インタビュー

「グルーヴコースター(アーケード版)」短期集中特集インタビュー・第2話

~「プロジェクトBOOST」で再始動! 新たなデバイスを開発!!~

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 お待ちいただいていた方々、大変遅くなって申し訳ありません。「グルーヴコースター(アーケード版)」(GCAC)の開発エピソードを特集する「GCAC」短期集中特集。前回に引き続きプロデューサーの白石雅也氏、ディレクターの花形琢真氏、筐体デザインを担当された藤川 剛氏の3人を迎えおおくりする第2話は、主に「GCAC」の筐体、特に操作系「BOOSTER」周りの話題を中心にお届けする。


 さて、この写真は何か? というと、「グルーヴコースター」アーケード版に採用されたコントローラー「BOOSTER」の「零号機」だ。フレームで組まれた固定器具の上に鎮座している大きなボタン? パッド?の姿は、製品版に搭載された「BOOSTER」とはかなりフォルムが異なっていることがパッと見でもおわかりいただけるだろう。この零号機の誕生、そして変遷が今回の話題の中心となる。

プロデューサー・白石雅也氏
ディレクター・花形琢真氏
筐体デザイン担当・藤川 剛氏

「我に秘策あり!」新開発の1ボタンデバイスで生き残りを賭け再挑戦!!

 「グルーヴコースター」のアーケード版プロジェクトは「GENEプロジェクト」として2011年初頭にスタートした。ソフト部分はiPhone版「グルーヴコースター」配信直後から開発、筐体はフルスペック冶具まで開発が進んでいたが、会社上層部からの課題とされた「アーケードならではの要素」を追求しきれぬまま、2011年11月、プロジェクトは開発中止に追い込まれてしまった。

――この年(2011年)はまだAOUショー(AOU アミューズメント・エキスポ:春開催)もJAMMAショー(アミューズメントマシンショー:秋開催)もあった時ですよね。

白石氏:それが、11月の頭に次のJAMMAショーがなくなることになって。プロジェクトが開発中止になって……その後、社内が色々混乱していたんですね。いろんなものが開発中止になりまして。

――この頃はライン的にはひと通り止まっていたんですかね?

藤川氏:そうですね。

白石氏:開発ラインは止まっていました。

 その後、社内のAMチーム内で、職種を問わず企画の公募があったんですね。私は元々プロジェクトマネージャーとして、いろんなプロジェクトに関わってきたのですが、そんな状況をなんとかしなければならない気持ちがあって、企画が出てくるのを待っていられなかったんですね。結果、200案ほど集まりましたが。

 「GENEプロジェクト」が中止になって1番最初に、「私は管理的な仕事(☆1)は降りてプロデュースの仕事をやりたい」と上に話をしたんです。それと同時期に、藤川さんに「(GENEプロジェクトを)諦められない」と話をして。ゲーム的にはものすごくいいものだと思っていたので、「絶対うまくいく」と。それと、あかんポイントもわかっていたんです。「感触が足りないなら感触をつければいいんでしょ」と。「タッチパネルでは(アーケードならではの)感触は作れない」と思って、筐体デザインの藤川さんとまず話をして、ハードウェアの部分から取り掛かろうと。誰も入ってこない秘密の部屋で話をしましたね。

☆1……それまで白石氏は複数のAMプロジェクトを管理する側の立場にいた。

藤川氏:「GENE」の頃には白石さんと直接話をする機会はあまりなかったんですけどね。人としては知っていたんですが(笑)。

――その時点で、白石さんの中では、企画案の公募に再び「GENE」を出そう、「タッチパネルではないコントローラー」を入れて、という発想があったと。

白石氏:そうです。そう決めていたのですが、自分1人ではできないので、まず藤川さんを呼んだんです。その1、2日後には花形さんを呼びましたね。元々担当していて知っているし、仕様が書けるので。そこから3人で話をしていきました。

藤川氏:もうあの日のことは忘れられないですね。白石さんから最初に話を聞いた時に僕は「またっ!?」って言ったんですよ(笑)。でも、「諦められない」……そのリベンジ感にやられて、「やるしかないな」と思ったんです。「GENE」の時に悔しい思いをしたのと、もうちょっとやれば……と先が見えていることに対して、引き下がるのはもったいないなと思ったんです。

白石氏:そうやったんや(笑)。今初めて聞きました。でも、プランだけで「またやる」って上層部に知れたら、即否定されてしまうので、「かっちりしたものを作ってから(話を上に)持っていかなければいけない」と藤川さんと相談して、次の日くらいに花形さんと話をして……。とはいえ、時間はなかったので、再提出案は1~2週間で考えました。

 当時、「ボタンが多くなって複雑なゲームが多い」から、「グルーヴコースター」は1タッチでできるゲームなので、「GENE」の筐体は1ボタンでいこう、という話をして。これが提出した企画書です。「新・グルーヴコースター AC化企画」(※1)ですね。3人の連名の資料です。

※1「新・グルーヴコースター AC化企画」企画書。残念ながら細部はお見せできない
※2「最初の筐体イメージ」画。スピーカーが展開するプランが盛り込まれた

――前に課題として挙げられていたキーワード「手触り感」(☆2)がちゃんと入ってますね。

☆2……「GENEプロジェクト」の際、会社上層部からは「アーケード版ならではの手触り感が欲しい」と要望が出ていた。

白石氏:「手触り感」はものすごく重要でした。それに加えて、「抜群の演奏感」、「かっこいい」、これらをコンセプトにしました。これが最初の筐体イメージ(※2)です。曲線が多いとコスト的にかかってしまうのですが……。とにかく「カッコイイ」を目指そうということで。それと、スピーカーが開くんですよ。フィーバーすると4つのスピーカーが開いて、計8スピーカーになる。そして、たった1つのボタンで、叩く、スライドなど、入力はなんでもできるようにしようと。

