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【Tankfest 2017】Wargaming/The Tank Museum、「Tankfest 2017 Media Day」を開催
Wargamingが博物館を支援する理由、AR/VRが博物館にもたらす恩恵とは?
2017年6月26日 07:00
Wargaming.netと、英国ボービントンにあるThe Tank Museumは、戦車の祭典「Tankfest 2017」の開幕に先立ち、世界中のメディアを集めてプレスカンファレンスを開催した。
記事タイトルを見て「え?」と思ったゲームファンも多いだろう。GAME Watchはゲーム専門メディアであり、戦車そのものは対象外だからだ。確かに、過去に特別企画でボービントン戦車博物館に訪れたことはあったが、正面切って取り上げたことはない。
今回取り上げる理由は、「Tankfest2017」のメインスポンサーを「World of Tanks」の開発元であるWargaming.netが務めており、かつWargaming.net自体の事業のひとつとして、グローバル規模での戦車博物館の支援というものがあり、それら取り組みを取材して欲しいと依頼されたためだ。
奇しくも昨年の特別企画で訪れ、時間足らずで後ろ髪を引かれる思いで退却し、再訪を誓っていたボービントン。わずか1年後に再訪する機会に恵まれ、仕事を抜きにして嬉しさ爆発であり、E3直後の実施ということで、ロサンゼルスから日本に帰国してまもなく日本からドバイ経由で、1日掛けてロンドンに行き、そしてさらにバスで3時間かけてボービントンに行くという地獄のような工程を覚悟しなければならなかったが、依頼が来た際、あまり深いことを考えずに「行きます」と即答してしまった。これは言わば宿命であり、行くしかないと思ったのである!
ボービントンとのパートナーシップは今年で7年目。濃密なWin-Win関係を構築
さて、両社によるプレスカンファレンスは、会期前日にビークルコンサベーションセンター(車輌保存センター)を会場に開催された。ビークルコンサベーションセンターといえば、100輌以上の戦車が保管され、1日に1時間だけ開放される秘密の倉庫だ(参考記事)。
この倉庫の一部を借り切る形で、Wargaming.netブースを設け、そこにプレスカンファレンスが開かれたメインステージや、試遊エリア、そしてフォトセッション等が可能なコミュニティスペースなど、ゲームショウのような雰囲気で専用エリアが展開されていた。しかも凄いのは普段はまったく立ち入ることができない1階エリアを使っていることであり、保管されているレストア待ちの戦車を間近で眺めることができるのである。
ただ、今回は100%仕事で来ており、おいそれと持ち場を離れることは許されない。しかし、その一方で、レストア待ちの戦車が筆者を待っているのも事実であり、この機会を逃したら二度と見る機会がないかもしれない。「これはもう“戦車の森”に迷い込んだふりをして、プレスカンファレンスからインタビューから全部ぶっちぎって戦車取材するしかないか!」とも思ったが、そもそも追い出されたら元も子もないので、グッと我慢で仕事をしてきた。以下はその成果である。
さて、プレスカンファレンスではWargaming.net関係者から、戦車博物館の支援を重視する理由が繰り返し語られた。
Wargaming.net EU General ManagerのMarkus Schill氏からは、ボービントン戦車博物館とのパートナーシップが、すでに7年に続いていることが紹介され、Wargaming.netが、英国戦車を中心に貴重な実車データをゲームに反映できているのに対して、ゲームに実車同様の戦車が実装されたことで、博物館や戦車に興味がない若い層が、戦車博物館に来てくれるようになったことを紹介した。
ボービントン戦車博物館には、Wargaming.netの名前を冠したエデュケーションセンターが存在し、Wargaming.netスタッフがデータ収集の際の拠点として利用したり、ボービントンのスタッフが、来場者に戦車の歴史を教えたりすることに使っているという。
そして4月からスタートした特別展示「The Tiger Collection」のスポンサーもWargaming.netが務めている。こちらについては実際に会場を視察することができたので、後ほど別稿にて詳しくお伝えするつもりだが、Tiger 131をはじめとしたボービントン戦車博物館のコレクションに加えて、米国からフェルディナンドを運び込み、さらにティーガーファミリーの中でもとりわけ“異端児”であるシュトルムティーガーについては、トラブルでレンタルできなくなったため、ARを使ってバーチャル展示を実施するという荒技でコレクションに加え、世界に現存するティーガーシリーズを一目に収められるという夢のような特別展示となっている。
現在は、ボービントンのほか、スウェーデンやフランスでも、強固なパートナーシップの元で各種イベントを開催しているという。今後の展開については、ARやVRといった新しい技術を使った形でのイベントを増やして行きたいという。今回のAR展示はその一礼で、デジタル世代の若い層を獲得し続けるためには、最新技術を使った展示が有効だと考えているようだ。
ボービントン戦車博物館からはマーケティングマネージャーのNik Wyness氏より、Tankfestに関する情報が紹介された。Tankfestは、英国の一地方で開催されるイベントで、日本での知名度はあまりないが、すでに15回目を数え、2日間で2万チケットを販売するビッグイベントとなっている。
20%は海外からの来場者で、300以上の戦車が展示され、そのうち60台以上の戦車が走行展示される。走行展示では、ノルマンディ上陸作戦など、歴史的な戦闘が再現されるが、200人以上のアクターが軍服を着て役割を演じる。そのほか、有料となるが、実際に戦車に登場することも可能で、戦車好きなら一度は訪れたい魅力的なイベントとなっている。
印象深かったのは、人びとが「戦車を知る手段」だ。かつて若者が戦車を知るためのもっともメジャーだった手段はプラモデルで、Wyness氏はその一例として、ティーガーIIのポルシェ砲塔モデルのタミヤ製プラモデルを紹介したが、今は「World of Tanks」をはじめとしたゲームの影響が大きいという。ゲームを通じて戦車を知り、関心を持ち、戦車博物館に足を運ぶという流れが生まれており、これによりプラモデルでは獲得できなかった層を新たな来場者として呼び込むことに成功したという。
彼らが「World of Tanks」で戦車を知った後は、実物を見たくなる。戦車博物館で実物を見てもっと好きになり、友人に勧めるようになり、コミュニティに広がっていくという循環が生まれているという。ボービントン戦車博物館にとって「World of Tanks」は、かけがえのないパートナーだということがよく理解できた。
「World of Tanks」のユーザー数は累計2億ダウンロードを突破!
