「電遊道」~Way of the Gamer~ ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ

ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ【第30幕】

 電遊。辞書に載っていない造語である。電気的な遊び。いわゆる、テレビゲーム。道。その道を、自分の価値観だけを信じて最後まで歩むのが、侍精神である。電遊道は、妥協を許さないサムライゲーマーが歩むべき道。他人に影響されることなく、自分のゲーマーとしての信念を貫き通せばいい。たとえ、ゲームが別の道に進んでも、自分の好きな道をずっと信じ続けるのみ。たとえ、“これこそがゲームの未来形だ!”と言われても、自分の好きなゲームライフを思う存分楽しむのみ。

 「電遊道」は、RPGのようにレベルアップする。これまでの「一刀両断」や「イタヲタのレトロなゲームライフ」などの人気コーナーを提供しつつ、新しいコーナーをスタート!「みんなのGAME SHOP」では毎月、イタリアのゲームショップの1日を体験していく。期待作が発売された日のお客さんの反応とは?イタリア人の買い物を覗いたり、店長のコメントを訊きながら、ゲームショップの1日を密着取材!

 そして、「BORN TO BE GAMER」(和訳:ゲーマーになるために生まれた)では、日本のゲームを愛するイタリア人ゲーマーを紹介していきたいと思う。ゲームとのファーストコンタクトは?日本のゲームを愛する理由とは?その人物像を掘り下げたいと思う!これからも「電遊道」はレベルアップしていく。サプライズたっぷりの連載を目指しているので、末永くこのページの中で付き合って欲しい!

ジョン・カミナリ(芸名)
国籍:
イタリア
年齢:
38才
職業:
俳優、声優、タレント、テレビゲーム評論家
趣味:
テレビゲーム、映画鑑賞、読書(山田悠介)、カラオケ
主な出演作品:
銀幕版スシ王子!(ペぺロンチーノ役、デビュー作)、大好き!五つ子(アンソニー・ジャクソン役)、侍戦隊シンケンジャー(リチャード・ブラウン役)
ブログ:
ジョン・カミナリの、秘密の撮影日記
Twitter:
https://twitter.com/John_Kaminari
Facebook:
http://www.facebook.com/johnkaminari

 イタリアで6年間テレビゲーム雑誌の編集部員として働いたあと、新しい刺激を求めて2005年に大好きな日本へ。子供の頃から夢見ていた役者の仕事を本格的に始める。堤幸彦監督の「銀幕版スシ王子!」で個性的なマフィアのボス、ぺぺロンチーノを熱演。現在もTVドラマやTVゲームなどで、俳優・声優として活躍中。日本語を勉強し始めたのは23歳のとき。理由は「ファイナルファンタジーVII」や「ゼノギアス」などのRPGの文章を理解するため。好きなジャンルはRPGと音楽ゲーム。「リモココロン」のような個性的なゲームも大歓迎。お気に入りのゲームは「ゲームセンターCX」と「ワンダと巨像」。芸名はイタリア人の友達に、本人が雷のように予想不可能なタイミングで現われるからという理由で付けられた。将来の夢は、「侍戦隊シンケンジャー」に出演した時から大好きになった戦隊モノにまた出演すること。


一刀両断~話題のゲームニュースについて鋭くコメントしちゃうぞ!~

話題のゲームニュースや注目のゲームイベントをピックアップして、僕の正直な感想を述べたいと思う。また、現在のゲームが抱えている問題を解決するアイディアや提案も、このコーナーを通じて考えてみたいと思う。ゲーマーの皆が納得できる未来のために!

 ドット画で育ってきた僕のような“おっさんゲーマー”が、おそらく今、ちょっとしたショックを受けている。何故かというと、今、世界中で話題沸騰中の次世代ゲームエンジンで、ゲームのグラフィックスがまた1歩、リアルな世界に突入しようとしているからだ。世界のゲームメーカーが、正真正銘のゲームエンジン戦争に参加している。どのメーカーが最もリアルなグラフィックスを実現できるか、欧米、そして日本のゲームメーカーが競争しているかのようだ。

 スクウェア・エニックスの「Luminous Studio」、カプコンの「Panta Rhei」、そして、先日の「GDC 2013」で詳しく公開された小島プロダクションの「FOX ENGINE」。さらに、Activision R&Dによる、言葉を失わせるほどのリアルタイム3Dキャラクターレンダリングデモ映像もYouTubeで公開されたばかりだ。現実の映像をゲームグラフィックスに変換できるかのような次世代のゲームエンジン達。「FOX ENGINE」が実現させた「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」に焦点を当てつつ、ゲームにおいてのリアルさの必要性について、少し考えてみたいと思う。

