インタビュー

3DS「逆転裁判5」特別ロングインタビュー

シリーズ一新! フルモデルチェンジで挑み
盛りだくさんに仕上がった「逆転裁判」最新作!

発売日:
7月25日
価格:
5,990円
CEROレーティング:
C(15歳以上対象)

 いよいよ7月25日に発売となったニンテンドー3DS「逆転裁判5」。前作「逆転裁判4」より約6年越しの新作ということで、ファンの人は首を長くして待ち続け、期待と不安が入り交じっているであろう最新作だ。そこで、今回「逆転裁判5」を手がけたプロデューサーの江城元秀氏と、シナリオディレクターの山崎剛氏(※)にインタビューを行ない、新スタッフで手がける新ハードでの「逆転裁判」について、多くの質問を投げかけてみた。その模様をお伝えしよう。

※山崎氏の“崎”は正しくは「﨑」(異体字)の方ですが、本稿では「崎」を使用させていただきます。ご了承ください。

「逆転裁判4」より6年ぶりのナンバリング制作に挑む! ファンの熱の高さにゾッとし覚悟を決めた

プロデューサーの江城元秀氏。カプコン在籍歴は長く、ディレクター、プロデューサーを多く務めてきた。「逆転検事」シリーズのプロデューサーでもあり、今回「逆転裁判」最新作のプロデュースに挑んだ
シナリオディレクターの山崎剛氏。「逆転裁判4」ではプランナー、「逆転検事」シリーズでは江城氏とチームでディレクターとして作品を手がけた。「逆転裁判5」ではシナリオディレクターを務める

――前作「逆転裁判4」の発売はもう約6年前となります。「逆転裁判5」を作るという話が出てきたのはいつ頃だったのでしょう?

江城氏:「逆転裁判5」の話は、基本的には常に社内の案件に挙がっていたんです。ラインナップには常にある状態で。ただ、開発リソースの問題であったり、タイミングであったり……。僕らは「逆転検事」シリーズを作っていましたから。そういう事情もあって、時期をずっと見計らっていたというところがありました。

 ユーザーさんからの「逆転裁判5」を待ち望む声は、もう常にありましたよ。僕らが「逆転検事」や「2」をリリースした時も、「『逆転検事』シリーズも嬉しいんですけど、ナンバリングの『5』も出して欲しい」と。そういう要望が必ずあったぐらいです。

 シリーズの生みの親である巧舟はというと「レイトン教授VS逆転裁判」の制作に入っていて。その頃僕らは「逆転検事2」の制作が完了したタイミングだったんですが、僕らが次に作るのは「逆転検事3」か、それとも何か別のタイトルにするのか? そういう選択になって、「どうしようか?」と話していたんです。そして、タイミング的にも「もうこれ以上(『逆転裁判5』を)待たせられないだろう」となっていって。

 ただ、僕も山崎も「逆転裁判」を最初から作っていたスタッフではないわけで……。スタッフを一新し、ハードも3DSにと、どれもこれまでと大きく変わるということで、かなりチャレンジなタイトルになるのは間違いないと思っていました。

 (「逆転裁判5」を作るとして)まずはシナリオをどうしようかと、山崎に「やれるか?」と聞いてみたんですけど。その時はやはり「いいっすよ!」という自信のある感じではなく、「……ナンバリングですか」という反応だったんです。そこに関しては、実はプロデューサーである僕にしたってそうだったんですよね。6年ぶりの新作なわけで相当にハードルが高くて。出てきた新作が「6年待ってこれなの?」ってなってしまうわけにはいかないですよね。

 自信を持ってやるには、考えられる最強のスタッフを集めないといかん。というわけで、「逆転検事」シリーズで逆転の世界観を把握して上手く作ってくれたアートディレクターやデザイナー陣に入ってもらって、他にも仕事歴の長い人間から若いスタッフまで、幅広いスタッフで構成して。「これならいけるかなぁ?」と思えるようになってから、もう1度山崎に「ここはもう腹をくくってやるしかないよな」という話をしました。それで山崎も「わかりました、覚悟を決めました」と言ってくれたんです。

