レビュー

「ファイアーエムブレム無双 風花雪月」レビュー

愛するキャラクターとの戦い、自らの手で紡ぐ生と死、苦しい感情に振り回されても己の生き様と向き合う

【ファイアーエムブレム無双 風花雪月】

ジャンル:タクティカルアクション

開発・発売元:コーエーテクモゲームス

プラットフォーム:Nintendo Switch

CEROレーティング:B(12歳以上対象)

発売日:6月24日

価格:7,920円(税込)

 2022年6月24日に発売予定の「ファイアーエムブレム無双 風花雪月」(以下、「FE無双 風花雪月」)。本作は、任天堂によるシミュレーションゲーム「ファイアーエムブレム 風花雪月」(以下、「FE 風花雪月」)と、コーエーテクモゲームスによるアクションゲーム「無双」シリーズがコラボレーションしたタイトルだ。

 前回のインプレッション記事では主にシステム面などを中心に紹介したので、今回は主に「無双」シリーズとしての遊び応えはもちろんのこと、もう少し全体像について(物語の核心には触れないようにしつつ)紹介していきたいと思う。本作の主人公と、「FE 風花雪月」の主人公だった”灰色の悪魔”ことベレト/ベレスとの因縁、物語の舞台・フォドラをめぐる戦いなど、最初から最後までドキドキハラハラする戦いが繰り広げられ、必見だ。

 もちろん主人公と灰色の悪魔のふたりがどのような未来を辿るのか、各エピソードの結末といったような詳細は伏せるものの、スクリーンショットから想像できる通りの物語運びになるとは思わないでもらえると幸いだ。

 また、今回筆者はエーデルガルトが級長を務める”黒鷲の学級”(アドラークラッセ)に所属しているため、必然的にSSは黒鷲の学級中心になることを御理解願いたい。

【『ファイアーエムブレム無双 風花雪月』Finalトレーラー】

物語の後半になればなるほど、「無双」らしい楽しさが増す

 バトルのシステムなどについては掲載中のインプレッション記事を参考にしてもらうとして、物語の前半では選べる職種も上級職までで、使える技などにも制限が多かった。物語が後半に差し掛かり、最上級職が解放されたあたりから、さらに「無双」シリーズらしさが増し、“爽快な技でガンガン敵を攻撃しまくって倒していく”という楽しさがより感じられるようになった。

 前半でも十分楽しいのだが、後半になるほど派手さも攻撃範囲もどんどん高まり、さらに多くの敵を巻き込んでいける。前半はその分敵の体力も低めなので(イージーにすれば一層低いと思われる)、“サクサクと敵をなぎ倒せる感覚”そのものは決して劣っているわけではないのだが、最上級職あたりからどんどん攻撃範囲も広く、技も強く、見た目で明らかにわかるほど豪胆さが増していくので、「これぞ無双の爽快感!」とひしひしと感じられる。

 しかし、ただ「敵を倒していけば良い」ゲームではない。クエストによっては「NPCを護衛する」「敵が指定箇所に到達する前に倒す」といったようなものもあり、失敗すると即ゲームオーバー……なんていう厳しい場面もあり、あまり調子に乗って進軍しているとそういったピンチに間に合わないということも多々あった。

 それを少しでも回避する要素のひとつめは、上下ボタンで簡単に操作を切り替えられる4名の出陣キャラクター。出陣キャラクターは基本的にAIで自動的にバトルを行うが、コントローラーの上下ボタンで操作キャラクターを即座に変更できるため、護衛対象や討伐対象に最も近いキャラクターに切り替えて、目的地に向かうといったことができる。そしてこれが「主人公以外のキャラクターも操作する必然性」に繋がっており、滅法強い主人公ばかりをつい使ってしまいがちにならないように配慮されている。

リシテアちゃんも、大活躍。

 また、「どうしても自分の操作性とは相性の悪いキャラクターばかり出陣してしまっている時」というのも、当然ある。

本作は自分の兵種と敵の兵種で相性がある。赤いマークが相性の悪い敵、青いマークが相性の良い敵なので、出陣時にはキャラクターと敵の相性を見比べて出陣させるのだ。

 そんな時に有効なのが“指示”で、仲間キャラクターに「攻撃」指示を出したり、「護衛」指示を出したりして、自身では捌き切れない敵を任せてしまおうというわけだ。もちろん指示を使うのはそんな時ばかりではない。「この砦は早く攻め落としたいけれど、自分は相性の問題から別のルートで回りたい」なんて時にも、砦を守る敵と相性の良いキャラクターを向かわせて砦を制圧することなどもできる。

