インタビュー
SIEワールドワイド・スタジオプレジデント吉田修平氏インタビュー
プレイステーション 4 Proと対応アップデートの状況、PlayStation VRの今など伺った
2016年9月18日 19:20
小型・軽量化した「新型プレイステーション 4」に、よりハイスペックになり4K解像度に対応する「プレイステーション 4 Pro」、そしてバーチャルリアリティ(VR)システムの「PlayStation VR」と、展開の多いソニー・インタラクティブエンタテインメント(以下、『SIE』)。
これら一連の展開や今後について、SIEワールドワイド・スタジオプレジデントである吉田修平氏に合同インタビューが行なわれたので、その内容をお伝えしていこう。
吉田氏:皆さんは4K・HDRテレビでのPS4 Proでのゲームはもうご覧頂けましたか?
――このインタビューの直前に見させて頂きました。あの違いはすごいですね。
吉田氏:びっくりしますよね。「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」でのHDRあり/なしをその場で切り替える比較もご覧頂いたと思うのですが、HDRなしだって「綺麗だなー」って思うんですけど、HDRありにするとディテールが急にくっきり見えるようになる。解像度は同じ4Kなんですけどね。
――変化の大きさにかなり驚かされました、あれはSDRには戻れなくなりますね(その4K・HDRテレビでのPS4 Proのゲーム試遊は別記事にてお伝えする)。
ここ最近、PS4の発表が続きました。小型・軽量化された新型と、スペックアップしたPS4 Pro。これらにワールドワイドから反響が来ているのではと思いますが、どんな手応えを感じていらっしゃいますか?
吉田氏:そうですね“安くなって小さくなったPS4”というのはわかりやすいですよね。「これを待ってた!」というお客様もいるでしょうし。特に日本はこれからソフトラインナップがすごく充実していきますので。
ソフトのラインナップ充実とハードのリフレッシュが同時に起こるというのは、1番良い形だと思います。どちらかだけでは足りない。それが今回はサードパーティーさんのおかげで同時にできたのが大変にありがたいです。
PS4 Proの方は、ニューヨークの発表会に来て頂いた方には様々なデモを自分の眼で見ていただいたので、いろいろと伝わったと思います。ただ、ライブストリーム放送はしたものの、PS4 Proでの違いは4KやHDRではないモニターやスマートフォンで見ても、どうしても伝わり辛いんですよね。そこは難しさを感じています。スペックだけで想像できる人もいれば、「何が違うのかわからない」と反応する方も結構多いんです。
――確かにそう思えてしまっている人も多そうです。
吉田氏:実際のテレビで見てもらえれば、すぐにわかってもらえると思います。
あと、PS VRでもタイトルの作り方によって、PS4 Proであればかなり違いが出てくるんですよ。PS VRのタイトルはPS4に特化して最適化して作っているわけですが、PS4 ProならGPUは2倍以上のパフォーマンスがあるのでレンダリングするときの解像度を上げてみようとか、追加のグラフィックスエフェクトを入れてみようとか。様々なことを試しています。PS4 Proならさらに綺麗に見えるようになります。
4Kテレビを持っていなくてもPS VRを最高の品質で愉しみたい人や、PS4を前から持っていてPS VRを買うという人でも、PS4 Proも買って頂ければ、さらに最高品質な体験ができます。4Kテレビを持っていない人にもPS4 Proはオススメしたいです。
――PS VRは今月の9月24日に発売前の最終予約を受け付けるということですが、これまでも含めて反響はいかがでしょうか?
吉田氏:世界中で予約をするとすぐになくなるんですよね。なので、ちょっと供給が追いついていない感じです。ただお店によって変わりますが、初回出荷数が全て予約だけに回されるわけではないので、当日でも買えるところもあると思います。
発売後も、盛田とも話していますが、常に製造数は増やす努力をしていきます。発売後しばらくは買えない時期が続く場合もあるかもしれませんが、できるだけ早く需要に追いつきたいと思います。
タイトルもかなり充実してきました。うちの社員がオフィスでバンダイナムコエンターテインメントさんの「アイドルマスターシンデレラガールズ」のVRをプレイしていたら、「すごい、すごい!」と人が集まってきまして。私は詳しくないのですが、女性のファンの人もたくさんいらっしゃるんですよね。女性ファンの人から見ても出来がすごくいいと話していたそうです。
私がわかるのはコンサート会場にいる感じがすごくする、良くできているというところだったのですが。そこも含めてうちの社員はすごく楽しそうにプレイしています。
――PS VRのロンチタイトルは今のところどれくらいの数になりそうですか?