花形氏:私も元々の「GENE」が「グルーヴコースター」を複雑にして終わったので、「その路線が間違っているのではないか?」と思うところがあって。「やっぱり『グルーヴコースター』の面白さはシンプルで誰でも簡単に遊べる」というところだと思っていたところに、白石さんから「ボタンを少なくしたい」という話があって、企画書に盛り込みました。

――相当思い切りましたね。

花形氏:自分の中では、家庭用ゲーム機のスライドパッドを巨大にして、さらにスライドだけでなく叩く操作を併せ持つ、両手で使えるパッドというイメージがあって。

白石氏:企画書にも書いてありますが、スケジュールも状況的にも当時は、短かく設定せざるを得なかった。2012年の11月にはリリースするというスケジュールでした。ソフトはあるのでなんとかなるだろうと。「次の年度内には出さなきゃ終わる」とまだ囚われていたんですね。

藤川氏:企画公募の他の案と比べて選ばれるためには、直近で結果を出す必要があったこともありますね。

白石氏:公募はほとんどが1人で出していましたが、私たちだけ連名だったんですね。そして200案の内の13案に残ったんです。会社トップの所に持っていったら、手触り感は良しと。もう1つ、スピーカーが開くところを評価されたんです。「こういうことだよ! アーケードはこういう遊びが必要なんだよ!」と言われました。

――確かに業務用でしか実現できそうもない要素ですよね、スピーカーが開くなんて。

白石氏:そうですね。そして12月になって、6案くらいに絞られてそこにも残ったと。それと、話は少し戻るのですが、「GENE」の時、石田さんは別部門(☆3)だったので、「石田は参加するな」と言われて監修でしか関われなかったんですね。だから彼もいろいろ思うところがあったんです。でも「GENE」当時は「コスト的に無理だ」と言われて実現できないことがあったり。そういうこともあったんで、企画が残った時点で、トップに最初に「(次のプロジェクトに)石田さんを入れたい。石田さんをとにかく引き入れて一緒にやって、全部見てもらいたい」と。それはすぐにOKが出ました。

 その後、石田さんの上長である庄司さん(ON!AIR事業本部長:当時)に、私の上長の当時のAM事業本部長と一緒に話に行って、「石田さんとやるんでよろしくお願いします」と言ったら快諾してもらったんですが、その代わり、庄司さんも口を出すという約束になって。「俺がダメだったら通さないからね」と言われました。

☆3……石田礼輔氏。iPhone版「グルーヴコースター」のディレクターで、「GENEプロジェクト」時代は監修という立場。モバイル事業を手がけるON!AIR事業部に所属。

藤川氏:そのことも絶対忘れられないですね。「ヘタなことやったら絶対出さないからね」と言ってましたから。

白石氏:庄司さんは「GENE」が開発中止になる直前にも、タッチパネルの試作機を見ていたんですが、「この操作方法ではダメだ。プレイしていてカッコ良くないし、面白くない」と。「俺がもしこのプロジェクトの決裁があるなら止める」と仰っていました。ただ、その時は「他部門のことだからこれ以上口を出さない」と話が終わったんですが、そういう経緯もあって、今回は石田さんや庄司さんもこのプロジェクトに関わるという話に……。「今までとやり方が違うかもしれないけれど、誰が何を言おうが俺が反対したら(プロジェクトは)止まるから」と、そういう感じでした。

 さらに、庄司さんの方から「プロジェクトのプロデューサーは白石でいいんだけれど、北米でよくやるような2ヘッド体制でやってくれ」と言われて。コンセプトリード(コンセプトに対して最後まで責任を持つ)は石田、プロダクションリード(プロダクツに対して最後まで責任を持つ)は白石と、「明確に2ヘッドで責任を分けましょう」という話をされたんですね。

――2ヘッド体制って、当時珍しかったんじゃないですか?

藤川氏:そうですね。

白石氏:後はとにかく、「これまでの様に海老名(☆4)の開発メンバーだけでモノを作っていてはダメだ」という意識が強くありました。今までとやり方は大分違いましたが、この時は「うまくいくためにどうするか?」をひたすら考えていました。今よりも頭を使っていた気がします(笑)。

☆4……タイトー 海老名開発センター。AM事業部の開発チームはここに在籍している。

藤川氏:店舗の会議(☆5)に無理矢理入れてもらったりしてプレゼンしたり。

☆5……タイトーが運営するタイトーステーションなどの店長を集めた運営会議。

白石氏:実際にゲームを運営している店舗側にも色々意見を持っている方々がいて。長文で意見を書いてくれていたりしたんです。いま秋葉原のタイトーステーションの店長をやっている鈴木という者がその1人なんですけれど、彼は、昔から音ゲーに詳しくて、某音楽ゲームを片手でプレイする「片手界(?)」ではそれなりに知られた人間で。その彼にも企画作りに参加してもらって。

――今までにないやり方をどんどんやっていったと。

白石氏:「今までがあかんのなら、今までにないことをしよう」、「どんな方法でもいいから取り入れよう」と思ってやっていましたね。その甲斐あってか、なんとか「これがいいよ」という形にプランがまとまりました。

 その後、年末にコンセプトの打ち合わせをやっていますね。これは石田さんも入って、「1回決まっているけども、自分がコンセプトリードするならゼロからスタートしてもいいですか?」と言われたので、「やりましょう」と。

