インタビュー

「BEYOND: Two Souls」ディレクターデヴィット・ケイジ氏インタビュー

最も描きたかったテーマは、「ありのままの自分を受け入れる」ということ

9月19日~22日 開催(一般開催日:21日~22日)

会場:幕張メッセ1ホール~9ホール

入場料:1,000円(中学生以上・前売)

1,200円(中学生以上・当日)
入場無料(小学生以下)

 プレイステーション 3用アドベンチャー「BEYOND: Two Souls」がいよいよ10月27日に発売される。発売に先がけディレクターを務めるQuantic Dreamのデヴィット・ケイジ氏にインタビューを行なった。

 「BEYOND: Two Souls」では謎の存在エイデンと共に生きなくてはならない少女ジョディの半生が語られる。1人の女性の8歳から23歳までの人生を描くというゲームではあまりない題材を、主演にハリウッド女優のエレン・ペイジを起用し、8カ月もの期間をかけてモーションキャプチャーでの撮影を行なった。

 何故このような手法でのゲーム制作を選択し、どんなテーマを描きたかったのか? ディレクターであるケイジ氏だからこその答えを聞くことができた。また、日本ではあまり紹介されていないスマートフォンを使っての2人プレイの詳細も聞けた。

 個人的にはジョディと“霊体”であるエイデンが繋がっているという「オカルト要素」を作品に取り入れている点が、最も気になっている部分であった。現実的な要素だけではなく、ファンタジーに特化した作品でもない、ジョディだけが特別な存在であるという本作の“バランス”はどのような注意を払って構築されたのだろうか?

オカルトを書きたかったのではなく、1人の女性の成長を書きたかった

「BEYOND: Two Souls」のディレクターを務めるQuantic Dreamのデヴィット・ケイジ氏
本作ではジョディの半生が描かれる
凄まじい力を持つエイデンと繋がってしまったジョディは過酷な運命を背負っている

――まずは、「BEYOND: Two Souls」が完成した感想を聞かせてください。

ケイジ氏: すごくチャレンジングで、長く関わったタイトルでした。今は解放されている一方で、ユーザーがどんな反応を返してくれるか楽しみです。

 「BEYOND」はTGSだけでなく、E3など世界中のイベントに出展しましたが、やはり一番いいのは家で遊んでもらう環境だと思っています。スタートから最後まで、じっくり楽しんでもらう。会場では「もっとこのゲームをプレイしたいな」と思ってもらえればと。

 「BEYOND」は様々なシーンのあるゲームで、会場では断片的にしか遊べない。やはり全体を通じて遊んで欲しいというのが、正直なところです。

――「BEYOND」を何度か会場で触らせてもらって疑問に思ったのですが、本作はジョディの人生を描くのがテーマですが、必ずしも時間軸に沿ってはいないのでしょうか?

ケイジ氏: そうです。プレーヤーはジョディの様々な時間を見ていきます。20歳の時の後、15歳の時を見ることもある。ストーリーはバラバラに語られます。なぜこのような構成にしたのはプレイすることでわかってもらえると思います。

 時系列がバラバラになっているからこそ、プレーヤーは自分の中でジョディの人生を組み立てていきます。ジョディがゲームの後半で起こすアクションの結果が、実はゲームの前半部に大きな影響を与えていたりする。プレーヤーはゲームのかなり後で前半の真の意味を知ったりするのです。こういった物語の複雑な構造が、「BEYOND」の大きな魅力だと思っています。

――次に、まだ日本ではあまり情報が出ていない、スマートフォンとの連動機能を教えてください。

ケイジ氏: スマートフォンをPS3とWi-Fiを通じて接続させることで、「BEYOND」をコントローラではなく、スマートフォンやタブレットで操作できるようになります。この機能は「2人プレイ」を可能にするためなのです。これは「HEAVY RAIN」で学んだことなのですが、恋人や友達と「HEAVY RAIN」をプレイしている人達が意外に多かった。2人目のプレーヤーがゲームに参加できりるようにするというのが「BEYOND」の目標の1つでした。

 2人プレイのイメージですが、1人がエイデン、1人がジョディを担当します。彼らは同時にプレイできるわけではなく、1人プレイ同様、状況ごとにエイデンとジョディを切り替える。どちらかが操作しているときは、もう1人は見ているだけです。ただし「これをやって」、「何でそんなことをするの!?」と言ったコミュニケーションも楽しめます。