指示は本作で必須の要素とも言える。一方で序盤ではあまり意識せずともプレイできるため、本当に必要になる頃には、指示の存在自体を忘れているということもある。必要な場面で忘れないためにも、練習の意味を込めて、「指示」を積極的に使っていくことをおススメする。

 味方のピンチを救うふたつめは、主人公のみが使用できる「無間の瞬動」だ。無間の瞬動は既に制圧した砦に瞬間移動できるという、主人公だけが持つ能力で、1回の戦闘で最大3回まで使用できる。砦の制圧は最悪無視して進むこともできるのだが、「何かの時に無間の瞬動を使うかもしれないから」という理由で、砦を抑えておくことが重要となる。特にクエストの途中でマップの各所から敵の増援が出現することもあり、仲間への指示だけで対処しきれない時は無間の瞬動が必須とも言える。

 このように、「無双らしさもありつつ、状況を見極める判断力、敵との相性、好きなキャラクターへの愛着」といった様々な要素が複雑に絡み合い、前半は主にチュートリアル的な部分も多い反面クエストも比較的楽になっているが、後半から「無双」らしさと「FE」らしさの真価をさらに発揮する、といったゲーム性となっている。

派手なエフェクトは、爽快感が増す!

 また、最上級職が選べるようになる頃にはより一層育成の幅が広がり、誰をどのような兵種にするかといった悩みも尽きなくなる。前回の記事で「迷ったらシステムのオススメ通りに育てていくと良い」と書いたのだが、実際のところそれで育てていくとグレモリィが何人も登場したり(とは言え使用魔法の属性などが違うため、一概にそれがだめではないのだが)、ボウナイトが何人も育ってしまったり、一方でドラゴンナイトやファルコンナイトがひとりもいない……なんていう偏った編成になりがちなので、最上級職が取得できる「最上級職パス」がある程度潤沢に手に入るようになってきたならば、改めておすすめ育成方針には頼らない育成も、どんどん試していってほしい。特に、後から加入してくる仲間はレベルも高い場合が多く、即戦力になりやすい。そういった仲間を上手く活用して、被った兵種のキャラクターは別の兵種にチェンジさせるのもいいだろう。

本来メイジ系をすすめられるモニカだが、黒鷲の学級にはひとりもいないペガサスナイト(ファルコンナイト)系にチェンジ。黒鷲の学級にはそのままだと飛行系の兵種があまりいないため、意識して飛行系の兵種を取りにいったほうが良い。

この手でキャラクターの生死を握ることへの苦しさ

 「FE 風花雪月」といえば、かつては学園で共に過ごした同窓生たちと、血で血を洗う戦いを繰り広げていくのが話題になったタイトルだ。ただ本作は「FE 風花雪月」とは違い、比較的序盤から各学級の独自ルートが進み、あまり他の学級との交流はない。それもあり、「FE 風花雪月」を遊んでいない人にとっては少々わかりにくい部分もあるのだが、「FE 風花雪月」を遊んだ人にとってはどの学級を選ぼうと、恐らくは思い入れの多いキャラクターも多いだろう。

エーデルガルトに付いた以上、いずれはディミトリとの決着も……?
筆者の「FE 風花雪月」での最初のクラスは、ディミトリの青獅子の学級だった。だからこそ……覚悟なんてついていないよシルヴァン!(号泣)
クロードは、「FE 風花雪月」では最後に遊んだルートだったけれど、気が付いたらクロードが一番好きになっていた。そんな彼とも戦わないとならない日がくるのか……。

 各キャラクターの生死については本編でのお楽しみにしていてほしいので明かせないが、今回一番辛いのは「まさにこの手で彼らを攻撃している」実感が強いところだ。

 「FE 風花雪月」はシミュレーションバトルのため、戦う相手を選ぶまではともかく、あとはCPU任せだった。しかし本作は、自分でコンボを繋ぎ、戦技を出し、無双奥義で旧友を倒していかなければならない。前よりも一層、各キャラクターの生死を自分の手(指)が握っているのだという感覚に襲われ、強い罪悪感を覚えることもある。お気に入りのキャラクターであるならば尚更だ。こんな風に、彼らを傷つけたくない。彼らに引導を渡したくない。だが、その痛みも「FE 風花雪月」ならではであり、それは本作にもより強い形で引き継がれているのだと思ってほしい。そういう意味では、心臓が弱い人には前よりももっと辛い形になってしまうかもしれないが、その痛みも含めて「風花雪月」である。