 そうして制作チームが立ち上がって。それが2年前の夏の終わりぐらいでしたね。それまでにも山崎は次作へのシナリオ的な構想をいろいろと温めていたと思うんです。元々山崎はニンテンドーDSの「逆転裁判 蘇る逆転」(ゲームボーイアドバンス「逆転裁判」のDS移植版)の頃からスタッフに入って「逆転裁判4」もやっていましたから。頭の中では「もしかしたら『5』の話もいつか来るかなー?」とちょっとは考えていたと思うんですよ。僕も以前からそういう話を振ってましたし。ただ、「まぁ、まだわからんけどね」とぼかしていたものが、いよいよ現実になったということです。

 で、チームとしてはまず「ロゴを作りましょう」というところから入って。というのも、もう「逆転裁判10周年」のイベント開催が決まっていたんです。「逆転裁判5」の制作発表をするのはこのタイミングしかないでしょう、ということで。まずはそこに向けてラッシュの映像を作って。そこからは、3DSというハードの研究とシナリオのプロット作りに入っていって。最初の頃はだいたいこういう流れでしたね。

――なるほど。「逆転裁判」のナンバリングタイトルを手がけるというところには、多くの葛藤があったんですね。ちょっとここで、読者の方にも流れをわかりやすくするために、お2人のお仕事の履歴を振り返らせて頂けますか?

山崎氏:はい。僕はカプコン入社後に「逆転裁判 蘇る逆転」、「逆転裁判4」でプランナーを務めました。次に「逆転検事」と「2」のディレクターをやらせて頂いて、そして今回の「逆転裁判5」ではシナリオディレクターですね。

江城氏:僕は、ディレクターとしては昔からいろいろとタイトルをやってきて。プロデューサーになってからでは、まずニンテンドーDSで「逆転裁判2 Best Price!」、「逆転裁判3 Best Price!」ですね。その後に「逆転検事」と「逆転検事2」を山崎と組んで手がけて。そこから、他のタイトルのプロデューサーもやって(直近では「DmC Devil may Cry」など)、そして今回の「逆転裁判5」という感じですね。

――やはりお2人は「逆転検事」チームという印象がありますよね。「逆転検事2」の発売は2011年2月ですから、約2年前です。「逆転検事2」が終わってすぐに「次は『逆転裁判5』を作るのはどうだろう?」という話が出て、引き続きで制作に入ったという流れでしょうか?

江城氏:そうです。ユーザーさんの事を考えても、「逆転検事2」を高く評価してもらえた中で「(逆転検事の)次回作も遊びたい」という声も頂いていたので。次に「逆転検事3」に進むのか、「逆転裁判5」に挑むのかという選択は、大きな決断でしたね。

――山崎さんは「次は『逆転裁判5』を作ろう」と話が来たときにどう思われましたか?

山崎氏:そうですね……。「そうなるかなぁ」っていう予感は元々あったんですよね。社内的にも、ユーザーさんからも「逆転裁判5」の名前はずっと挙がっていましたから。「逆転検事」を2作やらせて頂いて、「逆転検事3」という可能性もあったと思うんですけど、周囲が徐々に「『逆転裁判5』をやるぞ!」っていう空気になっていって(笑)。これはもう僕もやらざるを得ないと。

 僕としても「逆転裁判4」に関わっていますから。そのスタッフの1人として、その続きである「5」がいつか世に出てきて欲しい、という想いはあったんです。それはいつか誰かが作らなければいけないわけですけど、「逆転検事」シリーズを作ってきて、僕もある程度積み重ねができましたから。「逆転裁判5」というものにチャレンジさせてもらえるのなら、それは名誉な事でもありますし、やりたいなと思っていました。そういう意味では、自分の中ではある種の覚悟は決まっていたんです。江城から話が出た時にも、プレッシャーを感じつつも「やりましょう」と答えた、という感じでしたね。

――周囲の空気からも、なんとなく伝わってくるものはあったんですね(笑)。

山崎氏:なんとなーく、心の準備をさせられてきたというか(笑)。

江城氏:うすーく、うすーくね。「そういう時も来るかもね」ぐらいに話してましたから(笑)。

――「逆転検事」シリーズの感想にも「『逆転検事』も面白かったですが『逆転裁判5』も作って欲しい」といった声が来ていたというのもありましたね。

江城氏:本当に多かったんですよ。まさに「『逆転検事2』も面白かったんですけど、ファンとしてはナンバリング最新作もプレイしたいです!」って声が毎回たくさん。そういう声を聞くたびに「そら、そやなぁ〜」と(笑)。「その気持ちはわかる。わかるんやけど、タイミングがね……」って思ってきました。

