【特別企画】

「ベイグラントストーリー」25周年! 高難易度ながら、グラフィック・バトル・音楽など当時の最高技術を結集させたRPGアドベンチャー

【ベイグラントストーリー】

2000年2月10日 発売

 スクウェア(現スクウェア・エニックス)より2000年2月10日に発売されたプレイステーション用ゲームソフト「ベイグラントストーリー」が、本日2025年2月3日で発売25周年を迎えた。

 本作は、主人公アシュレイの視点で、魔都レアモンデを探索していくRPGアドベンチャー。制作・監督は、「タクティクスオウガ」や「ファイナルファンタジータクティクス」などで知られるクリエイターの松野泰己氏。キャラクターデザインは「ファイナルファンタジータクティクス」や「NieR:Automata」で知られる吉田明彦氏、音楽は「ファイナルファンタジータクティクス」や「ファイナルファンタジーXII」などで知られる崎元仁氏が担当している。

 発売翌月の2000年3月4日にはプレイステーション 2の発売を控えているという時期だったこともあり、グラフィックやシステム、音楽など、プレイステーション用ソフトとは思えないほど、明らかに他作品とは一線を画す出来となっていた。それもあって、当時レビューでも大変な高評価を獲得した作品だ。

 本稿では、そんな「ベイグラントストーリー」の思い出を振り返っていきたい。

あまりに衝撃的だったプロローグシーン

 ある夜、バレンディア王国の貿易都市グレイランドにあるバルドルバ公爵邸が、カルト教団メレンカンプによって占拠される。メレンカンプの教祖であるシドニーは、邸内にいた公爵の妻と息子、使用人ら計34名を人質に取り、その解放と引き換えに現法王の辞任と、バレンディア治安維持騎士団(VKP)によって捕捉された仲間の釈放を要求していた。

 しかしこの事件は、本来なら管轄外の法王庁が、無断で騎士団を現場介入させるという異例の事態となり、法王庁直属の聖印騎士団クリムゾンブレイドは、VKPの指示を待たずに、公爵邸への強行突入を決行してしまう。

 VKPに所属する「リスクブレイカー」と呼ばれるエージェントのアシュレイは、クリムゾンブレイド突入の混乱に乗じて公爵邸内へ潜入。シドニーを追い詰め、シドニーの心臓をボウガンの矢で貫いた。

 しかし心臓を貫かれたシドニーは息を吹き返し、アシュレイはシドニーの逃亡を許してしまう。

 事態を重く見たVKPは、シドニーの逃亡先である魔都レアモンデへアシュレイを派遣。シドニーを追うよう、命じた。

 各々の思惑と様々な謎を残したまま、メレンカンプの本拠地である魔都レアモンデへ潜入するアシュレイだった。

シドニー

 これらのプロローグシーンを彩るのは、オリジナルサウンドトラックに収録されている「グレイランド事件クライマックス」。この曲は約12分にも及び、場面に合わせ様々な曲調で構成される、映画音楽にも似た一曲。今でこそリアルなグラフィックにあわせてBGMの曲調も映画音楽に寄せたものが増えてきたが、この作品は今から25年も前のもので、しかも初代プレイステーションで発売されたものである。

 この当時、これほどシーンと曲がシンクロして進んでいくゲームはなかなか無く、また、当時のスクウェアの技術力を結集して作り上げたとも言える美しく退廃的なグラフィックとあわさって、このプロローグシーンだけで鳥肌が立ったのを、今も覚えている。

 本作は、背景やキャラクターをフルポリゴンによるリアルタイムレンダリングを行なっており、ある意味当時のスクウェアの十八番だったとも言える美麗なプリレンダリングムービーは、ほんの一部にしか使われていないのが特徴だった。キャラクターの感情を表現するべく、「表情」も表現されている。今でこそ極々当たり前のことなのだが、初代プレイステーションが現役だった当時としては、画期的な出来事だったのだ。

 実際に物語の舞台となるレアモンデは、魔都と呼ばれているだけあって全体的に暗めなマップが続くのだが、これらマップのビジュアルは美しくも、陰鬱さを湛えている。ワイン貯蔵庫~地下墓地~地下教会と、暗く、神秘的なマップが続くが、レアモンデの市街地に出ると、これまでとはまるで違う景色がプレーヤーを出迎える。その時の喜びはひとしおで、同じ静寂ながらも地下とは違う雰囲気になっていることに感動したものだ。

登場人物は少ないものの、印象的なキャラクターが多かった

 本作は、松野氏の作品にしては登場人物が少ない。「タクティクスオウガ」や「ファイナルファンタジータクティクス」のような、登場人物が非常に多くかつ複雑な人間関係を描く作品とは全く異なっている。主要人物をざっと挙げてみても、10名ほどにしかならないくらいなのだ。

 まず、主人公のアシュレイ。VKPに属するエリート・エージェント。妻のティアと息子のマーゴが殺された事をきっかけに、近衛騎士団からリスクブレイカーへと転身した。パートナーであるメルローズとも必要最低限の会話しかしない、寡黙な20代後半の青年。本作は基本的に、このアシュレイの視点で進められていくのだが、レアモンデを調査していくうちに、アシュレイ自身すらも知らなかった自身の過去や素性が明らかになっていく。

 そしてアシュレイと敵対するのが、メレンカンプの教祖であるシドニーだ。公爵邸を襲撃した後、邸内で遭遇したアシュレイをレアモンデに誘い込み、行方を眩ませる。独特の存在感を持っており、他者の心の内を読んだり、初対面の人間の過去を言い当てたり、相手の意識を自分の意のままに操ったりすることができる。

