韓国ゲーム業界、ちょっとした裏話
連載第5回
韓国eスポーツ人気を支える違法ギャンブル問題。現役のプロゲーマーが八百長に手を染めるどうしようもない世界
2019年5月22日 00:00
韓国では博打に関するあらゆることが違法だ。韓国国内では韓国人が入場可能なカジノは1カ所のみで、基本的には立ち入り禁止となっている。韓国は属人主義と属地主義の法律になっているため、海外のカジノでも、小さい金額で遊び半分でやるのは黙認するが、金額が大きくなる(およそ100万円以上)と違法になる。そういった状況から韓国でオンラインゲーム共に急成長したのが、オンライン上の違法カジノ&スポーツギャンブルサイトだ。
射幸産業統合監督委員会によると、韓国における違法ギャンブルの市場規模は韓国ゲーム市場全体の1兆3千億円を遥かに超える8兆4千億円で、オンライン上で行なわれている違法のオンラインTOTO(スポーツくじをオンラインで賭けるサイト)だけでも2兆円を超える規模だ。違法ギャンブルはスマホの普及以降に急激に成長して、現在は82.7%がスマホからのアクセスになっているという。
そしてオンラインTOTOの賭けの対象は、当然eスポーツも含まれる。その結果、「Starcraft」や「League of Legends」などで、違法スポーツTOTOの運営団体と絡んで、組織的に試合の八百長に加担するチームやプロゲーマーの存在が大きな問題となっている。スポーツ界でもプロ野球やプロバスケットボールなどで八百長が起きたりするが、同等にeスポーツ界でも問題になっているのだ。
今回は、その違法ギャンブルの仕組みとプロゲーマーたちが絡む経由、なぜ無くならないのかなどについて話そう。
ついつい違法ギャンブルに加担してしまうプロ選手たち
オンライン上の違法ギャンブルは大きく3つに分かれている。オンラインカジノ、オンラインパチンコ、そしてオンラインTOTOだ。ベッティングの対象はそれぞれ異なるが、基本的なお金の流れは皆一緒だ。サイトで課金してゲームマネーを貰い、そのゲームマネーで各ゲームにベッティングする。eスポーツであれば、試合開始直前までベット可能(試合によっては試合開始後も賭けられる場合がある)で、その掛け率に応じてリアルタイムで倍率が変わる。ベットが当たれば払い戻しがあり、負ければ失う。
そのなかでオンラインTOTOは、実際の試合の結果を当てるだけなので、プログラムで動くカジノやパチンコよりは安全だと思うのか、とびきり人気が高い。運営側もベッティング率を調整するだけでも、十分な利益が取れる仕組みになっている。しかし、確実に利益を作るために、もしくはもっと利益をあげるために、一部のユーザーや運営側は、eスポーツや野球などのプロ選手やチームと絡んで八百長を行なう場合がある。それがeスポーツ業界で頻繁に起こる試合八百長事件だ。
例えば、Aチームが勝つと10倍、Bチームが勝つと2倍の試合で、Aに勝たせて10倍を的中させたい団体はBチームの選手に連絡を取る。「負けてくれれば何十万円渡す」といった内容などでだ。Aに勝たせたい団体は、10倍を的中させて、得た大金の一部を八百長に加担してくれた選手に払う。
問題が深刻なのは、オンラインTOTOの運営側が八百長に手を染めているケースもあることだ。彼らはベッティング額を見ながら誰に八百長を呼びかけるかを決めていく。彼らとしては、常に倍率の低い、強いチームに声を掛ければいい。
一見煌びやかに見えるプロeスポーツの世界だが、韓国でもトップチーム以外は稼ぎがままならないことが多い。選手たちはダメだということをわかっていても生活のためについつい手を出してしまう。過去には「Starcraft 2」で、プロチームの殆どが八百長に手を染めるという信じられない事件まで起きてしまった。
違法ギャンブル、その手口とは?