 僕らも(作ることになったとしてもユーザーの望んだ姿になるかどうか)やっぱり確証がなかったんですよね。「(ナンバリング制作も)いける!」とは思うし、「逆転裁判」っていうものを感覚的にも掴んでいるはずなんだけど、でも、それで作ったとしてユーザーさんの望んでいるものになるかどうか。それが、(制作前の)当時には見きれていなかった。

 でも、挑むと決めて、制作発表を10周年イベントの場と決めて。その頃は「自分達のできる範囲の中でなんとかやるしかないよね」という空気感でいたんですが……、「逆転裁判5」を発表した時のユーザーさんのリアクションの凄さで一変することになるんです。

「逆転裁判5」の制作が発表された「逆転裁判10周年 特別法廷」。その反響は大きく、大歓声の中で涙を流す人もいたほど。これに江城氏、山崎氏をはじめ開発チームのメンバーは覚悟を新たにした

――「ドカーン」ときました?

江城氏:それまではどこかで甘えている部分があったんですよ。「『逆転検事』もやれたんだし『逆転裁判5』もなんとかできるんじゃないの?」みたいな部分が、気持ちのどこかにあったのかもしれない。でも、あの発表した時の、会場の割れんばかりの歓声というか……叫び声ですよね、もはや。それを聞いた時に「これはダメだ」と。「中途半端な、生ぬるい気持ちで挑んだらとんでもないことになる」と思い知らされて。

 僕や山崎、あと「逆転検事2」のスタッフも10周年イベントの盛り上がりをその場で見ていたのですが、直後のミーティングはもう空気が変わってましたね。「これは死ぬ気でやらないとダメだ」ってみんな感じていた。僕らが想像するもの、ユーザーさんが想像するもの、それらのさらに上を行く企画でないと。「ビジュアルもお話も。全ての面で上回らないとダメだ」と。ふんどしを締め直した、じゃないですけど、それがあって進み出したところがありますね。

――制作発表のリアクションにチーム全体がゾッとしたわけですね?

江城氏:ピリッとしましたねぇ。「暴動起きるんちゃうか!?」ってぐらい(笑)。「ここに微妙な出来のもんなんか出した日には、本当に暴動レベルやなぁ」って。「俺たちの『逆裁』をどうしてくれるんだ!」とか、「やっぱり新しいスタッフには任せられない」ってなるのが嫌だったので。やっぱり「逆転裁判」っていうものに関わる以上は、ファンの期待を裏切ってはダメ。「逆転検事」もそうでしたけど、そこをどうやってクリアしていこうかというのを、常に考えてきましたね。

巧舟氏が生んだ「逆転裁判」を引き継ぐということ

愛されているシリーズの最新作を別のチームが手がけるというのは、プレッシャーが大きく、意識的にもブレがち。そこを江城氏は丁寧にケアしてからスタートさせていった

――「逆転裁判」のファンの方って言ったらもう、良い意味で怖いですよね。愛されすぎていて、思い入れや熱量が半端じゃない。

江城氏:本当に凄いですよ。でも、「逆転検事」シリーズを作ってきて思ったことなんですけど、ゲームデザインとしては決してコア層向けには作っていないんですよ。

――ゲームとしては万人向けですよね?

江城氏:そうです。カジュアル層に向けて作ってるんですけど、支持してくださっているファンの人は濃い。濃いんですけど、遊ぶのは「逆転裁判」だけとか。いわゆる一般的なライトなゲームファンともちょっと違う。「『逆転裁判』っていう作品が大好き」っていうユーザーさんなので……タイトルに対する愛情や熱量はすごいです。そういうユーザーさんの求めているものや、期待しているものがあると思うので、まずはそこをしっかりと、どう応えていくのか、ですね。

 「逆転裁判」は巧舟が立ち上げたもの。でも、巧舟の影をいつまでも追いかけるわけにもいかない。当時はもう、巧舟は「レイトン教授VS逆転裁判」を作っていましたし。やるからには、自分達が答えをしっかりと持って「これが僕らが考えた『逆転裁判』の最新作です」と胸を張って出せるように、クオリティを高めないといけない。自分達でハードルを高めていく部分があって、僕からのオーダーも、それにスタッフが答えていくところにも、ハードルを上げてきました。

――「逆転裁判」を生んだ中に巧さんという代表的な人がいて、猛烈に愛されているシリーズで。みなさんは「逆転検事」シリーズを手がけ、そちらで高評価も得ているのに、今回はある種、別の人が作った作品に乗り込まないといけない。「この人達で大丈夫なのか?」とすら思われかねない。それは“モノ作りをする身”としては、はっきり言ってかなりのプレッシャーだったのではないかと。「嫌だ!」と思えるほどの。