 そこから2012年の1月から3月までは、まず通常プリプロダクション(☆6)があるのですが、その前に(2011)年度内は実験をしていこう、という話になりました。

☆6……プリプロダクション。本番試作前の準備版。

 (資料を見ながら)こんな絵(※3)が出てきた。

※3「BOOSTER」の元となるデザインイメージ。後に「BOOSTER」と名づけられる

藤川氏:企画案が通ってから1番最初に書いたコントローラーのデザイン案ですね。

花形氏:光を表さなきゃいけなくて。入力した方に光が流れていくという。

白石氏:これが2012年から13年の年末年始ですね。

――企画が通った時点で、プロジェクトは「BOOST」という名前になったんですね。当時のスケジュールを拝見していると、年末年始は打ち合わせなりなんなりがめちゃくちゃ入っていた感じですね。

白石氏:そうですね。石田さんと打ち合わせもやって、「手応えとリアクションを徹底追及し、プレーヤーをかっこよくブーストする」というコンセプトを考えました。

藤川氏:そして、このゲームがお客様のGROOVE感を増幅する製品でありたい、という想いを込めて、プロジェクト名を「BOOST」としました。また、さきほどのコントローラーには「プレーヤーの意思を増幅する装置」という意味を込めて「BOOSTER」と名づけました。

白石氏: このころのメンバーは実験なんで、まだ少なかった。石田さん含めてこの4人と、筐体設計の人間と。本当に最少人数で。とりあえず実験できるだけの人数で、筐体の仕様を練っていって、デザインを考えて。

 この時点では画面自体は21.5インチで「GENE」時代と変わってなかったんです。新しく筐体の前に治具を置いて、それで実験していこうと思っていました。そもそもあのフルスペック冶具(☆7)が悪いと思っていないので。正直、「モニター周りはこれで出来上がり」ぐらいに思っていて。治具は普通なら全体を作るんですが、前に作ったものがあるので、操作周りだけ新しく作ればいいや、と。そこに新たな操作系の試作を年度内に作って、実際に手触りを確かめてやろうと。これと並行して、「製品版をどういう仕様にするか考えましょう」という流れでしたね。

☆7……フルスペック冶具。「GENEプロジェクト」時代、試作1回目前に作られた試作の筐体。

――ソフトの修正をして、新たな操作系を取り入れた治具を組み合わせてとりあえず動くところまで持っていこうと。

白石氏:そうですね。なんだかんだで、2013年2月に出しますよと。すでにその時点で何カ月かずらしているんですが、でも2012年度内なんで……。概要書に書いてありますね。

花形氏:ゲームのソフトの中身はコンセプト的には「プレーヤーをかっこよくブーストする」っていうことで変わらなかったので、「『GENE』の頃からそれほど変える必要はないんじゃないかな?」という気持ちがあって、どっちかというと操作感をどうするかが重要だと考えていました。

※4デバイスの実験冶具。発泡スチロール製のパッドで、下部には横移動のためスライドレールが付いている

藤川氏:これは僕が一晩で作った1デバイスの実験治具(※4)ですね。上は発砲スチロールです。下は「ハーフライフ」(☆8)のレバーの上にスライドレールみたいなものを付けました。

☆8……「ハーフライフ 2 サバイバー」。タイトーがAC用に展開していたFPS(First Person Shooter)。ガン型ジョイスティックとマウス形状の左スティック+フットペダルで操作する。2010年2月1日サービス終了。

花形氏:石田さんから「プレーヤーをかっこよくブーストする」というコンセプトの実現のため、iPhone版にはない操作として、1番最後の音に「ブーストフィニッシュ」という操作を追加したいという話を受けて作ったものです。

 ボタンを叩くといった小さい動きではなく、体全体を使った大きな動きをすることでフィニッシュを決めてもらえれば、カッコよくいけるんじゃないかと。

白石氏:ボタン全体がガコっと動くんですね。

――バシッとフィニッシュを決めてもらうようにゲーム側で仕掛けを用意するってことですね。おじさんには理解できる例えかもしれませんが、動きだけ見ると「炎のコマ」を思い出しました(笑)。これも1デバイスに続く新しい要素として入れ込んでいこうと。

白石氏:そうですね。その後、筐体をどうするかになったんですね。

花形氏:ブーストフィニッシュを突き詰めていった結果ですね。

白石氏:この時点では、ブーストフィニッシュがセンターに戻らないという欠点があって。このデザイン(※5)やこのデザイン(※6)のようにデバイスをセンターにして傾斜をつけて、「これなら慣性で戻るだろう」とか、大真面目に考えてました。

※5「BOOSTER」をベースに筐体のデザインも調整したものその1
※6「BOOSTER」をベースに筐体のデザインも調整したものその2

藤川氏:勿論、大真面目でしたが、スライドレールが筐体左右にぐるっと回り込むというおふざけな発想も出て来ましたね(笑)。

――なるほど。「BOOSTER」自体が乗っているスライドレールを戻すために、レールをUの字型の曲面にして筐体のデザインに取り込んでみたと。ただ、「スライドレールの部分の機構をどうしよう?」という課題は残りますね。