 そもそもでいえば、前作の主人公であるベレト/ベレスと敵対せねばならない時点で、胸が痛い。一方で、使用頻度が上がれば上がるほど、本作の主人公への愛も上がってゆくので、ベレト/ベレスと決着をつけなければならないという彼の気持ちも理解ができる。だからこそ、心が引き裂かれそうな想いでいっぱいになるのだ。

ベレト……なんで敵なんだ、ベレト……。戦いたくないよ……(筆者の心の声)

 ベレト/ベレスとの戦いは一度、二度ではない。かつて自分の分身として動かした彼らの剣戟は、見惚れるほど美しい。そうだ、そういえばこういうキャラクターだったのだ、ということを改めて思い出す。揺らぐ切っ先、激突する剣と剣。まるで感情を失くしたように淡々と戦場に立つ灰色の悪魔だが、主人公との対峙だけは人間らしい感情を浮かべることもある。

珍しく感情を露骨にするベレト。彼がこんな顔を見せるのは、主人公と戦う時だけだ。

 ただただ美しいと見入ってしまうのも、仕方がないことだろう。どんなに新しい主人公と時間を過ごそうとも、ベレト/ベレスと過ごした時間が消えるわけでもないのだから、それは当然のことだ。

他にもキャラクターを取り巻く様々な要素に胸が躍ったり、痛くなったり

 主人公や級長クラスのキャラクターに限った話ではない。家同士のしがらみ、自分の意思とは無関係なところから降りかかる火の粉、それを払うか受け止めるか――彼らを取り巻く葛藤は様々だ。

フェルディナントの紅い瞳が、更に紅く濡れているようにすら見える。
帝国側から追われるセイロス教団だが――フレンはか弱い女の子のようでありながら、一度決めたことはてこでも曲げない強さを持っている。
ドミニクの紋章を持つアネット。「FE 風花雪月」では魔法系のジョブにした人が多いと思うが、本作では英雄の遺産「打ち砕くもの」を担いで登場する。

 一方で、ずっとそんなに辛いことばかりなのかというと、もちろんそんなことはない。特に前哨基地での交流は心温まるものが多いので、安心してほしい。

支援会話では、「FE 風花雪月」では知れなかったような面を知れることが多い。一方で”お約束”ももちろんあるのだが、それはそれで「相変わらずだなぁ」というほっこりした気分になれる。
支援会話は、シェズ以外のキャラクター同士でも発生することがある。どのキャラクターと支援会話があるのか、様々な組み合わせで試してみるのも面白い。
食事や手伝いなどは、組み合わせによって怒られる(?)こともあるのだが、支援値はきちんと上がるので安心してほしい。
ローレンツとフェルディナントの組み合わせは、かなりオススメだ。
普段のドロテアは食事にあまり興味を示さないような風を見せるが、組み合わせ次第で会話に変化があることも。
激しく余談だが、料理中の主人公は上手くいくと「うんうん」とでも言いたげに頷く。非常に可愛い。

 このように、実に多種多様なキャラクターの一面を見ることができる。「FE 風花雪月」が好きだった人には更にもっともっと様々なことを知れるし、初めてプレイする人にとっては本作のキャラクターの内面性の描かれ方に、驚愕することだろう。

 特に、「FE 風花雪月」のDLCコンテンツだった灰狼の学級のキャラクターたちについては、より一層本作でフィーチャーされており、バルタザールととあるキャラクターとの意外な関係性はコミカルに描かれていたり、ユーリスと主人公とも意外な共通点で話が繋がる様なども描かれていたりする。ハピやコンスタンツェらの明かされるストーリーにも、ぜひ期待していてほしい。

ユーリスからの熱烈なプロポーズに、思わずうちの主人公も胸キュンだ。

ひとつのルートを遊ぶと全部のルートを遊びたくなる!

 今回筆者はエーデルガルトが級長の黒鷲の学級を選んだわけだが、最後までプレイしてみて、早速次の別の誰かのルートを遊びたくなった。この魅力が「FE 風花雪月」らしくもあるのだが、本作でも見事に引き継がれているのが嬉しい。

クロードが本作で目指すところはなんなのだろう。大筋は変わらないのだろうか。気になるところだ。
「FE 風花雪月」とは全く異なるルートを辿ったと思われるディミトリが、本作ではどのような考えに基づいて、どのような行動を取るのかも知りたい。

