DSゲームレビュー

80年代アメリカのとあるアパートを舞台にした
本格ミステリーアドベンチャー

「ラストウィンドウ 真夜中の約束」

  • ジャンル:アドベンチャー
  • 発売元:任天堂株式会社
  • 開発元:株式会社CING
  • 価格:4,800円
  • プラットフォーム:ニンテンドーDS
  • 発売日:発売中(2010年1月14日発売)
  • プレイ人数:1人
  • CEROレーティング:B(12歳以上対象)


 “大人向けのゲーム”というと、私の場合パッと頭に思い浮かぶのはミステリーアドベンチャーだったりする。もちろん若い人でも楽しめるのだが、シビアな現実をベースにした世界観、大人びた会話をはじめとしたやりとりの雰囲気は、アダルトなテイストに包まれていた。近年ではそうしたテイストの大人向けなゲームは、かなり減ったように思う(さらに言えば純粋なアドベンチャーゲーム自体が減ってしまった)。

 DS用ソフト「ラストウィンドウ 真夜中の約束(以下、『ラストウィンドウ』)」は、1980年12月のアメリカ、ロサンゼルスのとあるアパートを舞台にした硬派なアドベンチャーゲームだ。

 本作は2007年に発売されたDS用「ウィッシュルーム 天使の記憶」の1年後が舞台。続編というよりは共通の世界観で新しいエピソードが展開されるという作品だ。取り壊しが1カ月後に迫ったアパートの住人である元刑事に、謎の人物から「レッドスターを探せ」という依頼が舞い込むところから物語が始まっていく。

 DSで手軽に楽しめる本格ミステリー。硬派で味わい深いアドベンチャーゲーム「ラストウィンドウ」の魅力をお伝えしていこう。



■ 80年代アメリカの、とあるアパートに眠る真実を探る本格ミステリーアドベンチャー

車内で休むハイド。セールスの仕事には身が入らない
仕事をクビになった上に、アパートの取り壊しまで重なり、意気消沈していたハイドのもとに、謎のオーダーが届く

 1980年12月18日。アメリカ、ロサンゼルス。

 車内での長すぎた昼寝から目を覚ましたカイル・ハイドを待っていたのは、ポケベルの呼び出し音だった。元刑事のハイドはレッドクラウン商会という会社のセールスマンをしている。そこからの呼び出しだ。公衆電話にコインを入れてレッドクラウン商会のダイヤルを回す。

 受話器から聞こえてきたのは、やる気の見られないハイドの仕事ぶりに堪忍袋の尾が切れた社長・エドからの、「お前はクビだ」という通告だった。

 憂鬱な気分でアパートに戻ったハイドを待っていたのは、アパートの取り壊しが1カ月後にすでに決まっており、住人はそれまでに立ち退かなければいけないという報せだった。アパートの名は「ケイプウエスト」。元はホテルだった建物を改装したアパートで、ハイドはその1室を借りていた。

 図らずとも自由の身になり、住居まで追われることになってしまったハイドのもとに、探し物の依頼が届く。差出人不明の手紙には「探し物は、25年前にホテル・ケイプウエストでなくなったレッドスター」と書かれていた。

 冒頭からセールスの仕事をクビになり、さらにアパートも追い出されるという、不幸続きのハイドだが、彼はただのセールスマンではない。元刑事であり、クビになるまではエドのもとで表立っては探せない探し物をするという裏稼業を手伝っていた。

 だが、オーダーは基本的にエドを介してのものばかりで、ハイドに直接届くことなどありえない。なぜオーダーがハイドに直接届けられたのか? レッドスターとは何なのか?

 ハイドは当初、いたずらかと考えもしたが、次第にその存在が気になりだす。取り壊しが迫るアパート「ケイプウエスト」に隠された、2つの事件の真実を探る物語が始まる。

舞台はホテル ケイプウエスト。25年前、そして13年前に何かしらの事件が起こり、その真実が眠ったまま現在はアパートメントとして活用されている。だがそれも取り壊しによって消えていこうとしていた


移動の画面では、タッチペンで移動させたい方向をタッチする
会話の画面。ハイドと相手の会話を左右に展開する

 「ラストウィンドウ」は探索と会話をメインにし、ストーリーの謎を明らかにしていくというオーソドックスな形式の本格アドベンチャーだ。DSの2画面を活かした作りで、DSを縦に持ってプレイする。

 なお、利き手の設定で画面構成の左右を入れ替えられる。このレビューでは右利きを前提に(タッチパネルを右側にした状態)画面構成等を解説している。

 ゲーム中のパートとしては主に3つで、移動と探索の画面と、会話の画面、ギミックの謎解きの画面がある。まず移動と探索の画面では、液晶ディスプレイ側に3Dグラフィックスで描かれる光景が表示され、タッチパネルをペンでタッチしてハイドを移動し、気になる場所をひとつひとつ調べていくというわけだ。

