インタビュー

SCE Asiaプレジデント織田博之氏インタビュー

SCETのお膝元、台湾の展開について。江口氏「アクティビティを色々変えていく」

安田氏とほぼ同時期にSCE Asiaを退社した前SCET総経理の本間和彦氏
台湾戦略について語る江口氏
ソニーより提供いただいた2007年のTaipei 101ジャックの様子。ビルには2007 FullHD SONY BRAVIAと書かれている
当時のことを楽しそうに解説する2人

――せっかく江口さんが同席されているので、台湾マーケットについてもお伺いします。SCE Asiaが安田さんから織田さんに代わり、SCETも本間さんから江口さんに代わったわけですが、SCETをどのように運営していこうと考えておられますか?

江口氏:私がソニー台湾に赴任した11年前から既に本間さんはSCETにいらっしゃいましたので、よくイベントを一緒にやっていましたね。今ソニーでは“One Sony”の名の下にグループ各社の力を結集する方向に進んでいますが、当時も“Sony United”という取り組みがあって、台湾のソニーグループカンパニーが集まって毎年イベントをやっていたのですが、その時には本間さんがプレイステーション代表、私がコンシューマー代表として一緒にやっていました。ですから、実は今のSCETスタッフのキーメンバーは昔から良く知っているような状況でした。

――なるほど、仕事がやりやすい環境は整っているというわけですね。

江口氏:はい。彼の地道な草の根営業活動は、当時から凄いなと思っていました。細かいことをコツコツとやってこられて、その積み重ねが今ここまできていて、スタッフに関しても本当に優秀な人材が揃っています。私も彼がやってきたことをさらに発展させて、そこになにかプラスしていけたらいいなと思っています。

――台湾メディアの人に聞いたのですが、江口さんはかつてTaipei 101の広告ジャックをしたとか?

江口氏:ああ、101ビルを燃やした人は、この人です。織田と二人一緒の時でしたね。(笑)

織田氏:あの時には、いきなり話があって。Taipei 101が開業して2年目だったのですね。1年目で台北市政府と101のファイナンシャルセンターがお金を出して、結構短い、1分くらいの花火をやったのです。

江口氏:もう30秒くらいで終わったらしいです。

織田氏:2年目にメディアの会社さんが101の会社の方と仲良くなって、花火をもうちょっと派手にやりたいのでお金をかけたらどうでしょうかということになった。「どこかの会社と組みませんか?」とうちに話を持ってきたのです。当時、Taipei 101は、ドバイのブルジュ・ハリーファがまだできてなかったので、世界で一番高いビルでした。ちょうどBRAVIAを導入するタイミングで、当時BRAVIAは台湾では知名度ゼロの状態でした。

――それは何年前の話ですか?

織田氏:2006年ですね。2006年の正月と2007年の正月です。

江口氏:2年連続。ちょうどテレビがブラウン管から液晶へ代わっていく過渡期の頃ですね。

織田氏:我々ソニーは取り残されていたんです。当時、台湾ローカルの液晶テレビが非常にブームになってきて、我々のトリニトロンよりも圧倒的に安い値段で32インチの液晶がでてきて、まったくもう歯が立たない。先ほどいったように非常に消費行動がアグレッシブなので、台湾の方は「もうこれからは液晶の時代でしょ、こんなでっかいブラウン管じゃないよね」って、一番の屋台骨だったトリニトロン事業が急速に悪化していったのですね。これはもうBRAVIAを垂直に立ち上げなきゃいけない。垂直っていったらビルだ。というわけで(笑)、とにかく効果的にメディアを使って知名度を上げることをやらなきゃいけないということで飛びついたのです。だから話が決まるまで1時間もかかってないですね。15分ぐらいで決まりました(笑)

――台湾のメディアとしては、またおふたりが台湾でタッグを組んだということで、派手な打ち上げ花火は期待されているみたいですね。そういった意味で何か考えてらっしゃることはありますか?

江口氏:あそこまでのはなかなか無理だと思いますけども、いっぱい売れたらそうしたいと思います(笑)。でも今回の台北ゲームショウのブース設計もガラッと変えたんですよ。過去5年間のデザインとか平面図を全部見せてもらって、一旦ゼロベースで変えてみようと。同じようなやり方でずっときていたので、このタイミングで変えてみるのもいいんじゃないかと。

 例えばこれまでずっと一番奥に配置していたイベントステージをブースの一番前にもってきました。というのも、静かな所でお客様にしっかり話を聞いていただくというのも大事なんですけども、やっぱり前面に出して通路を歩いている方も含めてたくさんの来場者に楽しんでもらおうと。今回、各ゲーム会社さんからプロデューサーさんやディレクターさんが大勢いらしていただけるということになりましたので、だったらたくさんの人にメッセージを伝えてもらおうということで、思い切って前に持ってきました。

 セールスコーナーについても今まではブースの外にあって、一体感がなかったのですね。でも台湾のイベントって「見てもらって、体験してもらって、その場で買っていただく」っていうのが、東京ゲームショウとは違うところじゃないですか。そこでじゃあ販売の現場をエンターテイメントの一環にしてみようかなと。ゲーム制作側の皆さんが遠路遙々お越しになるので、台湾のゲーマーが自分たちのゲームを買ってくれている瞬間を是非見ていただきたいと思って、ど真ん中にセールスコーナーを入れたんですね。先ほどの花火ほどのインパクトはないですが、そういった1つ1つのアクティビティを、ぶっ壊すつもりはないですが、色々と変えていけばまた面白くなるのかなと思っています。

