PS3/Xbox 360「北斗無双」発売記念
鯉沼久史プロデューサー特別インタビュー(前編)
1億冊以上を売り上げたという大人気コミックス「北斗の拳」。この原作をゲーム化したコーエーの「北斗無双」が遂に発売となった。2009年の東京ゲームショウでティザームービーが上映され大きな話題となった。それから半年、早くも完成した。
今回は、「北斗の拳」世代という同作プロデューサーの鯉沼久史氏に制作中の苦労話からゲームシステムに至るまで様々なお話を伺った。かなり長いインタビューとなったので、前編と後編に分けてお届けする。じっくりと楽しんでいただきたい。
■ 好きだからこそ「北斗の拳」を無双シリーズ化 ~いい作品は一生モノ~
プロデューサーの鯉沼久史氏 |
GAME Watch編集部: これまでも発表会などでお話されていたことですが、改めて制作の経緯について教えてください。なぜ「北斗の拳」をゲーム化したいと思われたのでしょうか?
鯉沼久史氏: 何か新しいものをやろうとしたとき、ちょうど「ガンダム無双」のプロデューサーもやっていたのですが、「『北斗の拳』を無双でゲーム化しませんか?」というお話があったんです。他のIP(Intellectual Property:知的財産。ビジネス用語では管理者や知財そのものを指すことが多い)でも結構「無双にならないか」というお話をいただくんですけど。開発を始めた後、ユーザーの皆さんの中でも「こうい無双があったらいいのにね」という話題が盛り上がっているサイトがありまして、ネットのランキングでも「無双でゲーム化したいもの」という設問で1位に「北斗の拳」があったりとかしましたので、さらに、実現させてみようという後押しになりました。
編: そういう声は「ガンダム無双」がキッカケで広がっていったのでしょうか?
鯉沼氏: そうですね。そう考えると私にとって「ガンダム無双」を手がけた事は大きかったかな、と思います。
編: ハードルを越えた、というか。「コレがアリなら、こっちもいいんじゃない?」みたいな。
鯉沼氏: 「なんでもアリ」というのはちょっと難しくて(笑)。お互いがいい“相乗効果を出せるか”、そしてゲーム化して、本当に“ゲームになるのか”とうい観点から検討しました。私が「北斗の拳」世代というのもあったので「じゃぁ、ちょっと踏ん張ってやってみようか」というのが最初です。
編: 鯉沼さんご自身が「北斗の拳」が好きだ! というのが1番の動機ですか?
鯉沼氏: 週刊誌での連載を毎週毎週、楽しみにしていたことを思い出してきて。そういうお話があるんであれば「やってみようか」と思いましたね。
編: では、制作にあたっては自身の原体験を改めて見直す作業が必要だった?
鯉沼氏: 昔読んだ原作を読み直すとか色々振り返りました。ちょっと話が脱線しますが、私はリアルタイムで漫画連載を読んでいた世代なんですけど、開発の現場は年がもっと下の人もいますし、それこそ連載開始当初にはまだ生まれていないといった人もいます。原作のスタートは26~27年前。自分自身もそうですけど、アニメ世代の子や「『北斗の拳』って何?」てスタッフにもまずはきっちりと原作を読ませて、というところから始めました。
編: ご自身は熟知されていても、開発チームの若い子たちは勉強が必要だったと……。
鯉沼氏: 「ガンダム」を手がけた際もそうだったのですが、「ガンダムSEED」は知ってるけれど、ファーストになると全然わからないスタッフもいる。そこでまずは共通の話題にするために原作を読ませるところから始めていますね。
編: 「北斗の拳」の場合、開発チームのために揃えた資料は、単行本やアニメDVDなどですか?
鯉沼氏: それだけではなく、今は外伝、ラオウ伝とかトキ伝なども出ていますので、そういった関連する作品も全部用意して読んでもらいました。
編: 今回は、原先生と武論尊先生が手がけた原作コミックスの範疇がゲーム化されているんですよね?
鯉沼氏: そうです。基本的には、原作者の原先生と一緒にやりましょう、というところから始めた企画ですので、原作ベースで作り上げました。
編: ストーリーモードの「伝説編」は、主人公ケンシロウのストーリーが1本の太い幹になっている。そして、他のキャラクターのエピソードが枝葉のようになっていて、それぞれ時系列で楽しめる。全体としては、ラオウとの決着でひとまとまりになっています。「北斗の拳」は長期連載作品でしたが、そこで切る(まとめる)と決めた理由は?
