韓国ゲーム業界、ちょっとした裏話

連載第6回

韓国RMT最新事情。モバイルゲームと共に再び活況を呈するRMT、その先にある違法現金化問題

 モバイル向けMMORPGの大ヒットで活況を呈している韓国オンラインゲーム業界だが、それに伴い、RMTも息を吹き返している。今回は、スマホ時代のRMT事情をお届けしたい。

韓国のRMT現状

 まずRMTとは何か。リアルマネートレードの略で、オンラインゲームであれば、キャラクターやアイテム、武器などを販売し、現金を得る行為を指す。

 かつてPC向けMMORPGの時代は、RMTは規約違反行為だった。なぜならゲームプレイではなくRMT自体を目的とした“業者”が参入し、ゲーム内のエコシステムを崩壊させるだけでなく、大量にアイテムやゲーム内通貨が生成されることでハイパーインフレを巻き起こし、ゲームバランスが崩壊してしまうからだ。

【ITEMBAY】
2008年頃のITEMBAY。韓国オンラインゲームではRMTは当たり前の行為だ

 日本でも同じ時期に、「ファイナルファンタジーXI」や「ラグナロクオンライン」などで厳しい取り締まりが行なわれ、大量のゲーム内マネーが没収され、アカウント停止にされていたことを覚えている方も多いだろう。現在でも「『ドラゴンクエストX オンライン』、RMT販売者の200アカウント、約83億727万ゴールドを凍結」のように、日本では運営側がRMTを厳しく取り締まることが求められている。

【ドラゴンクエストX】
厳しい取り締まりで知られる「ドラゴンクエストX」。

 一方、韓国では、もともとRMTに寛容な市場だったが、現在ではRMTは完全に黙認され、ユーザーは大手RMT仲介サイトのITEMBAYやITEMMANIAといった仲介サイトを通じて大っぴらにRMTをしている。両社の規模は年間売り上げ両社それぞれで15億円程度。運営会社は事実上合併して同じ会社になっており、韓国のRMT市場の95%を占めている。仲介手数料が5%ということから逆算して考えると、韓国RMT市場の規模はおよそ年間600億円の規模になる。

 RMTはメーカーも大きな売上機会の1つ、マーケティング施策そのものとして捉えており、日本でもサービスされている「リネージュII:レボリューション」には、「取引所」というコンテンツが存在し、これを通じて仮想通貨による取引ができるようになった。

 韓国におけるRMT行為はしっかりコントロールされており、ユーザー同士でRMTができる機能を備えたゲームはその時点で18禁レートのゲームとして認定される。RMT自体がダメなのではなく、未成年がRMTはダメ、RMTの仲介もダメという考え方だ。

 「リネレボ」までは「取引所」機能があるゲームが無かったため、当初「リネレボ」は15歳以上のレートでリリースされたが、2017年5月に「取引所」の存在が初めて社会的にクローズアップされ18禁レートに変更された。これを受けて「リネレボ」はさっそく「取引所」機能を一旦削除した。というのも18禁の指定を受けると、AppleのApp Storeから強制削除されるため、事実上新規ユーザーの獲得が不可能になるからだ。その上で「リネレボ」は、RMTができないように「取引所」のシステムを変更して再オープンした。

 NCSOFTはこうした経緯を踏まえてシリーズ最新作「リネージュM」では「取引所」機能が実装された18禁バージョンと、「取引所」機能が省かれた12歳バージョンでリリースし、改めてRMTを公式的に展開している。なお、18禁バージョンはGoogle Playでのみ配信されている。

 RMT機能の有無によって2バージョン用意する施策は、韓国ではスタンダードになりつつあり、「リネージュM」のほか、「ミューオリジン」、「ミューオリジンII」、「ダークエデンM」、「ミルの伝説IIリブート」、「カイザー」などが存在する。

ダイヤを現金で売買するその手口とは!?

 「リネレボ」や「リネM」をプレイしている方は、「ダイヤと交換するだけだからRMTじゃないじゃないか!」と思った方も多いだろう。それはまったくその通りで、だからこそ日本において、「リネM」が取引所が存在するにも関わらず“12歳以上”の指定でApp Storeを介してアプリが提供できている。

 では韓国ではなぜ「取引所」=RMTの図式が成立するのかというと、RMT仲介サイトによるダイヤ売買、そして“その先”が存在するからだ。

 具体的には、ITEMBAYやITEMMANIAといった仲介サイトを介することで、仮想通貨を現金化することができるのだ。

【ITEMBAY】
現在のITEMBAY

 順を追って説明していこう。まずはRMT仲介サイトにおけるオーソドックスな取引は以下の通りとなる。わかりやすいように仮想通貨をダイヤで統一している。

【モバイルゲームで「取引所」を介したRMT方法】
1、販売希望者がRMT仲介サイトで販売するダイヤと価格を掲載する。
2、購入希望者はRMT仲介サイトを通じて取引を申し込み、仲介サイトに現金を支払う
3、支払終了後、購入希望者は「取引所」に無価値なアイテムを登録し、価格を購入したダイヤの数だけ入力し、そのことを販売希望者に通知する
4、販売希望者がその無価値なアイテムをダイヤで購入する
5、RMT仲介サイトにより、手数料を抜いた金額が販売希望者に振り込まれる

