インタビュー

【Tankfest 2017】Wargaming.net CEO Victor Kislyi氏インタビュー

「Tankfestは我々にとってディズニーランドのようなもの」、「WoT」に日本の作曲家が参加へ

6月24日収録

会場:ボービントン戦車博物館

 Wargaming.netといえばやはりこの人、CEOのVictor Kislyi氏。スタッフから“ボス”と呼ばれ、気さくな性格で愛されている。Kislyi氏はTankfest初日に会場を訪れ、VIP席にかしこまって座って装甲展示を見るわけでもなく、ひとりで自由気ままに会場を回ったり、ファンと写真撮影に応じていたりしていた。

 今回は、Wargaming.netの協力によって実現した「The Tiger Collection」の会場であるTiger Hallでぶら下がり取材の形でKislyi氏にインタビューすることができた。取材後、事前に調整してあったのか、大勢の来場者でひしめく中、ひょいとTiger 131に飛び乗り、臨時の撮影タイムとなった。スタッフに「あれは誰だ?」、「どうやったら乗れるのか?」、「何のイベントだ?」とやや混乱気味になったが、Kislyi氏らしい演出と言える。インタビューでは、未発表の日本の作曲家が、「World of Tanks」に楽曲を提供するという情報をポロリしてくれた。ぜひ最後まで読んでみて欲しい。

Wargaming.netの協力でTankfestが活性化。引き続き日本・アジア市場を重視

仁王立ちで質問を受けるWargaming.net CEO Victor Kislyi氏
初のモスクワ開催となったGrand Finals 2017だが、会場を満席にできなかったことが反省点として挙げられた
満席の屋外スタンド。ここまでの人気イベントになった背景にはWargaming.netの協力があったようだ

――5月にモスクワで行なわれたGrand Finalsで「World of Tanks」の1年が終わりました。2016年度の総括と今年度の抱負について聞かせて下さい。

Victor Kislyi氏:Grand Finalsに関しては良いところと悪いところがありました。まず良いところはライブストリーミングの視聴者数が倍になった。これはGrand FinalsというWargaming.netのイベントそのものが世界的に認知され、さらに多くの方に楽しんでいただけている結果だと信じています。悪い所としては、モスクワの会場に想定していたほどのお客様が来なかった。用意した会場をいっぱいにできなかったというのが私たちとしては、悪かった点だと考えています。ただ、モスクワで実施した事によって様々な課題であったり、今後どうしたらいいかが見えてきたので、今後このようなことを繰り返さないように改善できるかと思います。

 ゲームについては、私たちは今後も引き続き常に最新の状態へとアップデートをかけていきます。「WoT」のPC版、Xbox版、PS4版、そしてモバイル版、ほかにも大きなタイトルがありますが、それらに常に大きなアップデートを加え、時代に取り残されないように現代に合わせたゲームとして作っていきたいと思います。

 次に私たちが活動をすることによって、どのような影響を与えてきたのかといいますと、例えばここボービントン博物館を例にとりますと、私たちが初めてTankfestに来た時には、おそらく観客は3,000人程度、この近辺に住んでいる方や、スタッフの家族の方などが中心だったのでそれほど数は多くありませんでした。しかし、私たちがここ数年間でサポートしたり、パートナーシップ、スポンサーシップをさせていただいたことで、今現在は2万人以上のお客様が来られるほど、このTankfestは成長しました。私たちとしては、すべてがそうではないとしても、3,000人から17,000人増えて2万人になったわけですが、そのほとんどの方は私たちが協力をしてサポートしたことによって、新たな方々に知れ渡り、参加に繋がったのではないかと自負しています。

 また私たちが多くの作品とコラボレーションしたことによって、日本を除くほかの世界の国々にも私たちがコラボした作品を伝えることができました。例えば「ガールズ&パンツァー」や「蒼き鋼のアルペジオ」、「戦場のヴァルキュリア」など様々な作品とコラボしてゲーム内に取り込んでいますが、そのおかげで、本来は知ることのなかったであろうロシアであったり、ヨーロッパといった地域で、今まで特に注目されていなかったタイトルが注目されるようになったかと思います。そして今後もそういったコラボレーションは引き続き行なっていきたいと考えています。

――ビクターさんにとって、このボービントン戦車博物館はどういう存在ですか?

