★ダウンロードコンテンツショートレビュー★

闇はさらに深くアランを捕らえる……
幻想性を強調、盛りこまれた様々なアイデア

「Alan Wake」

  • 発売元:マイクロソフト
  • プラットフォーム:Xbox 360
  • レーティング:CERO:B (12歳以上対象)
  • 価格:560MSP(約840円)
  • 発売日:10月13日(発売中)


 「Alan Wake」ファン待望のDLC第2弾がついに登場した。「Alan Wake:小説家(以下、「小説家」)」は「Alan Wake」のエンディングのストーリーからの続きとなり、そしてDLC第1弾「Alan Wake:シグナル(以下、「シグナル」)」のエンディングの場面直後からのスタートとなる。「小説家」は、「シグナル」から続くストーリーの完結となるという。

 「小説家」ではアランはいままでにも増して異様な状況に立たされ、真実を追い求めて戦うことになる。悪夢そのままの現実世界が歪んだようなフィールド、家が回転するような大規模な仕掛、光を使った戦い……ストーリーと共に、本編以上に様々なギミックでの戦いが楽しめる、“ゲーム性”においても注目のDLCとなっている。

 本稿では「小説家」の要素の紹介と共に、本編とシグナルの概要も紹介していきたい。多少ネタバレ要素も含むので、「前知識無しでプレイしたい」という方は注意して欲しい。

 

【Alan Wake:小説家】
  • ジャンル:追加シナリオ
  • ボリューム:2~3時間
  • サイズ:477MB
  • 実績:250ポイント
  • オススメ度:★★★★☆
  • 前回のDLC「Alan Wake:シグナル」直後から続くシナリオ。本編以上に幻想的な空間、ユニークなアイデアが盛りこまれている

■ 妻を取り戻すための闇との戦い。しかし、アラン自身が深い闇に囚われることに

主人公アラン・ウェイク。「Alan Wake」本編では、書いた覚えのない彼自身の小説の通りに恐ろしい物語が進行していく
「シグナル」では、狂気に囚われたようなもう1人の自分が、次々と絶望的な状況を告げてくる
半透明のバリー。自らを幻影だというが……

 「小説家」の前に、まず「Alan Wake」本編と、DLC第1弾「シグナル」を紹介しておきたい。「Alan Wake」の主人公はベストセラー作家のアラン・ウェイク。彼は2年も新作が書けないという、大きなスランプに陥ってしまっていた。悩むアランは、妻アリスの薦めでアメリカ北西部にある田舎町「ブライトフォールズ」を訪れたのである。

 しかし、ブライトフォールズには“闇の力”と呼ばれる恐ろしい存在がいた。湖に浮かぶコテージを借りたアラン夫妻だったが、妻は闇に囚われ、アランは1週間分の記憶を失ない、何処とも知れぬ場所にいる自分を発見する。混乱するアランの前に落ちてくるのは、自分が書いた覚えのない原稿。そしてその文面通りに、体中に闇をまとった怪人達が襲いかかってくる。

 「Alan Wake」は、現実とも、夢ともつかない、謎だらけの状況の中、手に持つライトと銃を頼りに、闇の中を進んでいくアクションアドベンチャーだ。プレーヤーはアランと共に、現実とも小説の中とも言えない空間に取り込まれていく。本作は、特に影をまとった人間達が現われる演出が楽しい。徐々に霧が濃くなり、その霧が分離するかのように人影が現われ、恐怖を煽る“出現音”が響く。ストーリーは謎が次々と提示され、静かな田舎町が秘めた恐怖の姿を明らかにしていく。

 舞台となるブライトフォールズは、街の憩いの場であるドライブインや、雑貨店、住人達が楽しみにしているローカルラジオ、そしていまは記念館となっている廃坑や、観光センターなど様々な場所が丁寧に描き出されている。この一見どこにでもありそうな普通の田舎街が、次々に闇の力で歪んでいく。リアルな恐怖を体験できるゲームであり、ホラー好きな人に特にオススメしたいタイトルだ。

 さて、この「Alan Wake」のDLC第1弾の「シグナル」は、「Alan Wake」の購入時の特典としてダウンロードコードが付与されており、全てのプレーヤーが無料で遊べるコンテンツである。「Alan Wake」で大きな事件の決着はついたものの、アラン自身は何処ともしれぬ“闇”に囚われてしまっている自分を発見する。アランを導くのは鍵を握る詩人トーマス・ゼイン。アランはゼインのシグナルを頼りに、異様な空間から脱出するために進んでいく。