リアルさがゲーム体験に貢献するジャンルもあれば、逆に抽象的なグラフィックスを必要とし続けるゲームジャンルもある。例えば、肌の細かな凹凸が見えるマリオは不必要だと断言できるだろう
日本の大手ゲームメーカーであるカプコンも次世代ゲームエンジン「Panta Rhei」を披露した。素朴な疑問だが、キャラクターの顔が人間そのものになると、キャラクターデザインという職業の定義は少し変わるのではないだろうか?
「Agni's Philosophy」のデモ映像は、リアルさとアンリアルさの丁度いいバランスを確立したと思う
Activision R&Dのリアルタイム3Dキャラクターレンダリングデモ映像は、紛れもなく最もリアルだった。しかし、ゲーマーとしてそれは喜ぶべき特徴なのかどうか……。正直、よくわからない

「FOX ENGINE」で「METAL GEAR SOLID」もリアルな領域へ突入

 サンフランシスコで行なわれた「GDC 2013」の目玉イベントとして注目されていた小島プロダクションの講演で、実写映像かのようなグラフィックスを可能にする新ゲームエンジン、「FOX ENGINE」による「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」がとうとう公開された。イベントでは世界中のプレーヤーが楽しみにしている本作の新トレーラーはもちろんのこと、「FOX ENGINE」の詳細もステップバイステップで紹介された。

 まず、公開された新トレーラーについて感じたことから。手術中の病室から始まるドラマ。外科医達はベッドに横たわる人物を必死に救命しようとしている。言うまでもなく、そのベッドに血まみれ状態で横たわっているのはスネークだ。果たして、数々の不可能といわれるミッションを遂行してきたスネークに何があったのか、ほんの数秒で視聴者の興味が引かれる。そしてたった何秒かで、「FOX ENGINE」によるリアルな映像美に圧倒される。

 「FOX ENGINE」のキーワードはリアルだ。いかに現実を忠実に再現できるかというのが、主なポイントになっている。これまでのゲームは、開発者が工夫し限界まで手を加えながら現実の映像をポリゴンで再現しようとしてきた。しかし「FOX ENGINE」では、各マテリアルの質感や照明などパラメーターが精密に反映され、写真と見誤るほどのリアルな空間が実現できるようになった。

 もちろん、アーティストとしての独自の手法を求め続けるゲームジャンルはこれからも存在し続ける。だが「MGS」のようなゲームシリーズでは、グラフィックスがリアルになるほど臨場感や没入感を高めるという方程式は重要だといえる。

 「FOX ENGINE」のリアルさを証明するために講演で、会議室の写真と、「FOX ENGINE」で表現された同じ会議室の画像が公開された。その2つの画像がまったく同じに見えることが、「FOX ENGINE」の強さを物語っている。各マテリアルの質感や、反射される照明などがもう現実そのものだ。

 モデルを使った顔のスキャン映像も公開された。肌の表面や皺などが細かく表現され、レンダリングと思えないほどのリアルさを誇っている。もうゲームではなく、プレーヤーが映画の主人公を操作する未来が近づいてきていることを示唆する映像だった。

 「FOX ENGINE」や「Panta Rhei」など次世代ゲームエンジンのリアルな映像を見て、僕はレトロなゲーマーとして必然的に思った。ゲームはこれで、現実の再現になるしかないということだ。もちろんジャンルにもよるが、基本的にゲーマーが求めているのは現実の再現ではなく、むしろ現実から逃避するための、現実からかけ離れたグラフィックスなのではないのだろうか?

自然な照明で照らされる広範囲なフィールドが実写のような映像に見える。戦争ゲームなどのリアルな世界を舞台にするゲームにはそれは確実に貢献するといえる
左が会議室の写真、右が「FOX ENGINE」で再現された同じ会議室の画像。僕にはまったく同じに見える。果たして現実の完全な再現は、喜ぶべき進化なのだろうか?
誰かに言われなければこれは写真だと思うはずだ。しかし、現実は毎日自分の目で見ているものだ。ゲームの中では現実と違う風景に癒されたいはずだ

 話は少しそれるが、この間ローマで行なわれたファンタジー映画のCGを担当するアーティスト達の講演会に行ってきた。数々のヒット作のCGを担当したイタリア人アートディレクターがこう語った。「CGを用いることによって、リアルよりも面白い世界を作れます。少し嘘をついたほうが、映像が綺麗になると思います。それこそが、視聴者が映像を楽しむ秘訣なのです」。「なるほどね」とその時思った。

 そのアートディレクターの話を思い出しつつ、今話題になっている次世代ゲームエンジンについてもう1度考えてみた。ゲームエンジンはゲーム開発という作業をよりスムーズにするためのツールだ。そして、高性能化するゲーム機のポテンシャルを最大限に引き出せるようにするためのツールだ。

 しかし、グラフィックスがリアルになるだけでは、ゲームが面白くなるということはまずないだろう。既に述べたように、現実と遜色のないリアルさや照明の正確さだけに頼ると、ゲームの舞台が逆に個性に欠けてしまう恐れがあると思う。秘訣はその中間にあるのではないだろうか。リアルな世界を築いてから、そこにリアルを超えるための演出やアーティストとしてのセンスを付け加えるべきだ。

