素晴らしきかな魂アイテム

【魂インタビュー】一流モデラー作品のような情報密度、物語を感じる光の演出、「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」

題字:浅野雅世
【第8回 魂アイテム】
「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」。10月27日発売。価格は32,400円(税込)。全高約17cmの“胸像”である。今回の試作1号機が、シリーズとしては初となる完全新規の「FORMANIA EX」となる。外部ライトだけでなく、本体内部に発光ギミックを搭載、造形と発光で物語性を感じさせるという新しい挑戦をした商品だ
【話を聞いたクリエイター】
企画担当であるBANDAI SPIRITS コレクターズ事業部の前田哲也氏。今回は魂ネイション直前でのインタビューとなった。魂ネイション2018でも前田氏が手がける商品が多数出展される。ポーズ付けなど展示は企画者自身が行なっているとのことで、会場では開発者の商品へ込めた想いを受け取って欲しいという

 10月27日に発売となる「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」は、“リアルさを感じさせる緻密な造形とアレンジ”という新しいコンセプトを打ち出した「FORMANIA EX」シリーズの第3弾である。

 第1弾となった「FORMANIA EX νガンダム」も弊誌はインタビューで取り上げているがνガンダムと第2弾のサザビーは2010年に発売された「FORMANIA」という商品の言わばリニューアル版だった。今回の「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」は、「FORMANIA EXとはどんなものか?」というコンセプトを問いつつ、本商品だからこそ表現できるキャラクター性、ドラマ性を前面に押し出した商品となる。

 今回は企画担当者であるBANDAI SPIRITSの前田哲也氏に「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」だからこそできた表現、こだわりのギミック、商品の魅力を紹介してもらった。いつまでも見続けたくなるし、見れば見るほど新しい発見がある、非常に楽しい商品である。


いつまでも見入ってしまう凄まじい情報量の造形

 ガンダム試作1号機 フルバーニアンは、OVA「機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY」及び映画「機動戦士ガンダム0083 ジオンの残光」に登場する機体である。主人公コウ・ウラキが搭乗する機体で、ガンダム試作1号機は当初地球重力下に調整された陸戦仕様となっていたが、未調整のまま宇宙での戦いに出撃し大破、予定されていたコア・ファイターの換装に留まらず全身の改修が行なわれ、「フルバーニアン」として生まれ変わる。「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」は、改修された試作1号機をモチーフとしている。

 前田氏は今回のモチーフについて最初に「νガンダムの次にサザビーを出して、じゃあ次に何をやるか、というのは考えました。RX-78ガンダムはお台場でライトアップもされて展示されていましたし、ユニコーンガンダムも同様な上に、サイコフレームの発光は本商品の“ライティング”というテーマにとても相性が良い。しかし、お台場での巨大スケールによるディテール表現がすでにあったからこそ、『FORMANIA EX』では、さらにブランドコンセプトを引き出せる、違うキャラクターにしようじゃないかという話になりました」と語った。

 そしてガンダム試作1号機 フルバーニアンに白羽の矢が立てられる。この理由として前田氏は“整備”というイメージを提示した。「FORMANIA EX」は、内部メカがむき出しの部分があったり、様々なメンテナンスハッチが開いたりと、“整備中”をイメージさせるところがある。そして、ガンダム試作1号機 フルバーニアンはヒロインのニナが試作一号機を担当するシステムエンジニアであり、整備のシーンが多かったこと、さらにフルバーニアンへ改修するシーンもあることで、コンセプトとの親和性の高さがあったという。「OVAならではの細かいメカ描写、描き込みの密度、そして多数のバーニアや何よりもメカニックの魅力に溢れていて、今回のコンセプトに合うというところが、大きな理由となりました」と前田氏は語った。

大スケールで表現されたガンダム試作1号機 フルバーニアン。凄まじいディテールが生む情報量に圧倒される

 前田氏の話を聞きながら商品を見てみる。今回は発売直前の商品に近い形のサンプル品となる。まずその複雑なパネルラインが生む情報量に圧倒される。商品のサイズは全高約17cm。胸部と頭部だけでこれだけの大きさがあり、その情報量は従来のスケールのアクションフィギュアを遙かに超える。機体の青い塗装や、白の塗装にも複数の色が使われており、装甲の分割を印象づける。