 本編のエンディングの後、アランは自分がブライトフォールズの街の中に立っていることに気づく。街の憩いの場であるドライブインだが、どこかが歪んでいる。そしてゼインの声を聞き、アランは自分が闇に囚われていることを知る。そこは、同じドアを開けても違う場所に出てしまうような世界。ブライトフォールズの雰囲気を残しながらも、どこかが異なる異質な空間だ。そして脈絡無く置かれた「テレビ」には狂気に満ちたアラン自身の顔が映り、絶望的な状況を次々とわめき立てる。そしてその言葉通り、闇の存在が襲いかかってくるのだ。

 「シグナル」はプレイ時間としては数時間。ボリュームとしては本編の1章分という感じだが、シチュエーションとして様々な要素が入っており、特に「戦闘」が楽しい。最初から大きなライト、ショットガンなど強力な装備が手に入り、次々と襲いかかってくる敵との熱い駆け引きを体験できる。多数の敵に取り囲まれるシチュエーションも多く、どう切り抜けるか、本編で鍛えた腕が試される。

 本編の終盤では文字に光を当てるとオブジェクトが出現するというギミックがあったが、「シグナル」ではこれを発展させている。たとえば、「閃光」という文字に光を当て、強い光を発生させ、敵を撃退したり、「ブリッジ」と書かれている文字から足場を出現させて進めることも可能だ。筆者が特に好きなのは壁一面に“焼却炉”がある場所で「火炎」という文字に光を当てると、炎が吹き出す。トラップを利用して敵を倒すという、本編にはあまりない戦い方ができる。

 「シグナル」では、本編からさらに幻想色が濃くなり、アランはまさに悪夢の中を進んでいくことになる。空間的に繋がりのないはずの景色が次々と広がり、敵が待ち受ける中を進み、生き抜いていくサバイバル感が楽しい。悪夢をけしかけるのがテレビに映る自分自身というのも興味深い。そしてストーリーは「小説家」へと続いていく。


本編のスクリーンショット。闇をまとい、こちらを襲う怪人達。アランは光を使って彼等に立ち向かう。闇に囚われた妻を救い出すために
テレビには作品を描き続けるもう1人の自分が。ブライトフォールズの様々な場所が闇の力で歪んでいる
こちらは「シグナル」の画像。文字に光を当てると、書いてあるものが実体化する。元の形をわずかに残しながらも、大きく姿の変わったブライトフォールズをアランは進んでいく
左は焼却炉が並ぶ場所。「火炎」の文字に光を当てると炎が吹き出す。中央はアランが書いた本の“群れ”が襲いかかってくるシーン。右はテレビを通じて絶望的な状況をがなり立てるもう1人のアラン。彼のしゃべる内容通りに、恐ろしい状況が実体化する


■ 回転するフィールド、空中に現われる岩……「小説家」では、幻想性を増していくフィールドが魅力

「小説家」のスタート地点。本編と同じようなシチュエーションが、プレーヤー自身の記憶を刺激する
回転する花火に囲まれて戦う。「小説家」の冒頭のシーンはかなり派手だ
さらに狂気が深まっているかのようなもう1人のアラン。何故テレビを通じてなのだろうか? ここにも秘密がありそうだ

 「小説家」は「シグナル」のラストシーン直後から始まる。アランの傍らには「シグナル」に続き、バリーがいる。この幻想的な世界に登場するバリーは半透明で、「俺は幻影だ。お前はどうなんだよ?」と語りかけてくる。

 幻影であるバリーはゲームの中でアランの手助けをしてくれず、行く先々で皮肉混じりに声をかけてくるだけだ。なぜ幻影としてバリーが出てくるのか? 明確な理由はなくても、アランがバリーをどれだけ必要としているか、伝わってくる。

 「小説家」は「シグナル」からさらに戦闘シーンにおいてパワーアップしている。序盤から円盤の縁に花火が取り付けられ、火花を散らしながら回転する仕掛がいくつもある中での闇の人間達との戦いだ。火花と光の表現が非常に美しく、そんな中で必死の戦いを繰り広げるというギャップが楽しい。

 アランの道のりもさらに幻想性を増している。虚空に浮かぶ「石」の文字をライトで照らし出し、空中に石を出現させ、そこを足場に空中を昇っていくという場面もある。テレビから語りかけてくる自分はさらに狂気を増しており、敵の攻撃は激しい。そんな中をアランは何とかくぐり抜け、前進を続ける。