藤川氏:その時はそこでいきましょうか、という話になったんですね。

花形氏:そうですね。もうすこしカッチリしたものにしていきましょうと。

藤川氏:それを元にメカを検討していったんですね。

※7スライドレールを左右両側に、という機構のプラン
※8「BOOSTER試作零号機」。「GENE」時代の冶具の前に設置する形で制作された

白石氏:両側スライド(※7)と片側スライドがあったんだよね。

――左右どちらに「BOOSTER」を動かしても大丈夫という機構ですね。稼動範囲の両端にゴムをつけて、反発させて中央に戻す、という形ですね。

花形氏:普段演奏している時はグラグラ揺れちゃいけないんですね。それでロックをかけていて、フィニッシュの時にだけ動くようにするとか。

――メカ的に凝ってますね。

白石氏:そうして出来上がったのがこの「BOOSTER試作零号機」(※8)です。「GENE」時代の冶具の前に設置してありますね。……ただ、ブーストフィニッシュは結果、難しいだろうという話になりました。

花形氏:そもそも重くて爽快感が出せなくて、むしろマイナスと言いますか、それのせいで、通常時、叩くところがグラグラしてしまったりとか。

藤川氏:仕様として両手で叩くことも考えて作る必要があったので、パッド部分は大きめにしておいたんで。

※9新たに考えられた「BOOSTER」試作プラン。ボタン周囲にホイールが付いており、さらにエアーが噴出する仕掛けになっていた
※10リライトされた「BOOSTER」プラン。エアーが噴出する点が強調されている

白石氏:それで新たに考えたのがこのホワイトボードに書かれている真ん中の絵(※9)です。ホイールを回す手ごたえ感プラス、ここからエアーが出て、空気による独特の手ごたえが味わえる。横に宇宙人が書かれているのは、「BOOSTER」がUFOに似ているというのでふざけて書いたものです(笑)。精神状態はあまりよろしくなかったですが、その中でも楽しくやろうというところで。……ただ、今見返すと、むしろ追い詰められている感じもしますね(笑)。

藤川氏:回すとプレーヤーの動きはブーストフィニッシュと同じになるだろうと。レールを使わずにあのポーズをさせようと。

白石氏:先ほどのホワイトボードの絵を元に清書したのがこちら(※10)です。

――空気が出るというアイデアはすごいですね。

藤川氏:それを元に考えた筐体デザインがこれです。これはさっきのスピーカーが開く仕様。開くとこう(※11)で、閉じるとこうなる(※12)と。

※11スピーカーの開閉機構を取り込んだ筐体プラン(スピーカー展開時)
※12スピーカーの開閉機構を取り込んだ筐体プラン(スピーカー格納時)

――プランも相当練られてきて、現実味も出てきている感じですね。

藤川氏:王家の谷の様ですね。人が座っているイメージで(笑)。

――色も派手ですね。

藤川氏:「人の動きを、光のウェーブで体感的・視覚的に増幅させる」という仕様があったので、筐体全体に光の波がざーっと動くイメージです。

白石氏:ブーストフィニッシュのためのスライド機構はオミットする。その代わり、ホイール回転機構+エアーを出そうと。

花形氏:上の形も丸かったのを平面にしたんです。

――それでプリプロ(ダクション)がOKになったと。とにもかくにも、年度が変わって「BOOST」プロジェクトが本格的にスタートしたわけですね。

「BOOSTプロジェクト」ついに始動! しかし「BOOSTER」の試作は難航!

 アーケード版ならではの要素を再び盛り込みなおし、操作系に大幅に変更を加えた「BOOST」プロジェクトがついにスタートした。

※13「BOOSTER試作初号機」。「零号機」に比べると、かなり平たいイメージになった

白石氏:ようやくプリプロがキックオフという流れになって。実験が終わり、「約束どおり4月から始めますよ、ホイールとエアーを使ったデバイスでいきますよ」と。

 新企画案も「GENE」時代とコンセプトは変わっていないので、ターゲットプロファイルとしては、高校生から大学生くらいかなと。今考えるとかなり広めなんですが……。この時点でもスケジュールは2013年2月キープで出していました。

 そこからプリプロが始まりまして、「BOOSTER試作初号機」(※13)が完成しました。5月1日ですね。実際に真ん中についたものと外周りが回るんです。

花形氏:上に乗っているもの自体も、製品版の「BOOSTER」みたいに横にスライドする機構で、かつボタンみたいに押せて、1番下も回せると。

――これはもう空気が出ていたんですか?

白石氏:出てましたね。

藤川氏:ただ……実は結果はそんなに良くなかった。

花形氏:「プシャー!」みたいな空気が出せなくて、ドライヤーの送風くらいの風だったんですね。

藤川氏:あとフィニッシュをやるときって、一瞬過ぎて、あまりにも風を感じられなかったんです。

花形氏:手をずっと当てておけば出ているのがわかるんですけど、シュッとやって、その瞬間に感じられるかと。

藤川氏:入力検知的にもブースターを回し始めたらすぐ風が出る、というのはすごく難しい。

――触り始めたところから検知して、そこからフィニッシュでヨイショって出していると間に合わない。

藤川氏:だいたい終わった頃にブゥーンって出てきても、遅いよと(笑)。多分これは実現は難しいだろうと。予め内部で風を出しておいて枷を取るということはできるんだけれども、その機構の方が大変だよねというところもあって。

――素人考えですが、それを実現するならコンプレッサーとかを積まないとダメですよね。タンクを入れて、裏で回して空気を溜めておいて、せーの、ドンとしないと(笑)。

藤川氏:それはさすがに大変だろうと。費用対効果もそこまではないだろうというところで。

――風が出てくるのは面白いアイデアだと思いました。むしろリングを回し終わった後にプシューって出てきても、演出上面白いかもしれない。ライブが終わったところでスモークが出る、みたいなイメージで(笑)。