 「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」ではシリンダーのシャフトなどに金属パーツを使っているが、多くの部分はABSや、PVCである。しかし塗装によりパイプやバーニアの焼き入れ、内部フレームなど金属性の光沢を放つ部分が多く、実際以上に金属パーツを使っているような、非常にリッチな質感がある。

 頭部アンテナの形状や、バックパックの金属がむき出しになっている部分、そしてバーニアユニットの形状など試作1号機のデザインを改めて見直すと共に、そのアレンジの面白さに見入ってしまう。

複雑なパネルライン。青や白も複数の色が使われ、厚みを生み出している
各部のアップ。塗装も非常に細かく、バーニアの焼き付けや、金属パイプなど素材の違いも表現している


ハッチオープン、機能や材質、メンテナンス性などディテールが物語を語る

 そして、思わず身を乗り出してしまうのが、「ハッチの展開」だ。「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」のハッチの開閉はこれまでのシリーズ以上に多く、そして圧倒的だ。情報量は数倍に跳ね上がり、最初はまずその複雑さに圧倒されてしまう。「開いた際の情報量の多さ、メカ感にはかなりこだわってます」と前田氏は語ったが、本当に感心させられてしまう。

 圧巻はコクピットである。ガンダム試作1号機 フルバーニアンは背部にコア・ファイターが接続される。機体のコクピットはコア・ファイターと共有なのだが、腹部のコクピットハッチを開くと、きちんとコア・ファイターの機首が現われ、その中にパイロットが座っているのである。ハッチを開け、パイロットが乗り込む姿勢にするには、コア・ファイターのコクピットブロックを引き出す。商品ではそのギミックをきちんと再現している。

ハッチを開放した姿。情報量が跳ね上がり、雰囲気が大きく変わる
コクピットオープン。コア・ファイターの機首が引き出される

 フルバーニアンの大きな特徴である胸のダクト部分からバーニアノズルがせり出すギミックは、脇腹にあるレバーを操作することでバーニアが出てくる。頭部は後頭部の装甲がスライド、内部パーツがのぞく。側頭部のバルカンも見える。肩も外部装甲が開き、内部のフレームが見える。放熱用のダクト、ケーブルなどが見えるが特に目立つのは肩のバーニアに続くケーブルである。推進剤を流し込み噴出させるのだろうか。

 フルバーニアンの名の通り、バックパックの大型バーニアユニットも外装が派手に開く。赤銅色や金に塗られた部品があり、ギッシリとメカが詰まっている。また形も相まってアポロ宇宙船の大気圏に帰還した部分、「司令船」を連想させる感じもある。そしてユニット先端が引き出せ、コンデンサー状の部品が現われる。

 これらのデザインは商品用に描き起こしたオリジナルのもの。アレンジは独特であり、特にハッチを開けた状態は“ストーリー性”がある。各部をチェックしていると「ここは放熱をさせる構造かな」、「このケーブルがこうなってエネルギーを循環させているのか」、「ここを開けることでメンテナンスをしやすくさせているのか」、「ここはこういう構造で強度を確保しているのか」などなど様々な想像がふくらんでくる。こういったストーリーを想像させるのも「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」の魅力だ。

肩のパイプや、頭部バルカンなど、内部構造が見えることで、機能や作動状態を想像する

 「コレクターズ事業部としては、この大きさの表現というものは、“最大サイズ”といえます。バックパックに関してもフルバーニアンだけに大きなものをつけたいという想いもあり、ボリュームとしても大きなものとなっています。それだけに表現の密度がこれだけ濃くなっていますから、苦労もしました。様々な解釈ができますし、改めて試作1号機のデザインをチェックできる、今までにない商品になりました」と前田氏は語った。

 台座の基部部分が可動し、身体全体の角度を少し変えることもできるほか、首も可動する。また肩アーマーの中の肩の基部部分も動かすことはできる。アクションフィギュアのような「ポーズ付け」ではなく、例えば身体半分のハッチを開けたり、コクピットだけ、バックパックだけを開ける、といった、様々なシチェーション演出ができる。可動範囲だけならばアクションフィギュアよりはるかに多く、ギミックの楽しさはとても多彩だ。

