作戦会議ですよ。やっぱり集まるのはここの3人ですよ(笑)。危機があるたびにこの3人が。

藤川氏:あれは町田のファミリーレストランでした。

白石氏:深夜に集まって。常に何かあるとこの3人が集まるんですよね。「どうしよう?」と。

藤川氏:「今の状況だと、こういうことがあるからできないですよ、という条件を全部出しましょう」と。

白石氏:「これが問題になりますよ」と。

――筐体設計自体はほぼ終わっていた時期なんですか?

藤川氏:最終的なところはまだですね。耐久試験だったり、設計の検証ができていなかった時期です。

白石氏:「『作れ』と言われれば作れますが、不十分なものを検証しないままで出してしまうと、後でトラブルが起きてしまっては問題だ」と。「トラブルを起こさないためには、ちゃんとしたものを出すには時間が必要だ」と。

藤川氏:その時点でも納期が間に合わないという状態で。「じゃあどうやったら間に合うのか?」と。

――むしろ、それ以上に早くしないといけない状況ですよね。

白石氏:そうすると先行発注(※)しなきゃいけないと。受注前に先に台数を決めてしまおうと。それができたらなんとか10月下旬までは縮められる。台数は明かせませんが、「一部の部材を先行発注すれば、何とか間に合うだろう」となりました。ソフトはある程度作っていて、実はバッファも持っていたので大丈夫と。仮に筐体の納期が縮まったとしても、10月下旬まではソフトは縮められると。これを答えに持っていこうと。それで庄司と話して「10月下旬まで縮めます」ということにしました。ショーやロケテストの感触で、ある程度の確信がありましたので、ここは先行発注という大勝負をかけましょうと言うことです。

 ここはしんどかったな(笑)。プロジェクトメンバーが減った後に追い討ちをかけるように。

※先行発注……受注台数が確定する前に、あらかじめ部材を一定数先に発注すること。

――4月は地獄ですね。

白石氏:それも「JAEPOショー」がうまくいった後だったので。

藤川氏:壁がどこまでいったら終わるのかと。

白石氏:誰と戦っているんだろうと。ここつらかったね。

花形氏:俺とか、結局ステージ調整を……。

白石氏:結局ね、花形さんが「ステージ調整を自分でやる」と言ってくれたんですよ。

花形氏:ステージ制作者がいなくなっちゃったので、ステージを作る人が、iPhone版のメンバーと準社員しかいなくなってしまったので……。元々は出来上がったものを監修するだけの仕事だったんですけど、「自分で作らなきゃ」とイチからツールを覚えて。

白石氏:これはちょっと泣けますよ。企画の本来の仕事である仕様書を書くのだけでもかなりのボリュームがあるというのに……その上で、ステージ調整するということは「人の2倍働く」ということで。多分私がだいぶ落ち込んでるのを見て、「自分が頑張るしかない」と思ったんでしょうね(笑)。

花形氏:結構この後の本ロケ(※)ってのがやっぱ重要なロケテストで。ここまでに本当にソフト的にもベストなものを仕上げなきゃいけなかったので……。とはいえ、この時点ではまだ出来上がっていなかったので、そこまでにベストな人員体制を作って、どうにかやっていこうと。

※本番ロケーションテスト。ソフトもハードも完成形のものを持ち込んで、インカムテスト、プレーヤーのデータ収集などを行なう。ソフトやハードウェアの安定性や設置性、運用面のテストなど総合的に行なわれるテスト。

――メンバーが抜けた穴は1カ月で立て直せってことですよね?

白石氏:それで全部人をつけて。

――よく折れなかったですね。

白石氏:このプロジェクト、メンバーが減るのに減った後の体制を「こう進めなさい」と言うような指示などは特になかったんですよ。

――しかもスケジュールは「巻け、巻け」(※)と言われていますよね。

※巻け……短縮という意味。

藤川氏:そうなんです。

白石氏:それで自分たちで新しいラインを作ったんです。

花形氏:ここは誰が兼任、みたいな感じで。

白石氏:残ったスタッフがみんなこれ迄の2倍も3倍もがんばってくれて。

――ニコ超(※)とか言ってる場合じゃないですよ、コレ。

※ニコニコ超会議2……2013年4月に幕張メッセで行なわれたイベント。本作も出展された。

白石氏:ニコ超とか、その中でもやってたので。本ロケもやって。

――しかもロケの期間、長いですよね。異例なんじゃないですか?