江城氏:ぶっちゃけて言えばそうですね。プレッシャーはすごいです。でもそこは、「5」を作るにあたって、ハードも変わるしスタッフも変わる。それであれば、「シリーズとして受け継がなければいけない要素はあるけれど、変えるべきところも絶対にあるな」と思って。そこを自分達のクリエイティブの感覚を信用して出すしかない。そういう面でクリエイティビティは発揮できるから、あとはそこのさじ加減です。「何を残して、何を変えるか」それを決めていくのがプロデュースサイドからあり、現場のディレクションサイドにあり。そこからスタートしてます。

 なので、いわゆる「ナンバリングだから」という縛りというか、クリエイティブを縛りかねないところは、僕は「気にするな」とスタッフに話したんです。気にしすぎたら萎縮してしまって新しい発想や遊びをつっこめない。僕は「成歩堂くんを復活させてくれ」と話したんですが、「それをどう料理するのかは自分達のクリエイティブで考えればいい」と。「過去作でこういう経緯があったので、自分達がそれを踏まえて「成長した姿」を描きたい」というのならそれでいい。でも、「過去の事件や時系列に縛られ過ぎて小さくまとまるような、そういう風になるような事は考えなくていいよ」と話しましたね。

 そういうところから、モノ作りのモチベーションを保つというか。自分達の作品を創り上げているというモチベーションになるように、僕の方から指示をしてきましたね。

――なるほど。「逆転裁判5」において重要な話だと思います。では山崎さん、今の話についてどう思われました?

山崎氏:僕は入社してからずっと「逆転裁判」シリーズをやってきていて、巧舟の下で勉強させてもらってきました。その巧舟の作った世界の続きを作るというのは、プレッシャーという意味では、本当に凄かったなぁと思いますね。

 ただ、ずっと近くで巧舟を見てきたからこそ思う事なんですけど、同じ事をしようとしても絶対にできないんです。そこはもう、「僕らができる、僕らが思う『逆転裁判』を作るしかない」と思っていました。

 「逆転検事」シリーズを作っている時にもそうだったんですけど、特に「逆転検事」の「1」の時には初ディレクターだったこともあって、巧舟のやり方を真似するということにこだわってしまって、失敗した時期があったんです。それを反省して、「検事2」の時には、「自分のやりたい事を僕なりの世界でやる」という風にして。少し上手くできたかなということがありました。今回も「とらわれすぎずにやりましょう」とスタッフ全体とも話しましたね。

 むしろ「逆転裁判」の世界については、巧舟よりもユーザーさんの方が見る眼が厳しいと思うんですよね……(笑)。なので、巧舟の後を追うのではなく、「ユーザーさんが思う『逆転裁判』の世界を大切にして、その中で自分達が面白いと思うものを提示すればいいんだ」と、言い聞かせています。

――今のお話を聞くと、江城さんが「こだわらなくていい」と話したというのも、山崎さんが一時期、巧さんを意識しすぎていた事を知っていたからなのかな、と思えますね。

江城氏:そうですね。やっぱりね、巧舟の影響力は大きい。これだけの作品をゼロから生み出したわけで、そこには相当な思い入れも込められていますし。僕は彼を天才だと思っていますので。セリフの言い回しであったりとか、モノを作っていく感覚ですとかね。

 そこはやっぱり、天才の真似はできないですよ。やっても模倣にしかならなくて、きっと上手くいかない。そうではなく、彼が何を思って「逆転裁判」というものを作ったのか、何を重要視しているのか、そこを壊さないようにして、それに対して新しいクリエイティブで作っていく。そうして初めて、別の新しい何かになれる。「逆転裁判」というブランドを復活できるようになると思ったんです。

 「縛られすぎず、でも意識はする」というスタンスを貫き通さないと、スタッフが潰れちゃうとも思ったんですよね。ゲーム以外でも、映画でもなんでもそうですけど、先駆者が立ち上げたものを引き継いで続編を作ることってあるじゃないですか? そういう時に、意識し過ぎたあまり思っていたものとは違うものが出来上がったりとか……。無意識の縛りがあって、それが原因で上手くいかなかったのかなぁ、と思えるような。僕らはそうならないようにと考えましたね。

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(山村智美)