一同:(笑)。


※14「BOOSTER試作初号機・黒バージョン」。光漏れ対策のために黒く塗られた

白石氏:次にこれが外周りを黒く塗った「BOOSTER試作初号機・黒バージョン」(※14)です。それまでの物は、BOOSTERを透過して光を見せていたのですが、今回は隙間から光が漏れるということで……。

藤川氏:回して、隙間から光が出てくる仕掛けを実験しました。割と見栄えは良かったのですが、こういう風に光るのは目指す効果ではなかった。

――エアーを取り入れた「BOOSTER」の試作、難航してますね。

白石氏:さらに、この時点では「BOOSTER」の操作感に問題があって、「ボタンが重たい」ということと、「『パコパコパコ』っとした操作感」になってしまったんです。僕らは技術的に疎くて、これは技術的に後々解決されると思っていたんですが、メカに聞いたら、「これ以上良くはならない」と言うんですね。この感触だと連打もしづらいですし、両手を使うようにも見えなくて、片手で叩くのか? と。ここからかなり試行錯誤しましたね。

花形氏:結局大きいボタンだと、1回下がって上がってくるまでに動きが重くなるじゃないですか。それをクイックにするためには、バネを強くしなくてはいけないので、そうすると今度は叩く時にものすごく重いものになってしまう。しんどくなるか、軽くしてレスポンスが悪くなるかというせめぎ合いで。結局あのサイズで、それこそ(両手で叩く)素早い連打がほぼ実現できない、という感じになっちゃってたんですね。

――大きなパッドでは、それ自体が上下する仕様だと間違いなくパカパカしちゃうと。

白石氏:そこにいろんな機構が入っているのでどうしてもパカパカしちゃう。

藤川氏:快適な操作感を実現するためには、「スティックの上につけたパッドではなくて、スイッチじゃなきゃ実現できないだろう」という話になって。


※15「BOOSTER試作初号機・改」。操作感改善のため、パッドの上にスイッチを搭載した

白石氏:それで、パッドを改造して上にスイッチをつけたんですよ。この「BOOSTER試作初号機・改」(※15)ですね。この時点でおかしいんですけどね、やってることは。スイッチであるべきパッドの上にスイッチが付いてる(笑)。そうすることで叩く、という感触がカチっとなって、「これだ!」と。結局スイッチじゃんと(笑)。

――なるほど。

白石氏:結局、改修案なので、まさに付け焼刃というか……。無理矢理ボタンをつけて。さらにこれ、当時はパッドの水平移動にこだわっていたんですね。単にジョイスティックの機構の上にパッドを付けると、どうしても横に入力する際に「パッド部分が傾いて寝てしまうのが嫌だ」と。あとフィニッシュをどうするかとか……今までのプランを積み上げた形で、あのパッドを活かしてスイッチを付けて。「それでいけるいける」となって……。

 これが、アジアにこのタイトルが売れるか、という可能性を探るために、私が海外出張をする前日の出来事だったんです。

1つにするか、2つにするか? デバイスプランの変更で現場も混乱!?

 ボタンの重さはスイッチを上につけることで解消。操作感は一気に軽くなり、問題は解決したように思えたのだが……。

白石氏:ところが、庄司から、「完全にコンセプトから外れています。この路線で進むなら中止しましょう」という短文のメールがその出張中に来たんです。

――庄司さんがこの試作を見てのリアクションなんですか?

白石氏:私が不在だったので、石田さんから実機「BOOSTER試作初号機・改」で説明してもらってのリアクションですね。その前から庄司の方から「もうちょっと違うんだよね……」という話がずーっと出ていたんですね。それに対して「改修案がこれです」と出したら、「これじゃダメだ」というメールが来ました。

 それに対して私が「改修案は、プロジェクトで話し合った結果、理想の手ごたえ感が得られるという結論に至ったもので、元のコンセプトからは外れてきてはおりません。この形で進めていきたいと思います」といった趣旨の内容が長々と書かれた超長文の返信をしたんですが、そのメールに対して庄司から、

 1.プロジェクト全体で実現するコンセプト
 2.全体コンセプトを構造的に分解し、各構造毎に定義されたコンセプト
 3.実際に定義された実行案
 4.定義された実行案に従って制作された成果物


 「このあたりが一直線に収斂していくイメージが沸きません。この状態で成功したプロジェクトは過去に類がなく、白石さんの返信を読む限り、状況としては非常によろしくない印象が増してます」と返事が返ってきました。ここは結構ヘビーでしたね。

――ちょっと振り返ってみると、ブーストフィニッシュの仕様と、ボタンの操作感を両方同時に解決するというところは、かなり難易度の高い話ですね。

白石氏:全く相反するところがあるので。

――さらに機構の問題もあって、3つの問題を1つのデバイスで同時に解決するということになっていますね。これはかなり難題に見えます。

藤川氏:そこにさらに重大なミスがあって、我々がやろうとしていた「パッドを活かそう」とするあまり、「プレーヤーの操作がカッコイイ」という所をちょっと見落としていたということ。実際あの「1パッドで大きいものをポコポコ叩いているのがカッコイイのか?」という視点が抜け落ちていたと思うんですね。

――その辺の指摘もあったんですね。

藤川氏:そうですね。

白石氏:この時点でデバイスを2つにする案が出てきたんです。

藤川氏:スイッチをパッドに付けて、さらに全体の操作感を軽くするということは、「あと少しはできる」とは言われていたんですが、僕ら数人は「それだけでは解決できない」と思っていて。音ゲーに必要な素早い操作は実現できないと。

 なので、このあたりでボタンを2つにするプランを提案したんですよ。ただ、これまでの流れもあるので、1デバイスというか、そこにこだわるあまりに、このプランを出してみたら、どちらで作るのか紛糾してしまったんです。

白石氏:今見返してみると、庄司のメールに対しても、ものすごいがんばって「大丈夫です」と書いてますね。恥ずかしくなってきた(笑)。

藤川氏:この後はしばらく1デバイスでいくんですよ。でも、僕ら2デバイス派は諦められなくて……。

白石氏:そう、この時点で1デバイス派と2デバイス派に分かれてたんですね。私は元々1デバイス派ですね。

藤川氏:石田さんと白石さんは1デバイス派ですね。花形さんはどっちでしたっけ?

