★Xbox 360ゲームレビュー★
闇への恐怖と二転三転するストーリー展開 スピード感と雰囲気が魅力のホラーサスペンス 「Alan Wake」 |
|
Xbox 360向けアクションアドベンチャー「Alan Wake」が5月27日に発売された。本作は主人公アラン ウェイクが遭遇する、現実と幻想の狭間のような世界の物語である。プレーヤーはアランと共に、次第に闇の中に囚われていくかのような体験をすることができる。
弊誌では先行体験&インタビュー、ファーストインプレッションと2度に渡って本作の序盤を紹介してきたが、今回のレビューでは前半のストーリーを紹介しつつ、更なる魅力、ゲーム要素を紹介していきたい。
アドベンチャーゲームファンとして、できるだけネタバレは避けたつもりだが、大筋の流れは紹介しているので、「ネタバレ絶対禁止!」、「前知識を全くなしでプレイしたい!」、という人はプレイ後にお読みいただければと思う。■ 妻はどこに? めまぐるしく展開していくストーリーの奥に潜む闇の存在
主人公のベストセラー作家、アラン ウェイク。妻の姿を求め、与えられる情報に振り回されることに |
黒衣に包まれた謎の老婆。彼女の正体とは? |
アランの相棒バリー、軽口を叩くユーモラスな男だ。ビビリながらもアランを支えてくれる |
「Alan Wake」は北米のTVドラマシリーズを強く意識した作品である。ゲームは6つのエピソードから成り立っており、エピソードの終了時にはエンドマークが表示され、次のエピソードに移る前には「これまでの『Alan Wake』」として前エピソードのカットシーンを集めたムービーが流れる。
ファーストインプレッションではエピソード1を詳細に取り上げた。エピソード1のラストシーンでは「アランと妻アリスが行ったコテージは、実は30年前になくなっていた」という衝撃の事実が明かされる。このように本作では、これまでの事実がガラガラと音を立てて崩れるような事実が明らかになったり、次々と謎が提示されたり、ミスリードを誘うような要素があったり、アランだけでなく、ユーザーさえも翻弄し、強く作品世界に引き込むアイデアがふんだんに盛り込まれている。
まず、おさらいもかねて「Alan Wake」の基本的なストーリーを紹介しよう。「Alan Wake」は主人公の作家アラン ウェイクが妻アリスの誘いでアメリカ北東部の田舎町「ブライトフォールズ」を訪れるところから始まる。町に向かう前、アランは悪夢を見ていた。闇に囚われた怪物のようになってしまった人物や、竜巻のような闇に襲われる夢だ。そして休養のために訪れた湖に浮かぶコテージで、アランは妻の姿を見失い、闇との戦いに引きずり込まれていく。アランが進む先には「ディパーチャー」という彼自身が書いた覚えのない原稿が落ちており、そこに書かれた通りに怪事件が頻発していく。
エピソード2では突然「アリスを誘拐した」という誘拐犯から電話がかかってくる。誘拐犯は、闇と光、小説世界、そういったエピソード1で提示したホラー、ファンタジー要素が一瞬で消し飛ぶような生臭い存在だ。警察には本当のことは話せないアランだったが、彼のエージェントであるバリーが来てくれる。バリーは1週間も連絡が取れなかったアランを心配して、ニューヨークからこのブライトフォールズを訪れたのだ。
アランは自然公園近くの貸別荘を借りることにする。道すがらバリーにだけは全て打ち明けるが、バリーは相手にしてくれない。ともかくも誘拐犯と話をするためにアランは別荘にバリーを残し、誘拐犯の指定した場所に向かう。しかし闇の力がコテージの管理人を殺害し、アランを追い立てる。バリーも怪異に襲われ、闇の力はますます大規模になっていく。ようやく会えた誘拐犯は、身代金としてアランに「原稿」を要求するのだった。執筆のための猶予をもらったものの、アラン自身はどうしても書けない。そんなとき、アランの大ファンであるレストランのウェイトレス、ローズから電話が入る。「私、原稿を持っているわ」……。
この後も急展開は続く。アランを「容疑者」として町の警察を動員し捕らえようとするFBI捜査官のナイチンゲール、「アリスは死んだ」と断言する精神科医、過去にあの湖のコテージを使っていた作家と編集者、「ディパーチャー」の謎……。いくつかの謎は明らかになり、さらなる秘密が登場する。明らかになる真実、張られていた伏線、プレーヤーはジェットコースターに乗せられているかのように物語の展開に流されていき、結末へ向かって突き進んでいく。
