モバイルゲームレビュー

あの社会現象を巻き起こした名作RPGが
さらに遊びやすくなってモバイルゲームで登場!

「ドラゴンクエストIII そして伝説へ…」

  • ジャンル:RPG
  • 配信元・開発元:スクウェア・エニックス
  • 利用料金:前編・後編各630円
  • プラットフォーム:iモード
  • 対応機種:FOMA 903i/703iシリーズ以降
  • 配信日:2009年11月19日(配信中)
  • アクセス方法:iMenu → メニューリスト → ゲーム → ロールプレイング → ドラゴンクエストモバイル



 本作「ドラゴンクエストIII」は、1988年にファミリーコンピュータ用ソフトとして発売され、史上空前の大ヒットを飛ばして社会現象となった「ドラクエ」こと「ドラゴンクエスト」シリーズの第3弾を携帯電話用にリメイクした作品。今さら語るまでもないかもしれないが、プレーヤーは主人公の勇者を含め4人のパーティーを編成し、父親であるオルテガが果たせなかった魔王バラモスの打倒を目指し冒険の旅に出るというRPGである。

 いきなり私事で恐縮だが、筆者は「ドラゴンクエストIII」のファミコン版、および1996年にスーパーファミコンで発売されたリメイク版を両方とも発売日に購入し、エンディングまでプレイしたほど、本作品は大のお気に入りである。今回のレビュー記事においては、コンシューマー版でプレイしていた当時の記憶をたどりつつ、携帯電話向けに仕様を変更した部分はどこなのか、そしてその結果どのような作品に仕上がったのかにフォーカスし、実際にバラモスを倒すまでプレイした上で気づいたことなどをお伝えしていくことにする。

 なお、ストーリーが展開する条件や謎解きに関するネタ話はすでに各方面で語りつくされていると思われるので、(ネタバレ防止の意味もかねて)本記事では一切触れないのであらかじめご了承いただきたい。




■ ゲームシステムはスーパーファミコン版のものを踏襲、バトルは新たに「AIシステム」を導入

 ゲームの操作方法は方向キーでパーティーの移動、左上のキー(プレイしたP905iではメールボタン)を押すとコマンドウインドウが表示され、さらに方向キーと決定ボタンを動かすことで「どうぐ」や「そうび」などの各コマンドを実行できる。フィールド上で決定ボタンを押すと、目の前に誰か人がいた場合には自動的に「はなす」コマンドが、近くに誰もいないときは「しらべる」コマンドが実行され、足元にある宝箱を開いたり目の前にあるタンスや壷の中を調べられる。また扉を開くときには、扉の種類ごとに対応する鍵のアイテムさえ持っていれば、ただ触れるだけで自動的に開くようになっており、いちいち「どうぐ」コマンドなどを選択する手間がないのでとても便利だ。いずれの操作も片手で携帯電話を持った状態で簡単にプレイできる。

 アプリを起動したら、まず最初にプレイデータをセーブするための「冒険の書」を作り、勇者の名前などの初期設定を行なう。続いてオープニングイベントとしてプレーヤーの性格診断がスタートする。これはスーパーファミコン版に登場するものと同じ内容で、二者択一式の簡単な質問に答えると、その結果に応じて「ずのうめいせき」、「なまけもの」などの性格が決定される。もし自分が気に入らない性格になってしまっても、ゲームの途中で入手できる特殊なアイテムを使えばいつでも変えられるし、性格によって難易度が大きく上下するようなこともないので、ここでどんな診断結果が出ても特に気にする必要はない。


【スクリーンショット】
スーパーファミコン版と同様、まずは性格診断イベントからスタートする
「はなす」と「しらべる」はボタン1発で実行可能。その他のコマンドも操作はとても簡単だ


 本編開始後も、ゲーム中に発生する謎解きや各種イベントをはじめ、登場人物や敵のモンスター、背景などのグラフィックスもスーパーファミコン版のものとほぼ同じ内容。以前、ファミコンなどで本作を最後までプレイした経験がある人であれば、街の人に話し掛けてヒントを集めるまでもなく容易に進められるだろう。特定のボスと対決時に敵が鳴き声をあげたり、オルテガの登場するシーンではファミコン版には存在しなかった曲が流れたりするなど、スーパーファミコン版で新たに追加されたこれらの演出は携帯版でもきちんと再現されている。

