PS3/Xbox 360「北斗無双」発売記念
鯉沼プロデューサー特別インタビュー(後編)

3月19日 収録

発売中(3月25日 発売)

価格:8,190円(通常版)
    13,440円(TREASURE BOX)

CEROレーティング:D(17歳以上対象)

 

 3月25日に発売となったプレイステーション 3/Xbox 360用アクション「北斗無双」。人気コミックスの「北斗の拳」と「無双」シリーズの融合とあって、大きな注目を集めている。3月26日には50万本出荷のニュースもコーエーから流れた。

 ゲームは原作を追体験できる伝説編と、全くのオリジナルストーリーが楽しめる幻闘編の2つが楽しめる。それぞれ違ったシステムを採用しており、これまでの無双シリーズとは違った仕上がりとなっている。後編では、さらにコアな話題に踏み込みながら、そういったゲームのシステムやバランス調整についても伺ってみた。

【インタビュー前編】

 


■ ザコの細かい所作やボイス、中ボスのマジメな強さ ~原先生の想いを反映~

編: ザコの動きやボイスが多彩で、凄く楽しませていただきました。セリフがそれぞれ違ったり、一気に倒すと腰が抜けて後ずさる奴がでてきたりとか。

鯉沼氏: あれも原先生の想いがあってやっているものなんです。そもそも「北斗の拳」で大事にしているのは、自分がいじめられっ子で、それがスーパーマンだったらというシチュエーションだそうです。基本的に、向かってくる敵は“ケンシロウを舐めている”というか“バカにしている”。その上で、そういう悪者を倒す訳です。だから、ケンシロウは逃げ惑っている奴を倒すようなマネはしない、というところを守って欲しいと言われました。最初の頃はザコのモーションも普通だったんですが「もっとザコはバカっぽく。ケンシロウをバカにしてるようなシチュエーションにしてくれ」と指示を受けました。そういう意味で、ああいうモーションやセリフを入れているんです。原先生が原作を描かれる際も、世紀末の世界で内部破裂して血がベチャベチャでている反面、それがグロく、後味悪くならないよう、敵も面白いアクションをして死んだり……と、そういう配慮をされたそうです。その辺りを最初のバージョンを出したあとで原先生からご指摘を受けて、それでああいう演出を色々追加していきました。

編: 最初のバージョンは、マジメに攻撃していた?

鯉沼氏: そうですね、ああいう無駄に思えるような動きは入っていませんでした。

編: 体験会で気づいて「このザコは何をしてくるんだろう?」と観察していたんですよ。腕をグルグル回しながら突っ込んできた奴を見たときは、ある種の感動を覚えました。

鯉沼氏: ケンシロウが百裂拳をやって仲間が破裂して死ぬと、たまにペタンとしゃがみこんで逃げたりするザコとか、色々いますので注目してみてください。原作でもそういうシチュエーションがあったと思うんです。

編: ザコが死ぬときの声も楽しくて……1番のツボはトキでした。ひゃぁ~とかいいながら。そういえば、あの頭上にパッと光が差す演出は誰が考えたんですか?

鯉沼氏: それは開発プランナーや、現場のスタッフが考えて(笑)。有情拳を受けて昇天する様ということです。天使の光じゃないですけど。でも、原作もそうじゃないですか。トキが倒すと「あぁ~、気持いぃ~」っていう(笑)。

編: ザコの声、声優さんもノッてるのがわかります。

鯉沼氏: 声優さんも非常に理解を示してくれて、面白おかしく演じてくれました。

編: 逆に、中ボスがザコの多彩さに隠れてしまった印象があります。投げのモーションが一緒とか。これは制作の時間的なところで?

鯉沼氏: いや、そういうわけではないです。中ボスまでバカっぽくしてしまうと、ボスじゃなくなってしまう(一同笑)。ただの堅いザコになっちゃいますので余計なモーションはあえて控えめにしたんです。

編: 中ボスがわりとシリアスに堅い、強いというのは、そういうことなんですね。「意外に中ボス、マジメだな」と思ったものですから。強さの調整は難しかったんじゃないでしょうか?