 これによって販売希望者はダイヤの代わりに現金が手に入り、購入希望者はメーカーの正規ショップよりも安い価格でダイヤが手に入る。そしてRMT仲介サイトには総取引額の5%の手数料が入るわけだ。

 ゲーム内経済の問題を別にすれば、一見、三者一両得であり、わざわざ政府が乗り出してきて18禁指定する必要性はないように思うかもしれないが、問題はこの先だ。

なぜ18禁なのかというと、その先に違法現金化問題があるから

 RMTは様々な考え方があるが、基本的には売りたい人と買いたい人のマッチングによって成立するCtoCのサービスであり、良し悪しは別にして、これを止めることはできないと思う。ただ、RMTは理想と現実に乖離が大きく、実際は様々な違法行為が行なわれている。だからこそ政府が乗り出してきているわけだ。

 「リネージュM」を例にして説明すると、現在RMT仲介サイトで販売されているものは大きく2つ。1つはリセマラに成功したアカウント、もう1つはダイヤだ。

 アカウントについては俗に“作業場”と呼ばれるRMT業者がBOTを使って育成し“出荷”する。このブロイラーのように育成されたキャラクターを、時間を短縮したいプレーヤーが購入する。BOTについては連載第3回で詳しく取り上げたが、BOTを使うことの是非は置いておくと、育てる人がいて、使いたい人がいる。これは正常なCtoCの取引だと思う。問題なのはダイヤのほうだ。

【作業場】
「リネージュM」の“作業場”で働くキャラクターたち。本作では狩りでアイテムを稼ぐには大量のダイヤを消費してBUFFを維持する必要があるので効率が悪く、今では殆どが無くなった
その作業場のリアルな風景

 ダイヤを販売しているのはRMT業者ではない。もちろんRMT業者も現金化のために販売しているが、現在、ダイヤを販売しているのは殆どがクレジットカード現金化の業者だ。クレジットカードの現金化問題は、韓国のみならず日本でも問題になっているが、韓国ではその巧妙なやり方のひとつとしてオンラインゲームが“悪用”されているのだ。韓国では、携帯電話決済の現金化も加わり、大きな問題になりつつある。

【モバイルゲームでクレジットカード現金化の手法】
1、現金が必要なユーザーがクレジットカード現金化業者に連絡
2、ユーザーがクレジットカードか携帯電話決済で、ダイヤのパッケージを業者にプレゼントする
3、業者は手数料を抜いて、残りを現金でユーザーに振り込む
4、業者は集まったダイヤをRMT仲介サイトなどで、正常ショップの商品より安く販売する

 つまり、RMT仲介サイトに出されているダイヤの多くは、最初から最後までゲームとはまったく関係のないところで取引が行なわれている。

 RMTは韓国のみならず、日本でもやっている人はいると思うが、なぜクレジットカード現金化は、ほとんど韓国だけで行なわれているのか?

 その理由は手数料が大きく違うためだ。日本では数%から10数%で済むのに対して、韓国では30~50%を取るのが一般的になっている。利ざやが大きいため、RMT仲介サイトでダイヤを売るという手間を掛けても、20~40%のマージンが残る。だからこそクレジットカード現金化業者が手を付けているわけだ。

 クレジットカード現金化はもちろん韓国でも違法だが、NCSOFTのようなメーカーにとっては最初にユーザーの課金がそのまま売り上げになる上、クレジットカード現金化業者を見つけるのは困難であるため、手の打ちようがない。

 もっとも、メーカーにとっては、ダイヤが流通すればするほど売上に繋がるため、あえてこの状況を黙認しているという現状もある。

 現在では、クレジットカード現金化業者自体が、一般ユーザーがアイテム販売などで集めたダイヤを安くで購入して、再販売する事業も行なっており、RMTビジネスは混沌かつ先鋭化しつつあるというのが実情だ。

【クレジットカード現金化業者】
クレジットカード現金化業者の広告とそのウェブサイト

NCSOFTベ・ジェヒョンの株式売却問題

 ところで、「リネージュ」シリーズは、古くからRMT要素が人気の要因のひとつになっており、最新作「リネージュM」もRMTシステムが導入されることが期待されたが、2017年6月に「取引所」が無い12歳バージョンのみ発売すると発表して株価が大きく下落した。

 その発表がある数日前に、NCSOFTの副社長で開発部門とトップとなるベ・ジェヒョン氏は、自分が持っていたNCSOFT株を売却しており、社内情報を利用した背任行為ではないかという疑いがあった。

【NCSOFTのベ・ジェヒョン副社長】

 また、NCSOFTの株価が落ちることを予想したのか、海外からのShort Saleも急激に増えており、内部情報の流出によるインサイダー取引の疑いがあった。韓国の金融委員会は2018年1月にベ・ジェヒョン氏を告発したが、その後の結果はまだ知らされていない。

 なお、ベ・ジェヒョン氏は噂に寄れば開発現場に復帰し、「LLL」という開発コードネームが付けられた新作オンラインゲームの開発を手がけているという。「Tabula Rasa」のようにTPSとMMORPGジャンルを融合したようなゲームということで正式発表が楽しみだ。

【Netmarble GamesではRMTで自殺も】
「リネレボ」ではNetmarble Games社員がゲームマネーを横領し、RMTサイトで販売したことが発覚。その社員はこのメッセージを残してNetmarble Games本社ビルから飛び降りて自殺した