 またグラフィックスについては、携帯電話の高精細なモニターを通じて画面を見ると、同じ絵柄でありながら家庭用テレビで遊んだ当時よりもはるかに綺麗に見えたことも好印象。昔はRF(アンテナ)接続またはコンポジット出力で映像を出力していたことを考えれば当たり前の話ではあるが、「同じ絵でもモニターの違いでこんなに美しさが違うのか!」と、いうことが実際にわかり素直に感動した。

 筆者が確認できたスーパーファミコン版と異なる点は、お遊びイベントの「すごろく場」が登場しないことと、イベントによって勇者の性格が変化する仕様がカットされていること。特に「すごろく場」は、個人的にとても面白くて気に入っていたイベントなので遊べないのが少々残念だが、これは容量的にプログラムが納まり切れなかったためと推測される。

 フィールドマップの構成もスーパーファミコン版と全く同じだ。スーパーファミコン版はファミコン版に比べてマップのサイズが大幅にコンパクト化され、キャラクターの移動速度も速くなっているので、移動に費やされる時間が少ないのが特徴だったが、携帯版でもこの仕様を踏襲しており、とても快適に遊べる。さらにスーパーファミコン版と同様に、ゲームの序盤で簡単に手に入る「ふしぎなちず」というアイテムを活用すれば、現在地や今まで行ったことがない地域の確認まで、いとも簡単にできてしまう親切ぶりだ。

 ファミコン版では会話時のセリフがすべてひらがなで表記されていたが、iモード版では漢字も使用されているので非常に読みやすいのも大きな特徴のひとつ。とはいえ「本棚」を「本だな」と表記するなど、一部の単語はあえてひらがな交じりにしてあるので、全編を通じて小学生レベルでも問題なく読めるようになっている。

 BGMについては、全曲スーパーファミコン版と同様にオーケストラ調の音色で演奏されている。もしファミコン版しか知らないプレーヤーが初めて聞いた場合は、以前とは比較にならないほど音質がよくなっているので少なからず驚くことだろう。またスーパーファミコンと携帯電話とでは音源が異なるため、同じ曲でもスーパーファミコン版のものとは微妙に音色が違っている。よって、スーパーファミコン版をやり込んだプレーヤーにとってもBGMはかなり新鮮に聞こえるハズだ。

 過去の「ドラゴンクエストIII」には存在せず、iモード版で新たに追加されたのは、敵のモンスターとのバトルシーンで使用する「AIシステム」だ。これは予め「さくせん」コマンドで味方パーティーに「ガンガンいこうぜ」、「いのちだいじに」などの作戦を設定しておけば、勇者以外のキャラクターはコマンド入力をしなくても自動的に戦ってくれるようになるというもの。とても便利な機能だが、あくまでも自力で戦いたいという人は、プレーヤーが任意にコマンドを選択できる「めいれいさせろ」にも設定できる。


【スクリーンショット】
スタート地点であるアリアハンのお城にいる王様の話を聞いたら、おなじみの「ルイーダの酒場」で仲間を呼び出して4人パーティーを編成する。デフォルトで登録されているキャラクターをそのまま使っても、登録所で自分の好きな名前および職業のキャラクターを作っても構わない
転職ができる「ダーマ神殿」をはじめ、どのモンスターがバトルに勝つのかを当てる「モンスター格闘場」などのシステム、および各種イベントもバッチリ再現されている
フィールドマップが大幅にコンパクト化され、移動時間によるストレスをほとんど感じることがない。「たからのちず」を開くと、1度通った地点の色が変わるようになっているので、プレーヤーの今までの行動の様子が一目瞭然だ


 iモード版独自の変更点として、データをセーブするためのシステムに改良を加えたのも見逃せないところ。従来のシリーズでは、セーブする際には各地のお城にいる王様に会って話をする必要があったが、本作ではフィールド上であれば「中断」コマンドを使用して、即座にデータをセーブできる。この「中断」を利用してセーブしたデータは「ぼうけんの書」とは別に管理される。あくまで中断なので、プレイ再開時に1度ロードすると消えてしまうが、王様のいる場所までいちいち歩く手間が省けるので、バスや電車の中などの空き時間に遊んでいるときにはとてもありがたい仕様だ。

 また、「ぼうけんの書」のデータは携帯端末内だけでなく、サーバーに送って保存することも可能。これを利用すれば、ゲームの途中で機種変更したり、1度アプリを消去してしまっても、以前のデータをそのまま引き継いで遊べるのでとても便利だ。