 2周目以降はやりこみ要素としてクリア済みのセーブデータを引き継ぐことが可能で、キャラクターごとにレベルを引き継ぐかを決めることができる。支援レベルも一括で引き継ぐか否かを決められるが、もう一度あのイベントを見直したい、というような場合は引き継がないでプレイするといいだろう。所持品や所持金、兵種レベルは自動的に引き継ぎとなる。なかなか1周で全員との支援値をAにするのは難しいため、周回プレイ前提でやるならば、まず所属した学級の生徒との支援値を上げることを目指すのが良さそうだ。

などと言いつつ、マヌエラ先生と遠乗りに行ってしまう筆者であった。結局は自分の好きを押し通すゲームだと思っているので、純粋にゲームを楽しむのならば、効率よりも気持ちに正直にいくのが一番だ。

一般兵は倒す必要なし!? いやいや、それだけでは終わらない

 後半になればなるほど、広大なマップを行ったり来たりすることが増えていくため、非常に「やることが多い」と感じるが、前述の通り、指示と無間の瞬動を上手く使いこなして、Sランククリアを目指してほしい。

 なお今回筆者は後半から難易度をイージーに変えてしまい、かつSランクでクリアできなかった場所の取りこぼしをそのままにして進めていったため、少々前回の記事に書いたプレイ時間が参考にならなくなってしまったのだが、それでも1ルートで35~40時間ほどはかかっており、非常に遊び応えのある作品だ。

 だが、このプレイ時間の大半はストーリーと前哨基地でのあれこれ、そして支援会話に割かれている。サブクエストでの戦闘は比較的短めに設定されており、Sランクを目指すのであればクリアタイム5分~7分程度のものが多いように感じた。そのため、確かにプレイ時間全体としては長いものの、ちょっとした隙間時間にさっくり遊ぶのにも向いている。一方でメインクエストとして攻略することになる敵の本拠地は、じっくりと腰を据えて取り掛からなければならない大掛かりなギミックが多く、こちらはしっかりと準備を整えてからチャレンジするようにしたい。

敵の本拠地に入る時は、必ずこのように演出が入り、セーブポイントも強制的に入る。万が一やり残したことがあってもセーブデータから戻れるように、別のスロットにセーブするようにしておこう。
「無双」の割にバトルが少なく感じるのは、元々の「FE 風花雪月」同様とも言える。バトルだけを中心にやりたい人にとっては少々他の要素が多すぎるとも言えるが、必要最低限のことだけやって後はスルーしてバトルに勤しむこともできるので、そこはプレイのし方次第だ。

 ちなみに本作では「敵を●●人倒せ!」みたいな指令でない限り、一般兵は全スルーしても問題ない。砦を守る兵士と、あとはターゲットだけを目標にしていって、ターゲットに強力な戦技をぶちかますことになる。そこについては、わずらわしさがない一方で、どうしても“作業”になりやすいとも言える。とはいえ前述の通り、次々と乱入してくる敵とそれによるミッションの変更で、やることが非常に多く忙しいため、一般兵にかまけていられないのも事実である。

だが、Sランクを取るためには各マップで「撃破数」が決まっている。そのため、「無視はできるけど、無視をするとSランクが取れない」というジレンマもある。実際筆者もSランクが取れなかった場所の大半は、撃破数の不足だった。
撃破数を手っ取り早く増やすには、攻撃範囲の広いコンボで目的の将も含めて一般兵も大量に巻き込んで倒してしまうこと。いかに多くの一般兵を巻き込めるかが、ポイントになってくるだろう。撃破数に囚われていると、今度はクリアタイムがオーバーしてしまうので注意が必要だ。

 やれることが多いゲームで頭が混乱しそうではあるが、基本的に一度に解放されるのではなく、ひとつずつ丁寧に解放されていくため、慣れてしまえばどうということはない。特に前回の記事でも触れた通り、前哨基地でやれることは非常に多いのだが、これも慣れてくれば戸惑うことはないだろう。

 あと、オススメは主人公でも「FE 風花雪月」からの思い入れキャラでも誰でも良いので、好きなキャラを一点集中で育ててしまうことだ。恐らくひとりだけ他のキャラクターよりレベルが20くらい差が出てしまうが、相性の良し悪しを抜きにしてまさに「無双」状態になれる。「FE 風花雪月」キャラを使っているとベレト/ベレスとの因縁への思い入れが……という不安もなくはないが、メインストーリーはあくまで新主人公を主軸に進むため、バトルで他のキャラクターを使っていても新主人公に愛着が持てない、というようなことはないだろう。

 とにかく、まずは自分の思う通りに好きなこと、やりたいことをやってみるのが一番のオススメなのは間違いないので、様々なキャラクターで本作を楽しんでほしい。