――ゲームをプレイしているとき、エイデンはジョディの「秘められた自我」じゃないかという印象を受けました。ジョディは自覚していないんだけど、ジョディ自身の制御できない部分なのではないかと。

ケイジ氏: シングルプレイの時は、プレーヤーがジョディもエイデンも操作するので、根っこの部分では同じ人格なのではないかという印象を持つプレーヤーもいるかもしれません。それが、2人プレイだと、本当にジョディとエイデンは全く違う人格を持っていることで、意味合いが全く異なってくる。

 しかし、実はもともとエイデンとジョディは違う人格なのです。エイデンはジョディの隠された自我なのではなく、全く別な人格であり、ジョディとは全く異なる目的で生きている。ゲームをプレイすることではっきりとそれがわかってきます。またプレーヤーの選択でも変化する。ボーイフレンドとデートしているジョディの邪魔をすることも、助けることもできます。エイデンはジョディの力ではなく、全く違うキャラクターであるということは特に力を入れて表現しました。

――超能力者が複数出てきたり、世界観そのものがファンタジーだったり、逆に全てが現実的であるというゲームはたくさんありますが、彼女1人が“特異点”であるという状況を描くのは、映画ではあるテーマですが、ゲームでは少ないと思います。何故そういう設定を選んだのでしょうか?

ケイジ氏: 今回は1人のキャラクターの様々な年齢、状況を描きたかったのです。ジョディは様々な状況で、様々な表情を見せてくれます。プレーヤーは全く違うキャラクターを何人も操作しているような感覚を覚えるだろうと思います。子供から大人までの成長過程を描くことで、彼女がどのように変化していくかを垣間見ることができます。

 今回は1人のキャラクターを掘り下げることで、彼女が何故そういったことをしたのか、するのかがわかる。通常のドラマでは1人のキャラクターの行動原理に説明を割く時間はほとんどありませんが、「BEYOND」はそれが可能なのです。

――超常現象を物語に取り入れるのは“何でもあり”になりかねません。気をつけた点はありますか?

ケイジ氏: 「BEYOND」は超常現象をテーマにしたゲームではないことを強調しておきたいです。彼女がある霊体と繋がっている、という点を書きたいのであって超常現象そのものを私達が表現したかった、というのではないのです。

 私達が描くのは他の人と異なる点を持った少女の物語です。そして「ありのままを受け入れる」というのが本作のテーマです。人は誰でも自分を変えたいと思っている。ジョディは自分のエイデンと繋がっているという運命を忌むべきものだと思っている。しかしその自分を受け入れていくという成長が、「BEYOND」という作品で描くテーマです。

 プレーヤーはゲームを通じ、ジョディの成長を実感できる。ジョディに共感できるというのが、作品で描きたかった部分です。

――DLCの予定はありますか?

ケイジ氏: 私としてはコンテンツを増やしたいと思っています。そのために協議をしていて、どういったものになるかは明らかにはできませんが、本編とは全く違った体験ができるものを考えています。

【試遊コーナー】
プレイステーションブースでは本作を試遊できる。警官に追われる「逃亡」編と、幼少期のジョディを描く「訓練」編が体験可能だ

「HEAVY RAIN」で苦しめられた規制による国ごとの変更は今回は一切なし

役者達とのエピソードを語るケイジ氏
ジョディ役のエレン・ペイジさん
プレスに配布された映画雑誌の特別製カバー。雑誌「カット」の10月号で本作は取り上げられている。10月17日から六本木ヒルズで行なわれる東京国際映画祭に「BEYOND」は出展され、エレンさんや、ケイジ氏も来日予定だという

――主役のジョディにエレン・ペイジを、ジョディを研究するネイサン役にウィレム・デフォーを選んだ理由を教えてください。

ケイジ氏: 自分が書いたキャラクターに彼らが完璧にマッチしていたからです。ジョディは俳優にとってチャレンジングな役だが、エレンはこなしてくれた。7歳からティーンエイジャーまでそれぞれの期間のジョディをきちんと演じてくれた。

 感情表現も非常に難しく、そのために高い能力を持った女優が必要だった。エレンはジョディが持つ“内なる怒り”を感じさせる女性であり、儚げな雰囲気も悲劇的なジョディのイメージとぴったり合っていました。

 ウィレムに関しては「プラトーン」、「ミシシッピーバーニング」、「スパイダーマン」など様々な作品に出演している俳優で、彼を起用したことで様々なことを学べました。彼の出演した作品を監督できたというのはとても誇りに思っています。

 ウィレムはキャラクターの背景などを説明せずにその状況に合った演技をしてくれました。台本を分析するのではなく、キャラクターに直感的になりきる能力を持っている。ネイサンの怒りや悲しみを、ウィレムはどの場面でも完璧に近いところで演じきりました。

――いっそのこと、ゲームではなく、実写ドラマを作りたい、と思ったことはありますか?