白石氏:資料に「前代未聞」とありますけど、ほんとそうなんですよ。今まで開発ロケ(※)をちょっとやって、販促ロケ(※)をやって終わりなんですけど、「ここをきっちりやりましょう」と。通常は都内近辺でやるだけのことが多いんですが、「全国でやらせてください」とかなり主張して。

※開発ロケ……商品として市場に出せるかのテスト。販促ロケ……オペレーター向けの販売促進のためのテスト。

――ピンポイントにいろいろ行ってますね。

白石氏:まず開発ロケは首都圏近郊になるけれど、販促ロケに関しては全国でやりたいと。「経費はかかるけど、そこまでやったほうがいいよね?」と。

――仙台まで行ったんですね。

白石氏:仙台、福岡、大阪でやって、これでようやくリリースできるかな? と思ったら、まだあるんです(笑)。商談会などで「対戦仕様が面白くない」と指摘がありました。

――うっ……それは……。

花形氏:商談会で「iPhoneは1人用だけど、アーケード版は複数人で対戦して遊ぶのが面白いゲームですよ」という売り出し方をしたんですが、オペレーターさんたちから「でも面白くないじゃん」と言われてしまって。

白石氏:「ただ単に1人でやっているのと変わらない」と。

花形氏:「単に一緒にやっているだけでは、面白い対戦にはなっていないだろう」とツッコミがありまして。元々想定していたのは、1人でプレイする時のハイスコアを狙うということを「せーの!」で同時にやって、誰が1番点数を取れるかを競う内容でした。それはスコアを狙う人にとっての、競い合いとしては最低限のラインは満たしているだけですが……結局そこで得られる楽しさは1人でプレイしていることと大して変わらないと。

――同時にやる意味がないと。

花形氏:そうなんです。結局、じゃあ「面白い対戦はどんなことだろう?」というのを分解していって。

 最初(第1話参照)に戻るのですが、「GENE」の頃、ゴースト対戦とか考えていたじゃないですか。結局その辺も、やることは「競いあうだけ」だったんですよ。ネットを使ったから面白いとか、対戦の結果、ボーナス経験値が手に入るというようにすれば面白い感じはするんですが、対戦そのものの面白さは1人で遊んでいるときと変わらないじゃないですか。なので、イチからそこを見直そうという話になりまして。

 結果的に、スコアの計算方法を1人用とは全く異なる計算をすることにしました。それこそ対戦の盛り上がる瞬間って、抜きつ抜かれつで逆転する瞬間じゃないですか。そこが1番盛り上がりやすいチューニングというか。

 それこそ1人用ってスコアが加算されていくだけなんで、ミスったら0点じゃないですか。対戦の時は数値は出していませんが、内部計算上、ミスったときにマイナスされるようにして。そうすると抜かれることになる。そこを見た目で「ミスった」という感じをより演出するために、例えば自分のアバターキャラが普通に走っているんですが、ミスった瞬間こうクルクル回って落ちていくような演出を加えたり。

 相手がミスしたときも思いきり「×」マークを出したり。「あいつミスったから今抜けるぞ!」とわかるようにしました。ほかにも、細かい話ですが、スロワーブースト(負けている側になんらかの有利をつける)じゃないですけど、負けてる人が逆転しやすく、負けてる人ほどちょっと点数が入りやすくしたり。でも、「それだけでも足りない」と。負けてる人が逆転しやすいようにしただけだと、どちらにも理不尽な結果が出ちゃうじゃないですか。最初頑張ってるプレーヤーさんにも理不尽ですし。

――当然そうなりがちですね。

花形氏:「上手い人もちゃんと評価されるゲームにしなくてはいけない」というところがあって。最終的にそこの落としどころとして、「勝ち負けの基準を(1人プレイのときと)変えましょう」と。

 今までスコアを競うだけのゲーム性だったんですけど、最後何着でゴールしましたという結果があった後に、イメージ的にはそれぞれのプレーヤーに、例えば順位が1位なら☆が3つ、2位なら☆が2つみたいな感じで星をつけていくんです。次にチェイン数が1番多かった人に☆が1個プレゼント、グレートの割合が多かった人に☆が1個……。そういういろんなうまさを評価して☆を与えていく仕様と、うまさ以外の要素で逆転の可能性がないかなと思っていて、

 それこそ2つ「BOOSTER」があるじゃないですか、右手の成功率が高い人に☆1個とかいうと、左利きの人は反対が狙いやすくなったりして。演奏と関係ないところで、何のマークもないところがあるじゃないですか。そこで適当に連打していると。

――アドリブのところですか?

