インタビュー

小島秀夫氏に聞く「DEATH STRANDING」の“新しいゲーム性”

現在実験段階中! ストーリー、世界観、ユーザー同士が繋がる世界

6月14日~16日 開催

会場:Los Angeles Convention Center

 現地時間6月13日に開催された「E3 2016 PlayStation Press Conference」で、新作「DEATH STRANDING」をひっさげて電撃的に登場した小島秀夫氏。今回はタイトルとティザームービーの発表となったが、俳優ノーマン・リーダス氏の起用、謎に包まれた内容、そしてタイトルの意味は誰もが気になったところだろう。

 現時点でわかることはまだまだ数少ないが、E3 2016の会場にて小島秀夫氏に直接インタビューする機会を得た。小島氏には「DEATH STRANDING」開発の経緯や現在の心境、そしてベールに包まれた「DEATH STRANDING」に関するヒントを得ることができたので、こちらをお伝えしていきたい。

【『DEATH STRANDING(デス・ストランディング)』E3 2016ティザートレーラー】

作品テーマは「Strand」。すべてが“繋がる”ものに

ティザームービーに起用されたノーマン・リーダス氏

――「E3 2016 PlayStation Press Conference」では、「DEATH STRANDING」の発表があり、世界から大反響がありました。今のご感想は?

小島氏:去年来られなかったので、E3は2年ぶりです。私自身は1997年、アトランタで開催しているころから来ている大好きなショウで、ゲームをプレゼンして、現地の人と交流もできる大切なイベントだと思っています。

 2年ぶりですが、気持ち的には10年ぶりくらいの感覚でいます。シュワルツェネッガーみたいに「I'll be back」と言えなかったので、「I'm back」と言いました。事後報告です(笑)。

 去年いろいろあって、今年で53歳になるのですが、やっぱりゲームは作りたいと。家族は「まだやるのか」とあまり賛成してくれなかったのですが、ゲーム開発は死ぬまでやりたいので、2カ月半でティザームービーを作って発表しました。反響から、選択は間違っていなかった、おっさんでも頑張るぞ、死ねないぞと思いましたね。

――そのティザームービーですが、本当に短期間で制作されましたね。

小島氏:1月末に会社を立ち上げるとなって、まずは建物と人と技術がいりますと。ところが技術、サービスやツールはいま世界中にあるので、それを見に行って、候補のゲームエンジンを探して。

 その中でサンディエゴのパフォーマンスキャプチャーのスタジオを使ってみたいとなりました。それと平行して、会社の立ち上げと、企画と、人集めといろいろやりながら、3月末にノーマン(・リーダス)を口説き、キャプチャーして、そこからデータが納品されてから作るまで2カ月もなかったですが、タイトルもデザインも全部自分たちで作りました。インディーですけどね(笑)。

 何が言いたいかというと、いまはインディーでもテクノロジーを使えるわけです。僕らの時代みたいに編集機がなくても、PCで編集ができます。そういうように世界中に技術とツールとサービスがあるので、その気になればできるというのを証明したかったのです。インディーでも世界に向けて、ハイエンドのゲームは作れるぞ、ということです。まだ出していませんけどね。

ティザームービーをよく見ると、カニから赤ちゃんまで、コードで繋がっていることがわかる

――「DEATH STRANDING」というタイトルの意味は?

小島氏:イルカやクジラ、アシカなども含めて、大量に座礁するのを「Mass Stranding」と言うんだそうです。海外でもあまり知られていない単語らしいのですが、それで死んだ状態が「Death Stranding」、生きている状態が「Live Stranding」と言うと。しかし魚などには言わないので、人間として助けたいと思うかどうかのようです。だから、タマちゃんなんかはある種の「Stranding」なんでしょうね。

――ティザーに出てきた赤ちゃんは「Live Stranding」しているということなんでしょうか?

小島氏:それはちょっと違うんですよ……。先を言いますと、ある世界から、何かが「座礁」してくる。「I'll Keep coming」なので、何回も来るわけです。それを暗示したタイトルですね。

 また「Strand」ですが、心理学用語では「より糸」という意味があって、絆、鎖を意味しています。それでカイルさん(カイル・クーパー氏。タイトルデザインを担当)に作ってもらったデザインですが、(「DEATH STRANDING」の文字から伸びる線を指しながら)これ血じゃなくて繋がっているんです。

 ティザーでは、カニから赤ちゃんの臍帯までコードで繋がってましたよね。本作では、世界観や物語、ゲーム性も含めて、ぜんぶが繋がっている、「Strand」というのがテーマなんです。

 それで、僕は安部公房のファンなのですが、その中に「なわ」という短編がありまして。そこではある定義が登場するのですが、それが人類が最初に発明したのは「棒」であるというものです。「棒」は、悪しきもの、自分と敵対するものを遠ざけるもために発明した道具で、つまりこれは武器ですね。

 その次に発明したのが、「縄」だと。「縄」は「棒」とは逆の発想で、自分が繋ぎ止めたいものを引きつけて縛る、括りつけるという道具です。この「棒」と「縄」はいまも人類が使っている、と定義されているんです。

 よくよく考えてみると、いまのゲームで使っているのは「棒」なんですよ。銃、棒、ナイフ、パンチなど、人を殴ったりすることでのコミュニケーションがなされています。

 それで、このゲームはその次に行こうとしています。当然「棒」も出てきますが、ゲームをプレイしながら、「縄」的な思考で“繋がる”話になります。ストーリー、世界観、ユーザー同士の関係性もそうです。あるいは実況者も含みます。そういうのも含めてぜんぶ「Strand」です。その辺の実験を、いまやっているところです。

 よくノーマン・リーダスをなんで起用したかと聞かれるのですが、「P.T.」の時に仲良くなったのですが、ああいう結果に終わって、彼もファンも悲しんでいたし、僕自身も辛い時があって、ノーマンはいろいろ相談に乗ってくれました。

 ノーマンとはその後も連絡を取っていましたが、2月に「こういうのがある」と話をしたら、「やりたい」と。それで2月末に撮影です。これは以前からの「Strand」があるからです。この点では、カイル・クーパーさんもそうですし、ソニーさんとは20年以上の付き合いですし、開発も「Strand」している、というところです。すべては「Strand」に集約します。

ノーマンを動かすアクションに。その先は「未だに名前のないジャンル」

ノーマン氏を操作するアクションゲームになるという

――本作はアクションだというお話も少しされていましたが、ジャンルはどうなりますか?