吉田氏:最終的にどうなってくるかはまだわからないんです。自社タイトルで想定していたものは大体揃いそうで、あとはライセンシーさんのタイトル数ですよね。わからないという中には、例えば、欧米のタイトルで、ローカライズや日本での販売形態が決まっていないだけというものもあります。なので、発売初日でなくてもまだまだ出てくると思います。
――ゲーム以外のVR映像コンテンツもだいぶ増えてきましたね。
吉田氏:増えましたね! 私も知らなかったものがあり、びっくりしています(笑)。
ノンゲームのVRビデオコンテンツはすごく重要だと前から思っているんです。VRの楽しさはリアルタイムにインタラクションできることにあると思いますが、パノラマビデオでもその場にいる感覚が得られますし、制作が比較的に楽です。場合によってはライブストリームもできますので、ライブ感やスピード感もあります。
ゲームだと時間をかけて作るので数が限られますが、YouTubeのようなサービスでもそうですが、ビデオコンテンツなら常にアップデートされて新しいものが出てくるようになると思います。それは、PS VRをゲームのために買われた人にとっても毎日使おうという動機になりますよね。あと購入したゲームユーザー以外の家族の人なども使う理由になると思うんです。パノラマビデオコンテンツを集めているサービスはアメリカでも増えていますし、そのサービスにPS VRにも対応して頂いて、そこでアップデートされたコンテンツが120Hzのフレームレートで綺麗に見られるとか。そういう環境にしたいと思っています。
今回私が知らなかったのは、単品のコンテンツとしてVRでオーロラが楽しめる、あるいはゲームを題材にしたVRビデオコンテンツが制作されていることです。様々な企業がVRを使ったプロモーションやコンテンツ制作に投資しているのがわかって驚きました。
――そうしたVR映像作品の制作にもSIEからサポートしたりしているのでしょうか?
吉田氏:技術的なサポートは積極的に行なっていますね。PS VRの性能を活かすためにどのようなスティッチング(複数の写真をつなぎ合わせてパノラマ写真にする技術)をしたらいいかのか。ビデオでも、ソースを4Kぐらいにするとやはり綺麗になるなどの技術的なサポートやノウハウを伝えています。CEDECでも弊社の秋山賢成が発表していますが、パノラマビデオの撮影から編集にはいろいろなノウハウがあるので、情報交換をしてデベロッパーやサービスプロバイダを増やしていこうと考えています。そうすると全体的なクオリティも上がるしコストも下がっていくのではないかなと思います。
我々自身が投資してビデオコンテンツを作っているわけではないのですが、技術的なサポートなどを積極的にやっています。
――ソニー・ミュージックエンタテインメントから出る「anywhereVR」というものもありますよね。あれもアプローチが面白いと感じました。綺麗な景色の中でスマホをいじるというのは、癒やされるし面白いです。
吉田氏:VRの技術を使って何をしたいかと言えば、ひとつにエスケープというかリラックスしたいというのがありますよね。実際、手術後にVRで綺麗な景色を見てもらって気を紛らわすこともあるようです。
PS VRに「The London Heist」というデモがありますが、あの最終版にはロンドンのパブのシーンが入っているんですよ。そこに葉巻とライターがあって、両手で(PlayStation Moveを使って)葉巻に火を点けるんです。そこにクラシックの音楽が流れてきて、もうこんな感じに(背もたれに身体を預けてゆったりと)なりますよ(笑)。オフィス内なのに周りに人がいるのも忘れて、すごいリラックスできます。そういう気持ちを楽しむというのはありだなと思いましたね。
――なるほど、一方でデモや動画だけでなくゲームらしいものも出てきましたね。「V!勇者のくせになまいきだR」とかも面白いです。
吉田氏:あれは最初はアクワイアさんが「こういうのはどうでしょう?」とデモを持ってきて頂いたデモがあったのですが、パッと見て「やりましょう!」となりました。うちのプロデューサーの山本正美も「ゆうなま」シリーズをしばらくやれてなかったので、「やりたいやりたい」と企画を練っていましたが、なかなか機会がありませんでした。でも今回のは「これだっ」と一瞬で思えました。
VRの面白さのひとつに“テーブルトップ”といいますか、神の視点のような感じに、目の前に世界を作ってあげるものがあります。小さいものが動いている様子を覗き込んでみたり、眺めたり。これまでそういうものがラインナップになかったですし、「ゆうなま」シリーズを復活させたかった。そういうタイトルですね。
――目の前にあるボードゲームの中でいろんなキャラクターが動いているみたいな感じで面白いです。
吉田氏:L1/R1で世界を回転させるのも面白いですよね。カシャッカシャッと90度まわって。小気味良いですよね。ゲームとしても深いものに仕上がるといいなと、すごく期待しています。
――PlayStation Moveについてなのですが、10月13日に改めて新発売されますよね。何か改良されていたりするのでしょうか?
