【特別企画】
心温まる個人的GOTY2025「to a T」の良さを語りたい!【年末特集】
輝く高橋慶太節。キャラとストーリー、そして音楽に虜になる超良作
2025年12月28日 00:00
- 【to a T】
- 5月28日 発売
- 価格:
- Steam:2,350円
- PS5:2,310円
- Xbox Series X|S:2,300円
2025年も終わりを迎えようとしているが、今年もっとも心に残ったゲームに5月28日に発売された「to a T」(uvula、Annapurna Interactive)がある。体が「T」の形になったままの主人公を操作するアドベンチャーゲームで、独特のユーモアをそこかしこに散りばめながら、全体を通して温かな気持ちになれるタイトルだ。
本作は「塊魂」「Wattan」などを手掛けるゲームクリエイター、高橋慶太氏の最新作で、高橋氏ならではの感性がぞんぶんに発揮されている。キャラクター、ストーリー、音楽はどれも印象的で、特にストーリーの語り口が良い。“あなたはそのままで完璧”という普遍的なメッセージを、「その角度から来るんだ」という意外性で楽しませてくれる。
筆者はプレイ後に本作をかなり気に入って、Spotifyで配信されている本作のサウンドトラックを繰り返し聞いていた。プレイを見ていた家族(特に子供も)も同様に気に入って、各話OP曲とED曲(詳しくは後述)の「PerfectT Shape」と「Giraffe Song」は一時期ずっとリクエストされていた。
感覚的には個人的GOTY(Game of the Year)だったのだが、世間ではPLAYSTATION INDIES AWARDにノミネートされたくらいでどうも話題になっていない。というわけで、GOTYの話題が一通り落ち着いたこの年末に、改めて本作をオススメしたいという次第だ。
Tポーズのまま日常を過ごす13歳の物語
「to a T」の舞台は、海辺の小さな街。この街に暮らす13歳の若者が本作の主人公だ。仮称は「ティーン」で、ゲーム開始時に自由に名前を付けられるほか、髪型や服装で男性寄り、女性寄りの外見にすることができる(本稿では便宜上「ティーン」として記載していく)。
ティーンは、体が常に両手を広げたTポーズになっているという特徴を持つ。両手は完全に固定されているようなので、日常では着替えやトイレが大変なのだが、ペットの犬(名前はプレーヤーが決定)に協力してもらうことで、大変ながらも楽しく生活を送っているというキャラクターだ。
プレーヤーはティーンを操作して、日々の生活を送ることとなる。起床後は顔を洗ったり、朝食後に歯を磨いたり。水道や歯磨きはティーン用にちゃんとアレンジされていて、ティーンができる限り自分で生活できるようになっている。
街の外では、目的地まで自由に移動できる。寄り道も可能だが、ゲーム序盤では行けるエリアは限られている。なおカメラ視点は固定。自由に視点移動できないもどかしさはあるが、地図を見ながら移動すれば問題なく目的地にたどり着けると思う。
ティーンは基本的には明るい性格だが、玄関では「学校に行きたくない」という素振りを見せる。学校にはティーンの体をからかういじめっ子がいて、嫌な思いをすることがあるからだ。ゲーム序盤は、こうしたティーンの日常と、学校での生活が描かれていく。
こう書くと少し生真面目なゲームに見えそうだが、実際の印象はかなり違う。というのも、家を出る前、「キリン屋に寄ってお昼ごはんを受け取って」と母親に言われるのだが、言われた場所に行くと本当に巨大なキリン(気さくなお姉さん)がいて、サンドイッチ屋を営んでいる。ティーンも街の人々も特にノーリアクションなので、これがこの街の日常の風景だということがわかる。
先程まで、ティーンのTポーズの体は不思議な設定だと思っていたところ、街中でキリンが人間らしい生活を人間以上に送っているのも同じくらいに不思議であり、現実世界とは理屈がかなり違うことがなんとなく察せられる。このキリンの登場を堺に、高橋慶太マジックが徐々に仕掛けられていく。
ちなみに、本作は全8話の話数構成で、各話のはじまりにはOP曲の「PerfectT Shape」、各話の終わりにはED曲の「Giraffe Song」がアニメーション付きで流れる。「PerfectT Shape」は全体を通すティーンの心情、「Giraffe Song」はサンドイッチ屋のキリンの気持ちを歌っていて、楽曲の心地よさも相まって毎回聞き入ってしまう。この構成も、高橋マジックのひとつだと思う。
どんどん広がる不思議な世界。心地よい余韻がGOTY級
