インタビュー
巨石がトミカを追う!? 「トミカ スリリングマウンテン」インタビュー
ドリフトにS字カーブ、“危険な冒険”を楽しめる新しい挑戦
2016年6月11日 00:00
「これ、面白いですね!」。タカラトミー商談会で思わず声が出てしまったのが、「トミカ スリリングマウンテン」の試作品だった。巨大な岩がトミカを追いかけて走っていく! これまでトミカは高速道路や山道、街などを走らせるジオラマ(商品)が発売されていたが、トミカに加えそれ以外のものがルートを走っていく姿は強い衝撃を覚えた。今回のオモチャショーの目玉商品の1つである。
ミニカーの代表的な存在であるトミカは、動力を持たない。そのトミカを動かそうと言うのが、電動ジオラマの「トミカワールド」シリーズである。他にも組み替え式の「トミカシステム」、工場やショッピングセンターを扱う「トミカタウン」など様々なジオラマが用意されている。弊誌では以前「思わず大人も欲しくなる魅惑の『トミカワールド』の世界!」というタイトルでインタビューを行ない、そのこだわりを聞いた。
「トミカ スリリングマウンテン」はループとなっている道を走るトミカに混ざり、巨石が転がってくる。このコンセプトは長いトミカの歴史でもあまり例がない“冒険ファンタジー”の要素をもたらしたものだという。このユニークな商品はいかにして生まれたのか? 今回は本商品の担当者であるトミカ企画部の平林思問氏に話を聞いた。
巨石にドリフトカーブ、危機一髪の状況が連続する「スリリングマウンテン」
まず、「トミカ スリリングマウンテン(以下、「スリリングマウンテン」)」の試作品を前にその様々なギミックを見ていこう。「スリリングマウンテン」は巨大な山の形をしたジオラマだ。全体が茶色のパーツで構成されており、外周は曲がりくねったスロープになっている。「落石注意」、「スリップ注意」など黄色い注意喚起の看板があり、ガードレールもあったりと全体的に危険な山道をイメージさせる。
本商品の最大のギミックが、中央の巨大な透明の板の部分が回転するところ。この板は滝をイメージしており回転することで流れているような雰囲気も生まれる。この板からはは「フラップ」という白い板が飛び出すようになっており、このフラップでトミカを押すことで内周の螺旋スロープをトミカが上がっていく。上まで上がったトミカは、外周スロープを一気に降りていくのだ。
外周ではトミカは派手な動きを見せてくれる。「ヘビヘビ坂」では、急なS字カーブのように車体を左右に小刻みに振る。「ドリフトカーブ」では大バンクのカーブが待っており、コースアウトしそうなほど車体が大きく外側に向いた後、一気に内側へ行く。「イニシャルD」の走行シーンのようなダイナミックな挙動を見せてくれる。
最大の面白いポイントが車だけでなく巨大な石のフィギュアも一緒にコースを走らせるという遊び「ゴロゴロ岩」だ。トミカのコースを“トミカ以外のものが走る”というのはかなりのインパクトだが、それが巨大な“岩”なのはすごい。トミカはリアルさを感じさせる造形なだけに、巨大な岩に追われているのはギャグなのか、怖いのかがちょっと判断がつかなくなる。最下段まで転がると一緒にフラップに押されて上がっていくのがシュールだ。そして最上段まで上ると、再び岩とトミカの追いかけっこが始まるのである。
このほか「ストップ岩」でトミカの流れをせき止めることも可能。ストップ岩の前に「落石注意」、「ヘビヘビ坂」ではカーブの警告と黄色の看板がアトラクションに対応しているのが楽しい。そして派手なギミックはもう1つ「スリルブリッジ」がある。レーンを切り替えると下りスロープの途中からトミカは空に向かって伸びる橋に向かう。「空中に放り出される!」と思わせて、橋が下に沈み込み、下の坂に繋がる。かなりびっくりさせるギミックである。
岩山の各所はステッカーで緑の雰囲気を出している。全体的にメキシコ、アメリカ、の乾燥地帯にありそうな緑の少ない険しい岩山を思わせるシルエットになっているが、ちゃんとガードレールが置かれている場所もある。また手にトミカを持って駐車遊びができる駐車場もあり、従来のトミカシリーズと同じフォーマットの部分もある。
これまでの「トミカワールド」の楽しさを受け継ぎながら、激しく揺れる車体や、追いかけてくる巨石など「スリリングマウンテン」はメインのコンセプトの部分でこれまでの「楽しいドライブ」とは大きく異なる、危機一髪の状況が連続する「ワクワクさせる大冒険」をもたらしている。タカラトミーの新しい挑戦を感じさせる商品だ。
360度どこから見ても見応えのある冒険を。新たなトミカの挑戦
ギミックを一通り見てから、平林氏に「スリリングマウンテン」が生まれた経緯を聞いた。トミカのジオラマは最近では工場や、警察署など“人工のもの”が多かった。そこで次は「ワイルドな大自然を感じられるものにしよう」という意見が出た。さらに“大冒険”というコンセプトも盛り込まれるように開発チームでの意見が固まってきたという。
これまでトミカのジオラマシリーズは、「楽しいドライブ」をコンセプトにしたものが多かった。高速道路を走ったり、山道を走ったり、ドライブを連想させるもので「スリリングな道」というものはあまり提示してこなかった。しかし今回は走らせてドキドキするような、“冒険”を子供達に感じてもらうため、これまでのトミカワールド以上にスリルを感じてもらうギミックを盛り込んだという。
スリルを感じさせる最大のギミックはやはり“岩”だ。開発のアイディアを出す会議の時、「このレーンに岩を転がしたら面白いんじゃないか?」という思いつきが発端となり、実際試してみたら面白い構図になった。この岩のギミックは実は一番最後に思いついた要素だったという。タカラトミーは試作品を社員や知り合いの子供に遊んで貰うのだが、この岩のギミックは一番受けたギミックだったと平林氏は語った。