鯉沼氏: 当時原作を読んでた人からすると、ラオウは昇天したいでしょう? というか(笑)。ただ単純に、そこまでは入れたいと思いました。
編: 私もリアルタイム世代ですから、当時毎週原作を読んでいて「あぁ、ラオウが死んじゃった!」といったインパクトがありました。ただ、今の世代は単行本でまとめて読むから「なんでここ? もっと先まであるじゃん」といった意見が、若い子から出てもおかしくないような気もします。
鯉沼氏: ラオウ昇天までというのは現場のスタッフからも異論はありませんでした。どうなんでしょうね。私は毎週連載を読んでいて、ラオウが昇天したときに一段落的な意味で終わった感がありました。実際はそのあとすぐ第2部になった訳ですけれども、まずは「そこまでは、まずやろうよ」という感じで、特に異論は出なかったですね。ラオウ昇天までのストーリーは、結局「北斗4兄弟」の話じゃないですか。あとは南斗のからみというところで。ストーリーを決める上で、大きな節目がそこにあった、というのが大きな理由です。
編: リアルタイム世代である鯉沼さんが、開発チームの若い子たちを見て何か感じたことはありますか? 同じ「北斗の拳」という作品に接しても、こんなふうに認識が違うのか、とか。
鯉沼氏: それはありますよね。子供のときに受けた感銘と、大人になってから読むのでは、多少違うだろうと思いますし。我々は「北斗の拳」の原作をリアルタイムで味わった世代ですけど、30代前半くらいはアニメ世代だったり、さらにはまったく知らない世代があったり。ただ、色々な世代があったからこそ、いい意味で“色々な考え方”ができたんじゃないかな、と思っています。
編: 原作世代、テレビアニメ世代、パチスロ世代……。
鯉沼氏: あとは、まったく知らない世代もいますからね。かわいそうだなぁと思うのは、私たちが子供の頃はあまり娯楽がないので、漫画とかに集約されていたと思うんです。あの“毎週楽しみにしていた感覚”は、今はたぶんないんだろうなぁというのは、正直思います。
編: 翌週の展開を想像して盛り上がるとか、お互いに秘孔を突くマネをして遊んだりとか。
鯉沼氏: そうそう、必ずやってたじゃないですか。その辺りの世代間による思い入れの違いがあるにせよ、今でも外伝が出ているような大きなIPですし。コミックスが1億冊以上売れていて、さらに今もコンビニに愛蔵版が置かれていたりする。いい作品って、たぶん世代を問わないのかな? と思っています。
編: ゲーム化にあたり、今原作を読み返して、見方が変わったことはありますか?
鯉沼氏: いや、久々にしっかりと読み直しましたけど……泣けるところ、ポイントは変わっていないな、と(笑)。サウザーのところもいいなぁ、とか色々感慨にふけりました。いい映画が、未来にわたってずっと「いい」と言われるようなものなのかな、と思っています。
■ ケンシロウを“幹”に描かれる周辺の人物絵巻 ~プレイアブルキャラクターの選定~
編: 作中には色々なキャラクターが登場しますが、プレイアブルになるのは、やはりメイン格のキャラクターだと思います。開発チーム内で「このキャラクターをプレイアブルにしたい!」といった声がたくさんあったと思いますが、そのあたりはどう取り入れていったのでしょうか?
鯉沼氏: いってしまえば(劇中に登場する全キャラクターを)全員したがる(笑)。でも、「ガンダム無双」ですと、色々な主役のガンダムがたくさんいる。「戦国無双」、「真・三國無双」も主役級がたくさんいるんですけど、「北斗の拳」に関しては、主役って“ケンシロウ”なんですね。ゆえに作り的にもケンシロウの章が、太い幹。今までの無双っていうのは“森”のように色々な木々があった。それに対して「北斗の拳」はケンシロウという太い幹が1本あって、そのまわりに取り巻く枝がつく形です。まずはケンシロウがメインフレームじゃないといけないと考えました。
あとは、ケンシロウが主軸のストーリーになっていますので、それに関わり合いが深い人たちが、必然的にプレイアブルになる流れですね。そうはいっても、幻闘編は「『北斗無双』なんだから、『北斗無双』ならではのストーリーをやらせてください」とお願いして、原先生にOKいただいた上で作りました。結構直されましたけど(笑) 「これはやっていいよ」というところで、プレイアブルキャラクターが追加で増えていった、という感じです。
編: 鯉沼さんが1番思い入れがあるキャラクターは誰ですか?