キャラクター描写も少し触れておきたい。アリスは本編ではすぐ行方不明になってしまうが、過去の話でアランとの繋がりがきちんと描かれる。アランの大ファンのローズはレストランでのはしゃぎっぷり、そして彼女の部屋のアラングッズの数々で彼女の性格がよくわかる。ラジオDJのパットメインは様々な場所で聞く彼の番組から彼の落ち着いた人格が感じられる。その他のキャラクターも短く、効果的にキャラクター性が表現されているのが楽しい。
そんなキャラクターの中で最も魅力的なのはアランの相棒、バリーだろう。アリスと馬が合わないという彼は、軽く、ひょうきんで、いい加減なところもあるお調子者だ。ビビリだし、ローズに下心を持っているし、それでいて、やはりかけがえのないアランの味方であり、時には頼りになる。敵が光に弱いとわかったら、身体に電飾を巻いてクリスマスツリーのように飾り立て、自分だけちゃっかりヘッドライトまで手に入れている。ユーモラスでしたたかな、良いキャラクターである。
■ 取り囲む闇の人間、襲いかかるポルターガイスト。光を武器に作家は戦う
光を当て、闇のバリアをはぎ取り、撃つ! コツを覚えてくると駆け引きそのものが楽しくなってくる |
襲いかかってくるブルドーザー。闇は無機物さえも支配下に置く |
「Alan Wake」の敵は闇に包まれている。アランはまずライトを当てたり、光のある場所におびき寄せ闇のバリアをはぎ取り、その後に弾を撃ち込んで倒すという形になる。発煙筒を使うことで継続的に光を浴びせることができ、閃光手榴弾を使うとバリアごと敵を消し去ることも可能だ。
ストーリー、演出だけでなく、ゲーム性もまた「Alan Wake」の力の入った部分だ。戦争を題材にしたFPSやTPSと違い、使う武器は強力なものでも狩猟用ショットガン程度と地味だが、複数の敵に襲われた時などはいかにうまく光を当て闇をはぎ取り倒すか、という駆け引きが独得のゲーム性を生み出している。位置取りや、ライトの電池を替えるタイミング、発煙筒や閃光手榴弾、ショットガンなど弾数が少ない武器をいつ使うかなど工夫することでよりうまく戦っていける。
さらに、多彩なシチュエーションがゲーム性を深めている。エピソード2では巨大なブルドーザーが闇に操られアランに襲いかかってくる。さらに闇の人間達もがアランを取り囲む。ブルドーザーをうまくかわすことで周りの敵を倒せる。エピソード3では炭坑での限られた空間で敵と対峙したり、大量の敵をガスボンベを利用することで撃退するといったシチュエーションもある。
この他、発煙筒しか持っていない状態でNPCの銃が頼りだったり、閃光手榴弾だけといった限定されたシチュエーションもある。特にユニークなのはエピソード3の警官隊に追われるシーン。この時は警官がライトを持ってアランを追い立てる。これまで味方だった光がアランを追いつめるという逆転したシチュエーションが面白い。
敵との戦いの上では、エピソード4の農場での戦いが派手だ。ここは元ロックスターの兄弟が持っている農場で、本格的なロックコンサートができるステージがある。バリーが操るスポットライトや、花火に支援を受けながら、ステージに向かってくる敵に対して、ショットガンや閃光手榴弾、発煙筒などフル装備で立ち向かうのだ。
車に乗るシチュエーションもある。レースといった要素はなく、「GTA」シリーズのように広い空間を自由に走るわけではないが、闇の敵をヘッドライトで撃退したり、道がふさがれていて乗り換える車を探したり、通常とは違うゲーム性を体験できる。
「Alan Wake」の戦闘は特に、戦いが始まるときの“演出”が絶妙である。風が吹き、どこからともなく霧が世界を覆っていき、その霧が生み出したかのように闇に囚われた人間が現われる。ざわざわと揺らめく木、徐々に濃くなっていく霧、緊張感のあるBGM。思わず背筋に緊張が走る、「これぞホラーだ」と実感できる、現実と魔界が入れ替わるような見事な演出は是非目にして欲しい。この演出があるからこそ、戦いが一層楽しいのである。
■ 細部までこだわって作られた世界。やり込むことで明らかになる物語の伏線