【スクリーンショット】
王様に会わなくても、「中断」コマンドを使えばどこでもセーブできる。ただし1度ロードすると中断データは消えてしまうので注意したい



■ バトルシーンにおけるゲームバランスの再調整により、ゲームがさらに快適に遊べるように

 プレイしていてまず筆者が目に付いたのは、敵モンスターとのバトルの進行が非常にスピーディーであること。これは前述したように、「AIシステム」の導入によってコマンド入力の手間が省けるのがその要因の1つである。また、「さくせん」コマンド内にある「ひょうじそくど」の項目を選択すると、メッセージの表示スピードを8段階に変更できる。ここでスピードを1番速い設定にすれば、さらにテンポよくバトルを進められる。慣れないうちはメッセージを目で追うのが少々大変かもしれないが、筆者としては常時最も速い設定で遊ぶことをおすすめしたい。

 バトルにおけるもうひとつの大きなポイントは、敵のモンスターが攻撃したり呪文を唱えたりした時のアニメーションを一切省いたこと。バトル中はかつてのファミコン版と同様にモンスターが1枚絵のまま動かず、味方パーティーの攻撃や呪文使用時に簡単なエフェクトが挿入される程度の演出しかない。アニメーションをカットしたことでリアルさは欠けてしまったが、その代わりにバトルがテンポアップして、ますます快適に遊べるようになっている。動きが少ないことに不満を感じることはまずないだろう。アプリの容量制限があったからと言ってしまえばそれまでだが、ちょっとした空き時間でも手軽に遊べるよう、バトルの進行を早めるためにアニメーションを潔く捨てたのは大いに評価できるところだ。


【スクリーンショット】
バトルシーンのグラフィックスはスーパーファミコン版とほとんど同じだが敵は一切動かない。味方の攻撃や魔法を唱えた時にエフェクトが表示されるだけなので、短時間でスムーズにゲームが進行する


 そして筆者が最も驚かされたのは、「AIシステム」の作戦によって行動する味方パーティーの頭のよさである。筆者が試した限りでは、攻撃重視の「ガンガンいこうぜ」や味方の安全を第一に考える「いのちだいじに」など、どの作戦を選んでもAIによる行動が実に的確で、「もはや『めいれいさせろ』は必要ないのでは?」と思わせるほどに優秀だ。

 たとえば魔法使いのキャラクターの場合は、異なる種類の敵が複数出現したときは全員にダメージを与えられる「イオ」系の呪文を使用し、瀕死状態の敵に対しては消費MPの少ない「メラ」や「ヒャド」などの呪文を使ってトドメを刺すなど、状況に応じて最適な攻撃魔法を唱えてくれる。また僧侶は味方のHPが少なくなり、「そろそろ回復させないと危険だな」と筆者が思ったところで、すかさず「ホイミ」(回復系)の呪文を唱えてくれる。さらに守備力が総じて高いボスモンスターに対しては、相手の守備力を下げる「ルカニ」の呪文や、敵の攻撃の命中率を下げる「マヌーサ」の呪文を唱えるなどといったように、文句のつけようがないほど実に賢い行動をとってくれる。初期状態では全員の作戦が「めいれいさせろ」に設定されているが、仲間が揃ったら即座に「みんながんばれ」に変更してプレイすることを推奨したい。

 この優れたAIプログラムを導入した結果、ゲーム全体の難易度が以前よりもかなり低くなっているのはまず間違いないだろう。また、これはあくまで筆者の体感だが、前述した「ルカニ」や「マヌーサ」などの呪文の成功率もかなり高めに設定してあるようで、難易度の低下にさらに拍車をかけている。実際、AIによる行動で唱えられたこれらの魔法は、成功する確率が非常に高かった。

 筆者がかつてファミコン版をプレイしていたときは、あるイベントをクリアすると乗れるようになる船を手に入れたのはパーティーの平均レベルが20前後だったと記憶しているが、iモード版ではバトルで苦しむことがほとんどなかったため、わずかレベル13の段階で入手に成功した。また当時はかなり苦しめられた、序盤で出現する盗賊の「カンダタ」とのバトルも、仲間の魔法使いが「ベギラマ」や「バイキルト」などの強力な呪文を覚える前にあっさりと勝ててしまった。これらの点でも、ゲームの難易度は下がっていると感じられた。

