インタビュー

「FOVE」開発版が出荷間近! 小島CEO、ロクランCTOインタビュー

アイトラッキングでプレミアムなVR体験を! HTC Viveの上位互換を目指す

9月15日~18日 開催

会場:幕張メッセ

入場料:
一般前売券 1,000円(税込)
一般当日券 1,200円(税込)
小学生以下無料
人だかりができていたFOVEブース
こちらがデベロッパーキット「FOVE 0」

 TGS 2016ではVRが大きなトピックとなり多数のブースが出展されたが、その中でひとつ、国内の企業として気鋭のVRシステムを開発している企業がFOVEだ。9~10ホールにまたがる「VRコーナー」にデモブースを出展した同社は、11月3日より先行予約を開始予定のデベロッパーキット「FOVE 0」をプレイアブル出展し、独自のアイトラッキングシステムを用いたVR体験を多くの来場者に披露していた。

 出展された「FOVE 0」は、独自の高度なアイトラッキングシステムを搭載したVRヘッドセット。「0」とあるのはデベロッパーキットという位置づけのためで、今後の一般消費者版に向けた試験用あるいはコンテンツ開発環境として多くの開発者に利用してもらうバージョンとなる。既に量産準備も整ったとのことで、日本時間で11月3日の午前0時より順次プレオーダーを開始する。注文が殺到した場合、充分な数が確保できない場合があるため、確実に入手したい方は同社のWebサイトにてウェイトリストに登録して欲しいと呼びかけている。

 「FOVE 0」は同社が開発した高精度・高速なアイトラッキングシステムを搭載することが特徴だが、ディスプレイに2,560×1,440という高解像度のOLEDパネル(70fps駆動)を搭載し、高詳細なVR映像を表示できることも特徴のひとつ。ヘッドトラッキングについては独自システムによるポジショントラッキングを搭載しており、Oculus Riftのような“VR空間内で頭を動かせる”という体験が可能だ。

 とはいえ、それ以上の情報についてはあまり明らかになっていない「FOVE」。今回、ブース内にてCTOのウィルソン・ロクラン氏と、CEOの小島由香氏にお話をきくことができたのでお届けしよう。

体験エリアではアイトラッキングで狙いをつけるロボットシューター「Project Falcon」や、アイコンタクトのみでテロリストによる尋問からの脱出を図る「Judgement」など、6種類のゲームを選んで遊べるようになっていた。特に「Judgement」は目を瞑ることでフラッシュバンの閃光を回避できるなど、アイトラッキングHMDならではの仕掛けが一杯で面白い
実際に装着してみたところ。装着感は良好で、前モデルにあったズレやすいという問題も解決している。ただ、密閉度が高く、やや熱が篭りやすい感じはあった。視野角はHTC Viveよりは狭いが、90度はある。リフレッシュレートが70Hzのためややトラッキングに遅れを感じたが、コンテンツに入りこめば気にならない程度だ。パネル解像度が高いため、映像のクオリティはOculus RiftやViveより鮮明な感じに見えた。HTC、Oculusの“ビッグ2”以外のHMDの中では最も高い品質にまとまっているように感じる。
【FOVE: Your Human Connection in a Virtual World】
TGS 2016の開催に合わせて公開された新しいプロモーションムービー。アイトラッキングがどのように働くかを確認できる

「OpenVR互換でオープンな環境を作りたい」。CTOウィルソン・ロクラン氏インタビュー

CTOのウィルソン・ロクラン氏。FOVEの心臓部であるアイトラッキング技術は彼のオリジナルだ

――以前取材した際、アイトラッキングについて「個人差を吸収することが課題」ということでした。現在のバージョンではいかがですか?

ロクラン氏:かなりの改善を行ないましたが、まだ完全ではありません。現在ではズレを吸収するシステムを実装していますが、最終版には至っていない状況です。とはいえ個人差はかなり吸収できるようになっています。メイクをしていても、コンタクトレンズを付けていても完全に追跡できます。それに加えて、個人差を吸収するため、社内で機械学習を使って精度を高める作業をしています。

――より多くのデータが集まればさらに精度が高まるということですね。

ロクラン氏:そうです。日本ではかなりのデータを集めましたが、海外ではまだ足りない部分もありますので、そこを充分にカバーできるように取り組んでいるところです。

――個人差を吸収するシステムというのは、HMDのファームウェアのような形で実装されるのでしょうか?