鯉沼氏: そうですね。ただ、「闘気覚醒」を使っていただければ結構簡単かなという難易度になっています。苦労した、難しいというところでは、プレーヤータイプを北斗系、南斗系、特殊系とわけているんですけど、それぞれ相性もあるのでその3タイプの間でなかなかバランスをとりづらいというのはありました。


■ 無双システムで少しずつ強くなっていくケンシロウ ~最初はちょっと地味?~

編: 最初、ストーリーモードでケンシロウを選ぶじゃないですか。僕は歴代の無双シリーズを遊んでいるから理解できるんですけど、まったく知らない人は初期状態のケンシロウを“地味”に感じると思うんです。経絡究明図でキャラクターを強化していけば、その地味さも解消されるのですが……このあたりは懸念されませんでしたか?

鯉沼氏: ある程度の制約があって、それが解放される喜びっていうのも、ゲームとして非常に重要だと思っています。反対に、初めてやる方で色々技が出ちゃうと「どうすりゃいいの?」と感じると思うんです。ある程度、ゲームとして色々考えながら楽しんでいただけると嬉しいなぁというところで、この仕様になっています。ただ、いずれ成長しきって経絡究明図を全部あけていただければ、もうどんな攻撃でもつながるし、何でもキャンセルして戦闘できるので、そこまでやっていただければ自分が上手くなった感じを味わっていただけると思います。

編: 経絡究明図をすべてあけるのは大変ですよね。

鯉沼氏: ただ、ゲームオーバーになってもスキルポイントは残るようにしていますし、あとは、スキルポイントが稼げるステージを何度もやっていただければと思います。

編: キャラクターごとに経絡究明図の形が違うのは、何か意味があるんですか?

鯉沼氏: 一応、成長にあたって「今回『北斗の拳』だから、秘孔とか、つながりの何かがいいよね」っていうことになったんです。でも、全部同じだとつまらないというところからです。キーとなるアクションが増えると格段に強くなりますので、そこだけは最初に見せてあります。あとは開けていく楽しみですね。ここは、「北斗の拳」がイメージできる成長システムにしたいというところで開発中にも二転三転したんです。結果「これだったら『北斗の拳』と親和性あるかな?」と落ち着きました。

編: 途中で検討されたシステムは、どんなものがあったのですか?

鯉沼氏: もっと凄い単純なものがありましたよ。単純にスキルポイントをどれに割り振る、ってやったんですけど。「何も面白みないねコレ」って(笑)。


■ ゲームモードとバランス調整 ~誰でも遊べるけど2周目以降はバーサーク化!~

編: ストーリーモードの伝説編、従来の無双風の幻闘編とありますが、ストーリーモードをアクションアドベンチャーにした理由は? 単純に差別化的なことですか?

鯉沼氏: 伝説編に関しては、原作を表現するにあたり、ケンシロウ中心のストーリーになるだろうという前提があったのと、どうしても従来の無双システムのままだと「北斗の拳」を表現できないという理由がありました。たとえばシンとの別部屋でのボス戦があるじゃないですか。あれを無双のシステムでやるとしたら、どこかにそういう部屋を作って、閉じ込め部屋としてやることになる。また、ジャギのオイル撒き散らしもどうするの? ってことになると、今までと違った方式のほうがいいんじゃないかという結論に達しました。

 ただ、従来の無双システムを好きで買ってくださる方もいらっしゃると思ったので、幻闘編は伝説編とは別のシステムで作ろうと思いました。

編: 開発チームは「えっ!?」と言いませんでしたか? 「無双エンジンでやるはずだったのに、アドベンチャーゲームって聞いてないよ!」 とか。

鯉沼氏: アドベンチャーのほうは一から作り上げています。幻闘編は、どちらかというと今までの無双エンジン。困ったのは、シナリオの作り方があまりにも違うので……。最終的には、シナリオ班をふたつにわけました。伝説編をやる班、幻闘編をやる班。ちょっと誤算でしたけど、結果そうせざるを得ませんでした。

編: アドベンチャー班は、まったく新しいことを始めたわけですね。大変なことはありましたか? マップのレイアウトやデザインとか「今までやっていたことと違うよ」とか。

鯉沼氏: なにぶん初めてのことが多すぎて、手こずったのは確かです。

編: 伝説編のアドベンチャー要素ですが、わりとエッセンス的な使われ方をしているように感じました。戦闘と戦闘の合間にメリハリや変化をつけよう、というか。難しいものではありませんが、それは意図したものですか? 戦闘以外の部分に、あまりプレーヤーの意識をとらせないというか。壁を登ったりとか、毒の沼に落ちても即死はしませんし。