「ヘビヘビ坂」、「ドリフトカーブ」もこれまでの技術を発展させつつ新しい試みとして取り入れている。これまでのトミカではスマートな走りを見せることが多かったが、「スリリングマウンテン」では車体が激しく揺さぶられ、道の端まで車体が近づく危なっかしさ、“スリル”を子供達に感じて貰うように設計している。
「弊社には『やまみちドライブ』という商品もありましたが、“ほっこりした山”なんですよ。ピクニックに行って風景を楽しむような、角度もなだらかで家族で行く山をイメージしていました。しかし『スリリングマウンテン』はアトラクションやレジャー施設で提示するような“スリリングな山”をイメージし、さらにアクション映画のイメージも取り入れています」と平林氏は語った。
こだわりの部分では滝のように見える「センタータワー」の色合いだ。センタータワーは透明度の高いパーツを使っていて内部がよく見える。最上部まで上ったフラップが内側にたたまれ、その勢いで最下段まで落下し、再び最下段から外側にせり出し車を押していくギミックは子供達にアピールしたい要素で、そのフラップが循環していく機構を見せたくてセンタータワーを透明に、フラップを白にしている。
“車を押す”というところも開発スタッフのこだわりを前面に出した部分だ。トミカは動力がないため何らかの方法でエネルギーを与えなければならない。最もポピュラーなものが高いところに持ちあげて位置エネルギーを与える方法だが、これまではベルトコンベアに前輪を引っかけたり、エレベーターに乗せたりして車体を上に運んでいた。
しかし実際の車はこういう風には走らない。もっと車が走っている情景に近づけたい。というのが開発者達の想いだったという。「フラップで後ろを押すことで、実際に山道を登る車の情景を作ってみたかったんです」と平林氏は語った。開発は1年以上で車が上っていく自然な感じを出すのには特に時間がかかったという。
子供達にこの車が上っていくギミックをきちんと見てもらいたい。このため山を支える“支柱”をぎりぎりまで細くするのに苦労したという。中心部分をたっぷり見てもらいたい、このためできるだけ支柱でふさがないようにした。また、「スリリングマウンテン」に関しては360度どこから見ても楽しめるようにしたという。
「これまでのトミカワールドは“正面”を設定し、そこにギミックを集中してました。子供達がどこから見るのが1番良いかを考え実際に子供に遊んでもらったり、トミカ博で展示すると子供達はジオラマを囲むんですね。色んな角度から見る。それならば角度を限定しなくて子供達が車を追ってジオラマを色々な角度から見てもらえる様にしました」と平林氏は語った。色々なところから手を出して車がいじれるように、あえて隙間の多い設計になっているという。
車の走る姿を再現するには? ワクワクさせる動きとは? これからの挑戦
今後の展開、トミカの遊び方の新たなチャレンジという視点でも質問をしてみた。平林氏は「スリリングマウンテン」は“ストーリー”を提示できた点が新しかったという。現実のドライブや旅行ではなく、映画の中のキャラクターを見ているような感覚になる。
トミカで遊ぶ子供は、時にお父さんの車の運転で自分が客席に座っている立場で、あるいは自分が運転手になった姿を想像する。そして「スリリングマウンテン」では激しく揺れる車体がコースアウトしないかハラハラ見守るという新しい遊びがもたらされた。またスポーツカーやミニバンなど車体が変わると挙動が大きく変わるその面白さも新しい楽しさとなっている。
また、内側と外側2つのレーンがあるため、片方は下り、片方は登りだがふとしたタイミングで2つの車が並行して進むこともある。その楽しさも意識したものだという。「新しい楽しさを」という開発者の想いは常に新製品に込められているが、「スリリングマウンテン」も様々な新要素がある。今回は360度どこからからでも見えるので子供の反応も新鮮だった。
そしてやはり“岩”が大ウケだったと平林氏は語る。岩を入れると子供がそればっかりを追いかけてしまう。車以外を転がさせるという要素は開発者自身も驚くほどの反応が得られたとのことだ。ストーリーという要素ではパトカーと車のカーチェイスなど、スポーツカーやラリーカーをたくさん並べてレースになるなど走っている車での物語を作ることもできる。
もう1つ「スリリングマウンテン」で実現できた大きなチャレンジは、カーブやドリフトの再現だ。トミカワールドは以外にも道路を繋いでジオラマを作る「トミカシステム」というシリーズもある。今回得られたユニークな車の挙動をもたらすレーンの設計は後の商品へとフィードバックしていく。
ジャンプ台や、一旦地面に沈み込むなどさらにトリッキーに、思い切った動きなども研究中とのことだ。「子供がワクワクする走り方」、という考え方は「スリリングマウンテン」が切り開き、これから大きく膨らんでくるかもしれない。「可能性は無限大です」と平林氏は語った。2車線や追い抜きなど本当に様々なアイディアを考えているとのことだ。
平林氏はトミカを見守ってくれる全てのユーザーに向かい、「我々はトミカの事業部として、車がどうやって動くと楽しいか、ということを考えてます。このテーマって子供や大人の境界線はないと思っています。これからも私達は様々な方法でトミカを動かしていきたいと思っています。『こんどはこうきたか』、『こんなやり方があるのか』という私達のチャレンジ、新製品のアイディアを楽しみにしてもらいたいです」とメッセージを語った。