花形氏:アドリブでもなく、本当に無駄うちですね(笑)。無駄うちが多い人に、「落ち着きなさNo.1」だと☆を与えたりとか。

 でも、「それだと真面目にやっている人が負けちゃうよね」となって。今度は一切無駄ないと☆2個とか。騒がしい人もチャンスはあるけど、さらに冷静な人はもっと上をいくとか。そういういろんな要素を積み重ねていって最終的に☆が1番多い人が勝利です、というルールに変えたんです。

 結果的にそれをやることで1人用では絶対に味わえない、「なんとかの称号をゲット」みたいな喜びがあって。「ここの☆は俺が取ったけど、この☆はお前が取った」みたいな。そうするとみんながみんな喜べることもあるし、逆転も起きやすい。モニタリングとかで上手い人を呼んだりして、対戦をプレイしてもらったりして。iPhone版の1位の人とか。

 それこそ超上手い人と、まぁまぁうまい人と、ほとんど初心者の人と対戦してみてどうか? って、何回か対戦してもらってもちろんうまい人が勝ちやすい、でも下手な人でもチャンスはある、みたいなくらいのバランスまでもってきて、実装しては調整してを繰り返して、ようやく「これは1人用とは違った面白さだ」というところに集約することができて、アーケード版は1人用だけでなく、対戦も面白いと自信を持ってできたかなと思います。「参加者それぞれが頑張りどころを発揮できる多様な評価軸を用意する」ことで、「同レベルの腕前の人はガチで競い合うドキドキ感が楽しむことができる」し「腕前の違う人同士でもワイワイ盛り上がって楽しむことができる」って感じでしょうか。

改良されて投入された対戦の画面

白石氏:対戦画面はこんな感じです。最終的にリザルトの時に「落ち着きなさNo.1」とかで☆がピロンピロンと増えていくんですね。トータルこれでと。

――確かに、いろんな評価軸を用意することで、対戦では最終的に誰が勝つかわからない、というドキドキ感があるんですね。

花形氏:初めのころはどんな評価されるかもわからないので、まず「こんなもの(評価軸)があるのか!」みたいな驚き、楽しさも味わってもらえると思いますし、それを覚えたら、今度はそれを狙ったプレイをしよう、と1人用とは違った勝ち方を考えたりするという楽しさもあるでしょうし。

白石氏:「右利きナンバーワン」とか。

花形氏:全員右利きとかだと、あえて俺は左利きを狙おうとやるけど、「左じゃなかなかうまくプレイできない」なんて楽しさもあります。

 あと細かいところなんですが、最初はキャラクターが表示されているだけだったんですが、そこにプレーヤーの名前を表示したりといった調整ですとか。

白石氏:かなり対戦感は増えましたね。というのをほぼマスター直前にやったんですよね。それでマスター(アップ)を1カ月遅らせたんですよね。

白石氏:そんなギリギリまで開発を行なっていた中、受注を締め(きっ)たら、ものすごい台数の発注がきたんです。タイトーでは近年に無いくらいの受注台数が来ました。最高4人で遊べる対戦プレイに期待して4台発注をしていただいたオペレーターさんも多数いらっしゃって。「これだけ対戦に期待いただいているんだったら、いよいよ余計に対戦モードをちゃんとしないと」という話にもなってました。

藤川氏:受注締めの当日、気になって、白石さんに「今何台くらいですかね?」と聞いたら、「まだFAXが止まらないです!」と言われて。「(注文は)FAXで来るんだー」と初めて知りましたね(笑)。

「仲間がいたからなんとかなった」

――ここまでお話を伺ってきて、想像を完全に超えてますね。本当にみなさん、よく折れずに最後までやってきましたね。

白石氏:この間も、東山さんから、「白石さんは「粘り」の人だ! よく折れずにここまで粘ったね」と言われました。そう言われると確かにそうかなとも思います。粘りだけはあるかな、みたいな(笑)。とにかく、「『グルーヴコースター』が面白い」と思ってるんですよね。自分が楽しいと思ってるんです。こんないいゲームを世の中に出さないともったいないと思うんですよ。

藤川氏:新企画6本の中では僕らはかなりアウェーな状態でしたよね。

白石氏:「BOOST」以外にも新企画を5本立ち上げるとなって、その企画がどれも他社がやっていない分野を狙っていた。そういう意味でいうと、音楽ゲームだけは他社とかぶっているし、全然ダメなんですよ。その文脈からすると6本の内「BOOST」だけ外れた企画だったんですよ。そういう意味でアウェーだったし。元々言うことを聞いてやっているものじゃないので、全然別の文脈だったんです。