小島氏:いまはもう、ジャンルは問うべきではないと思うんですよ。「DEATH STRANDING」は、ノーマンを動かすわけです。動かすということは、これはアクションですね。ゲームのインタラクビティが発揮されるという点で、やはりアクションが基本になります。

 いまはトリプルAAAで、アクションをするハイエンドゲームが多く出ていますが、これを車でたとえると、様々な車種が出ていたとして、エンジンの鍵の位置だったり、ハンドルの操作方法だったり、その基本構造は変わりませんよね。

 こういうのは教える必要がなくて、僕らのターゲットは色々な車を乗っている人たちですから、その人達に新車を使ってもらいましょうと。ただそれは「ハンドルが三角です」みたいな変な車ではなくて。

 基本的な構造は一緒なのですが、そうやってノーマンを動かしていくと、他のゲームと見える風景が違うわけです。もう少し進めると、ゲーム性の異なる、「縄」的な喜びが出てきます。

 「メタルギア」は、スネークを動かすアクションですよね。当時は撃ちまくるゲームしかなかったところに、隠れて進むゲームを作りました。今度はそれが定番になったから、「ステルス」というジャンルができたわけです。

 「DEATH STRANDING」はノーマンを動かすアクションではありますが、その先は未だに名前のないジャンルなんです。

――その構想は以前からあったのですか?

小島氏:いくつか候補はあったのですが、ただ皆さんが期待しているものというのは、ストーリーがあって、ゲームプレイもすごくて、豪華で、願わくば前のゲームを超えてくれというのがあるので、そこで選んだのが「DEATH STRANDING」でした。これを作ったらみんな驚いてくれるかなと思って選択しました。

――以前小島さんは、今後ゲームは大作ばかりではなく、海外ドラマのように短いサイクルで作っていくようになるのではないかというお話もしていましたが、今回はいかがですか?

小島氏:今回はないですね。1つのパッケージとして出すことになると思います。

 選択肢としては、たとえばVRゲームを短い期間で作るという方向もあったわけです。「DEATH STRANDING」のようなゲームはボリュームもクオリティもぜんぶ要求されるわけです。そんなこといま日本人はしないでしょうけど。

 僕らがインディーでもがんばれることを証明すると、日本の若いクリエイターもがんばってくれるかなと。なのであえて最初にハイエンドゲームを作ろうと思いましたし、できないとも思いません。

 よく「ゼロからで大丈夫ですか?」と聞かれますが、テクノロジーは世界中にあるわけですし、協力してくれる人もいますし、何よりも30年間ゲームを作ってきました。開発は毎回ハードが違っていて、チームも違えば子会社になったこともあります。その度に使うテクノロジーも違っていたんですね。

 その都度精査してゲームを作ってきた経験があるので、今回もまったく不安はありません。同じことをやるだけですから。同じことをやるだけだと面白くないので、チャレンジしていることもありますけどね。

まだまだ謎多きタイトル。今後の情報公開が楽しみだ

――ちなみにいまチームの規模はどのくらいですか?

小島氏:いま増やしている最中ですが、スタッフは100人以上にはしたくありません。過去の経験上200人を超えてくるとスタッフの顔と名前が一致しないこともあったので、なるべく少数でクオリティの高いものを作っていきたい。

 いま集まってきているのは12月の募集で来てくれたメンバーで、ほとんどが海外の人です。その時は何を作っているかも言っていなかったのですが、それでも来たい、お金も要らないと、そんな変わった人が多かったです(笑)。

 今回は何をやっているかが公開できたので、まともなスタジオだということはわかっていただけたかと思います(笑)。これからも面接しながら、少しずつメンバーを増やしていきたいかなと。

 開発状況ですが、現在はゲームエンジンをどれにするかの実験段階です。候補は2つあって、1つは作りたいビジュアルを表現できるもので、ティザーはこれで作っています。もう1つはその新しいゲーム性が正しいかどうかを精査するものです。

 これはもうすぐ結果が出るので、それでエンジンを決めて、そこから本格的に開発を始めます。

――ゲーム作りのモチベーションはどこから来るのでしょうか?

小島氏:E3もそうなのですが、世代を超えて、様々な人が待っててくれているというのはすごく嬉しいですね。そういう人たちのために自分を犠牲にしてでも作りたい。カンファレンスでも感じましたが、それは自分の使命だと思います。

――後進を育てよう、という思いはありますか?

小島氏:そんな大仰なことは思っていませんが、僕は映画を見て、世界を知って、その先があったんですね。こんなすごいものを作る人は誰なんだろうと興味を持って、その人の職業を知ったら、ものづくりをしたくなります。

 なので、ユーザーが若いころゲームを遊んで、それが面白いのは当然として、その先の「こういう仕事がある」という部分に興味を持ってもらえたらと思っています。育てようというよりは、「若者たちかかってこい!」という感じです。

――ありがとうございました。