ロクラン氏:いえ、ソフトウェアレベルで処理されます。非常に軽い処理です。

――そうすると、ハードウェアの出荷後でもアップデートでさらに精度を高められるということですね。

ロクラン氏:もちろんです。ですが現時点でも、瞳孔を検知する精度については世界一だと思っています。これまでいくつもの論文を見てきましたが、もし我々が論文を出せば世界一の技術だと言われるようになると思います(笑)。

――先日の基調講演でも仰っていましたが、アイトラッキングの利用法はかなり広い範囲にわたるということでしたね。ロクランさんはどういった活用が特に面白いと考えていますか?

ロクラン氏:UI・UXの部分ですね。アイトラッキングが他のコントローラーと複合的に使われる可能性が非常に高いと思っています。例えば目でみたものが自動的に操作の対象になるとか、無意識であっても見たものをゲームが検知して何らかの反応をするといった使い方ですね。例えばパズルゲームで、パズルの解決につながるヒントを見たかどうかをゲーム側が把握できるんです。それによってゲーム側で何らかの演出をしたりなど、UX細かい微調整が可能になると思います。

――それは面白いですね。「この部分に気づいてるなら教えなくても解けるよね」みたいなこともできますね。

ロクラン氏:AIと連動することでも面白いことができます。味方であっても敵であっても、プレーヤーに見られているかどうかが確実にわかりますので、例えば敵がプレーヤーに見られていない、ということがわかればいろんなゲーム的な展開に繋げることができますね。

――先日の基調講演では「サマーレッスン」のようなコンテンツにアイトラッキングが付けばすごいことになりそう、というふうなことも仰っていましたね。

ロクラン氏:もちろんです。プレーヤーに無視されているかどうかもわかりますし、変なところを見られていることもわかりますし(笑)。見られたらそれに反応してしまうというのが人の基本ですが、今のVRシステムでは視野に入っているかどうかしかわからないんですね。FOVEでは顔は向けていないけど目では見ている、ということが検知できますから、、人間同士のやりとりをより自然に表現することができます。

――目を見ているのか、口を見ているのか、といった細かい検出も可能なわけですね。

ロクラン氏:もちろんです。例えばキャラクターが新しいネックレスをつけているときに、プレーヤーがそれに気づいたことに、キャラクターが気づけると面白いですよね。そういった、より繊細なコンテンツが作れることは間違いありません。

――FOVEが出荷されたあとに、ソフトウェアのディストリビューションプラットフォームを運営するつもりはありますか?

ロクラン氏:基本的には、プラットフォームを作る予定はないです。ValveのOpenVRに対応するコンテンツはFOVEでも使えて、FOVEに特化したコンテンツもSteamで使えるようにするといった、オープンな環境を作りたいと考えています。なぜかというと、視線追跡はプラスアルファの要素として遊びたいという人はたくさんいますけれどもまだメジャーではないので、ゲームスタジオに我々の専用SDKを必要とするような形にすると断られることが多くなると思います。その代わりに、SteamVRの追跡デバイスに目が入るという形であれば簡単に使ってもらえるはずです。

――そうすると、FOVEに対してはOpenVR SDKのプラグインのような形で対応できるというわけですか。

ロクラン氏:はい、OpenVRのプラグインとしては今準備しているところです。HTC ViveのコンテンツをFOVEに対応させることも簡単にできます。今のところはモーションコントローラーに対応していないのですが、技術的には使えない理由はないですね。

「FOVE 0」のガワを外してトラッキングシステムの中身を見せてくれた(写真はNGとのことで掲載していない)。Oculusのものに似ていて、HMD周囲に多数のLEDを埋め込んだシステムになっていた

――ちなみに現在のバージョンでポジショントラッキングはどのようになっているのでしょうか?

