【連載第3回】オンラインゲームの楽しさを再認識しよう!


てっちゃんのぐだぐだオンゲーコラム


「マビノギ」でプレイを重ねることで生まれてきた、女性キャラクターの“人格”
「この娘はこれが似合う!」。テーマとバックストーリーを考えた衣装選び


 オンラインゲームの様々な面を取り上げ、面白さを再確認する「てっちゃんのぐだぐだオンゲーコラム」。今回は「女性キャラクターの“オシャレ”の楽しさ」を語っていきたい。オンラインゲームにとって「アバター要素」というのは重要なアピールポイントであり、この要素を充実させて人気を博するゲームが多い。

 そして、アバターの華と言えばやはり女性キャラクターだ。今回紹介する「マビノギ」はアバター要素に注力しているゲームの1つだ。自分のキャラクターの服を揃え、テーマを設定して組み合わせていくのは非常に楽しい。今回は、僕がいかに女性キャラクターのコーディネートにハマっていったかを語ろう。


■ ちょっと地味で恥ずかしいけど、やっぱりうれしい……この娘はそう思っているに違いない!

暖かな雰囲気のMMORPG「マビノギ」。プレーヤーはそれぞれこだわりの衣装でキャラクターを飾り立てている

 「マビノギ」はケルト神話を題材としたMMORPGである。「ファンタジーライフ」、つまりファンタジー世界で、麦を刈って水車小屋で小麦粉にしたり、蜘蛛の糸を紡いで布にして洋服を作ったり、木を切って弓を作ったりと実際に暮らしているかのような“生産活動”が楽しめるところを最大のセールスポイントにしている。世界観の基本は暖かで、牧歌的な雰囲気だ。

 僕は最初この「マビノギ」を、その他のオンラインゲームと同じように“仕事”で始めた。仕事用に作るキャラクターは読者受けを考えて女性キャラクターでプレイをするようにしていたため、「マビノギ」でも女性キャラクターを作った。しかし、アップデートレポートを書くときに知り合ったギルドの人達が予想以上に楽しかったことと、敵の動きに合わせてスキルを使っていくアクション性と戦略性のある戦闘システムや、街の作りやキャラクターの仕草など細かいところにも感じられる開発スタッフのこだわり、そして何より「マビノギ」の暖かな世界観に惹かれ、毎日のようにログインすることになった。

 これまでプレイしてきたオンラインゲームでは、ひげ面のむさい男キャラクターばかりだったが、「マビノギ」では女性キャラクター“りあん”としてプレイするようになった。このりあんという名前は、その後、オンラインゲームで女性キャラクターを作るときの共通ネームだ。僕が使う男性キャラクター名「Lian(ライアン)」がよくリアンと呼ばれていたこと、女性名ということで柔らかさを意識して、ひらがなで“りあん”という名前を付けていた。

 “りあん”は色黒の活動的なイメージの女の子だ。女性キャラクターをプレイするにあたり、最初はギルドメンバーと話すときの1人称も困ってしまった。「女性キャラクターをプレイする以上、いわゆる『ネカマ』プレイをするべきではないか?」、「女性キャラクターで1人称が『俺』は変じゃないか?」、「いやいや、逆に現実には男性なんだし、意識するのは気持ち悪いんじゃないか?」。何度かの自問自答を繰り返して、キャラクターは女性だけど、人格はそのままという自然体でプレイするようになった。

 オンラインゲームをやっている人なら誰でも知っている事実だが、女性キャラクターでプレイする男性は非常に多い。それは男性がオンライン上で女性になりきってプレイする「ネカマ」だけでなく、僕のように男言葉で、“中の人”が男だと公言しながら女性キャラクターをプレイする人も多い。僕は「マビノギ」で女性キャラクターで“女のオシャレ”の楽しさに目覚めた。それは自分がキャラクターになりきってオシャレを楽しむと言うよりも、自分と切り離した“りあん”という人格・価値観が生まれていく楽しさだった。

 さて、今回はその“りあん”に服装を提案し、彼女に合ったコーディネートを選ぶ、その楽しさに気がついたというエピソードを語ろうと思う。ゲーム内での戦い方、お金の稼ぎ方もわかってくると、気になってくるのが「服装」である。「マビノギ」は、レベルによって決まった装備などが無く、エンチャントでどんな服でも強くできる。このためドレスを戦闘用に使っているプレーヤーも多い。さらに染色もかなり自由度があるので、「自分をイメージした色」でコーディネートする人も多い。さらに子供から大人まで“年齢”によって体の大きさが変えられる。他のゲーム以上にバリエーションの多い“オシャレ”が可能になっているのだ。

