レビュー
「英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-」レビュー
序盤から待ったなしの豪華登場メンツ、過去作のプレイは必須級だがシリーズファンは大歓喜の作品に
2024年9月25日 00:00
- 【英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-】
- 9月26日 発売
- 価格:
- 通常版 8,800円
- Limited Edition 11,550円
日本ファルコムが9月26日に発売するプレイステーション 5/プレイステーション 4用RPG「英雄伝説 界の軌跡 -Farewell, O Zemuria-(フェアウェル オー ゼムリア)」(以下、「界の軌跡」)。
「界の軌跡」は、「英雄伝説」シリーズ第10作、同シリーズ第3期「軌跡」シリーズ第5作となる作品で、「軌跡」シリーズの20周年を記念するタイトルとなる。
本作は、七耀暦1209年5月、ゼムリア大陸を舞台に繰り広げられる、「裏解決屋(スプリガン)」のアークライド解決事務所の所長であるヴァン・アークライドを中心とした物語だ。タイトルこそ「界の軌跡」と改まっているものの、「英雄伝説 黎の軌跡」、「英雄伝説 黎の軌跡II」の実質続編にあたり、「黎の軌跡III」的な立ち位置の作品となる。
アークライド解決事務所があるカルバード共和国の首都イーディスがメインの舞台となるが、もちろんイーディス以外の舞台も様々登場する。
今回は、プレイステーション 4版「界の軌跡」を一足早く体験することができたので、そのレビューをお届けしよう。なお、本稿には序盤のネタバレが含まているので注意してほしい。
「黎の軌跡」シリーズをざっとおさらいしよう
「界の軌跡」のストーリーに触れる前に、「黎の軌跡」シリーズをざっとおさらいしよう。
エレボニア帝国編である「閃の軌跡」シリーズが終わりを迎え、舞台をカルバード共和国に移したのが「黎の軌跡」だ。カルバード共和国では移民の大量流入による情勢不安や新大統領ロイ・グラムハートによる大規模な政治改革により、好景気の裏で激動の時代を迎えていた。
そんなカルバード共和国では、あまり大っぴらにできない「裏」の案件を解決する裏稼業「裏解決屋(スプリガン)」が活躍している。裏解決屋は一般人からの依頼はもちろんのこと、警察や遊撃士協会等の下請けや、裏社会まで、あらゆる依頼をこなすのだ。
共和国首都・旧市街にある「アークライド解決事務所」もその裏解決屋のひとつ。所長は、ヴァン・アークライド。表側の人間から裏側の人間まで、非常に幅広い人脈を持っている。そのアークライド解決事務所の扉を、アニエス・クローデルが叩いたところから、「黎の軌跡」の物語は動いていく。
アニエスは亡き曾祖父の形見である導力器(オーブメント)「オクト=ゲネシス」が何者かに盗まれたので、その捜索をヴァンに依頼しに訪れたのだった。そしてなんやかんやと、アニエスはアークライド解決事務所の押しかけ助手へと収まる。
他に、依頼者として、或いはゲネシスの行方を探す過程で、様々な事情によって、アークライド解決事務所には多くの仲間が集うこととなった。猟兵団「クルガ戦士団」に所属する若き少女のフェリ・アルファイド、東方人街で浮名を流す遊び人で東方華劇の女形役者のアーロン・ウェイ、「マルドゥック総合警備保障」のサービスコンシェルジュを務めているリゼット・トワイニング、バーゼル理科大学の修士課程を修める研究者の少年カトル・サリシオン、導力映画界のトップ女優であるジュディス・ランスター、ヴァンの武術の師匠のベルガルド・ゼーマン――。彼らを中心に、新たな「軌跡」が紡がれる。
序盤から出し惜しみなし! シリーズの人気キャラクターがてんこ盛り
「界の軌跡」は、世界がついに宇宙に向かって本格的に動き出したところから始まる。
そして、導力ロケットの話題が世間をにぎわす頃、ヴァンたちはオレド自治州にあるマルドゥック総合警備保障の本社ビルにいた。