花形氏:実は両方やっていて、2デバイス用のソフトも作ってみようとしていました。2デバイスにするとホイールがなくなっちゃうじゃないですか? そうするとフィニッシュ的な操作感がなくなるけど、それに代わる爽快感が出せないか、という話も2デバイス派から出て来ていて。「ああ、こうしたらいいのかな?」と仕様を書きつつも、「1デバイスでも突き詰めればできそうかな?」とか。

白石氏:花形さんは仕様を担当していたので、両方の意見を聞いていたんですね。ただ、リーダーが推進している1デバイス派のほうが、やっぱり意見的には強いわけですね。その時点ではわりと2デバイス派を押さえ込んでいたという感じでしたね。「どうしてもこれでやるから、そうでないとまとまらないから!」ということもありますし。また、「元々考えたコンセプトをコロコロ変えるのは良くない」という強烈な意志もありました。

――ただ、メカ的な意見としては分けたほうがいいと。

藤川氏:そうですね。

白石氏:メカ設計のベテランの責任者も「絶対分けた方がいい」と。普段そこまで強く主張しない人なんですけどね、彼は。

藤川氏:結局、「プロデューサーに任せます」という話になって、1デバイスが選ばれたんですが、僕らは諦めきれず、涙目になりながら2デバイスの実験治具を作って、「どうですか」って見せたんです。

白石氏:「1~2日で作る」という話になって、「じゃあ作ったらいいじゃん」という流れで。「まぁ作ってみる分にはやってみたら?」くらいの感じでしたね。

藤川氏:僕は勝手に図面を書いてたんですね。それをメカ担当に「作れる?」と聞いたら、「まぁこれだったら、ジョイスティックを使えばできるかも」みたいな話になったので、簡単なものを作ってもらって。その時は反力(☆9)だって輪ゴムでしたよね(笑)。輪ゴムでセンターに持ってくるような簡単な実験治具でした。

☆9……ここではジョイスティックをセンターに戻すための力のことを指している。4方向に均等に力を掛けることで、ジョイスティックを傾け、手を離すと常に中心に戻るようにしている。

白石氏:なんか手作りでめっちゃやってましたよね。そんな話もありつつ、庄司さんには、「なんとかこの1デバイスで進めたい」という話をしていました。そのころ、花形さんは2デバイスの「特許も確認しなければいかん」ということで、並行して決まっていないのに特許調査を開始しているんですよ。要は両にらみで、どっちでも動けるように。私は1デバイスにこだわっているんですけど、彼は動いていたと。

――いつぐらいから2つに仕様が割れたんですか?

白石氏:ちょっと前から特にメカ担当や藤川さんたちは、1デバイスを突き詰めていっても操作感は改善できないだろうと。私はその辺は専門外なので、改良していけばきっと良くなるだろうとまだ思っていた。「いくらやっても最終的には白石さんの言うこの気持ちよさは2デバイスでしか実現できません」というのはわりと早い時から言われていたんですよ。

――ただ、諦め切れなかったと。

白石氏:ボタンを2個にする理由がわからなくて……。「これ1ボタンでやるゲームでしょ? ボタンを2個にすると、お客さんがどっちを操作していいかわからないから、意味がわからないですよ?」とかなり強い調子で藤川さんに言ったんですよ。

 そうしたら、「そんなの別に説明すればいいんですよ。すぐにわかりますよお客さんは」と言われて。「でも、お客さんは混乱するし、絶対わかりにくいんで、2つボタンにしたら、右の操作が何している操作なのかわからないから伝わらないよ?」と言うと、「チュートリアルや、説明シートでわかることですから、どっちのボタンでも使えますと書けば済むことですよ」と。

 だいぶ分かれましたね。ほぼケンカですよ。

 さらに、先ほども言いましたが、「スティックの上にパッドを置くことで、倒しこむ際にパッドが水平に移動しないとダメだ」と言っていたんですよ。ジョイスティックに思われるからダメだと。でも「それは大したことじゃない。ちょっと動いたくらいじゃそんな風に思わないし、ジョイスティックと思われたからってなんなの?」みたいに言われて。

 水平にパッドを移動させるためには、どうしたらいいか? 下はスティックで横に入力すると倒れるんだけど、上は倒れているように感じさせないみたいなアイディアとか。……この時点でものすごくややこしいことになってたんです。それを実現するには結局コストもかかるけれども、それを真剣に考えていたんですね。

 結局、「とりあえず1デバイスか2デバイスかはわからないけれど、1回ジョイスティックの機構で2個作ってみます」という話で、それで新しくデバイスを作ってやってみようという話になったんです。それが6月28日のことです。

――白石さんたちの懸念を2デバイスで払拭できるのか? を、実際に作って試してみよう、ということになったわけですね。

2デバイスに変更決定で先が見えた! と思った矢先に体制変更! コンセプトから見直しのため、再びプロジェクトがキックオフでストップの憂き目に……

白石氏:そうだ、これと共にまた黒船が……。実はAM全体の話なんですが、「BOOST」とほんの数本だけがなんとかプロジェクトとして残っている状態であって、「なんとかしなきゃいけない」と。その時に「今までのやり方を継承してもダメだ」ということで、AMを立て直すために、外部から新しい視点を入れよう、ということで新宿本社に別途チームの増員がなされたんです。方針としては4月くらいでしたっけ?