ケイジ氏: それはよくメディアから聞かれる質問で、考えた方が良いかもしれない。しかし私はやはりゲームという手法を愛しているし、プレーヤーが物語に関われるというのはゲームでしか実現できないからです。

――映画の場合、本編では使わなくてもシーンを撮っておく、ということをやりますが、「BEYOND」はそういった作ったけれども本編に使わなかった、というシーンはありますか?

ケイジ氏: そういう作るつもりだったシーンというのは脚本の段階で削り、撮影はしてません。例えばジョディが赤子の時代に、周囲のものを動かすというシーンを構想していましたが、ゲームとして作っていません。

――NGシーン集はありますか?

ケイジ氏: 面白いシーンはいくつかありますね。エレンやウィリアムがセットの中で色々やったり、アクシデントもあります。ただ、NGで面白いというのはどちらかと言えば開発時のバグです。バグでは本当におかしなシーンがあり、スクリーンショットを大量に持っているので、何かの機会に公開するかも知れません。

――日本語への翻訳の際、翻訳チームにどのような要望を出したのでしょうか。

ケイジ氏: とてもたくさんです。日本のチームはそれをすぐに理解してくれました。例えば、「息継ぎ」ですね。荒い息などのタイミングは全部元の音声と同じになっていますし、キャラクターがアップになるときの唇の動きは、言語が変わっても同じにしています。

 「BEYOND」は23言語に翻訳され、かなり労力と時間を掛けました。各地域にはストーリー全て、キャラクターの感情や状況も全て明示してから声を入れています。小さな頃の言葉遣いなど、その言語できちんと元のニュアンスを再現できるようにしました。

 それでも日本語でしゃべるジョディの声を聞いたときの感想は「最悪」でしたね。私の母国語はフランス語ですが、フランス語をしゃべるジョディもやっぱり違うと感じてしまいます。

 私達はエレン・ペイジを始めとした役者達と何ヶ月も一緒に時を過ごしたので、違う言語でしゃべるジョディは、やっぱり変だと感じます。ただ、日本のチームは「HEAVY RAIN」のローカライズで日本国内で高い評価を受けていますから、私達も信頼しています。素晴らしいローカライズをしているはずです。

――前作「HEAVY RAIN」から学び、「BEYOND」で活かされた点はどういったものがありますか。

ケイジ氏: プレーヤーがどのように「HEAVY RAIN」を遊んだかは、とても参考になりました。「HEAVY RAIN」は感情や情感を強調したゲームだったが、発売前はプレーヤーはそこまで興味を持ってくれていなかった。しかし発売後は物語性、キャラクターの情感に注力したゲームが生まれてきている。だからこそ「BEYOND」はストーリテリングなど全ての点で、「HEAVY RAIN」の手法を全体的にパワーアップしたものにしています。

――「HEAVY RAIN」は北米版のシーンが日本版では削られたりしたところがありました。「BEYOND」ではどうでしょうか?

ケイジ氏: 全くありません。それは「BEYOND」の制作で常に考えたことです。ゲームというのは映画以上に規制の多いジャンルで、常に難しい。地域ごとに大きくルールが異なり、制限が非常に多い。暴力表現がかなり寛容なのに、セックスや人間関係はすごく厳しい。

 首を切り落とすシーンがOKなのに、恋愛の過程で生じる自然な男女の性交シーンがダメだったりします。「BEYOND」は1人の人間を掘り下げていくゲームであり、規制のために表現できなかったところが多々ありました。制作する上で頭を悩ませましたね。しかし結果として、私が描きたかったことは全て表現できました。

――最後にユーザーへのメッセージを。

ケイジ氏: 「BEYOND」は今まではない、特殊なゲームであることは強調しておきたい部分です。熱い想いと主張を作品に込めています。様々なゲームが発売されますが、「BEYOND」はテーマや制作動機から異なる作品です。「HEAVY RAIN」以上に良いゲームになりましたし、日本の皆さんにぜひプレイしてもらいたいと思います。

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(勝田哲也)