藤川氏:「普通だったらないけど、なんか捨てられないものがあるんだよね」と言われつつやってましたね。

白石氏:うちだけ生き残ってるんですね。社内公募で200案から6案に絞られた時の案も、次の新たな企画も全てなくなってますから。うちだけ残っているんですよね。

藤川氏:執念ですね(笑)。

――話を聞く限り、執念でどうにかなるレベルではない気がします。

白石氏:やっぱりあのまま出ててもうまくいかなっただろうし。音楽ゲームに関しては後発ですから。

藤川氏:ショーなどに出展してお客さまの意見を聞きだすと、「待っててくれてるのかな?」と思うと「やっぱりやめられない」っていうのはありましたね。

白石氏:2月の「JAEPOショー」が大きかったですね。

藤川氏:大きかったですね。風向きが変わりましたね。

白石氏:あそこから社外も社内も一気に変わりました。あのショーで人を集められた時点で、社内も応援ムードになりましたし、社外的にも「いつ出るの?」となりました。それまではずっとアウェーですね(笑)。

藤川氏:そういえばショーのコンパニオンのコスチュームもデザインしましたね。

花形氏:夜な夜な「ここはニーソックスがいい、スカートよりもパンツの方がカッコイイ」とか。

藤川氏:「なんの会議だよ!」と(笑)。

花形氏:筐体くらいいっぱいデザインしてましたよね。

白石氏:コンパニオンが身につけるヘッドフォンのデザインも作りましたよね。

藤川氏:自分で作りましたねぇ。いまだにあのコスチュームだけは毎週みて仕事できるほどの満足度ですね。「あれ趣味だろ」と突っ込まれましたけど(笑)。

花形氏:自分たちが「いい」と思うものじゃないと。

藤川氏:提案されたものがイメージと違うと、「こんな感じですよ」と描いたものが案になったりしちゃうので、結局デザインするって形になっちゃうんですよね。

――資料をそろえて、バックボーンがあったとしても新しいものを結局作らなきゃいけないから、正しいという言い方をしちゃうとどれも正しいと思うんですね。ただ、自分たちが「これでいく」というのはベクトルが全然違う話じゃないですか。いろんな意見が出てきた中で、いろんな事情があった中で、ここまで折れなかったのは凄いな、と思うんですよ。

花形氏:やっぱりまず自分たちが「これを世に出したい」という気持ちが物凄く強いんですよ。「グルーヴコースター」が面白いとわかっているところもあるし、それを作れば「いいものになるな」という気持ちもあったので。そのモチベーションだけでここまでがんばってきたみたいな所がありますね。

白石氏:1人だと折れてますよね。仲間がいたからなんとかなった部分は大きいですよね。

――この2年って、すごい2年ですよね。

白石氏:濃いですよね。もう1回体験したくもないけど(笑)。でも、まだ終わりなき戦いなんですよね。これからも続きますし。

花形氏:まだ作りこんでいるんですよ。まだ曲が足りないよといって急遽3曲くらい追加して。

白石氏:マスターは1回終わってるんですが、当日(稼働日)アップデートしようと。

花形氏:今日も午前中ずっとやってました。逆に稼動が近づけば近づくほど、「あれは大丈夫かな」とか、どんどんプレッシャーが積み重なっていくんですよね。

――しかもこれから運営ですから、マスターで終わりとはならないですよね。

白石氏:ネットワークのいいところであり、悪いところでもありますけど。

花形氏:稼動後もちょいちょい新しい曲とか配信していくんですが。ある程度配信分も作っているんですが、「稼動時全部出さないとダメなんじゃ?」とか。

白石氏:向こう1年分くらいは作っているかな? といったところでしょうか。

花形氏:それこそ今ちょいちょいプロモーションとかでウェブサイトで公開したりして、お客さまの期待が高まっているんですが、高まれば高まるほど自分たちのプレッシャーがやばいというか。

白石氏:浮かれてない分いいんですけどね、「ああ終わった」みたいに。

――ただ、精神的には気が休まらないですよね。

白石氏:「誰か悲しんでいる人がいれば、いち早く行動を起こしてその人が笑顔になるようなサービスの提供をし、その人が笑顔になったなら、今度は楽しい気持ちが続くようなサービスを継続して提供する。運営型のゲームデザインはサービス業と同義。宿泊客が寝ている時間に寝ているホテルマンはいない」……東山さんいわく、エンターテインメントの企画はそういう仕事だと。元々「BOOST」やる時に私は「10年やります!」と宣言したので、その気持ちではあります。