第1話と第2話ではティーンの日常と学校生活が描かれていき、ティーンは学校でのいじめっ子たちの仕打ちに落ち込んでしまう。しかし、第2話の終わり、街に降ってきた隕石の影響でいじめっ子の1人が屋上から落ちたとき、ティーンは体を回転させて空を飛び(竹とんぼのように!)、いじめっ子を助けることに成功する。落ちてきた隕石と、ティーンが覚えた予想外の才能によって、話は大きく展開していくことになる。
第3話以降はぜひ実際にプレイしてもらいたいのだが、ティーンの日常が様変わりしていくところが何よりの見どころだ。街の探索エリアが広がり、サンドイッチ屋のキリン以外にも、ポップコーン屋のキリン、アイス屋のキリン、ズボン屋のクマ、床屋のカニなど、不思議でかわいらしいキャラクターが続々登場する。ちなみに、キリンのお店はミニゲーム、服屋や床屋の店はティーンと犬のカスタマイズ要素になっている。
登場人物では、学校の先生たちもユニーク。科学のマッシュルーム先生は穏やかだが日々女性に告白している(そして断られる)し、体育の白鳥先生はティーンの回転で飛ぶ様子を見て「バレエで私が追い求めている姿!」と喜ぶし、どこを切り取っても変わっている。
それに、「ノリマスカ?」などと喋る一輪車も登場する。ティーン曰く「父親の形見」で、なぜ喋るかの理由は謎とのこと。「そんなこともあるのか」と思っていると、それを見たいじめっ子たち(後に仲直りする)は、「一輪車が喋った!」と驚く。プレーヤーとしては困惑するばかりだが、ストーリーを進めるとその意味がちゃんとわかってくる。
また印象的な人物に、母親の姉「いち子」もいる。いち子は海辺の浅瀬にて、あえて入口を海の中に設置してあるカフェを経営しており、店に入る客の靴とスボンを一度濡らすことをポリシーとしている。やはり変わり者だが、ティーンを優しい眼差しで見守ってくれる。
あまり書くとネタバレになるのでこれ以上はやめておくが、「見た目も中身も変わっているが根は優しい」キャラクターたちで溢れているのが「to a T」の世界だ。個人的には、第5話以降の展開とキャラクターが大好きである。
話数を進めていくと、操作キャラクターが突然ティーンではなくなったり、ティーンのTポーズの秘密に迫るクライマックスへと進んでいく。トーンはあくまでほんわかしているのに、話自体は宇宙規模のスケールへと広がり、後半は「なんだこれは」の連続が待ち受ける。そんな不思議な世界で「完璧とは何か?」を問うテーマに入っていくのだが、決してシリアスにならず、優しさとユーモアが常にあるため、クリア後の余韻がとても心地よい。
筆者が個人的GOTYだと思う理由もこの心地よい余韻で、ティーンと、ティーンを取り囲むキャラクターたちのやり取りがじーんと染み渡るように入ってくる。とにかく、心が温まること請け合いだ。
子どもも虜に。登場人物をもれなく好きになるストーリー
本作は筆者にとってはお気に入りだが、熱中して夜を明かすくらいの遊びがあったり、うなるような仕掛けが盛り込まれているようなタイプの作品ではない。そのため、人によっては地味なゲームだと捉える可能性も十分にあると思う。
ただ、本作はどちらかというと、何よりの見どころである、高橋慶太氏ならではのストーリーテリングが、ゲームのフォーマットを活用して展開していると考えるべきだろう。不思議な世界を受け入れ、ときに笑いながらティーンの物語を楽しんでいけば、最後には登場人物たちをもれなく好きになっているだろう。
ちなみに筆者の子ども(4歳の女子)はど真ん中のショート動画世代だが、時々笑いながら筆者のプレイを集中して見ており、理由を聞くと「かわいいから好き」だという。高橋慶太氏の描く世界やビジュアルが妙に刺さるらしく(「塊魂」も「Wattan」も刺さった)、本稿執筆にあたって再度プレイしていたら、するすると近くに寄ってきた。そんな力も本作にはあるようで、いいゲームだなと改めて思う。
もちろん好みがあると思うので全員には当てはまらないと思うが、家族でプレイしても楽しいタイトルだろう。家族で過ごしやすいこの年末のプレイにもオススメしたい一作である。
□PS Store「to a T」のページ
□Steam「to a T」のページ
□Xbox Store「to a T」のページ
(C) 2025 uvula LLC, Published by Annapurna Interactive under exclusive license. All rights reserved.





















































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