 造形に関して、前田氏のお気に入りのポイントは「造形のバランス」。メカデザイナーのデザインが、彩色によって際立て、非常にバランスがとれたところをアピールしたいとのこと。社内スタッフだけでなく、様々なスタッフが協力しているからこそ、質の高い商品を作ることができ、新しい方向性を提示できるのだと前田氏は語った。そしてさらに、「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」は、“発光”するのである。

バーニアユニット内部。バーニア部分のシルエットは、アポロ宇宙船を思い起こさせる
ユニットの先のコンデンサーも面白い
フルバーニアンの大きな特徴である、ダクトから出てくる胸のバーニア


新しい挑戦となった発光ギミック。エネルギー伝導やバーニアの出力変化も

 「FORMANIA EX」となって追加されたのが台座に設置できる可動式ライトだ。ライトはアームによってフレキシブルに移動でき、胸像に様々な位置からライトを当てることができる。この“演出”により、さらなる巨大感や、高級感をもたらすことができた。そして「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」はそこからさらに1歩踏み込み、内部に電飾を仕込み、光らせることとなった。

 「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」の発光はただスイッチのON/OFFではない。スイッチを入れると、まずコクピットが光り、コクピット内でパイロットがガンダムを起動させることで、試作1号機の目が光る。そして身体の中心から発光部位が増えていき、バーニアが点火する。バーニアやコンデンサーなどはバーニアの出力が上がることで光が変化するのだ。発光部位の解説などは公式動画がアップされているので、まずこちらを見て欲しい。

【「FORMANIA EX ガンダム試作1号機フルバーニアン」発光ギミック紹介動画】

 発光は「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」にさらなる魅力をもたらす。ディテールをチェックするために胸像に顔を近づけて細かく細部を確認したときと同じように、もう1度チェックし、その光る楽しさに思わずため息が漏れてしまう。まず全体を見て圧倒され、ハッチを開けて感心し、光らせて感嘆する。本当に見ているのが楽しい商品だ。もちろん発光もハッチを開けた状態と閉じた状態では表情が大きく異なる。

 各部をチェックしていこう。まずコクピットだが、単純にシートの後ろから光を当てるのではなく、パイロットの足下からも光が来るように導線を用意している。これにより、コクピット内部が光る感じを演出している。目はグリーンの光がとても印象的だが、実は「光っていない状態」にも気を配っているという。単にLEDだけ仕込むと通常の時目が黒くなってしまう。裏に白を入れることでLEDが点灯していなくても違和感のないようにしている。

こちらはハッチを閉じた状態での発光、装甲から光が漏れている

 肩の付け根部分は外側がダクト内部から光が漏れるだけでなく、装甲の内側に光が反射し、内部が光るようにしている。肩部の先端は細かいバーニアが全て発光しているように見えるが、実は1つの光源から導線を持ってくることで全部のバーニアを光らせているという。バーニアの赤さを強調した光や、肩と目の緑の光と大きく異なるのが、バーニアコンデンサーの光。紫から青白く変化し、SFガジェットとしての不思議な雰囲気が楽しい。

 「今回のチャレンジとしては『ライトに対してストーリー性を持たせる』ということをやっています。電飾の順番や色の変化のアニメーション的演出もそうですが、ハッチを開けているときと閉めているときの見え方の変化、光の導線、光が漏れているような部分、こういった所にも意図を感じて欲しいと思います。何回も見ていただいて、色々な解釈を楽しんで欲しいです」と前田氏は語った。

 点灯には3つの“モード”が設定されている。1つ目がコクピットから全体に光る箇所が広がっていくもの。2つ目が全部のライトが一気に光るモード、そして3つ目がコクピットと頭部だけが光るモードである。これらはスイッチを入れる度に切り替わる。

 「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」のライティングは、コレクターズ事業部にとってこれまで以上に踏み込んだ商品だという。光の導線、見せ方、変色するLEDの使い方、光源の効果的な利用法……様々な光のテクニックが盛り込まれている。これらは、「変身ベルト」などを扱うバンダイ ボーイズトイ事業部のノウハウが生きている。バンダイ、BANDAI SPIRITSという会社や部署の垣根を越えた技術の交流が、この凝った光の演出を実現させたのだという。

