2018年11月30日 12:00
今から約19年前、1999年末にドリームキャスト用アクションアドベンチャー「シェンムー 一章 横須賀」が発売された。当時生まれた子が選挙権を持つくらいの歳月が過ぎており、今では「シェンムー」どころか「ドリームキャスト? なにそれ」という人も少なくないかもしれない。
現在はアクションアドベンチャーと銘打たれているが、当時のジャンル表記は「FREE(Full Reactive Eyes Entertainment)」と、当て字の略称どおり“自由度の高さ”が強調されていた。詳しくは後述するが、3Dマップ内に設定された圧倒的な量のインタラクションは国内外のユーザーを惹きつけ、後年に大輪の花を咲かせる一大ジャンル「オープンワールド」の原点ともいわれている。
2001年9月には続篇「シェンムーII」がリリースされ、国内外で熱狂的なファンをさらに獲得。今回の「シェンムー I&II」発売を1番喜んでいるのは、そうした往年のファンたちだろう。なにせ「シェンムーII」以降の具体的な成果は2010年サービスインのモバイルゲーム「シェンムー街」だけで、それも約1年で終了。未完のままフェードアウトしてもおかしくなかったが、2015年のE3で「シェンムーIII」アナウンスという超サプライズ。開発費の一部を支援するキックスターターの初日目標額達成は、希望を捨てずにいた「シェンムー」ファン歓喜の爆発ともいえる。
さて……ここまでで国内外ファンの“想いの強さ”はなんとなくご理解いただけたと思うが、一方で気になるのが「シェンムー? ドリームキャスト?」といった新規ユーザー。コアユーザーだけで十分支えられるならいいが、ビジネスとして「シェンムー」というIPの未来を考えるなら「なるべく多くの新規ユーザーに触れていただきたい」となる。
古参ファンは放っておいても1本どころかプレイ・保存・布教の3本に加えて海外版も取りそろえるだろうが、新規ユーザーはそうはいかない。生まれる前に出たゲームという人もいるだろうし、もっといえばスマホ世代でゲーム専用機を持たない人が本稿を目にしていてもおかしくない。そうした人たちに「コレは凄いんだ!」と煽って押し付けても、無駄にハードルを上げた結果「いわれているほどじゃない」となっては元も子もない。
はたして「シェンムー」は、2018年の今プレイしても“伝説”たりえるのか。スマホ世代にも訴求するのか。まずは新規ユーザーへのネタバレに配慮しつつストーリーや概要などをご紹介していこう。
今なお古びない徹底的に作り込まれた「シェンムー 一章 横須賀」
横須賀で生まれ育った青年「芭月涼(はづきりょう)」。幼い頃から芭月流柔術の達人である父の巌(いわお)に武術を習い、ややぶっきらぼうながら正義感あふれる青年に育てられた。
ある日涼が家に帰ると、見知らぬ男が父に“鏡”の在処を聞きだそうとしている場面に遭遇する。男の要求を拒んだ巌は、相当な武術の達人にもかかわらず殺されてしまう運命に……。突然の父の死、鏡の謎、男は一体誰だったのか。すべての謎を解き明かすため、涼は旅立つ。
ここであらかじめ触れておくと、「シェンムー I&II」はオリジナルからの改良点がいくつかある。ゲームのプレイパート画面は4:3から16:9になり、1080pにアップスキャンされた画質はオリジナルより見やすく感じられる。主人公の移動は左スティックにも対応し、「I」でも「II」仕様でセーブが可能。他にもローディング時間の短縮、トロフィー機能などがあるが、それ以外は“ほぼ移植”。よくいえばオリジナル性が担保されており、悪くいえば「HDリマスターを期待したのに」となる。
ゲームは葉月家からスタート。操作性にクセがあるため最初は慣れないかもしれないが、小一時間もすれば問題なく動かせるようになるはず。「I」では、ゲーム中の1時間が現実の約4分に相当するリアルタイム進行につき、R2ボタンの走りでサクサク移動がおすすめ。まずは街中のNPCから情報を集め、少しずつストーリーを進めていく。時間の経過や天候の変化をプログラム制御する「タイムコントロール」、「マジックウェザー」システムなど、あらゆる面で“自然さ”が追及されている。
人物や背景はフルポリゴンで再現されており、人物の動きにはモーションキャプチャーを採用。人物は全員フルボイスで、ゲームの進行状況に応じてリアクションが変化する。今でこそモブ(群衆)を意識した作品はぼちぼち存在するが、「シェンムー」は全NPCが各々のスケジュールに基づいて日々を過ごし行動。その様子を観察することでNPCの詳細な設定がわかるため、4月(ゲーム内日付)のゲームオーバーまでNPCをつけ回すストーキング行為が多発した。