だが、テスターとして呼ばれたのはヴァンたちだけではないという。ヴァンたちと競い合うために呼ばれたもうひとりのチームとして出てきたメンバー、それはなんと――。
そう、それは「閃の軌跡」の主人公だったリィン・シュバルツァーだったのである。
日本ファルコムの公式WebCMなどでリィンが登場することは知っていたものの、まさか序盤も序盤で登場するとは、あまりに想定外。しかもリィンとチームを組んでいたのは、リィンのパートナーであるアルティナ・オライオンと、「空の軌跡 the 3rd」の主人公であるケビン・グラハムだったのだ。
この3名の登場で目を白黒させていたのだが、まだまだこんなところで驚愕するだなんて早かった。全っ然、早かった。
2チームを、テスターエリアの最後で待ち受けていたのは――。
名前を呼ぶだけでも恐れ多いのだが、そこにいたのは「創の軌跡」の主人公のひとりであるルーファス・アルバレアと、そのパートナーである導力人形ラピス・ローゼンベルク、そして「閃の軌跡」の大人気キャラクターであるクロウ・アームブラストだったのだ。
ルーファス・アルバレアは、筆者の人生最大の推しキャラクターのひとりである。40年近くゲームと共に育ってきた筆者の人生最大の推しであるからに、その登場には過呼吸にもなろうというものだ。なので、ここでぜひとも序盤の筆者が撮りためたルーファスコレクションをご覧いただきたい。
……少々(大分?)、呼吸が荒めになって申し訳ない。「序盤から出し惜しみしない」とは聞いていたものの、本当にいきなり人気キャラクターたちを惜しげもなく投入して、序章からテンションを最高潮に盛り上げてくるとは恐れ入った。
もちろん、序盤から登場する人気キャラクターたちは、まだまだいる。例えば、遊撃士のフィー・クラウゼル、今はアニエスの良き先輩であるレン、A級遊撃士のエレイン……と、これでもかと新旧キャラクターが登場する。
とはいえ、主役は基本的にアークライド事務所一行なので、ヴァンファミリー贔屓のファンたちは安心してほしい。
クエストをこなしつつメインストーリーを進行。基本的な流れは「黎の軌跡」シリーズと同様
基本的なゲームの流れは「黎の軌跡」シリーズと変わらない。裏解決屋への依頼である「4spg」(クエスト)をこなしつつ、メインストーリーを進めていく。
また、選んだ解決策によってLAW、CHAOS、GRAYのパラメータが上がっていく。平和的な解決を望むとLAW、若干不穏な解決を望むとCHAOS、その中間であればGRAYが上昇し、エンディングには影響しないが、物語の途中のちょっとした分岐に影響する。
例えば、「黎の軌跡」では物語の途中でヴァンたちと協力する勢力が、LAWだと遊撃士協会、GRAYだと黒月、CHAOSだと結社、全ての属性値が3以上だと斑鳩と共闘する、というような分岐があった。
本作でもこのパラメータ次第で分岐があるのであろうことが予想される。一応セーブデータを多めに用意しつつ、属性値があまり偏らないようにしておくと、いざという時に安心だろう。
特定のキャラクターを深く掘り下げる「コネクトイベント」なども健在だ。
コネクトイベントとは、主にヴァンを中心にヴァンと特定の人物との絆があがるイベントで、コネクトイベントを行なうと相手のコネクトポイントと、ヴァンのコネクトポイントが上昇し、バトルでのパラメータが強化されたりする。
「黎の軌跡II」で登場した、戦術オーブメント「Xipha(ザイファ)」と導力ネットワークを利用したゼムリア大陸初の仮想空間サービスお伽の庭城(メルヒェンガルテン)は、本作では結社「身喰らう蛇」が乗っ取った仮想空間・黑の庭城(グリムガルテン)として登場する。
グリムガルテンは、バトルに参加できるメンバーの中から自由にパーティを編成し、仮想空間上に再現されたエリアを探索することができる、やり込み型のコンテンツ。各区画で指定されるミッションを達成することで次の区画への移動ができるようになり、一定の区画を進むと強敵との戦闘が待ち受けているのだ。そして強敵とのバトルに勝利することで、さまざまなレアアイテムが獲得できるようになっている。