Wargaming.net EUチームからは、Wargaming.netそのものの歴史も語られた。弊誌ではタイトル情報も含めて詳しく取り上げているのでここで繰り返すことは避けるが、「オッ」と思ったのは、いつもは出さないユーザー数に関する数字を出したことだ。今回はゲームメディアのみならず、ミリタリーメディアも数多く参加しており、凄さをわかりやすく伝えるために若干サービスしたものと思われる。
それによれば、「World of Tanks」は、現在9カ国で展開され、実装済みの戦車数は500を突破し、これまでに90回以上のメジャーアップデートが行なわれている。気になるユーザー数は、PC版は1億1,000万人の会員登録、モバイル版「World of Tanks Blitz」が8,000万ダウンロード、コンソール版「World of Tanks Console」は1,250万ダウンロードとなっている。コンソール版の1,250万という数字は、コンソール市場で見るととてつもない数字だが、それでもPC版やモバイル版の数字を見ると霞んでしまう。逆に言えばPC版とモバイル版がいかにメガヒットを飛ばしているかがわかる。
そしてWargaming.netがゲームメーカーとしてユニークなのは、ゲームビジネスだけにこだわっていないところだ。社内の正規部署として、スペシャルプロジェクトを担うチームが存在しており、そこは常にゲーム以外のことばかりを考える部署だという。過去の例で言えば、実物の戦車とアクターを使って戦場をVRで再現した「VR360」や、ボービントンをはじめとした各種戦車博物館との各種コラボレーションが挙げられる。
Wargaming.netがなぜ博物館とのコラボレーションを重視するかというと、あらゆるメジャーなスポーツやミュージックコンサートと比較しても、より多くの来場者を集める、プロモーションとしては格好の場だと考えているからだ。
一方で、博物館は、若い世代の取り組みに苦慮しており、Wargaming.netが持つ、CG開発能力や、ARやVRへの応用力、いわゆるデジタルネイティブと呼ばれる若い層にアピールできる技術力を求めている。かくして両社はパートナーシップを交わし、お互いのメリットを活かしながら共存共栄の道を歩んでいるというわけだ。
例として、バトルオブブリテンでロンドンへの空襲を行なったドイツの双発爆撃機ドルニエ Do 17のサルベージプロジェクトにおけるサルベージ工程の映像作成や、Google とのコラボレーションによるHMSキャバリアのバーチャルツアー、ユトランド海戦のバーチャルツアーアプリ、そして昨年実施された戦車生誕100周年記念アプリなど、毎年のように“新作”をリリースしている。
表現方法としてARやVRを重視する理由は、若者がそれを求めてる以上に、博物館の新たな展示の仕方として非常に適しているからだという。たとえば、戦艦や軍艦は、内部の侵入は物理的な危険が伴い、さらに車内に残留するアスベストや放射性物質などの問題もあって、実物があっても入れないことが多い。ARやVRを使えば、それを多くの人に見せられるだけでなく、わかりやすく、かつ博物館に行かなくても伝えることができる。AR/VR展示は、Wargaming.netが主導して行なっているだけでなく、博物館側にも大きなメリットがあるわけだ。
そして今回の「Tankfest2017」における新作が、特別展示「The Tiger Collection」におけるシュトルムティーガーのAR展示だ。モバイルアプリでシュトルムティーガー情報が参照できるという単純なものではなく、MicrosoftのHololensや、Google TangoといったARデバイスを利用し、特別展示会場の一角のシュトルムティーガースペースにそれらデバイスをかざすと、隣のティーガー131と同じ縮尺で再現され、解説を聞いたり、内部構造を覗いたり、射撃シーンを楽しむことができるというものだ。
位置情報を正確に把握しており、体験者が動くことで、シュトルムティーガーの真横や真後ろを見ることもでき、ティーガー131と見比べることもできるという、ARならではの特性を活かしたバーチャル展示となっており、今回の目玉のひとつとして期待されている。
以上のように、博物館とWargaming.netは、相思相愛の関係で太いパートナーシップで結ばれており、このコラボレーションは今後も積極的に推進していくという。日本は、軍事アレルギーが強いものの、多くの軍事博物館があるため、日本でのコラボレーションにも期待していきたいところだ。