――ブースデザインも少し照明を落とした欧米スタイルといいますか、雰囲気を変えていましたよね。確かに、見せて、体験させて、買っていただく。奥に入ればそれが成就するようなデザインになっていましたね。あとは2階もあって写真が撮りやすかったです(笑)

江口氏:その為に作りました。上がっていただいてありがとうございます(笑)。

今年の目標は「ゲーム業界のリバイタライゼーション」

賑やか氏が大事だという織田氏
江口氏には対ショップという視点から、具体的な営業施策を語って頂いた

――2013年が始まりましたが、今年の目標は何でしょうか?

織田氏:やはりゲーム業界のリバイタライゼーションですね。再活性化。やはり元気がないと最近思うので、賑やかしが大事だと思います。私が言うような話ではないかもしれませんが、少し日本も元気になりつつあるじゃないですか。ゲーム業界も元気にしたいですね。特にアジアってやはり元気があるっていうことが非常にアプリシエイトされるマーケットなので、カラ元気でもいいですから、なるべく現場に出て、盛り上げていきたいなというのが、本当に切なる思いです。

――売り上げや数字的な目標はありますか?

織田氏:具体的な売り上げ金額よりも、今はそれよりも何をやるのかという部分が大事なので、積極的にアジアを攻めていきたいですね。

――中長期の戦略で考えていることは何かありますか?

織田氏:いまは、具体的に申し上げられることはあまりないのですが、エマージングマーケットらしい部分、例えば、小規模店ゲームショップが市場の主流になっているので、そこをうまく使っていくとか、アジアならではの仕掛けに取り組んでいきたいな、と思っています。

――SCETではなにかありますか?

江口氏:そうですね、もっともっと流通の人達とがっちり組んで、お互いのビジネスを発展させていきたいです。特にゲームショップの皆さんは、昨今聞こえてくるのはオンラインだとかダウンロードだとか、フリーミアムだとか言う話で、今は毎日忙しく仕事ができているのだけれど、この商売がいつまでできるのだろうという漠然とした不安みたいなものを抱えながらやられています。

 でも、1人1人話してみるとすごく真面目でこのビジネスに情熱を持った経営者の方が多いので、その人たちが「よし、まだまだ頑張るぞ」といった気持ちが持てるようにしたいです。あと、ゲームビジネスでは、ファーストパーティー、セカンドパーティー、サードパーティーという複雑な流通の構造があるなかで、同じプレイステーションというプラットフォームでやっている仲間はファミリーだよというスタンスで、一緒にプロモーションなどをやって盛り上げていきたいと思っています。そういえば、毎月開催している販売店向け新作説明会というものがあるのですが、11月からはサードパーティー様にもお声をかけて新作ゲームをご紹介いただいているんですよ。

――ちなみにその場所はどこですか?

江口氏:弊社オフィスの会議室に30名くらい集まっていただいてやっているんです。これまでは基本的にファーストとセカンドパーティーのタイトルだけを紹介していたのですが、いいタイトルがでてきたらどんどん紹介してもらおうよということで、UBI様やカプコン様、バンダイナムコ様にも来ていただきました。

――この取材の前に、台北地下街を見る機会があったのですが、コンソールゲームが例年以上に活況でしたね。理由は、コンペティターの任天堂さんが自社展開を始めたこと、それから、サードパーティーさんの大型タイトルがどんどん中文化されてきていて、台湾のゲームファンがこれまで以上にコンソールゲームに注目しているのかなと。

織田氏:ゲームのマーケットそのもの自体をもう一度元気にすることはすごく大事だと思いますね。任天堂さんやMicrosoftさんが来ると、それでうちのシェアが落ちるということよりも、コンソールビジネスマーケットそのものがニュースが多く出て、それで人の噂になってお客さんが来てくれるということは非常にいいことだと思います。

――最後になりますが、日本のパブリッシャーさん、それからアジアのゲームファンに向けてメッセージをお願いします

織田氏:特にアジアは中文化も含めて魅力的なタイトルのプロモーションをどんどん仕掛けていきますので、これからのアジアゲーム業界をひっぱっていくことをぜひ期待しておいてください。

江口氏:パブリッシャーさんに向けては、台湾はマーケットがそれほど大きくないですから販売量で貢献することはなかなか難しいかもしれないですけど、アクティビティで台湾って面白いことをやってるね、と評価していただけることをやっていきたいと思っています。台湾のお客様に関しては、今回の台北ゲームショーでも繰り返しお伝えしているとおり、中文化タイトルをいち早く届けられるように頑張りますので期待していただきたいと思っています。

――ありがとうございました。

【SCETオフィス】
インタビュー後に、江口氏のいう会議室を見せて頂いた。20~30人は入りそうな会議室の棚には、クリエイターのサイン入りグッズがずらりと並べられている。入り口にも同様にサイン入りのハードが並べられている

(中村聖司)