藤川氏:実際僕らと関わったのは7月くらいだと思います。

白石氏:そのチームのリーダーから「いったん全プロジェクトをコンセプトから全部見直すので、1回手を止めてでもやってくれ」という話があって。他のプロジェクトはそれに従ってコンセプトを見直すところからやっていたんですが、「BOOST」だけは、「私は庄司さんと一緒にやっている」と。「今更コンセプトまで戻ると、全体が混乱するので庄司さんの考えの元でやります」という話をして、「ただ何かあったら手伝ってください」という形でやることになったんです。

 それでも「一応コンセプトシート(☆10)だけは出してくれ」と言われて、出しました。この時は1デバイスで。まだ並行しているんですね。

☆10……製品コンセプトの具体像をまとめたもの。

花形氏:これまで作ってきたものありきのコンセプトでしたね。

※16「BOOSTER試作弐号機」。2デバイスの試作型

白石氏:って言いながら、並行して7月2日には2デバイス治具「BOOSTER試作弐号機」(※16)が完成しているという。かなりこっちも大分混乱しているんですけど。これを2日で作ったんですよ。

 それが思いのほかよかったんです。作って納得させられたところがあって。ボタンを小さくして、ジョイスティックをつけて動かしてみたところ、「あれ、これじゃないの?」と。

藤川氏:「なにこれ? 運命の出会い」みたいな(笑)。

白石氏:「こんなに近くにいたのに気がつかなかった!」みたいな(笑)。

――1デバイス派だったのに(笑)。

白石氏:1デバイスから宗旨変えをここで一気にするんですよ。

――結果的には藤川さんの勝ちと(笑)。

藤川氏:結果的にですけど。僕らも手探りなところがあったので。

――ここでまた1個革命が起きたと。

白石氏:「2デバイスだ! これいいじゃん」と。このとき、まだ固定機構はキチンと煮詰められていなくて、グラグラしていたんですが。

花形氏:本当に4隅にゴムをとめて、ジョイスティックをひっぱるような機構になっていました。

藤川氏:1本輪ゴムが切れるとどこかに寄ってしまったり(笑)。

花形氏:まだ原始的な機構でしたね。

――ただ、操作フィールはこっちの方がいいと。

藤川氏:重さなどを感じさせずに素直に動かせる。

――パッドを大きくしてしまうと叩く、移動させるにはやっぱり重いと。なので2つに分けましたということですね。

花形氏:感触ですね。小さくて軽く押せるっていう。

白石氏:光もとにかく、あちこち光る。

藤川氏:デコトラみたいですね。

――画面の横にもLEDがついてますね。

白石氏:横には前の筐体が。

藤川氏:色々実験してますね。光るように1本1本溝を入れたんですね。

――ここが操作系の大きなターニングポイントですね。

白石氏:ここで1デバイスから2デバイスに変わりました。その時に並行して問題になったのが筐体デザインです。藤川さんが作った筐体デザインに、私と石田さん、庄司さんも違うと言ってたんですね。庄司さんの言葉を借りると、「筐体引力がない。筐体が人を引き付ける魅力がない」と。

藤川氏:あの時はたしか、庄司さんが石田さんに「ガチな男の子がやるゲームだった(=になっちゃった)んだね」と言っていた。「元々『中性的なイメージ』ってコンセプトがあったのに、なくなっちゃったの?」と。

――たしかにメカっぽいですよね。

藤川氏:多分「『グルーヴコースター』のソフトイメージはクールでシンプル」っていうイメージがあったのに、そこには合致していないよね、というのが庄司さんから言われたことですね。

白石氏:それと、スピーカーが開く機構も残っていたんですが、メカ的には開閉時に音が出ると。

藤川氏:ウィーーーンと(笑)。

白石氏:「音を大事にするゲームなのに、うるさいでしょ?」と。それでこれも意見が分かれたんですね。「動かすのもフィーバー時にやるのか、閉じるのか?」など、どのタイミングでやるのか、演出方法など、いろんなことで。結局コスト的な問題もあって「これが必要なのか、どうなのか」と。

――プランを立て直してから、わりとハードをいじっている感じですね。

白石氏:私も振り返って思ったんですが、この時期はトピックを集めてみるとハード寄りですね。

花形氏:「ハードが変わったからそれに合わせてソフトを作りましょう」という感じだったので。

――ハードウェアもデバイスがひと段落したと思ったら今度は筐体仕様と。

白石氏:2デバイス仕様に変わったこともありますし。

※17「BOOSTER」が2つに分けられたことを受けて、花形氏が用意していた企画書。残念ながら詳細はお見せできない

花形氏:2個になった時点で、「そんなこともあろうかと!」と用意していた企画書(※17)がこれです。

白石氏:ちゃんと2デバイスならではの仕様も入れているんですよ、この時点で。結局入れなかったんですが、片方は長押しで片方は連打といったものとか。ゆくゆくは製品版にも入れてもいいと思っているんですが。