 テクニックはこのように光らせる方法だけでなく、電池ボックスでの電池の+と-を間違えない設計、誤飲を防ぐためのネジ止めなど安全基準の取り組み、電圧など電気回路そのものの基準などにもわたる。こういった技術が「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」の“発光”ギミックに込められている。

ハッチを開放して全てを点灯、メンテナンス中の機能チェックの雰囲気だ
コクピットはパイロットの足下が光るように光の導線が設定されている
コンデンサーは時間と共に光の色が変化する。バーニアの赤の色も変化する
目が光るのは、いかにもガンダムが起動した感じだ
肩の装甲内部に、漏れた光が写っている
メインノズルも内部が発光する

 筆者は「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」を見て、プラモデルコンテストの優れた制作者の作品を連想した。ハッチを開け内部メカを見せるというのは、プラモデルでの人気の改造モチーフだ。そして、本商品はモデラーの作品のような凄まじい密度と、作り込みを実現しながら、「遊びやすさ」にもこだわっている。ハッチオープン状態と、クローズ状態とにいつでも変えることができ、LEDの発光ギミックは、その点灯アニメーションでストーリーを描く。

 何よりこれだけの複雑な造形、ギミックを実現したものが、「マスプロダクト」なのが驚きである。BANDAI SPIRITSの商品としては高額の部類ではあるが、それでも「この“作品”が家に来るんだ」と思ってしまうところがある。例えばモデラーが作った改造モデルならば、一体いくらになるのだろうか? 眺めて、動かして、光らせて楽しめる「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」が家に来る、この魅力はとても大きいと、商品を目の前にして実感した。

 その想いを伝えると前田氏は、本商品はそういったモデラー達のトレンドも取り入れていると語った。昨今のプラモデル制作者達は、LEDを積極的に組み入れ使っている。本商品の原型担当者など開発スタッフは、自身がモデラーだったり、最新情報に敏感な者も多く、商品にはそういったトレンドを盛り込みながら製作されたという。

 光の漏れさせ方、LEDの位置、LED同士の干渉をいかに防ぐかなど、それは商品が完成に近い状態でなくては検証できない場合もある。企画、設計側が提示しても、工場側でそれが実現できるか、また実際に試作品を作らなければわからないことなども多い。「こういう風にやりたいです」という提示に対し、「こうしないと組み立てがうまくできません、こうしないと導線が切れてしまいます」といった立体物にしたときの問題点の指摘が来る。また、工場側で試してうまくいったことが設計に組み込まれ、さらに発展したことも多い。光の漏れ方の面白さなどは、立体物ができてからのものも多いという。そのために試行錯誤も多かった商品だったそうだ。「大変でしたね」と前田氏はしみじみと語った。

 造形、という意味でも今回は「振り切った」と前田氏は語った。モビルスーツをこれだけの大きさで表現し、あらん限りのディテールを盛り込むというのは、コレクターズ事業部にとってもあまり経験のないプロダクトだったという。「FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン」は様々な意味で実験的であり、挑戦だった。これがユーザーにどのように受け入れられるか、社内全体でこの商品の発売に注目しているとのことだ。

この凄まじい密度を持った商品が家に来る、というのはとても興奮させられる体験だと思う

 最後に、ユーザーへのメッセージとして前田氏は、「『FORMANIA EX ガンダム試作1号機 フルバーニアン』は、FORMANIA EXの初めての完全新規商品となります。試作1号機がお好きな方はもちろんですけど、進化したFORMANIAに興味を持っていただいた方にぜひ手に取っていただきたいと思います」と語りかけた。

 繰り返しになるが、この商品が“家に来る”というのは、本当に驚くべき体験だと思う。プラモデルコンテストの優勝作品や、イベント会場の展示用に特別に作られた模型が、そのまま家に来て、自分の物になったような感触が味わえる商品だと感じた。しかも装甲を開閉し、電飾も見れるというプレイバリューもたっぷりなのだ。アクションフィギュアとは一味違う、とても面白いチャレンジだ。ユーザーの反応、そして今後の展開がとても楽しみだ。