メインストーリーは、実質「黎の軌跡II」の続編と言って良く、「黎の軌跡」、「黎の軌跡II」をプレイしていないと不明な点が多い。そういう意味では、いきなり「界の軌跡」から入ってきてほしい、というには、さすがに無理のある内容なのは間違いない。
一方で、「軌跡」シリーズ全体としては非常にテンポ良く進んでいる印象で、序盤からアークライド事務所御一行のほぼ全員が自由にパーティに組み込めるようになっているので、シリーズのファンとしては嬉しい出来となっている。
プレイしていて非常に良いシステムだと感じたのは、ゲーム中で気になるワードが登場したタイミングでロアを確認できる、「タイムリーワーズ」だ。
ちなみに、筆者が見た限りチュートリアルがなかったと思うので記しておくが、本作にも「ハイスピードモード」があり、ONにすると移動やバトルなどが倍速で進むようになる。ハイスピードモードはPS4ではコントローラのタッチパネルの右側を押すとON/OFFを切り替えられるので、覚えておいてほしい。
戦闘システムは「黎の軌跡II」を拡張させ、やり応えにあるバトルに
「界の軌跡」のバトルは、「黎の軌跡」で採用されたシームレスに切り替えが可能な「フィールドバトル」と「コマンドバトル」、ふたつのモードを駆使して進めることになる。
フィールドバトルで攻撃をあててスタンさせ、敵がスタンした瞬間にコマンドバトルへと突入することによって自軍に有利な展開でコマンドバトルに持ち込める。
このシームレスに移行するバトルは筆者のお気に入りで、「黎の軌跡」で初めて実装された時から素晴らしいシステムを開発したものだと唸ったものだが、本作でも引き続きこのバトルシステムが使われており、とても嬉しい。「イース」シリーズほど複雑なアクションはできないものの、「イース」シリーズで培われた日本ファルコムのアクション技術が非常に活かされたバトルになっている。
また本作では、「黎の軌跡II」で実装された「クロスチャージ」が「S.C.L.Mチャージ」と名前を変えてフィールドバトルに導入されている。「クロスチャージ」は、敵の攻撃をジャスト回避してパーティメンバーを切り替えると、一定時間攻撃力が強化された状態になるシステムであったが、「S.C.L.Mチャージ」ではパーティメンバーが切り替わらなくなっている。
さらにR3長押しで「Z.O.C」が、発動する。Z.O.C状態では敵のスピードが遅くなり、一方的に攻撃することができ、攻撃力やスタンダメージもアップするので、これらを使いこなすことでアクションバトル好きにはより一層やり応えのあるシステムになった。
コマンドバトルは、これまでの「軌跡」シリーズを遊んだことがある人にはなじみ深いバトルで、仲間と敵が特定のエリア内で戦っていくバトル。画面上部の行動順に従って、「攻撃」、「クラフト」(いわゆる特技)、「アーツ」(いわゆる魔法)などのコマンドを選んで、敵を攻撃していく。
フィールドバトルはリーダーキャラと敵シンボル数体の、1対複数の戦いになり、こちらが不利になりがちなのだが、コマンドバトルでは複数の敵シンボルに攻撃をあてられるクラフトやアーツを駆使して、敵に一気に大ダメージを与えることができるようになっているのが特徴だ。
アクションが苦手な人は、いちいちアクションでスタンさせてからコマンド展開……という手順を踏まずに即コマンドバトルを展開することも可能なので、じっくり自分のペースで戦うことができる。
なお、×ボタンを押し続けると、通常のフィールドバトルエリアに戻り、逃げることが可能だが、ボスなどの強敵は強制的にコマンドバトルになり、逃げることができない。
また、コマンドバトルでは、EXチェインが「黎の軌跡II」より続投。スタン状態の敵に通常攻撃かクラフトで攻撃すると、自動でS.C.L.M(スクラム)を組んでいるメンバー同士でEXチェインが発動する。
そして「軌跡」シリーズのコマンドバトルといえば、大技となるSクラフトなどで挟まれる派手な演出シーンが見どころ。今回は、リィンのSクラフト「灰ノ太刀・流転洸刃」の演出を紹介しよう。