 「シグナル」では街の形を保っていたフィールドも、「シグナル」ではダイナミックに姿を変える。入った家が、ぐるりと回転したりするのだ。さらに、フィールドが輪になっている空間に投げ出されることもある。アランはハムスターが滑車を回すように、そのフィールドを進んでいく。

 フィールドの仕掛と、ゲーム的な要素がうまく融合していると感じたのが、“灯台”への道を進むところだ。灯台はまばゆい光を放ち、闇の人間達を消し去ってくれる。しかし、道にはいくつもの大きな岩が影を作っていて、光が届かない場所が多い。アランは岩の根本にある「クリア」という文字をライトで照らすと、文字の力で岩が崩れ去り、灯台の光が届くようになる。沢山の闇の人間達の攻撃をかわしながら、岩を崩し、光の当たる場所を増やして道を進んでいくアランは、自分の中の心の闇を消し去りながら進んでいるようだ。幻想的なフィールドならではの大規模な仕掛で、筆者が「小説家」の中で1番好きなシーンだ。

 「小説家」は「シグナル」からさらに幻想的になったことで自由度が増し、よりユニークな要素が盛りこまれていると感じた。空中に岩の足場を“創って”進んでいるときに、そこから落とそうとする敵が現われるところなど、まさに悪夢そのままだ。現実と幻想空間の境目が無くなってしまうところが「Alan Wake」の面白さであり、怖いところだが、「小説家」はそこからグッと“幻想性”に向かっている。「悪夢に飲み込まれた男の恐怖」を追体験できるだろう。


空中に岩を出現させ、空を歩いていくアラン。中央は入った家が回転するシーン。右は、様々なオブジェクトを出現させ、黒い竜巻の縁を進んでいく場面。本編とは違った幻想的なフィールドが多いのが「小説家」の特徴だ
井戸の奥に見える「穴」の文字にライトは届かない。中央は「ドラム缶」を実体化させ敵を撃退する。右は、地下道の中で敵に襲われるシーン。戦闘のシチュエーションも多彩になっている
“輪”の形になっているフィールド。滑車を回すハムスターになった気分だ
灯台の光が闇に囚われた人を消し去る。ライトと文字で岩を崩し光を呼び込むという大きなスケールのギミックが楽しい。幻想的な要素が濃い、「小説家」ならではのシーンだと言えるだろう


■ より自由に、さらなる驚きが待つ2つのDLC。この物語の先にあるものとは?

発売前の先行体験イベントのために来日した、本作を開発する米Remedy Entertainmentのマネージング ディレクターMatias Myllyrinne氏

 本編発売前のインタビューで、本作を開発する米Remedy Entertainmentのマネージング ディレクターMatias Myllyrinne氏は、年内に2本のDLC配信が決まっていると語っていた。このDLCは概念的には“「Alan Wake」と「Alan Wake 2」”を繋げるようなスペシャル版といえるコンテンツだという。このインタビュー通り登場した「シグナル」と「小説家」の2つのDLCは「Alan Wake」のエンディング直後から続いている。本編がさらなる物語に続くかは、ぜひプレイして確かめて欲しい。

 今回、「小説家」をプレイして、幻想性をより強めた展開は驚かされた。まさに悪夢の中を進むアランの戦いは、本編とはひと味違う「特別編」ならではだと感じた。あくまで現実世界に近い立ち位置で、超自然的な“闇”との戦いを描いた本編があるからこそ、この2つのDLCは面白いと感じた。

 幻想性を強めてはいるものの、本編から大きく離れていない、というのもこの「小説家」の魅力だと思う。回転する地形などユニークなフィールドが多い「小説家」でも、パッチワークのように、本編のフィールドが組み合わさっている。1つ1つのパーツが本編でどこにあったか、どういった場面だったかを思い出させ、本編の記憶が改めて蘇ってくる。「シグナル」以上に思い切ったアレンジが加えられて、開発者達の“意気込み”も感じられた。

 もちろん、「小説家」を充分に楽しむためにも、「シグナル」は必須だ、まだプレイしていないユーザーは、本編に封入してある「シグナル」の無料のダウンロードコードを利用して、ぜひプレイしてみよう。そして「シグナル」をクリアした勢いのまま「小説家」をプレイして欲しい。「Alan Wake」を気に入ったプレーヤーには、このふたつのDLCはぜひオススメしたい。本編とはひと味違う不思議な空間での戦いを体験して欲しい。


「シグナル」、「小説家」は本編と同じ場所を違ったアレンジで出現させる。本編をプレイした記憶が強く刺激され、もう1度「Alan Wake」をプレイしたくなってしまう

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(2010年 10月 15日)

[Reported by 勝田哲也 ]