 アパートの中という閉鎖的な空間ながら、出来事はいろいろと起こる。例えば、廊下で誰かとすれ違ったり、声をかけられたり。部屋にいても、電話がかかってきたり、誰かが訪れてくることもある。アパート内には結構住人の行き来があるので、会話も生まれる。

 会話の画面では、左がハイド、右が話し相手という画面になる。重要なのは気になるキーワードが会話に出てくると、ハイドの頭に浮かんだ疑問がスクロールしてストックされるというところ。会話が一区切りついたところで、その疑問を相手にぶつけていく。

 相手が言いよどんだところで、ハイドに突っ込みをさせるか、それとも様子を見るかを選ぶ場面もある。こうした場面は大きな分岐になっていることが多く、選択を誤ると目的の情報を引き出すことができなくなったりして最悪の場合ゲームオーバーになってしまう。

 相手が言い辛そうにしているところをこちらから押して聞き出すのか、それとも自然に出てくるのを待つべきか。会話のかけひきの面白さを自然にゲームに活かしている。

会話のかけひきが本作のポイントのひとつ。返答を選択肢で選ぶのはもちろん、会話中に浮かんだ疑問が新たな選択肢になりそれを選んだり、相手が言いよどんだタイミングに突っ込むか、聞き流すのかという選択も出てくる


1980年代のアメリカが舞台なだけに、生活の様子や家電製品は現在からすればレトロな品ばかり。タッチ操作でそれら機器を操作する場面もある

 アパート内の生活感や全体の世界観は1980年のアメリカというわけで、日用品からインテリア等まで、何から何まで現在から見ると非常に特徴的だ。

 例えば、電話はいわゆる黒電話が主流で、それとセットで使う留守番電話用の機器がある。録音に使っているのはマイクロテープ(カセットテープの小型版)だ。知っている世代の人にとっては非常に懐かしいが、現在30代の方でギリギリ知っているかどうかという時代なので、知らない人のほうが多いだろう。

 そうした1980年代の空間が舞台になっているのは、その時代を過ごした人にとっては懐かしく、知らない人にとってはむしろ新鮮なものに映るだろう。例えばカセットテープやレコードプレーヤー、手動でチューニングするラジオ、ガチャガチャとレバーを回してチャンネルを切り替えるテレビなどだ。今となってはレトロな家電が溢れている。

 そうした機器を操作してストーリーが展開する場面もあるのだが、その製品の操作や特徴などを知っているかどうかで、謎解きの場面の難易度が変わってくるところがあった。

 謎解きはいずれもタッチペン操作やDSの特性を活かしたものだ。ダイヤルを回したりボタンを押したりといった、なんらかの操作をタッチで行なうのは当然として、なかにはタッチしたままスライドしてドラッグ&ドロップさせるような場面もある。昔ながらのスタイルを感じさせるアドベンチャーながら、謎解きのギミックはDSの特性をフルに活かした意欲的なものになっていると感じた。DSに内蔵されているマイクを使う場面もあまり多くはないが存在する。

謎解きはタッチ操作を活かしたものが基本。ダイヤルを回したりといった基本的な操作をはじめ、物を振ったり、ちょっと工夫したタッチ操作を求められる場面もある
タッチペンで実際に書くようにしてメモを取っておいたり、人物の情報やあらすじなどを確認できる。特にメモの機能は謎解きの場面で活用することになる


ストーリーが進行すると時間が経過して状況が変化する。時間を指定した約束などにも関係する

 ある程度ストーリーが進展すると、時計の画面が映り時間が進行していく。そして1日が過ぎ、1つのチャプターが終わっていく。

 1日の終わりには、その日あった出来事を思い出す。例えば、その日最初に会った人物は? という回想から、プレーヤーが選択肢を選ぶ。これを行なうことでストーリーを復習するというわけだ。ここの選択肢の場合、間違えてもハイドがちゃんと訂正してくれる。

 全体の流れとして、プレーヤーが自主的に考えて移動するという場面は少なく、ストーリーの進行中に、次に何をするのか誰と話をするのかはほとんど明確にされる。むやみに総当たりして進展することになるような場面はなかった。

 そのぶん、自由度の少なさを感じるかもしれないが、アドベンチャーに自由度を求めるのはそもそも難しいし、必要かどうかという話になる。迷わされるより、サクサクと続きを見ていけるこの作りのほうがいいだろう。

1日の終わりにはその日あった出来事を振り返ってまとめる場面が出てくる。選択肢を間違えてもゲームオーバーになったりはせず、純粋にストーリーの理解度を高めてくれる復習のようなものだ



■ ジャズテイストの雰囲気が漂う、アダルトな味わいが魅力。小説でも楽しめる

会話の味わいも魅力のひとつ。性格がまったく異なる様々な住人がいて、それぞれにハイドと関わっていく

 最大の魅力はその独特なテイスト。1980年代のアメリカという舞台は特有の雰囲気があり、そこで展開されるさまざまなシーンは、静かに、そしてしっとりと展開されていく。それらをジャズテイストのサウンドが包み込む。昔の洋画を観ているような味わいで、懐かしさが感じられる。