花形氏:あとは、こういう操作(BOOSTERを左右に入力するようなアクション)が結構フィニッシュみたいな大きい動きになるので……。

――ブーストフィニッシュの要素も活かして、と。

白石氏:さらにスライドしたままホールドもできると。2デバイスだといろいろなことができるし、「いけるだろう」と。

――相当練ってありますね。

白石氏:これもすごいな、1デバイスと2デバイスの比較表。「片手プレイスタイルがかっこ悪い」、「1ボタンだと連打に限界がある」とか。実際そうなんです。結局、「人間には2つ手があるので、2デバイスがいいだろう」と。2デバイスにしたことも筐体デザインを変更したのも、自分たちで考えてやったことなんですね。

――ようやく、全体が見えるところまで来たってことでもあるんですね。

白石氏:なんだかんだ考える時期が結構あったんですね。この頃、夜中に会議してましたね。狂ってますね。石田さんもiPhone版で忙しくて、彼は本社勤務なので、夜の21時とか22時に私たちの勤務している海老名に集合して、そこから打ち合わせが始まるんですよ。終わるわけないですよね。2時、3時になっても、ずーっとやってましたね。

――それを半月以上。

白石氏:……まだそれでも結論が出ていない時、7月です。先ほどのチームリーダーと打ち合わせをしたら、「実は8月から庄司さんが、ON!AIRの事業本部長と兼任で、AMの副本部長としてAMをとりまとめる新しい体制になりますよ」と。それで「『BOOST』に関しては、プロジェクトをストップして、1カ月かけてコンセプトから見直してください。」と言われたんです。「このままの延長線上でやらなくていいので、一旦全プロジェクトを止めましょう」と。

――ええー! またストップですか!?

花形氏:2デバイスの時点で「GENE」の時くらいのいけるという手応えがあったんですけどね。

白石氏:4月プリプロで始まって、なかなか時間が取れなかったので遅まきながら8月にプリプロキックオフの決起大会をやろうという話になってたんですよね。石田さんのチームも別だったので、一緒に夜にでもやろうと。キックオフのちょうどその日がほぼプロジェクトストップになっちゃったんです。

――そんな……。

白石氏:「まず8月いっぱいかけていいので、とにかく市場を見てきてください」と。今の市場、答えはそこにあると。「iPhone版やコンシューマーではお客様の姿は見えませんが、アーケードはそこが答えがあるはずなので、音ゲーを目指すなら音ゲーのコーナーを目から血が出るくらい見に行きなさい」と。

――これは庄司さんが副本部長になるという体制の変更から出てきた仕切りなおしなんですか?

白石氏:それまでは庄司さんの元でやっていたんですが、庄司さんがAM事業本部に来て、庄司さんとそのチームリーダーが一体になったというのが大きいんですよ。これまで全く別々の考えだと思っていたものが一緒になった。そこに後々もう1人、東山さんという方が加わることになるんですが、それはまたこの後お話していくことになるかと思います。

 ただ、プロジェクトメンバーは手を止めなきゃいけなくなって、やることがなくなって。企画検討をやみくもに大人数で行なっても仕方がないので、メンバーが20人ほどいたのですが、全部待たせて。私たち3人と石田さん、それに完全に手の空いたデザイナーの女性と合わせて5人で考えて。夏休みとか1カ月かけて、ロケ調査もお盆を返上して、ヒアリングして。ただ、これを8月末までやったからって、ものとしてちゃんとできるのかわからなかったので……。

 プリプロキックオフの会の時に「みんなとにかく待っていて欲しい。必ず私たちがなんとかするから」と言ったんですね。その言葉で泣いてる者もいました。

 ただ、私は本音では、正直「もうなんともならない」と思っていたんですね。でも、藤川さんは「絶対なんとかなりますよ!」とずっと言っていたんですよね。この言葉に支えられた面は大きいです。花形さんはどうでしたっけ?

花形氏:そもそもモノがいけてる気持ちがあったので。

白石氏:私はみんなの前では「なんとかします」と言ったわりには、「いよいよ終わるかな」と。これだけ粘って……中止かなと思っていました。


 デバイスの再検討、筐体の再検討……さらなる試作と、回り道をしながらも、自分達で1歩1歩登ってきた道のり。2つの「BOOSTRE」でようやく走り始め、いよいよ現実味を帯びてきた「BOOSTER」プロジェクト。しかし、その矢先の「体制の変更」という新たな別の要因を発端として、再びプロジェクトはストップという状態になってしまった。実際に働いていたスタッフの方々は、これをどうやって受け止めたのだろう?

 外野である自分は、お3方から話を伺いながら、すぐに精神的に「やられた」。こうして記事にまとめる段になって、文字を打ちながら、また読み返しながらも、何度もインタビュー当時のことを思い出して「やられた」。……第1話の「GENE」の時代とはまた違った何かもやもやしたものを感じずにはいられず、今でも気分は相当もやもやしている。「当事者の方々が受けたものはこんなもんじゃない」ということはわかっているが……。

 今回、もっと簡潔にわかりやすくまとめることはできたかもしれない。でも、1歩ずつ歩みを進めてきたプロジェクトメンバーの歩みと苦悩ぶりは、その後にやってきた「2回目のプロジェクトストップ」という大きな壁に突き当たったときの衝撃を思うと、このどうしようもない重い気分を引きずりながらも、「それでもできる限り記録に残したい」という気持ちに繋がっていった。なぜ? どうして? 彼らはこんな道を歩まなければならないのか?

 話はさらに2012年の夏から続いていく。

 【次回は1月上旬の掲載を予定しています】

(佐伯憲司)