 最初は「女性キャラクターのオシャレに凝る」ということにも抵抗があった。しかし他のプレーヤーの女性キャラクターの華やかな服装を見て、自分のキャラクターにも何か服を買ってあげたくなったのだ。この時、意識は「自分の服」ではなく、「りあんに服を買ってあげる」というものになっていた。一生懸命稼いだ“なけなし”の全財産を“りあん”に持たせ、いくつもの店を回った。服は初心者にはどれも高く、ようやく買えたのが、かなり地味な色のワンピースだった。

 “りあん”は色黒で、髪型も顔の造形もゲーム初期のモデルを使っていたため、キャラクターのモデリング自体が地味だ。そんな地味なりあんが精一杯のお金で買った地味な服。着せてみた姿は正直ちょっとみすぼらしかった。しかし、「逆にこれをテーマにするのはアリじゃないか?」と思ったのだ。それで揃えたコーディネートが……。


イラスト:ミズノ マサト

「ど、どうですか?」

 この組み合わせだ。イケてないドレスに、丸い飾りの付いた帽子、安いブーツ。色も全体的にくすんでいる。しかし、初めて買った高い服なのだ。僕はこの組み合わせを「音楽の発表会で着ていく服」と呼ぶことにした。あまり裕福ではない女の子が、発表会に出るために親戚から借りたお古のドレス。デザインも色もちょっと古くさい。だけどその子にとっては精一杯のオシャレなのだ。「古いのはちょっと恥ずかしいけど、やっぱりうれしい」。そんな“りあん”の気持ちが伝わってくる姿ではないか。この服を着ている“りあん”の表情に、「隠されたうれしさ」の感情があるような気がする。僕はこの組み合わせが大のお気に入りになった。友人からは「ダセェ」といわれることもあったが、そのダサさこそが、この“りあん”というキャラクターの味なのだと、そのとき“開眼”したのである。そして、「“りあん”に服を買ってあげる楽しさ」に目覚めたのだ。

 この組み合わせがきっかけになって、僕はかなり偏ったテーマで“りあん”に衣装を着せるようになった。「マビノギ」では牛乳瓶を手に持って戦闘ポーズを取ると、ちょうど口の辺りに瓶が当てられ、牛乳を飲んでいるようなポーズがとれる。この仕草にフォーカスして「牛乳瓶を持つための服」を作った。白い頭巾に、シンプルな白の貫頭衣、まるでヨーグルトのCMに出てくるような組み合わせだ。また、真っ赤なチャイナドレスに派手な扇子、そして黒いサングラスで「悪の女ボス」というのも作った。10歳の体型で、麦わら帽子と白いワンピースを着て、わざと肉を食べて太って、コロコロとした体型にすると「夏休みの子供」になる。この格好でリコーダーを吹く姿が、“いかにも”な感じで楽しいのだ。

 地味な女の子りあんが、さまざまなテーマの服を着ることでキャラクター性が深まる。そこは自分=キャラクターではなく、りあんという“登場人物”のバックストーリーを作る作業といえる。派手な格好をするとりあんが精一杯虚勢を張っているように見えるし、地味だけど頑丈な服を着ていると「落ち着いている」様に見える。仮想ではあるが、“りあん”というキャラクターとしての“気持ち”が見えるような気がするのだ。友人と一緒に「“りあん”にはこれが似合う、こうした方が“らしい”よね」というように“りあんっぽい格好”という話題で盛り上がったりする。端から見ると奇妙だが、りあんという仮想的なキャラクター像はこうやって作り出されていった。自分自身の女装趣味や、オシャレへの要求ではなく、自分に近いが、独立した存在として「りあんに色々な格好をさせたい」と思うようになっていった。

 華やかなドレスや、着ぐるみなども楽しいが、様々なパーツをテーマに合わせて組み立てる、というのがより一層「“りあん”の衣装」という気がする。最近ではテンガロンハットにぴっちりした茶色のズボン、派手なブーツで、「保安官」を思わせる組み合わせがお気に入りだ。考えてみると、やはり女性キャラクターの方がいろいろな組み合わせを楽しめると感じた。かわいらしい子供服から、落ち着いた大人の服、ボーイッシュな服、セクシーな服……組み合わせの幅が広い。

 自分と切り離すからこそ思い切った組み合わせや、ファニーなかっこうもできる。「マビノギ」では男性でも女性キャラクターをプレイしている人が多く、取引でも女性服の相場は高い。もちろん男性服も様々なこだわりが楽しめるが、この「マビノギ」の経験で、自分から切り離した、キャラクターにユニークな格好をさせる楽しさに気がついた。そして、かわいらしいキャラクターデザインのオンラインゲームで、女性キャラクターを選ぶ人が多い理由がわかった気がした。