プロeスポーツにおける八百長問題の根っこにあるのは言うまでもなく違法ギャンブルだ。試合に賭ける人がいるから、その結果を操作することに意味が出てくる。
それにしてもなぜ明確に違法ということがわかっている違法ギャンブルは無くならないのか? それを理解するためにはまずはその運営の仕組みから知る必要がある。
違法ギャンブルの運営は、Webサイトの運営を行なうチームと、実際のお金とユーザーを管理するチームは完全に分離されており、お互いのことを詳しく知ろうともしない。なぜなら全てが違法で、捕まる可能性を少しでも低くするためだ。それぞれ自分なりのルールを作り、その範囲内で動こうとしている。
Webサイトの運営チームは主にフィリピンやインドネシアなどの東南アジアで活動しており、サーバーも東南アジアで管理するようにしている。韓国国内でやればそれが違法というだけでなく、IP検索ですぐに捕まってしまうからだ。また、彼らは事業拡大のために同じ人たちが名前だけ違う複数の同じサイトを運営したりもする。場合によっては競合サイトをハッカーを通じて、攻撃したりもするようだ。
一方、資金とユーザーを管理するチームは、自分の口座ではお金を受け取ることができないため、名義と口座を貸してくれる人も募集している。主に借金を抱えている人の連絡先を購入して、「口座を貸すだけで月15万円」という広告をしながら口座を集めている。彼らは大体40個ぐらいの口座を用意するが、この口座はギャンブルサイトで課金されるキャッシュを受け取るために使われる。口座にあるお金は複数のバイトを使って、ATMからキャッシュを下ろす。
次にどのようにしてユーザーを集めるかだが、専門のエージェントを利用する。ユーザーを連れてきたエージェントは、そのユーザーが課金した金額の20~40%までを手数料として貰う。エージェントは成人向けPCバンや、インターネット、公式TOTOのオフライン店舗などでチラシをばら撒いてユーザーを集めている。1つのサイトにアクティブユーザーが100人を超えれば利益は十分出るという。また、集まったユーザーがまた違うユーザーを連れてくるので、ネットワークマーケッティングように広がる仕組みになっている。
そのすべての工程は全て偽名や他人の携帯を使っており、それぞれの担当が分離されている。そのため、下でユーザーを募集をするエージェントや、口座からお金を下ろすバイトはよく捕まるが、その上はなかなか捕まらない。捕まったとしても、すぐ別の人物が始められるという体制になっている。ここで稼げたお金は様々な方法でロンダリングするので、その追跡も限界があるという。
なぜ違法ギャンブルは無くならないのか?
実際に韓国警察に捕まった違法ギャンブルサイトの規模は2,900億円程度、わずか3%程度に過ぎない。違法ギャンブルサイトの規模がどんどん大きくなっていく中で、なぜこれだけしか捕まらないのか?
まず、圧倒的なニーズがあるからだ。先述した通り、韓国ではカジノが違法であり、日本のようなパチンコや競馬といった合法的なギャンブルが一切無い。一応、合法のカジノやTOTOはあるが、年間でベッティングできる金額や回数の制限、キャッシュ化するための手続きなど不便なことが多い。しかし、違法ギャンブルなら24時間どこでも遊ぶことができて、すぐキャッシュ化できる。もちろん、ベッティングの回数や金額に限度がない。このためギャンブルが好きな韓国人はすぐ違法ギャンブルサイトを利用してしまうのだ。
また、違法ギャンブルを運営する者、手伝った者、プレイした者に対する処罰も弱い。運営した者の平均の懲役は15.2カ月だが、これに執行猶予が付くことがほとんどだ。罰金も50万円程度。韓国は基本的にどの罪に対しても罰金や処罰が弱い国だが、ギャンブルにおいてもそれは当てはまる。
また、警察の捜査も限界がある。警察が実際にアカウントを作って調べることや、運営に加担して行う潜入捜査は法律上禁じられている。さらに、全てのサーバーは海外で、偽名の口座の作りや、ドメインの変更も容易なので、運営の本体はなかなか捕まらないのだ。
スポーツやeスポーツの関連団体からは違法ギャンブルに加担することを防ぐための教育などを行なってはいるが、根本的には違法ギャンブルがある限りなくならない問題だ。この問題を根本的に解決するためには韓国政府側が強い意志を持って対応していくしかないと思うが、現実問題としてそれは難しい。かくして韓国では違法ギャンブルがいくらでも蔓延するわけである。
日本からオンラインカジノに手を出している人も多いと聞く。日本でのオンラインカジノはグレーゾーンの1つだが、問題なのはそこではなく、その先のベッティングの対象に、日本のeスポーツ大会が選ばれる可能性があり、そうなれば韓国と同様に、八百長を呼びかける団体が必ずや現われるということだ。韓国プロeスポーツシーンにおける八百長問題は、韓国eスポーツ界の恥のひとつだが、日本も同じようにならないように今からしっかり啓蒙していくことが大事だと思う。