PS4ゲームレビュー

Until Dawn -惨劇の山荘-

ハリウッドホラー映画の手法とゲーム性の融合
疑念と謎が浮かぶ奥深いストーリー

ジャンル:
  • アドベンチャー
発売元:
開発元:
  • SUPERMASSIVE GAMES
プラットフォーム:
  • PS4
価格:
6,900円(税別)
発売日:
2015年8月27日
プレイ人数:
1人
レーティング:
CERO:Z(18歳以上対象)

 「殺人犯かもしれない奴らと一緒にいられるか、俺は部屋に帰らせてもらう!」

 このセリフは、何かの理由で集まった人間が外界から隔絶され、1人、また1人と殺されていく……といったドラマでおなじみのものだ。こういった状況を扱う物語を、ミステリー用語では、「嵐の山荘もの」などと呼ぶ。「Until Dawn -惨劇の山荘-」(以下、「Until Dawn」)は、典型的な「嵐の山荘もの」である。本作では、吹雪で閉ざされたロッジに集まった8人の男女に、惨劇が襲いかかる。

 「Until Dawn」は「ホラー」の要素が強く、プレーヤーはビクビクしながらゲームを進めていく。恐怖の演出、ミスリードを誘う情報の出し方、キャラクターに関して様々な感情が生まれる脚本など、ハリウッド映画のスタッフだからこそできる映画手法により、ファンをニヤリとさせる作品となっている。本稿では映画とゲームの新しい融合を目指した本作の感触を語っていきたい。このレビューではストーリーにも触れているので、「ネタバレは一切イヤだ」という方は1度ゲームをクリアしてから読んで欲しい。

【「Until Dawn -惨劇の山荘-」 プロモーションビデオ】

「うわ、こいつら嫌い!」。個性豊かな8人の男女に襲いかかる過酷な運命

ハンナは仲間達の前で笑いものにされる。これが惨劇の始まりだった
1年後、ハンナとベスの兄ジョッシュの呼びかけで8人は再び山荘へ
選択がその後の展開に影響する「バタフライエフェクト」
何かがある場所では光が知らせてくれる
ヒロインのサム。何故かバスタオル1枚で暗闇の中を羽目に

 8人の男女は、後悔の念と疑惑を胸に雪山の山荘を再び訪れる。彼らは1年前、耐えがたい大きな“事故”を起こしてしまったのだ。きっかけはハンナという女の子。彼女は8人の内1人、マイクに恋をしていた。しかしそれを快く思わないエミリーやジェシカのいたずらの犠牲になってしまう。

 1年前、ハンナはマイクを雪山の別荘に招待できたことにはしゃいでいた。そしてマイクの誘いに応え、1つの部屋で2人きりになる。ハンナは勇気を振り絞り、セクシーなアピールでマイクに想いを打ち明けようとする……そこでハンナは気がつくのだ、この部屋には他にたくさんの人がいて、しかも撮影までされていることを。自分はさらし者にされていたのだ! 屈辱と怒りと絶望で、ハンナは山荘を飛び出す。ハンナの双子の姉妹ベスはハンナを追った……そして2人は消息を絶ってしまう。1年たった今でも彼女たちは見つかっていない。

 1年後、当時集まったハンナとベスをのぞいた8人は再び山荘に集まることになった。ハンナとベスが飛び出したとき、酔いつぶれてしまった2人の兄ジョッシュが他の7人に声をかけたのだ。「もう1度みんなと集まって、楽しい時間を過ごしたいんだよ!」。姉妹を失った悲しみを乗り越えようとするジョッシュの呼びかけに、7人の“仲間達”は応えたのだ。……それが惨劇の始まりだとも知らずに。「Until Dawn」はジョッシュを含む8人の男女が、強烈な悪意を持つ“殺人鬼”に付け狙われる。恐ろしい殺人鬼に8人はなすすべもなく翻弄され、恐ろしい運命に直面させられるのだ。

 「Until Dawn」をプレイし始めて最初に気がついたのが、その見事な人物描写だ。ゲームを始めて2時間ほど、筆者は8人の男女のうちかなりのキャラクターを“嫌い”になっているのに気がついた。まずハンナを陥れた5人の印象はいきなり悪い。ハンナに惚れられていたマイクは自分の魅力を最大限に気にしながら、彼女であるジェシカに雪玉をぶつけられただけでマジに彼女に逆襲しようとするほど器が小さいし、自分が振ったエミリーの未練の心もしっかり利用するイヤミな男だ。