 「METAL GEAR SOLID」シリーズが、特にリアルとファンタスティックの間に位置できるゲームなのだ。だから、リアルを求めすぎると、その絶妙なバランスが崩れてしまうのではないかと少し心配している。現実のデータを元にあらゆるものや照明を忠実に再現してくれる万能なゲームエンジンよりも、ゲームクリエーターの表現技巧が感じられるような“嘘のリアルな世界”のほうを、僕は支持している。

「FOX ENGINE」を欧米人が絶賛。しかし納得できない部分も

 技術面ではもちろん、「FOX ENGINE」は優れているとしか言えない。欧米人も新トレーラーの映像やデモンストレーション映像を絶賛している。ただ、今回の映像でこの要素だけはまだ磨くべきだと、欧米ゲーマーの多くが思っているようだ。

 それは顔の肌の表現だ。今回公開されたトレーラーでキャラクター達の顔を画面全体に映し出していたカットについて、肌の表面がプラスチックのようだという印象を持っている。僕も何回も確認してみたが、やはり完全なリアルさを目指すなら、まだ改善の余地があるのではないかと思った。

 もう1つ、納得しきれなかったのはキャラクター達の演技だった。特に最初の手術シーンでは、医師達の表情は少し固まっており、そのシチュエーションのドラマチックさを完全に表現しきれないような気がした。もちろん、それは起用する役者の表現力にも左右される要素だと思う。

 演技面で最も優れていると感じた開発中の新作は、ハリウッド俳優のEllen Page氏やWillem Dafoe氏を起用する、Quantic Dream制作の「BEYOND: Two Souls」だ。正直に言えば、シネマティックなゲームを実現させたい現代の開発者達は肌のリアルな凹凸にこだわるよりも、モデルとなる俳優達の表情の完全な再現に集中するべきだと思っている。そこで、感情を現わす眼球のリアルな再現や自然な動きという要素が重要な役割を担っている。

次世代ゲームエンジンではなくても、起用する俳優や表情の再現度によっては優れたシネマティック作品が今でも作れる。Quantic Dream制作の「BEYOND: Two Souls」がまさにそれを証明している
まだ開発中なので改善の余地はあると思うが、気持ちのあらゆるニュアンスを表現する瞳の完全再現が1番重要だといえるだろう
Activision R&Dのデモ映像では、眼球の自然な再現が1つの課題だった。瞳のリアルさは顔のほかのパーツよりもずっと大切だと思う

 「MGSV」が注目されているが、それよりも今イタリア人ゲーマーが楽しみにしているのは「FOX ENGINE」を使った次世代の「Pro Evolution Soccer」(ウイニングイレブン)だ。サッカーゲームというジャンルこそ、リアルという形容詞がぴったり当てはまるだろう。選手達の顔や動き、フィールドやスタジアムのリアルな表現が、サッカーゲームというジャンルにとても向いていると思う。

 サッカーゲームであまり遊ばない僕は、やはり「FOX ENGINE」を使用した「Silent Hill」の新作が制作されることを強く願っている。そのジャンルでもよりリアルになることで、現実味のある体験が実現できると思う。

リアルさがすべてではない。ゲームのエッセンスを思い出せ!

 最後に、世界のゲームメーカーに送りたいメッセージはこれだ。おそらく、リアルさの執拗な追求は無意味だと思う。何故なら、完全なリアルさを実現させたら、それ以上、グラフィックスというパラメーターが成長できなくなる。なぜなら、目で見る現実世界より精密な世界が作れなくなるからだ。その時、おそらく開発者達は、原点回帰という言葉を忘れていたことを後悔するのかもしれない。

 はっきり言って、リアルなグラフィックスの実現が、ゲーム開発費、ゲーム価格の高騰を意味するのであれば、次のステップに進まず現在のグラフィックススタンダードに留まって欲しい。グラフィックスよりも、ゲーム性を磨いて欲しい。インタラクティブ性を磨いて欲しい。純粋な面白さを追求して欲しい。

 これは、まだドットに依存している1人の“おっさんゲーマー”の感想にすぎない。おそらく、僕の思い描く未来は来ないのだろう。ゲームはインタラクティブな映画になるのだろう。映画との唯一の違いは、主人公を操作できるという点だけ。それは良いことなのか、現実の抽象として生まれたゲームというエンターテインメントを否定するのか、人それぞれが判断するのだろう。

 確かに「FOX ENGINE」のような次世代ゲームエンジンのおかげでゲーム映像がリアルになり、臨場感もより一層高まることは間違いない。しかしそれと同時に、これまでゲームというエンターテインメントを確立させてきた、ゲームクリエーターとしての個性やタッチも忘れてはならない。大切なのは現実と空想の間の絶妙なバランスだと思う。日本の誇るベテランゲームクリエーターが、自己満足に陥らず、次世代ゲームエンジンをどのように活用していくのかが、楽しみであると同時に心配の種でもある。

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