吉田氏:以前との違いはほとんどなくて、付属のケーブルが違うだけです。PS MoveはもともとPS3用に作ったので、USBの端子がmini-Bなんですよね。PS4はMicro-USBですから、mini-Bにケーブルを同梱するようにしました。PS Move側の端子を変えてしまうと互換性の問題などが出てきかねないので、基本的に同じにしています。
――コントローラーと言えば「Farpoint(仮)」で使われているPS VR Aim Controllerの国内での販売予定はいかがでしょうか?
吉田氏:発売を積極的に検討中です。
――実はPS VRタイトルの中でも「Farpoint(仮)」が1番のお気に入りなんです。
吉田氏:私もそうなんです、1番好きで。「Farpoint(仮)」は1人でも多くの方に体験してもらいたいです。DUALSHOCK4でもプレイできますけどね。
実はPS VRの秘密兵器は、意外にDUALSHOCK4だなと思っています。DUALSHOCK4はトラッキングできるしVRの空間に表示させると遊びやすくなると思うんですよね。VR空間の中での不安感を抑えるのにも役立ちますし、操作も伝えやすい。ゲームにあわせて表示させるコントローラーのモデルを変えてみてもいいし、タッチパッドもタッチスクリーン的に使えます。
「V!勇者のくせになまいきだR」でもそういう見せ方をしています。
――あれは上手く使われていますよね。魔物を設置するときにパパッと手札が広がったりと。
吉田氏:そうそう、DUALSHOCK4の形から表示が広がるんです。そういう使い方もできるんですよね。
――PS VRとPS Cameraのセットパックがありますが、同梱されるカメラは先日に発表された新型になるのでしょうか?
吉田氏:新型のPS Cameraが同梱となります。
――PS VRゲームをプレイ中のシェア配信はどのようになるのでしょう?
吉田氏:PS4ゲームと同じように“SHARE”ボタンを使って配信できます。配信される映像は、ソーシャルスクリーン機能でテレビ画面に表示されるモノと同じです。
――プレイ中の姿をゲーム中の画面にワイプ表示させて配信できたりしたら面白そうなのですが。PS4 Proに対応しているソフトにはパッケージ等に表記が加わるのでしょうか?
吉田氏:海外では「Enhanced」というマークが入ることになったのですが、日本でどうするかはこれからご案内します。同じようにマークを入れるかもしれません。
――PS VRにかなり期待が高まっていて、VRコンテンツの制作者は作っていて楽しいというんですよね。そこで吉田さんから開発者向けに、「どんなことをしたらもっと面白そうだ」とか、何かヒントを頂けますか?
吉田氏:やはりみなさん「『サマーレッスン』はすごい」と仰るじゃないですか。あれはバンダイナムコエンターテインメントのチームの力があってこそなのですが、キャラクターがこっちを見ていて、自分の動きに反応するだけでも、すごくインパクトがありますよね。それは「サマーレッスン」のようなコミュニケーションを中心にしたゲームでなくても使えることだと思います。
あとは、ゲームのNPCについても、普通のテレビでプレイするゲームでは素通りしがちですが、VRだと“そこに人がいる”感覚があるぶん、NPC同士の会話に聞き耳を立ててしまうこともありますよね。「なに話してるのかな?」って気になる。そのあたりを作り込むとゆっくりじっくり楽しんでもらえるものになるのではないでしょうか。
大量に大きなスペースを作るというよりも、小さなスペースでも密度を入れてあげると、楽しんでもらえると思います。
――「シーマン」みたいなものも改めてやったら面白そうですね。
吉田氏:VRで「シーマン」やったら面白いですね。私も、「サマーレッスン」と「りんな(AIで会話するLINEの女子高生キャラ)」みたいなものが組み合わさり、永久に会話できる世界が来たら面白いなぁなんて思ってます(笑)。
「りんな」はそのときのみで会話が終わると思いますが、例えば話したことを覚えていてくれて、次に話したときに「昨日はどうだった?」と聞いてくれたりしたら、もっと面白くなるのではと思いますよ。
――こんな風にVRって新しい可能性がたくさんあるメディアですよね。でも一方で、ゲームを知らない人から「これは規制すべきだ」っていう声もあるんです。でも、吉田さんはVRでの表現を推進したいという想いがあると思うので。目の前に規制派の人がいるとして、何かコメントを頂けますか?