ロクラン氏:はい、入っていますよ。比較的単純なLED追跡システムなのですけれども、我々がゼロから設計した技術を使っています。特徴としては、Bluetoothを通じた同期処理が全くありません。OculusのシステムではLEDの点滅とカメラのVSYNCが同期しているのですが、我々のシステムではそれが必要ありませんので、いろんな有利点があります。

――カメラも独自のものなのですか?

ロクラン氏:いまはまだ既存のOSVRのカメラを使っていますが、今後は独自のものにするつもりです。もともとはHTC ViveのLighthouseを使いたかったのですけども、いろいろな複雑なことがありまして「FOVE 0」には間に合わせることができなかったんですね。いまになってやっと全ての情報が来ましたので、次のモデルでは多分、きっと、Lighthouse対応になります。

――現在のLEDトラッキングシステムを無くして、となりますね。それは大きな決断ですね。

ロクラン氏:我々がこの技術(独自のLEDトラッキングシステム)を作った理由は、位置追跡がないとVRにならないという考えがあるためです。OSVRのシステムを使おうかという案もあったのですが、結局使えなかったので独自に作ることになりました。でももともとはLighthouseに対応をしたかったので、このシステムは長く使わない可能性がありますね。

将来的にはLighthouse対応を念願としているFOVE。「FOVE 0」の仕組みやデザインは、デベロッパーキット特有のものになるかもしれない

「FOVEではよりプレミアムな形で楽しめる」。CEO小島由香氏インタビュー

CEOの小島由香氏

――最初のプロトタイプを発表してから1年半ほど経過し、ようやく初号機のプリオーダー開始となりましたね。今の率直なお気持ちをおきかせください。

小島氏:本当に月並みですが、あっという間だったようで、その間にいろいろな業界の変化もありましたよね。発表した当時はまだOculusがFacebookに買収されていませんでしたし、HTCがViveを出すというニュースもありませんでしたし、プレーヤーはOculusさんだけでした。それがこの1年半くらいでOculusが出て、Viveが出て、PlayStation VRが出てと、すごく目まぐるしく状況が変化しているように思います。ここまでになるとは想像していませんでしたので、これから起こる1年か2年も、私達が想像しているよりもVRが日常に浸透していく段階になるのではないかと、静かにワクワクしているところです(笑)。

――小島さんはずっと、バーチャルキャラクターと出会うためにこの事業をやっているといつも仰っていますね。

小島氏:そうなんですよ、それがずっとやりたかったんですよね。

――PS VRでは「サマーレッスン」などのコンテンツが出てきていますが、FOVEでもそういったバーチャルキャラクターとコミュニケーションできるようなコンテンツを作ったり、あるいは作り手を支援するといったことは考えていますか?

アイトラッキングだけでゲーム展開が分岐する「Judgement」
「Project Falcon」では視線でエイミングができる

小島氏:基本的に考えています。今はまだ、キャラクターにフォーカスするのか、それとも映画的なコンテンツのひとつとしてキャラクターとのコミュニケーションを位置づけるかといったことを検討中です。一人のキャラクターと親密性を深めていくゲームも考えていますし、もう少し近いところで言うと、大きな物語の中でキャラクターとインタラクションできる、今までのゲームになかったようなインタラクションで物語が自然に分岐するといったものですね。

 今回出している「Judgement」というゲームは、これはちょっとゴツイおっさんが出てくるんですけど、テロリストから脱出するためにアイコンタクトを使うというところから入っています。これはユーザーインターフェイスをなくし、目のコミュニケーションだけで物語を動かせないか、という発想で開発されました。これを次につなげて、好感度パラメーターのようなものをなしに、ナチュラルなインタラクションだけで世界が変わっていくようなコンテンツを作りたいなと思っています。

――コンテンツ面でいいますと、FOVEさんのハードウェアはOpenVRで動作しますから、HTC Viveで動くけどFOVEでプレイするともっと凄い、という風になっていくのでしょうか?