 鉛筆画が動いているようなキャラクターのグラフィックスも特徴的で、モノトーンーで描かれたキャラクタは色んな仕草やポーズへと切り替わるし、動きもある。描画そのものも独特で、静止している絵にも木漏れ日がチラチラと揺れるような印象的な動きが付けられている。こうしたところにも味わいのある洋画的なエッセンスを感じる。

 ミステリーアドベンチャーゲームとして最も重要になるストーリーも秀逸。ラストまでプレイした限り、目立つ矛盾点もなく、シリアスで奥深い物語が待っている。ストーリーが展開していくリズムもよく、住人との接触や出来事が起こるタイミングも無駄な間がなくていい。序盤は小さな出来事を中心とした静かな展開が多く、もう少し刺激的な内容を見たいと感じたところはあったが、中盤から終盤になると序盤に感じたことも忘れていた。

 ゲーム中の文章表現もすっきりとまとまっていていい。会話の味わいもたまらない。軽い会話はアメリカ的なノリのあるキャッチーなもので、シリアスな場面の会話は人物の深みを感じさせる。中でも私の印象に残ったのはハイドと、ある女性の会話。その場面でのセリフはあまりのかっこよさに思わず「かっこいいなぁ……。」と声に出していたほどだった。

1980年代のアメリカを生きるハイドたちのやりとりは、軽い会話もシリアスな場面も、独特の味わいを持っている


チャプターが終了すると、その内容が小説として収録される。小説で読み返してみると、より深く魅力がわかってくる

 作品全体の見せ方として、小説を強く意識した作りが感じられる。インタラクティブに見せてくれる小説といった感じで、画面の切り替えなどの演出にもそれを感じさせるところがあった。

 また、プレイの結果を小説のように文章で読めるシステムも収録されている。チャプターが終わると、そのチャプターのできごとが小説としてまとめられる。タイトル画面から小説を読むを選ぶと、小説として文章で表現された「ラストウィンドウ」を読むことができる。ゲーム中では詳しくは説明されなかった(表情の変化等ですませていた)ハイドや登場人物たちの心情などを文章表現でより深く読み取れる。1粒で2度美味しい作りだ。

 前述のとおり、小説の内容はきちんとゲーム中の行動を反映して変化する。例えば会話で選んだ選択肢であったり、寄り道などの行動だ。いわば自分のプレイ記録が文章表現でまとめられているようなもので、それを後からじっくりと読める。さらに小説には袋とじがあり、そこにはゲーム中にはなかった設定等がまとめられていて、より奥深く世界観を知ることができる。

小説の「ラストウィンドウ」をそのままDSで読める。秀逸なのはゲーム中の行動や選択がちゃんと小説に反映されるところだ。袋とじを見ると、ゲーム中には語られなかったプラスアルファの要素を知ることができる



■ 本格ミステリーに独特の味わいを持つキャラクタや世界観と、魅力満載のアドベンチャー

クオリティの高いミステリーを丁寧に描いたタイトル。派手さはないかもしれないが、独特のテイストを持つ味わい深い作品だ

 1980年代のアメリカのとあるアパートを舞台にした本作は、味わい深いアダルトなテイストが漂う本格アドベンチャーゲームだ。シナリオ、キャラクター、グラフィックス、サウンド、いずれにおいてもこの雰囲気作りを大切にしてある。ゲームのスケールはDSに合わせたほどよいもので、携帯機ならではの手軽に遊べる魅力ももちろんある。ゲーム中の謎解きに使われている各種ギミックにおいても非常に面白く感じられた。

 その魅力は私に、今作の前作にあたる「ウィッシュルーム 天使の記憶」をリリース当時にプレイしていなかったことを後悔させたほどだ。ただしそれは、前作をプレイしていないと今作を楽しめないという意味ではない。前作と本作の主人公がどちらもカイル・ハイドであることや、一部の登場キャラクターが2作とも登場しているところはあるが、「ラストウィンドウ」だけでも十分に内容を楽しめる。前作をプレイしていれば、今作の魅力がより増すというところだ。あとは単純に、これだけ良いゲームの前作を見過ごしていたことが悔しかった。

 このレビューを書くにあたって、カイル・ハイドという魅力的な主人公のことを、そして、「ラストウィンドウ」という味わい深いアドベンチャーゲームのことをもっとたくさんのゲームファンに知って欲しいと思った。プレイを終えた時「またひとつ良いゲームを遊んだなぁ」という満足感で一杯だったからだ。この満足感を、このレビューを読んでいただいた大人のゲームファンにも、ぜひ味わって欲しい。

(C)2010 Nintendo
Developed by CING

(2010年1月25日)

[Reported by 山村智美 ]