鯉沼氏: やっぱり、無双シリーズは「誰でもできる」という基本コンセプトがありますので、あまり難しくしてもダメです。さらに『北斗無双』は、今のCGクオリティで「北斗の拳」を久々に体験して見ようという方が多いのかなと思っていました。そういう方って、たぶん私たちの年代。一般的には「昔はゲームをしていたんだけど、もうやらなくなったよね」という世代に、本作をキッカケにゲームに戻ってきて欲しいですし、そんなに難しくしても……という考えはありました。

編: 逆にコアユーザーは「もっと!」と思うかもしれません。

鯉沼氏: なので、2周目以降、ミッションを全部あけると敵が凄く強くなります。全ステージに、北斗七星の形で表されるミッションがあるじゃないですか。あれは各面全部7つまで光るようになっているんです。でも、普通にやるとなかなか全部は光りません。例えばそれに挑戦していただくことでやり込んでいただければと思います。

編: 結構な歯応えが?

鯉沼氏: そうですね。2周目以降、全部光らせると敵のアルゴリズムがバーサーク化するので……。

編: あれからさらにバーサークですか。

鯉沼氏: クリアできなくなるんじゃないかな?というくらい強くなりますよ(笑)。

編: なんていうか、ザコの強さは「ガンダム無双」系の強さですよね。飛び道具系でひっかけられるのがわりとつらいときもあるんですけど、あれがもっとつらくなる?

鯉沼氏: そうですね。

編: そんな簡潔にいわないでくださいよ!

鯉沼氏: 開発中、敵のバランス調整は最初に思いっきり強くしてから弱くしていくんです。

編: 足していくんじゃないんですか? 「これは無理!」っていうレベルから落していく?

鯉沼氏: ボス戦も、最初「どうやっても勝てない」っていう話になってから、ちょっとずつアルゴリズムを弱くしていく、というのが基本でした。

編: その調整方法は、無双シリーズで常に一貫したものなんですか?

鯉沼氏: いえ、そういうわけではないのですが、今回の作り方はそうしています。

編: そういうやりかただと、開発チーム内でひとりだけ突出してる人がいると他の人ができなくなっちゃうことはありませんか? 他の人が「できない」といっても「いや、俺はできるし」みたいな。

鯉沼氏: そうですね。私は、たぶん、かなり上手いほうらしいので……。「コレ簡単なんだけど?」と言うと、「いやクリアできない人がいるんだからやめてください!」と開発スタッフからよく諌められました(笑)。


■ 原作をきちんと表現したいからこそ費やされる、さまざまな労力、その結実

編: 原作コミックの内部破壊などの残虐表現ですが、当時僕らは単純な驚きで「わぁ、すげぇ!」って思いました。今回、ゲームというところで、残虐表現で苦労されたことはありますか? 絶対なくちゃいけないものだし、さりとてただグロくすればいい、南斗聖拳でバラバラ(欠損)になればいいというものでもない。

鯉沼氏: まずプロジェクトをはじめるにあたって……コーエーはCERO:C(15歳以上対象)までのゲームしか開発したことがなかったんです。社内的に、Cまでしかダメだったんですけど、まずそれを「CERO:D(17歳以上対象)」にさせて欲しいと掛け合いました。私は原作世代ですし、今回はその原作者の原先生と一緒にやらせていただける。原作の世界観を表現するには、やっぱり北斗神拳で秘孔を突かれた敵は破裂しないとって。私の中で、それありきじゃないと、やっても意味ないじゃん! というのがありましたので、それを社内調整しました。やり始めるのと、破裂表現は今までやったことがないので、それをどうやるかで大変でした。あとは、海外にいる社員などにも「どこまでやったら海外でも満足される?」などと色々話をききました。

編: 海外の人たちは、残虐表現では突き抜けちゃってますから……。

鯉沼氏: もう、一律して海外の方がおっしゃられるのは「物足りない。もっとグチャグチャにやれ」って(笑)。ただ、原先生は別に残虐にしたいわけじゃない、というのが根本にありましたので、むしろ「あっ、これ漫画で見てたよね」とわかってもらえる表現になるか。そこが苦労したところですね。なんとなく、原作を読んでいる方が、さらにそこから脳内補完されるイメージ。それに近づけようと思って表現しました。

編: 表現に関しては、アニメ版なども参考にされたんですか?