――ここまでお話していいただいて、失礼だとは思いますが、私も同じ気分を味あわせていただいた気分です。普通ここまでお話いただけることもないでしょうし。

白石氏:「GENE」から「BOOST」に変わるところは頭おかしいとは思いますね。正気の沙汰じゃないですよね(笑)。

藤川氏:僕はそこに惹かれたんですよね。「すごい、(企画がボツになって)すぐ(次)いくの?」みたいな。「昨日はダメって言われたけど、今日また持ってきましたみたいな、それいいなー」と。

白石氏:なんで出したんだろ(笑)。

花形氏:必死でしたよ。「通る企画を出さなきゃいけない」と言って。自分たちにも自信があって、「前の悪かった点をどうにかすれば通るんじゃないか」っていう。

――そこが強いんですよね。普通の発想だと別の「通りやすいだろう企画」を考えますよ。

白石氏:「GENE」がダメだった理由がわかっていたので。そこを自分なりに考えてより良くしていきたかったというのはあります。

――ただ、計算がないと同じ壁に当たっちゃいますからね。

白石氏:前任者ではなく、自分でもっていけばまた変わるんじゃないかと。

――「BOOST」から「REBOOST」もそうですけど、やっぱり異常ですよ。執念という言葉でも表しきれない何かがありますよ。

一同:(笑)。

――筐体もソフトも何もみんな壁にぶちあたってますもんね。それもそれぞれがきちっとダメ出しくらっているあたりがすごいです。プロジェクトをチェックしている人たちも「すごいな」と思いますね。

白石氏:最終的に全ていい感じになってますけど、いい風(ふう)になってるのは確かなんですよ。「今思えば」というものばっかりなんで。大画面になったのもそういうきっかけがあったので。「そのままだったらどうなったんだろう?」と思います。

――形になっていないところからダメだしができるのはすごい。そのあたりが非凡なんですね、みなさん。

白石氏:対戦の時もそうですし、いろいろありますけど、なんとか。その時その時はしんどいですけどね。

――たまったもんじゃないですよね。

白石氏:人いなくなるわ、「発売早くしろ」とか。多分、まだ終わらないですよ、きっと……。

――これからなんかドラマがあっちゃったら大変ですよね。無事を祈るだけですね。

花形氏:むしろ企画書書き直す前にお払いとか行った方がいいかもしれないですね。

――厄年でもない限りこんなこと起きないですよ。

白石氏:私は「GENE」の時、本厄でしたね。

――前(厄)も後(厄)もまとめて全部この2年に来た感じですね(笑)。いつもインタビューでは、最後締めのコメントを頂くことが多いんですが、この話、「期待してください」も何も、無事リリースされたら、個人的に筐体を拝みに行くと思います。

藤川氏:その内みんな「BOOSTER」にお賽銭を積み上げたりして(笑)。

――いっぱいお話しいただいて、本当にありがとうございました。


 製品として「グルーヴコースター(アーケード版)」が世に出るまで、ここまで壮絶なエピソードが隠されていたことは想像できなかった。こうまでしても、こんな目に遭っても、「製品を世に送り出したい」……その意志の力強さに何度も息苦しさや震える思いをし、だからこそ、「仲間がいたからなんとかなった」という白石氏が言った一言が、じんわりと心に残っている。実際、店舗でこの筐体を見たとき、本当に私は頭を下げたし、なんだかありがたい気持ちでいっぱいになりながら、コインを投入し、ゲームを楽しんだ。ヘッドフォンもつけたりはずしたり(初期値が最小になっていて、いきなり大音量が出ないよう配慮されていた)、大画面での没入感に改めて感心しながら、いろんなところに「ああ、心配りがされているんだなあ」と感じながら。

 そして、今回のインタビューでここまで語っていただいたことに感謝しながら、本稿はさらに続いていく。3人の話を伺いながら、「プロジェクトの途中から加わり、『グルーヴコースター』の魅力を言語化し、プロジェクトの方向性を明確にした東山氏、そして『グルーヴコースター』を生み出した祖といえる石田氏にお話を伺わないわけにはいかない」と、こちらから、別途取材を申し込んだのだ。これが、白石氏たちの執念に応える形になるのかどうかはわからないが……。そんな第4回は、これまでとは別の角度から見た「グルーヴコースター(アーケード版)」のできるまでをお届けしたい。もう少しお付き合いいただければ幸いです。

 【次回は2月上旬の掲載を予定しています】
【追記】
 都合により、続編記事の掲載はなくなりました。申し訳ありませんがご了承いただけますようお願いいたします。

(佐伯憲司)