 ただし、ゲーム後半の要所に出てくるボスキャラクターや、宝箱を開いたときに稀に出てくるモンスターの「ひとくい箱」や「ミミック」に関してはこの限りではない。序盤は極力簡単にして、終盤に差し掛かってきたところやトラップに引っかかった場合は難しくしよう、という開発コンセプトが筆者には見て取れた。

 味方のパーティーが攻撃したときのクリティカルヒット、いわゆる「かいしんの一撃」の出る確率は低めに抑えられているようなので、これによってバトルがあまりにも簡単かつ単調にならないようバランスを調整しているという印象だ。筆者はゲーム開始時から全職業の中で最も「かいしんの一撃」が出やすい武道家を仲間にしてプレイしていたが、ファミコン版などに比べて明らかに発生率が低くなっていた。同様に、倒した敵がときどき落とす「宝の箱」の出る確率も相当低めになっているようだ。


【スクリーンショット】
優れた「AIシステム」のおかげで、味方パーティーがどんどん敵の弱点を突いて戦ってくれるので驚くほど快適に遊べる


 バトルにおける難易度調整については何の不満もなかったが、1つ気になったのは、パーティーの誰かが特定の敵の攻撃を受けて「毒」に犯された状態になった場合の演出。毒状態になったキャラクターは、3歩ほど歩くたびにダメージを受けて画面が点滅するが、この点滅する時間があまりにも短く、また点滅の色が緑色のため、フィールドが昼間のときはマップの色とよく似ているためちょっと気がつきにくい。普通のテレビに比べてはるかに小さな携帯電話のモニターで遊ぶことを考えれば、ここはもっと点滅の演出を派手にするとか、ダメージを受けた際に大きな効果音を鳴らすなどの配慮があってもよかったように思われる。



■ 手軽に遊べる往年の名作を忙しい人にもぜひおすすめしたい

 元祖ファミコン版に比べプレイ時間が短縮され、かつ難易度もかなり下がったiモード版「ドラゴンクエストIII」。仕事や勉強が忙しくてゲームにまとまった時間を割けないという人はもちろん、RPG初心者にも実に大助かりな作品に仕上がっている。30代以上のプレーヤーが昔の思い出にただひたるためだけの物ではなく、RPG初心者への入門編としても機能するように調整してあるところが、筆者としては大いに好感が持てるところ。難易度を下げると同時に、20年以上も前に発売された作品をこのタイミングで配信を始め、また適度に漢字を交ぜてメッセージ表記を読みやすくしたのは、もしかしたらファミコン時代を知らない低年齢層にも、もっと「ドラクエ」シリーズの作品を遊んでほしいというメーカー側の意図があったのかもしれない。

 前述したように、BGMの音質が非常にいいのも嬉しいところ。ご存知、すぎやまこういち氏の作曲による数々の名曲は、携帯にイヤフォンをつけてただ曲を聞いているだけでも楽しい。以前「ドラゴンクエストIII」を遊んだ経験のある人であれば、イントロを聞いた瞬間に懐かしさもこみ上げてきて、さらに感動すること請け合いである。性格テスト中のBGMなどスーパーファミコン版で使用されていた一部の曲がカットされていたのがちょっと残念だったが、これはアプリの限られたプログラム容量内にデータを納めるための処置であると思われるので仕方のないところであろう。

 なお料金設定についてだが、「ネクロゴンドの洞窟」に入る前までが「前編」扱いとなり、これ以降を遊ぶためには「後編」のダウンロードがあらためて必要となる。両方を合計すると1,260円となり、買い切りのアプリとしてはやや割高な気もするが、往時の大ヒット作が携帯で手軽に楽しめるようになったのは実にありがたいところ。ただ、敵のモンスターが「宝の箱」を落とす確率が大幅に下がったため、長い時間をかけてコツコツとアイテムをコレクションするのが好きなプレーヤーにとっては、少々不満が残る調整になってしまったかもしれない。その分は「ダーマ神殿」での転職システムを利用して、全職業で最強レベルのキャラクターを育てるなどして楽しむといいだろう。

 かつてファミコンやスーパーファミコンで夢中になって遊んだ頃を懐かしむのはもちろん、「ドラゴンクエストIII」自体もRPGもまだ知らない人の入門編としても安心しておすすめできる作品である。


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(2010年 1月 27日)

[Reported by 鴫原盛之]