Kislyi氏:戦車博物館は世界中にありますので、このボービントン博物館だけが特別な何かというわけではありません。私たちは世界中の博物館と協力しあっています。ただ、今このTiger Hallに来られている方の中には、私たちのプレーヤーの方が非常に多くいらっしゃるので、そういう意味では協力して素晴らしい成果を出せている、非常に素晴らしいパートナーだと思っています。

 私たちはゲームメーカーではありますが、それだけではなく、多くのパートナーさんや企業の方々と、コラボレーションして協力しあって何かを作るということが非常に重要なファクターになっています。ですので、私たちはただのゲーム会社ではなく、コラボレーションすることを非常に重要な業務の1つとして考えています。

――このボービントンにある戦車のなかで一番好きな戦車とその理由を教えてください。

Kislyi氏:まず私が一番好きなのはこのキングタイガー(ティーガーII)です。なぜかというと、ゲームの中ではよく見かける存在ですが、やはり実物を見るとその大きさに驚かされるからです。この博物館ではこの車輌が一番気に入っています。私自身が一番好きな戦車はマウスなのですが、残念ながらここにはなくて、1つはロシアの方ですし、あとはアメリカにありますから。

 ゲームの中の話で言うと、ゲームの中で私が好きなのは、まずマウスです、その次にドイツのE 100、そして最後に日本の五式重戦車ですね。五式重戦車は単純にいうと日本のマウスみたいな車輌なので、セッティングが非常に好みなのです。

――今後のWargaming.netの企業としてのアジア戦略。特に日本に対する戦略について教えてください。

Kislyi氏:まず日本というのはアジアの中でも一番強くタイトルをサポートしている国だと考えています。日本で最初にAPACのオフィスを開きましたし、今は川島さんが代表取締役としております。私たちがアジア各地にオフィスを作ることで学んだことは、アジア地域というのは非常に多くの国が固まった地域でして、それぞれの国で考え方であったり、戦略であったりはかなり違ってきますので、そういったものが私たちヨーロッパとは全く違う考え方でやらなければならないということです。

 またこのアジア地域というのは非常に成長している地域でもありますので、急成長のチャンスがあると思っています。ですので、私たちはよりこのアジア地域に力を入れて、プレーヤーの方々と今以上い密に接しながら、サポートし、彼らの声をよく聞きながら会社を押し上げていきたいと考えています。

――今はほかの企業とのコラボも積極的にやっていますが、将来的にはM&Aなども、特に日本で考えておられますか?

Kislyi氏:可能性としてはなくもないかもしれないですが、それはやはりケースバイケースです。他の会社と合併することや買取をすること、そういったことももしかしたらあるかもしれないですが、それは常に変わっていくと思います。必要であれば私たちはそうすると思います。

――いまビクターさんが最も気になっている企業はありますか?

Kislyi氏:私たちはまず基本無料ということを非常に多くのゲーム会社に影響を与えたと思いますが、そういった意味で小さな会社やおそらく中小企業などでは私たちに影響を受けたところが最近は出てきています。

 私が以前から非常に興味を持っていたのは、シド・マイヤーの「シヴィライゼーション」シリーズを作るFiraxis Gamesは、私個人が好きなので興味を持っています。後、最近ではSupercellの「クラッシュ・ロワイヤル」をエンジョイしてプレイしています。そういった意味でその2つの企業が現在私が興味を持っている会社です。また「League of Legends」で世界的にヒットしているRiot Gamesも私の中では興味深い会社ではあります。

 また、以前から私が好きだった企業にはスクウェア・エニックスがあります。まだ私たちのゲームが有名になる前に「Order of War」というゲームで、コラボレーションしました。そのゲームの開発経験があったおかげで、我々の会社がゲーム開発者として上の方に入ることができたと考えています。そちらも戦車関係のゲームだったので、そういった意味では気になっている企業です。

――では今後スクエニなんかとのコラボの可能性もあると?

Kislyi氏:ないとは言いませんが、とはいえ彼らがヒットさせている「ファイナルファンタジー」と私たちのゲームとは全然違うゲームなので、そういった意味では何とも言えないと。スクエニではありませんが、いまはセガと「Total War Arena」でコラボレーションしておりますので、そういった意味で今後もは日本のゲーム会社と今後コラボレーションする可能性はあると思います。

――2013年に買収したGas Powerd Gamesの新作について話せることはありますか?

Kislyi氏:現時点ではまだ特に何も言えることはありません。Chris Taylorはすでに私たちから手を引いたので、特に彼に関しては言えることはありません。

――次のスペシャルプロジェクトはどのようなものを考えていますか?

Kislyi氏:私はスペシャルプロジェクトの細部すべてを把握しているわけではないのですが、今後出る大きいものとしては、先日アナウンスされたワーナーブラザーズとの「ダンケルク」とのパートナーシップ、こういったものでそういったつながりのものが今後どんどん出てくるかと思います。

 また実は近日中に日本の作曲家の方が私たちの音楽を手がけるという発表を行ないます。まだこちらは詳細を言えないのですが、これも近々発表されると思います。そういった日本人の方とのコラボレーションも進めておりますので、ご期待しておいてください。

――今後ボービントン以外に他国の博物館で協力、提携していくようなことはありますか?