 ジェシカはセクシーさを全力でアピールする頭の悪さ全開だし、マイクへの当てこすりでマットとつきあうエミリーは、自分の頭の良さを自慢する意地の悪さがものすごい。マットは個性が薄い上にエミリーにこき使われているところがイライラされる。

 そして最悪なのがジョッシュの親友のクリスだ。こいつの“空気の読めなさ”はまさに天才で、彼が受け狙いでやる冗談はゲーム内のキャラクターだけでなく、プレーヤーも大いにイラつかさせる。しかもそれを自覚できないのが救いがたい。短い時間でプレーヤーにキャラクターを強烈に印象づけさせるこの脚本と演出はかなり見事だ。「ああ、こいつらは殺人鬼にむごたらしく殺されちゃうんだろうな」と思わせるところは、ハリウッドスタッフのノウハウが充分に活かされていると感心させられた。

 一方、ゲームシステム面では「バイオハザード」の影響を強く感じた。「バイオ」と同じカメラを限定した映画手法を取り入れ、独特のパースで視界を限定するフィールドの描き方、証拠品やドアなどはかすかな光を放ってプレーヤーに注意を促すところも改めてホラーという題材にぴったりの演出だと感じた。

 限定された視点のため時には操作がしづらいこともあるが、ホラーな雰囲気に本作のシステムはぴたりとはまる。ゲーム内で見つかるものは殺人鬼の正体をほのめかすもの、行方不明の2人の痕跡、さらにこの山の過去を語るものもある。さらに謎めいた「トーテム」がそこかしこに落ちている。このトーテムはのぞき込むと「未来の出来事」がフラッシュバックする。ゲームでの謎を膨らませる要素だ。

 そして、本作ならではのゲームシステムとして「バタフライエフェクト」がある。ゲームではプレーヤーは時にはクリス、時にはエミリーというように操作するキャラクターが切り替わるのだが、彼らの「決断」がゲームのキャラクター達の運命に大きく関わってくるのだ。その決断は「小さな蝶の羽ばたきが、大嵐に繋がる」というバタフライエフェクトの語源通り、予想しにくいものも多い。

 その選択によっては、キャラクターを死の運命から救うことができるかもしれないのである。選択の影響は直接的ではなく間接的な場合もある。このゲームシステムのため、1度のプレイでは本作のすべてはわからない。異なる運命を求めて複数回プレイするというのが、「Until Dawn」の楽しみ方である。

【Until Dawn -惨劇の山荘-】
“何か”に襲われるハンナとベス
ジョッシュはハイテンションで、何か怖い雰囲気がある
マイクはジェスといちゃつきながら、隠れてエミリーとも抱き合う
クリスの間の悪さは天才的で、かなりムカツク
エミリーは常に人を責めるような口調で話す
バタフライエフェクトで、ゲームの展開は変わっていく
様々な場所に落ちているトーテム
手がかりにより、隠された真実が明らかに

これはどういうことなの? 様々な予測が浮かぶ脚本と演出

ウィジャボードで超自然的な存在が提示される
謎めいたドクター・ヒル。彼は誰と話しているのだろうか?
マイクとジェスは謎の坑道に迷い込む
エミリーはかたくなにみんなに合流しない。それにつきあうマットも……
規制部分では、画面が真っ黒に。ちょっと残念な部分だ

 複数回プレイが推奨の「Until Dawn」だが、やはりファーストプレイの楽しさは格別だ。何が起こるかわからない闇の中を手探りで進んでいく怖さがたっぷり味わえる。BGMの使い方もうまく、「怖いぞ、何かあるぞ、何かあるぞ」という雰囲気が常を常に醸し出す。このためプレイにはかなり緊張感があり、短い時間でも、結構疲れる。単純に嫌いだと感じた人物達も様々な表情を見せてきて、思い入れが深くなっていく。

 プレイをしながら、「今の現象は、どうして起きているんだ?」と予想するのも楽しい。1年前のハンナとベスは何物かにはっきり追いかけられていた。早い段階で、ハンナとベス、ジョッシュ達の「ワシントン家」に恨みを抱いているであろう人物もほのめかされる。さらに謎めいた「ウィジャボード(西洋式こっくりさん)」での幽霊のメッセージなど超自然的な存在も提示される。また、山には坑道が張り巡らされていたり地理的な情報も膨らんでいく。