鯉沼氏: 私はトキとか北斗系のキャラクターが好きなんですけど、ちょっと若い世代だと、みんなレイが好きみたいですね。
編: えー、今はレイが1番人気なんですか。ちょっと意外な気も……。
鯉沼氏: ですよね! 世代によって、そこは凄く意見が対立するんです。オープニングムービーも、私と同じ世代の監督がいて、そのディレクターさんが30歳くらいの人だったんですけれど、そのディレクターはどうしてもレイを押したい。で、監督と俺は「いや、そうじゃないだろう」って(笑)。同じ「北斗の拳」でも、世代によって思い入れが違うのかと思いましたね。そういえば、「戦国武将祭」に試遊台を出していたのですが、そこを見ても女性は圧倒的にレイを使っていました。
編: 2択で完全に偏るということは、決定的な嗜好の違いがあるんでしょうね。体験版はケンシロウとレイしか使えなかったわけですから。
鯉沼氏: 「北斗の拳」って漫画だけじゃなくて、パチンコ・パチスロとか色々なグッズが出てるじゃないですか。幅広い認知度があるがゆえに、好きなキャラクターも結構割れてるのかもしれません。
編: 原作にはたくさんのキャラクターが登場しますが、プレイアブルにしたかったけど漏れてしまったキャラクターはいますか?
鯉沼氏: とりあえず、ストーリーをちゃんと描けないと、プレイアブルにする訳にはいかないというのがあります。エピソード的に薄いキャラクターについては、今後はダウンロードコンテンツの形で、遊びとして入れて行くつもりです。
■ 原先生の作品愛に満ちた徹底監修
編: 先ほど原先生からダメ出しというお話がありましたが、伝説編、幻闘編など、先生と協議して進めていかれたんでしょうか?
鯉沼氏: 基本的にはストーリーだけじゃなく、CG回りは凄く手直ししていただきました。凄く忙しい方なのですが、CG絵に「筋肉のつきかたは、こう」とか赤を入れていただいて。
編: その修正画はファンにとってお宝ですね! メチャクチャ見たいです。特典映像で入れませんか?
鯉沼氏: いや「もうそろそろ、いいですかね……」っていうくらいリテイクはされましたので、数はあるのですが……。
編: あ、あんまりいい思い出ではない?
鯉沼氏: いえ。先生が本気で「北斗の拳」を愛していらっしゃるのは痛感しましたし、今回、「北斗無双」の開発にも凄く協力していただいたのは、とても有難く思っています。そういう意味で、凄くいい思い出です。ただ、現場は凄く大変でした(笑)。
編: 1番ビックリした修正項目はありますか?
鯉沼氏: “筋肉のつきかた”に凄くこだわられているので、それは本当に、何度も何度もリテイクをされましたね。
編: ゲームでは難しいですよね。モデルを作ればそれで完璧、というわけじゃないですから……。
鯉沼氏: 難しいんですよ。あとは、開発側はアクションゲームなのでアクションがしやすい骨格にしたがるんですけど「いや、そういう骨格じゃない」と原先生が仰るので、色々と作り直しました。基本的にちゃんと立ってるときのモデルの肉付きと骨格は、こうじゃなきゃいけないっていうご指摘はあったんです。それは先生のご指示です。
編: CGは、リアルに作ったからリアルに見えるとは限らない部分もあります。
鯉沼氏: でも、原作を大切にされている先生の想いにはこたえなきゃいけないですよね。あとは、ラオウの眉間も凄いこだわりを持っていらして……。「絵を、こういうふうに見えるようにモデリングしてくれ」と指示を受けました。シワの入れ方1つ1つに、これはここから入っていてとか、これは哀しみゆえにそうなった眉間だとか。そういうところまで指定されてます。
編: これは……デザイナーさんが血反吐を吐いている姿が絵に浮かびます。あとモーションデザイナーさんも確実に死んでますね……。
鯉沼氏: 「これ以上直されると間に合わないんですけど」という声を何度か聞きました(笑)。ただ、そうはいっても、なかなかないじゃないですか。原先生と一緒に仕事をやれるなんて、たぶん一生のうちに何度あるのよ? って。ほとんどの人がやりたくてもやれないことを、やれている。それを楽しいと考えなよっていう話をしましたね。
編: なかなかできない経験ですよね。原作者のフル監修ですし。そういった意味では、プラスというか勉強になった部分も多々あるのでは?