吉田氏:(笑)。「子供がハマり過ぎて帰ってこなくなるのでは?」とVRの問題点についてのコメントを求められることはこれまでもありました。
確かにそれもわかります。VRは新しい道具ですから。新しい道具の使い方を我々が一緒に学びながら、良いことだけに使って、その良さをみなさんで享受する世の中にしていきたいですね。一方的に「これはダメだ」、「これは大丈夫」と言うものでもありません。
ただし私たちVRに携わっている業界の人間がハッキリと感じているのは、これは新しいメディアでり、何年かすると普通の人も自然に使うようになるということ。それはもう避けて通れません。だからこそ、心配される部分をきちんと克服できるように取り組まないといけない。心配されている人にも理解してもらえるように体験会などを設けていかないといけないな、と思っています。
「人喰いの大鷲トリコ」の発売延期、PS4 Proの対応パッチは現在進行中
――「人喰いの大鷲トリコ」の発売が延期になってしまったのが残念です。
吉田氏:E3で発売日を発表する前にいろいろと審議や確認をするので、バグの数が想定通りには減っていかなかった。もう少しだけ時間をください。
――発売が延期になったぶん、せっかくなのでPS4 Proでプレイするとより綺麗になるなどがあるといいのですが。
吉田氏:まだ具体的なことは言えないのですが、PS4 Proの対応は予定しています。
――PS4 Proについてですが、今回の出展ではブースにはPS4 Pro対応タイトルでの動作デモなどはありませんでした。PS VRも、PS4 Proならより綺麗に楽しめるという点において、一般の人はまだどれぐらい変わるのかがよくわからないのでは、と思います。今後にそれらを体験できるような機会を用意したりはするのでしょうか?
吉田氏:やったほうがいいと思っていますね。ただ、今回そういうものを出せていないのは“対応パッチを作っている最中だから”なんですよ。PS4 Proは11月10日発売なので、これまでに発売されたタイトルのいくつかは“その発売前後”にパッチを用意しようという感じで進んでいます。
やればやるほど「こういう使い方がきる」ということがわかってきますので、それをギリギリまでやりたいというチームが多いです。
――なるほど、PS4 Proの発売日である11月10日時点で、対応の恩恵を受けられるタイトルが出てくるのは、間違いないのでしょうか?
吉田氏:そうですね、実はもうPS VRのDay1タイトルのなかに、PS4 Pro対応をしてマスターアップしているものもあります。ですが、タイトルによって状況が違うので、「対応はこれです!」と今は言えないんです。
……でも少しだけ話すと、PS VRユーザーに無料で配信する「THE PLAYROOM VR」。あれは普通のPS4でも楽しく遊べますが、PS4 Proだと映像がより綺麗になります。もちろん、両者を比較してはじめてわかるものですが。
あとはニューヨークでデモを行なった「Farpoint(仮)」もそうですね。「Farpoint(仮)」はPS4 Pro版のデモが既にあるので、メディアの方をはじめ、体験比較してもらいたいなと思います。PS VRとPS4 Proを用意すればできるので、4K・HDRのテレビを用意するより実は手軽にお見せできるんですよ。
その点も入れると、PS4 Proは4Kテレビを持っていない人にもとてもオススメできます。PS VRに興味がある人はもちろんとして、フルHDのテレビでもフレームレートが安定したり、グラフィックスのフィーチャーを追加したりするゲームも出てきますので。ちょっとお値段は高いですけどね。
――ありがとうございました。