原稿を集めることでアラン以外のキャラクターの心情も明らかになっていく。より多角的に物語を楽しめる要素だ |
町のあちこちには観光用の解説がある。緊迫した場面でもチェックしたくなる要素だ |
「Alan Wake」には並々ならぬスタッフのこだわりが感じられる。特にブライトフォールズという町の描写は細かい。ドライブインや自然公園、小さな町の中心地、森の中、谷間、ダムなど田舎町の様々な場所をピックアップすることでリアリティーのある舞台を作り上げている。だからこそこののどかな田舎町が、闇の世界に囚われていく描写が光る。
廃坑になった炭坑が当時の道具などを陳列した記念館になっていたり、ハイキングコースに解説の看板があったりと、「名所案内」としての要素もある。また、自然公園のマスコットキャラクターであるマンモスのぬいぐるみが、ローズの自宅にあるのには意味があるのかな、と想いをはせさせられるような小ネタも楽しい。車で広い範囲をドライブできるエピソードをプレイしていると、「GTA」シリーズのように自由にブライトフォールズを戦闘無しで細かくチェックできればなあ、とも思ってしまう。
原稿やパットメインのラジオ番組で補完されるストーリーにも注目だ。落ちている原稿はアランの視点だけでなく、FBIのナイチンゲールやバリー、ローズからの視点のものもある。ラジオ番組ではパットメインを聞き手に、様々な人が相談をしてくる。事件の背景や、ほんのちょっと会った人のその後、1週間後に控えたディアフェスト(鹿祭り)への盛り上がりなど、こちらでも様々な情報が提示される。
開発者の趣味丸出しの架空のオカルトドラマ「ナイトスプリングス」は一見関係ないドラマを展開しつつも、アランの現在の状況に合わせているようで一層不気味な雰囲気を出している。とにかく、何でもかんでも細かくチェックしたくなってしまうゲームである。筆者は1度クリアしてからもう1度プレイしたのだが、実は冒頭から物語の核心に関する伏線が張り巡らされていることがわかり、開発者が本作に傾ける情熱に改めて驚かされた。
先日行なわれた先行体験会では、来日した開発元のRemedy Entertainmentマネージング ディレクターのMatias Myllyrinne氏が年内で2本のDLCがあると語った。海外の開発者インタビューでは開発者がDLCでエピソードを追加をすると語っていたり、「Alan Wake」の「シーズン2」を作りたいというコメントを寄せている。今後も「Alan Wake」の世界は広がっていきそうで、注目したい。
筆者は、この「Alan Wake」にすっかりハマってしまい、原稿を全部集めたくなってしまった。原稿の一部は気付きにくい場所にもあり、フルコンプリートを意識するとゲームの難易度がグッと上がる。さらに「Alan Wake」では難易度の高い「ナイトメア」でなくては手に入らない原稿もあるのだ。ナイトメアでは敵の耐久度がかなり高めに設定されている。敵を倒すだけでなく、時にはライトでひるませて逃げることも必要だ。先に進むために試行錯誤させられる難易度だ。
もちろん、「Alan Wake」を楽しむためにナイトメアのクリアは必須というわけではない。手に入る原稿でゲームの展開やストーリーが変化するわけではなく、よりゲームの世界が補完されるコアファン向けの「オマケ要素」といったものだ。筆者としては個人的に、特に最終となるエピソード6は原稿の枚数が多く、気になる。ナイトメアモードはかなり難しいが、フルコンプリート目指して地道に挑戦したいと思っている。
「Alan Wake」はひととおりクリアを目指すだけなら10時間ほどだが、原稿を全て集めたり、ラジオやテレビを聞いたり、アイテムを集めたりと様々なやり込み要素がある。DLC第1弾「シグナル」も7月28日に発売が決定しており、今後の広がりも期待される。何よりものどかな田舎町が闇の存在に侵略され、現実と幻想が交差していく雰囲気が素晴らしい。個人的には昨今の欧米タイトルに多く見られる、海外のゲームにありがちな過度にエグイ描写や残酷な表現が少ないところにも気に入っている。多くの人に触ってもらいたいタイトルである。
(C) 2010 Microsoft Corporation. All Rights Reserved.
(2010年 5月 27日)