Kislyi氏:ボービントンは以前から伝統的なこのTankfesというものをやっておりましたので、そのため私たちもサポートをするのが非常に簡単でした。もちろんほかの博物館でも小さいイベントだとやっています。特に発表などはしていませんが、約1カ月ほど前にもフィンランドの博物館の方でもこうしたイベントがありまして、そこでも私たちはご協力していますので、ここだけでやっているというわけではないのです。

 また3カ月ほど前にも戦車博物館でミーティング、プレーヤーを集めた特別なプレーヤーギャザリングイベントを実施しました。そういった意味で各地域の博物館で様々なイベントをさせていただいています。そういった小さなイベントに関しては、その国や地域だけのものでありますが、ボービントンは世界中から多くのお客様がくるので、インターナショナルです。また、これは博物館ではないですが、次に私たちが行なう大きなイベントとしては、やはり8月に行なわれるドイツのGamescomになります。

――もし日本に戦車博物館ができたら協力、提携する可能性はありますか?

Kislyi氏:もし作るのであれば可能性はあるのですが、現状ないものに関してコメントするのは非常に難しいので、それに関してはできてから考えます。現状私が知っている、一番日本の戦車を取りそろえた戦車博物館は私たちのゲームの中の日本ツリーだと思います(笑)。日本の技術ツリーを作るには、非常に多くの調整が必要だったため、見た目もそうですし、実際設計図を探したり、ディテールの再現に多くの時間を費やしましたので、作るのに非常に長い時間がかかりました。

――2016年は戦車100周年ということで、ゲーム内外でそれに関連したイベントがたくさん行なわれましたが、2017年は新たなテーマのようなものはありますか?

Kislyi氏:今年のコンセプトとしては、ボービントンに飾ってあるティーガーファミリーを集めたThe Tiger Collection(関連記事)ですね。私としては個人的に別に特別な理由であったり、何かの記念だったりは必要ないと思うのです。このボービントンのTankfestは1年に1回だけではありますが、私たちにとってはディズニーランドのようなものですから。

――現在Steamでは、インディゲームの支援が行なわれていますが、一方で委託してパブリッシュして、サービスするまでのスピードが過熱しすぎていて、多くのインディーの開発者がちょっと困り始めている状況なのですが、Wargaming.netさんのほうで、例えばWG Labで作って育てたインディゲームを、Wargaming.net独自のプラットフォームで提供するような考えはありませんか?

Kislyi氏:もちろん将来的にはそういったことをやりたいと思っています。その環境を作るのに、長い時間がかかっています。Steamは決してここ最近できたものではなく、もう何年も調整された上で、完成されているものですので、そちらの完成度に追いつくためには私たちもそれなりの時間と覚悟を持って行なわなければなりません。すぐにできることではありませんが、将来的にはそこまでやりたいと思っています。

――Wargaming.netは、日本ではゲームメーカーとしては著名だが、日本の産業界、博物館全体への知名度がありません。そのあたりについてはどのように考えていますか?

Kislyi氏:私たちとしては、すべての領域をカバーすることは絶対に無理ですので、まずはゲーム業界というところで認知度を上げていきたい。それに私たちの今一番の目標は、プレーヤーをいかに満足させて喜ばせるかということなので、各地域でプレーヤーの皆さんをハッピーにゲームができるのであれば、私たちとしてはそれが一番です。

 我々は株式会社ではなく、株を持っているのも私と兄弟と父、そして一部の立ち上げメンバーだけのプライベートカンパニーです。上場して大きな会社になってしまうと、自分たちの株価であったり利益を考えてしまいますが、私たちはそういう考えとは違います。私たちとしては、特に利益を目標としていないので、大きな目標の1つとしてプレーヤーをみんなハッピーにすることを全社員が共有しています。

 現代の大きなエキスポには参加しますし、より多くのプレーヤーと触れ合える場所でもやっていますし、プレーヤーの方々が一番楽しめるゲームのアップデートに力を入れています。こういうことをプレーヤーの皆さんにお話しさせていただいています。

――その日本のゲームファンに向けて最後に一言メッセージを。

Kislyi氏:これもまだ詳細は言えないのですが、アジアの方々に向けてより力を入れた取り組みを今考えております。今後アジアで、様々な変化が起こるかと思いますので、それを楽しみに待っていてください。

【Kislyi氏とTiger 131】