 オンラインゲームは、こだわりの服装を人に見せて感想をもらったり、他の人を褒めたり、服装がきっかけになってコミュニケーションが広がっていくのが楽しい。言葉を交わさなくても、銀行前など街で見かけた人、目の前を通り過ぎた人などの服装に感心させられたり、その人達の服装が刺激となり、自分なりのアレンジを思いついたりする。人に影響され、自分もアピールし、どんどん“オシャレ”にはまっていく。そして、「りあんなら似合うだろうか」と考える。ひょっとしたら次々と変な格好を提案する僕に、りあんは困っていたりするかもしれない。そう言ったキャラクター人格を考えるのも、オンラインゲームのならではの楽しさだと思う。


■  てっちゃんの割とどうでもいい話 「見上げると2つの月」

「マビノギ」は2つの月が浮かんでいる。砂漠で立ち上る陽炎や、氷原をで風に舞う雪など、自然の描写も本作の魅力だ

 「マビノギ」には月が2つある。青い月と、赤い月。僕はそのことにゲームをプレイして長い間気がつかなかった。何かのきっかけで空を見上げたときに、気がついてその不思議な光景にここは「異世界」なんだと感動した記憶がある。僕のように月が2つあることに気がつかなかった初心者プレーヤーも多く、教えて感心されたこともある。

 この月だけでなく、「マビノギ」は空の表現に力を入れている。「マビノギ」の世界は位置として北の方にあるのか、朝がとても早く、朝の3時半くらいから空が白み始め、6時には完全に明るくなる。夜が徐々に明けピンク色の朝焼けの光が空を染めていく、さわやかな朝の空気をうまく表現している。また、雲が増えていき、雨になる空の描写も細かくリアルだ。雲が少しずつ増えてきて、いつの間にか灰色の重い雨雲が空を覆い、雨が降り出す。

 “オンラインゲーム”をプレイしているのに、ログインしてずっとカメラを空に向けて、ぼけーっと風景を眺めている、というのを「ゲームプレイ」と言えるのかどうか。僕は数人と遊んでいて、空に視線を向けて「マビノギ」の空の素晴らしさを力説したことが何度かある。その後ひたすら空を眺めていて、つまらなくなって帰ってしまう人もいた。しかし、その後何人かで空をずーっと眺めて、下らない話をぽつぽつとしていたこともある。その時間はとても楽しかった。

 これは全ての人にとって面白い遊び方ではないとは思うが、「時間の流れをじっくりと味わう」贅沢をゲームの中で体験できるというのは、すごいことだと思う。そして同じように楽しんでくれる友人が見つけられるのは、とても幸せなことだ。



~今回ぐだってしまったオンラインゲーム~

「マビノギ」

韓国NEXONのdevCATスタジオが開発する「マビノギ」。スキル+レベル制という韓国MMORPGでは珍しいスタイル。10月21日からは、シェークスピアの劇の要素を取り入れたストーリーが展開している

 「マビノギ」は韓国NEXONのdevCATスタジオが開発するMMORPG。日本では2005年より正式サービスが行なわれている。サービス形式は基本プレイ無料のアイテム課金制だが、様々なサービスを受けられる「プラン課金」も用意されている。ケルト神話をベースとしたストーリーがあり、コンシューマーゲームのRPGの様なムービーによる演出も楽しめる。

 ゲームはレベル+スキル制であり、レベルを上げる事で得られるAP(アビリティーポイント)を消費することでスキルを上げていく。レベルは一定以上は上がりにくくなるが、「転生」することで、レベルを1に戻し再びレベルを上げてAPを得ることができる。習得スキルによって、プレーヤーが臨む方向に育てていくことができるが、習得数の上限はないため、コアプレーヤーのキャラクターは万能に近くなる。

 これまで広大な冒険地域のある新大陸「イリア」や、結晶を作り出すことで魔法とは違った技術を使う「錬金術」、この世界と似て非なる「影の世界」、神話に語られた「女神」など様々な要素が取り入れられてきた。10月21日からはシェークスピアの作品をモチーフとしたストーリーが展開する。第1弾は王子の復習劇を描く「ハムレット」だ。また、システムにも新要素が多数盛りこまれるという。


【スクリーンショット】
コラムで取り上げた「音楽の発表会で着ていく服」。中央が「牛乳瓶を持つための服」、そして右が「悪の女ボス」だ
「夏休みの子供」と、「保安官」。右は友人の「古本屋のオヤジ」だ。手に持つはたきで、立ち読みの人を撃退するという。このプレーヤーとは、僕がこのセンスにしびれ、声をかけ友達になってもらった。毛の薄いカツラと野暮ったい服をわざわざ選ぶという、「マビノギ」でもなかなかいない志向の“オシャレ”だ
もちろん「マビノギ」はアバター要素だけではない。アクション性の高い戦闘は多くのユーザーを魅了しているし、様々な自然を再現した広大な冒険大陸や、ケルト神話の要素を取り入れたストーリーなど沢山の見所がある。また、ユーザー主催の音楽会イベントなども盛んだ

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(2010年 11月 2日)

[Reported by 勝田哲也]