小島氏:そうですね。今ですと、アイトラッキングへの対応が2段階あります。全く対応しない、というのがゼロだとすると、深度方向へのフォーカス表現ですとか、Foveated Renderingなどの表示系でアイトラッキングを活用するというのが第1段階です。これであればゲームシステムを変更せずに対応できますので、Viveでも遊べるけどFOVEだったらよりプレミアムな形で楽しめるというふうにできます。

 もうひとつはアイトラッキングありきのゲームシステムを1から作る、あるいは既存のゲームにアイトラッキングを機能として載せるという対応ですね。これについては現在、いろんなゲーム会社やコンテンツデベロッパーの皆さんにお願いをしているところです。ここまでいくと目を使ってエイミングをしたり、アイコンタクトをしたりなど、ゲームフィーチャーでのプレミアムを付けることができます。

――いわばFOVEは、HTC Viveの上位互換のような位置づけになるのがひとつのゴールなんですかね。

小島氏:そうですね、オプション入りみたいな。私のイメージだとOpenVRはAndroidのようなもので、そこにFOVEだけでなくいろいろなヘッドセットが乗ってくるというイメージです。やっぱりHTCさんが一番メジャーなのですが、その中でユーザーさんが好きなヘッドセットを選んで、OpenVR対応のコンテンツをどれも楽しめるというふうになるのが理想です。

――今春にはテクノブラッドとの提携を発表され、ネットカフェ向けの展開を本格的に行なうと伝えられました。具体的な時期や、どういう形で出るかというのはもう決まっていますか?

小島氏:具体的な時期としては今年の冬を予定しています。11月3日から先行予約が始まりますが、実際の出荷は年末から来年の頭にかけて行なう予定で、そのタイミングに合わせて日本と韓国のネットカフェに向けて展開していくことになると思います。国外も含めてテクノブラッドさんの管轄店舗が7,000店舗ほどありますので、できるだけ多く出せるようにしていきたいですね。

――一般の方にとって本格VRシステムを触れる機会はまだまだ少ないですので、テクノブラッドとの提携はFOVEにとって非常大きいことですね。

小島氏:そうですね、そこは本当にありがたいことだと思っています。今ですとネットカフェだけでなくテーマパークや教育機関といった分野でもテクノブラッドさんが紹介をしていてくれてまして。特に今回のデベロッパーキットにおいてはテクノブラッドさんが韓国の販売代理店になってくれている感じですね。

――なるほど、韓国は普及の下地PCゲーム市場が大きいですから、重要になりそうですね。最後に、FOVEさんとして今後の展望をお聞かせください。

FOVE公式サイトで先行予約ウェイトリストへの登録ができる

小島氏:アイトラッキングはゲームにおいて色々な活用ができることは間違いないですし、ゲーム以外でも、例えば教育や福祉など、使い方は無限で、コンテンツを作っていただける方の想像力次第だと思います。この2年、こんなに時間がかかるとは思っていなかったのですが、必死の思いで作ってきたプロダクトを、自信を持って皆さんにお届けできるタイミングがついにきました。ぜひ皆さんの想像力の赴くまま、アイトラッキングを使って遊んだり、実験していただきたいと思います。そして私も思いつかなかったようなアイトラッキングの可能性というものを、ぜひFOVEにも見せていただきたいと、心の底から思っています。

 今回出荷するのはデベロッパーキットということで、SDKとしてはUnityプラグイン、Unreal、それからシリコンスタジオさんの新しいゲームエンジン「XENKO」にネイティブサポートしていただけることになり、開発環境も整ってきています。既にVRコンテンツを作られている方には使いやすい形になっていますので、お気軽に触っていただいて、既存のものを対応させる、新規コンテンツを作るといった形で、間口広く、また奥深くコンテンツを作っていただければと思います。私も一緒にやっていきたいと考えていますので、興味のあるかたはぜひコンタクトをいただければ幸いです。

 最後に、11月3日から先行予約を開始するのですが、お得な割引情報のようなものをウェイトリストに登録された方のみに配信する可能性がありますので、ぜひウェブサイトからウェイトリストに登録していただければと思います。よろしくお願いします!

――ありがとうございました。