 そして何より、最初のプレイでは本作の“方向性”がわからないため、プレイを進めていくと混乱は大きくなっていく。本作の惨劇は、すべてがある人物の陰謀によるトリックによるものなのか、それとも超自然的な何かが事件を引き起こしているのか、わからないまま進む。プレーヤーはホラーな演出と、先が見えないストーリーにビクビクしながら、色々なことを考えてプレイをしていくこととなる。このもやもやした気持ちを抱えながら進んでいく感触こそ「Until Dawn」の醍醐味だろう。初回のプレイは7時間ほど。かなり濃密なプレイが楽しめる。

 さらにプレーヤーを混乱させる存在としては、「ドクター・ヒル」がいる。彼は物語のインターミッションで現われる、精神科の医師を思わせる人物だが、人を驚かせたり、ものすごい意地の悪い笑みを浮かべたりと、かなり怪しい。そして何より、彼が“誰に”話しかけているかがわからないのが面白い。ドクターとの会話を行なう場所は山荘と全く違う場所に見えるし、時間軸もわからない。

 ひょっとしたらドクターが話しかけているのは、惨劇の後生き残った誰かだろうか? もしくは事件前の殺人鬼が精神病院で会話しているのか? まさか「ゲーム外」の設定でドクターは“プレーヤー自身”に話しかけているのだろうか? などなど、色々な予想をしたくなる演出なのである。

 そして2度目のプレイはゲームプレイの感触が大きく変わる。事件の“流れ”はわかるし、プレーヤーを驚かせようとする「ポイント」がどこにあるかもわかるので、緊張感はかなり緩和される。それでも怖い場面はやっぱり怖かったり、驚かされることもあるが、たとえば探索は冷静に力を入れてできるので1週目で見逃した要素を見つかることも多い。「1回目の俺はかなりビビって色々見落としていたんだな」といった分析ができるのも面白い。

 「あのときのこれは、こういうことなのか」など、物語に張られた伏線に気づいたりするのもいい。筆者は現在2回目の終盤をプレイしているが、かなり重大な要素を1回目で見逃していることがわかった。1回目と同じような展開も多い中、1度目では死んでしまった人が助けられたり違う部分もある。「Until Dawn」は2回目からはエピソード選択によって途中からのプレイもできるので、「あのとき、あそこの選択をやり直すと、ストーリーがどう変わるか」という再プレイも可能だ。

 そして「Until Dawn」の日本語版に関しては「規制」も触れておかねばならないだろう。本作はいくつかのシーンで画面が真っ暗になって何も描写されなくなってしまう。本作はかなり表現的にエグイのだが、真っ暗な画面が数秒続くというのはやはり不自然だ。かなりグロい画面なのだろうな、というのは予想はできるが、やはり残念だ。

 一方、日本語版は声優の熱演も大きなセールスポイントだ。ヒロインでありセクシーな姿も見せるサムは、白石涼子さんがハスキーな声で魅力的に演じている。クリスの役の「どうすれば良いんだ、わからない!」とパニックを起こすシーンで、本気でイライラさせられるのは小森創介さんの、誠実だが気が利かない感じの演技があってこそだ。エミリー役の田中晶子さんの、感情が制御できないまま相手に憎悪をたたきつける演技もいいし、他の声優さんのいかにも洋画風の抑揚のあるしゃべり方もかっちりはまっていて、プレイしていてとても気持ちいい。彼らの演技は「Until Dawn」の楽しさを大きく膨らませてくれる。

 「Until Dawn」はハリウッドスタイルのホラー映画の手法をゲームに取り入れるという点において、従来のゲーム以上に踏み込んだ作品だ。一緒にいれば助かるのに単独行動したがるとか、通話の相手が必要以上にのんびりしているとか、いかにも頼りになりそうな人が肩すかしを食らわせるとか、色々な「ホラー映画のお約束」が思いっきり盛り込まれていて、ホラー映画ファンはかなりニヤニヤできる作品でもある。こういった意欲作を作っていこうという開発者と、日本語でもきちんと楽しませたいというメーカーの姿勢は応援していきたい。

【Until Dawn -惨劇の山荘-】
暗闇の中、状況は刻々変化していく。プレーヤーの中に様々な疑惑が浮かんでくる脚本がすばらしい
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(勝田哲也)