鯉沼氏: 原先生のこだわりどころは、どれもあぁなるほどと思いました。世紀末で、こういう暴力が支配する世界を描いているけれど、別にグロくしたいわけじゃない。先生のなかに、こういう「北斗の拳」を描きたいという思い入れがあって、それは普通に原作を読んでいるだけでは分からないところもあったので、いい勉強にもなりました。
編: 僕らは完成した作品を見るだけですが、関わっていくと“想い”みたいなものが感じられるわけですね。
鯉沼氏: こういう設定だから、こうなんだとか。我々はアウトプットしか見てないので、途中のロジックはわからないじゃないですか。そこらへんはこう考えていて、こうだからこのアウトプットは曲げないでね? みたいなお話は凄く勉強になりました。
編: 大変だったでしょうけど、ある意味その経験は“お宝”ですよね。
鯉沼氏: 開発中は何でも苦しいんですけど(笑)。まぁ終わったあとは、良かったなーっていう思いです。
■ “不滅の北斗の拳”を違和感なくゲームシステムに取り込む ~闘気覚醒で暴れまくれ!~
編: 原作のイメージでいくと、ケンシロウがそこいらへんのザコから簡単にダメージを受けることは、ある意味「あってはならないこと」だと思います。でも、ゲームでは「原作ではありえないこと」をうまく消化する必要があります。というか、やらなきゃいけない。このあたり、表現やバランスは難しかったんじゃないでしょうか。
鯉沼氏: そうですね。先生からアクションに関しても「手打ちのアクションとかは絶対ダメ。ちゃんと腰が入って“当てる”動きをやってくれ」と注文を受けていました。そういう意味では、今回プレーヤーキャラクターがダメージを受けても、なかなか倒れないように配慮したシステムになっているのは、おっしゃるとおりです。あと、ゲームオーバーになっても片膝をついて終わるのも、原先生のご指示です。「ケンシロウとラオウは死んではいけない。たとえそれがゲームであっても!」というお話がありまして。それでああいうゲームオーバーシーンになったんです。
編: そうなんですか! ちょっとビックリしました。あれは「To Be Continue」というか、そういうことでもなく……。
鯉沼氏: ラオウにしてもケンシロウにしても、片膝をついて終わっている理由は、そこです。
編: ドラム缶の爆発などで壁に大の字でぶつかるじゃないですか。最初は「あれ、これ大丈夫か?」と思ったんですけど、よくよく考えたら原作でも結構あんな感じで吹っ飛ばされてるんですよね。だから大の字はアリなんですね。
鯉沼氏: ただ、主人公は死んではいけない。北斗神拳は不滅だ、と。
編: そういう意味では、尖ったヨロイを装備してる中ボスがいるじゃないですか。ケンシロウが殴れない。アレはいいんですか?
鯉沼氏: トゲ将はゲーム的な遊びとして入れてるんです(笑)。原作でもそうですけど、そういう敵には得物を持って殴る訳です。だからトゲ将が出てくるところは周辺に鉄骨とか置いてある。ただ、そうはいってもいちいち武器を持つのではゲーム的に面倒くさいところもあるので「闘気覚醒」さえすれば、そのまま殴れるようにしています。
編: えっ、「闘気覚醒」すれば得物を持たずに済むんですか! 出てきたら逃げ回りつつ周辺の獲物を探していたんですが……気づきませんでした。
鯉沼氏: トゲ将が出たとき「面倒くさいなコイツ」ってイライラされる方もいると思うんですけど、「闘気覚醒」すると結構アッサリ倒せます。これは「闘気覚醒」を使って欲しいという意図もありまして、それでああいう遊びを入れてるっていうところですね。それに気がつくと、どんどん楽に進めると思います。何か堅いのが出てきたら、基本的には「闘気覚醒」してやりあうってのがクリアの近道かなと思います。
編: 太った大きいのが2体くらいくると「あぁ、面倒くさい」となって「闘気覚醒」でドーン! と。
鯉沼氏: 「闘気覚醒」は蹴りなどの発数も増えるので、DEFゲージをガーッと削れるので楽に倒せます。
編: トゲ将、ジャギだと「楽でいいわぁ」と思うんですよね。獲物なしで銃だけで倒せる。
鯉沼氏: ゲージがもったいないから「闘気覚醒」を使わない方もいらっしゃると思うんですけど、ガシガシ使ったほうが、遊んでいて気持ちいいかなと思います。
編: 我慢してやると……。
鯉沼氏: イライラしか残らなくなっちゃうので、そこは是非。いかに覚醒した状態で闘うか。南斗もそうですよね。見切り攻撃は△(Y)ボタンをタイミングよくボタンを押すと発生する覚醒攻撃なんですけど、あれも「闘気覚醒」すると同じような状況になるので上手く使っていただければと思います。
編: シューティングのボムじゃないけど、もったいないと溜めるだけじゃ良くないのですか?
鯉沼氏: 自販機などを壊すとオーラ回復が出てくるのは「なるべく回復させて伝承奥義を使ってね」ということです。
編: 体力回復よりもオーラ回復のほうが多く配置されているのは、そういう理由なんですね。
鯉沼氏: そうですね。あれを使うと堅い敵も柔らかく料理できますし(笑)。
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(2010年 3月 26日)