鯉沼氏: それはあえてしてないです。元々のコンセプトが漫画の「北斗の拳」を現代のCG技術でリアルに表現しよう、というところから入っています。その上でアニメの表現まで見てしまうとおかしなことになりますので避けました。原作からイメージできるものを、今のCGに落すとどうなるか。その繰り返しをやっていた感じですね。

編: なんだかんだで、僕らの世代は両方好きな人が多いじゃないですか。原作も、アニメ版も。まだゲームを全部クリアしてないんですけど、アニメ版オリジナル要素はゲーム中に出てこないんですか? 南斗人間砲弾とか、蛇みたいな鞭使いとか。

鯉沼氏: ないです。元々、アニメ版とは切り離して物事を考えていますので。

編: そういった意味では、アニメ版しか知らない人、アニメ版に極端な思い入れがある人は「アレ?」ということもある?

鯉沼氏: アニメ版も、言ってしまえば原作を元にした表現だとは思っています。結局は原作の漫画ありきじゃないですか。現代のCGに置き換える我々の目標を考えるのであれば、原作からもってくるのがスジだろうと。ただ、アニメファンの要望をなるべく汲もうとは思っているんですけど……大人の事情もあるし、色々難しいですよね。とはいえ、やっぱり「愛をとりもどせ!」は確固としたイメージもありますのでゲーム中に入れさせていただきました。色々交渉に時間がかかったので発表が3月に入ってになりましたけど……なにぶん初めてだったので、色々調整に時間がかかってしまいました。


■ ダウンロードコンテンツ ~モヒカンではありません、「無法者」です~

テーブルの上にあるのは「TREASURE BOX」に同梱されているめざまし時計。まさに宝物!!

編: DLCに関してお伺いしたいんですが、今発表されているのはハート様とモヒカン……。

鯉沼氏: 「無法者」、ですね。

編: ……すいません。どうしてもヒャッハー! というか。以前の記事でも完全にモヒカンって書いちゃった記憶が。

鯉沼氏: あれ、正式名称じゃないんですよね。たぶん、全部記事チェックが入ってるはずです(笑)。

編: で、そのふたりなんですが、今後さらに追加されていくのでしょうか? 数としてはどれくらい?

鯉沼氏: あれは、ソフトに入っていなくて、今作ってるんですよ。まだマスターも終わってなくて。ハートのマスターをようやく出したところなので……ちょっと言えないというか「わからない」です(笑)。

編: どれくらい、という希望や目標はありますか? このへんまでは出したい、みたいな?

鯉沼氏: 今の予定くらいでいいかなと思っています。開発チーム内から要望があったのは「ハート様は動かしたいなぁ」、「無法者でヒャッハー! がしたい」っていうことでしたし。

編: 十字キーで色々な声が出るとか。「ヒャァ! 水だぁー!!」とか。

鯉沼氏: そういうのはないですけど(笑)。どちらかといえばお遊びなので、面白いキャラを入れておしまいですね。

編: DLCキャラクターは、そういう位置づけ?

鯉沼氏: そうですね。追加のオマケアイテムという位置づけですので、お遊び程度です。キャラクターだけではなくシナリオ配信も予定していますし。

編: ジャギの幻闘編に出てくるデカいババアも期待していいんですか?ぶっちゃけ、デカいババア、使えるんでしょうか。プレイアブルになりませんか?

鯉沼氏: DLCキャラクターは本当にアドオンでちょっとオマケで作ってるだけなので、そんなに期待されてもですね……(笑)。

編: ジャギの幻闘編、わりとはっちゃけてますけど。あれも原先生の公認なんですよね?

鯉沼氏: そうですね。一連のストーリーはOKをいただいています。当初はもうちょっとはっちゃけていたんですけど、色々と修正もされました。

編: 境界線とか気づかれました? 「あぁ、ここにボーダーがあったんだ」とか。

鯉沼氏: 元の原作から、この程度なら逸脱しないかな? っていうところまでじゃないとやはりダメですね。

編: セリフなどは、全部書いて提出されたんですか?

鯉沼氏: 全部送っています。シナリオもセリフも、全部確認していただいて。

編: ダメだったなかで「これは入れたかったなぁ」というのはありましたか?

鯉沼氏: いやでも、だいたいは許容していただいたとは思っています。

編: 最後に、ユーザーのみなさんにメッセージをお願いいたします。

鯉沼氏: まず「北斗の拳」ファンに楽しんでいただきたい。あと「北斗の拳」を知らない方でも遊べるように作ったゲームなので、ぜひ遊んでみてください。

編: 本日はお忙しいところを有難うございました。



(C)武論尊・原哲夫/NSP 1983 版権許諾証KOI-001
(C)2010 KOEI Co., Ltd. All rights reserved.

(2010年 3月 27日)

[Reported by 豊臣和孝]