アシュレイとシドニー

 メルローズは、VKPの情報分析官。カルト教団や宗教によるテロリズムの情報分析を専門としており、アシュレイのサポート役として、共にレアモンデに潜入する。

 ハーディンは、メレンカンプ教団の幹部で、シドニーの相棒。シドニーと共に公爵邸を襲撃し、逃亡の際にバルドルバ公爵の一人息子であるジョシュアを拉致して、レアモンデに潜伏する。

メルローズとハーディン

 ローゼンクランツは、自称リスクブレイカーで、アシュレイの行く先々に現れる。魔都レアモンデに関しては、アシュレイよりも豊富な知識を持っている。

 ギルデンスターンは、法王庁直属のクリムゾンブレイドの団長。目的のためには如何なる手段も選ばない非情な人物で、あるものを手に入れるためにシドニーを追ってレアモンデに突入する。

ローゼンクランツとギルデンスターン

 ……と、本作を理解するのに絶対に覚えておきたいのは、このたった6名。もちろん登場人物は他にもいるのだが、中心人物となるのはこの6名ほどなので、覚えやすい。

 一方で、松野氏らしい「どのキャラクターがどのような立場で何をしようとしているのか」を理解しなければならないストーリー構成になっており、奥深い物語は健在だ。

 特に映画のようなカメラワーク、松野氏らしいセリフのやり取りなど、演出面でも本作は当時発売されたゲームを一歩以上抜きん出ており、冒頭30分で、この作品の世界観に引きずり込まれるようになっていた。

非常に難度が高かったバトル。チェインをうまく繋げなかった……

 本作はRPGアドベンチャーという分類になっているが、もしも今、本作を出すとするなら、恐らくアクションRPGという分類になっているのではないだろうか。

 バトルはシームレスバトルになっており、リラックスモードからバトルモードになることで戦闘態勢になる。

 バトルモード時に射程内の敵のリムと呼ばれる部位を選択すると、そのリムを攻撃する。リムへのダメージが一定値になると「DYING」というステータス異常を起こすことができる。

 敵の足をDYINGにすると移動力が50%になったり、右腕だとアタック50%、胴は「リスク」200%、頭だと沈黙(魔法を使えなくなる)……といった具合だ。

 本作では、モンスターごとに相性のいい武器を使い分けることが重要となっているのだが、チェインアビリティと呼ばれる、敵との相性を無視してダメージを与える方法もある。武器の切り替えはどうしてもバトルのテンポを削ぐのだが、チェインアビリティを使いこなせればテンポよくバトルを繋ぐことができるのだ。

 ……が、しかし。このチェインをつなぐのが、めちゃくちゃに難しかった……。

 アシュレイの頭に出る「!」マークを頼りにボタンを押していくことでチェインがつながる……はずなのだが、ちっともつながらないのである。

「!」マーク

 実際には、「!」マークを頼りにするよりもリズムで覚えてしまったほうがいいのだが、何せ当時は攻略動画はもちろんのこと、攻略サイトすらまだまともにない時代だったこともあり、リズムで覚えようにもタイミングがまったくわからない、という事態に陥り、敵にうまくダメージを与えられなかった。

 それでも何故か上手くチェインが繋がるタイミングがあるので、次も同じタイミングで押してみると、やはりつながらない。何故かというと、アビリティのリズムは数種類あり、武器によってもタイミングが違うという、なかなかの極悪仕様。

 結局筆者は当時何時間も模索してチェインをそこそこに会得していったのだが、チェインをひたすら繋いでも、今度は「リスク」が溜まっていってしまうため、わざとチェインを途切れさせなければならない。

 リスクというのは、これが高くなればなるほどアシュレイが受けるダメージが多くなり、また、攻撃の命中率も低くなっていってしまうという、上げてもいいことがない数値。

 リスクが高いと一発でいきなりゲームオーバーになったりもするため、本作ではこのリスクの管理がとても重要で、敵に気持ちよくチェインでダメージを与えているばかりではダメなのである。

 なお、当時は敵へのダメージ予測が0という状態に心が折れてしまったプレーヤーも見かけたが、本当に、本当にチェインを制すれば神がかったバランスで進行できるようになっていくので、何卒そこまで頑張っていただきたい所存である。

 そういう意味でも、RPGアドベンチャーというよりは、アクション要素が強めなタイトルだった。しかし現代風のアクションRPGとも違う、これは「ベイグラントストーリー」という、ひとつのジャンルだったように思う。

崎元氏のBGMが最高だった

 ダンジョン内に響く重々しい旋律は、「タクティクスオウガ」や「FFT」などで聴けた、いわゆる「崎元節」とは異なっていたものの、弦楽器を中心としたオーケストラ調の音楽は、本作の世界観と非常にマッチしていた。

 そして各ボス戦ではこれまでの静けさとはまるで違った闘争心を煽る曲調になっており、ボス戦で「これこれ!」となったプレーヤーも多かったのではないだろうか。特に「デュラハン」、「ゴーレム」、「ティーガー&ニーチ」、「イフリート」などは、崎元氏らしいメロディをぎゅっと詰め込んだような曲に仕上がっている。

ゴーレム戦

 本作は、その難易度の高さから結果的には賛否両論わかれることになってしまったのだが、筆者としては今でもリメイクしてほしい作品のひとつである。

 完成度の高さはプレイステーション時代のものとしては群を抜いて素晴らしく、今プレイしてみても斬新なバトルシステムや、時代を先取りしたような演出の数々には舌を巻くことだろう。

 アシュレイやシドニーたちの背後にどんなドラマがあるのか、シナリオだけでも一見の価値がある作品だ(そのシナリオを楽しむために、高難易度のバトルをクリアしていかなければならないのだが……)。

 ぜひ、この機会に改めてプレイしてみてほしい作品のひとつである。