やはり、Sクラフトの演出は最高にかっこいい。アクションバトル好きの筆者ではあるが、Sクラフトの演出を眺めるためにコマンドバトルをプレイしていると言っても過言ではない。
なお、筆者は基本的にハイスピードモードでプレイしているのだが、Sクラフトの演出もハイスピードになってしまうため、Sクラフトを使う時はハイスピードモードをOFFにして演出をじっくりと眺めている。
筆者が今回プレイできたところまででは、アークライド事務所御一行の他、リィン、アルティナ、ケビンと序盤で使用できたキャラクターのSクラフト演出を見ることができたが、今後他のキャラクターのSクラフト演出も見れるのかと思うと楽しみでならないし、どんな演出が待ち受けているのかと想像するだけでワクワクしてしまう。
ちなみに本作でもバトルに難易度があり、「VERY EASY」、「EASY」、「NORMAL」、「HARD」、「NIGHTMARE」の5種類から選ぶことができる。「軌跡」シリーズのバトルは「NORMAL」だとそれなりに歯応えがあるため、ストーリーを中心に遊びたい人は「VERY EASY」か「EASY」を、「軌跡」シリーズに慣れている人は「NORMAL」以上を選ぶのがおススメだ。
アクションバトルが好きで、できるだけアクションバトルだけで戦いたい、という人は「VERY EASY」が良い。それでもアクションバトルのみでゴリ押すことはできないが、だいぶアクションを中心にプレイすることが可能だ。
過去作のプレイは必須級だが、シリーズファンには嬉しい作品に
20年間続いてきた「軌跡」シリーズとあって、登場するキャラクターの数は本作でも相当なものと予想されるが、ひとりひとりのキャラクターが際立つ描写はさすがのひと言である。
そして本作が「黎の軌跡III」ではなく「界の軌跡」となったことで少々不安だったのは、「黎の軌跡」シリーズの主人公であるヴァンの扱いだったのだが、ヴァンはやっぱり本作でもしっかり主人公で安心した。相変わらず車が大好きで、甘い物に目がなくて、そんなヴァンの姿を見ていて、ほっとした。
「黎の軌跡II」では「軌跡」全体としての物語の進展が薄かったが、本作では追いつけ追い越せでどんどんとストーリーが進んでいく印象だ。
後半から恐らく怒涛の展開が待っているだろうことは予想できるのだが、その怒涛の展開がどのようなものになるのか、まだプレイしていない筆者も楽しみでならない。
前述の通り、本作は一本のRPGとして楽しめる作品であるかというと、筆者は残念ながら非を唱えるが、「軌跡」シリーズのファンが楽しめる内容であるかというと、これには是である。
やはりヴァン・アークライドという主人公が、抱えているものの大きさ含めて最高にイイ男すぎて、プレイしていて惚れ惚れしてしまう。しかしその背景にあるものは、「黎の軌跡」と「黎の軌跡II」をプレイしていなければ伝わらない部分が多く、「界の軌跡」だけをプレイすると諸々「ふーん?」とスルーされてしまいそうで、筆者としてはそれは非常に不本意だ。
そして「黎」い場所からヴァンを救い出すヒロイン・アニエスや――
――もうひとりのヒロインとも言える、エレイン。
ヴァンを挟んだふたりの乙女心は、前2作をプレイしていて初めてプレーヤーの心に訴えかけるものがあるだろう。
しかし、気になるのはアークライド事務所御一行とその周囲だけではない。リィンが登場しているように、本作ではリィンとシズナとの因縁も描かれるであろう。あとリィンと宇宙と言えば、「創の軌跡」での出来事も彷彿させられる。
……というように、過去作を知っていれば様々な予想ができるし、その予想が当たっていても外れていても楽しめるのだが、過去作を知らないと全体的に置いてきぼりになりがちなシナリオだ。しかしこれは、いよいよ「軌跡」シリーズに「完結」という二文字が見え隠れし始めている今、当然とも言える。
過去作のプレイは必須級の作品ではあるものの、ストーリーの楽しさ、バトルの面白さは一級品なので、楽しみに待っていてほしい。
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