NPCとの会話や探索で得た情報は、メモ帳に自動記入される親切設計。「バーチャファイター」をベースにしたバトルモードも難易度は低めで、アクションが苦手な人でも問題なくプレイできる。後年さまざまな作品に多大な影響を与えた「QTE(クイック・タイマー・イベント)」の初出は本作とされており、失敗しても直前まで巻き戻されるなど、全体として“詰まる”ことがないよう配慮されている。
フォークリフトレースに代表される「ミニゲーム」の数々は、NPCストーキングと双璧をなす“脇道プレイ”の華。なかでも街中のゲームセンターで実際にプレイできるセガアーケードの名作「ハングオン」と「スペースハリアー」は見事な再現度。近年の同社「龍が如く」シリーズでおなじみの充実したミニゲーム類は、「シェンムー」から始まったといっていい。プレイするためにはゲーム中にもらったおこづかいやバイト代が必要で「ミニゲームのためにバイトのミニゲームをこなす」のは結構シュールな構図だが、それもまた楽しいものだった。
舞台を香港に移しプレイしやすくなった「シェンムーII」
芭月涼は、父を殺害した謎の男が中国・香港に渡ったとの情報を入手する。亡き父が隠し持っていたもう1つの鏡を手に、異国の地へと降り立つ涼。謎の男の手掛かりをつきとめるべく、海辺の街アバディーンをさまよい始める。
そんな彼だが、旅の前途も危うくなるような強烈な洗礼を浴びせられる。謎を解くカギとなる“鏡”を奪われてしまうのだ。 涼は“鏡”を取り戻すことができるのか? そして、謎の男は一体どこに?
「I」との最大の違いは、特定のエリアを行き来する「オープンワールド」から、ストーリーに沿って舞台を変えていく普遍的なアクションアドベンチャーに寄せた作風になったことだろう。毎日お小遣いをもらえた実家住まい横須賀に対し、シビアに宿代を請求される境遇の変化もグッとくるが、そこから描かれる“新たな出会い”こそ「II」の魅力のひとつでもある。
ゲームの舞台は、横須賀から香港に移動。当時はもちろん現在の香港にも実際にいったことがない筆者には何ともいえないが、1994年に取り壊された九龍城砦や桂林の大自然など、映像作品で見た光景を(ゲーム中ではあるが)実際に歩き回れるのは刺激的で、「I」になかったマップ機能により探索そのものが楽になったのもいい。
時間の早送り、NPCの追跡など、前作でユーザーが感じた不満点が解消されており、全体ボリュームも大幅アップ。ストーリーも香港マフィアの登場でバトル展開が増え、「バーチャファイター」ベースのバトルシステムが前作以上にダイナミックなアクションを体験させてくれる。ミニゲームは香港らしく(?)賭博が登場。セガ往年の名作アーケードは「アウトラン」と「アフターバーナーII」が追加された。
新規ユーザーに ~好奇心旺盛な人におすすめ~
ストーリーから世界観まで魅力あふれる「シェンムー」だが、筆者が1番惹かれたのは“膨大なインタラクション”だ。ゲーム開始直後の自宅はもちろん、横須賀を再現した建物、自販機、NPCなど、さまざまなオブジェクトにインタラクションが存在する。なかでもゲーム本筋と無関係のインタラクション数は、2018年現在でも他の追従を許さないレベルだ。
普通なら「ゲームの本筋に関わらない所に注力して意味があるの?」となる。そうしたものはなるべく作らないか“書割(かきわり)”程度で済ませるものだが、「シェンムー」は違う。たとえば自動販売機なら、お金を入れてボタンを押せば商品が出るのがリアル。ガチャガチャ、ふすま、照明のスイッチ、棚の扉や引き出しなどもしかり。意味うんぬんではなく、そうなっているのが自然なら、そうすべきというわけだ。
「ここはどうなっているんだろう」、「このNPCは何してるんだ?」といった興味や好奇心から、膨大なインタラクションとディティールで厚みを増していくプレーヤー独自の体験。ゲームとしての魅力に乏しいゲームシステムも多く見られるスマートフォンゲームなども多い中、その対極ともいうべき「シェンムー」の復刻は、オカルトを信じない筆者でさえ「目に見えない力でも働いたのか?」と思ってしまうほどよく出来ている。好奇心旺盛とまでいかずとも、気になるものは放っておけないという人は、初見ならばこそぜひ手にとっていただきたいタイトルだ。
往年の「シェンムー」ファンに ~ローディング時間の改善だけでも買い~
前述のとおり、かつて「シェンムー」に魅了された人は、恐らく世間の評判など気にすることなく購入を決めているはず。もしかすると、なかには「いい加減何回もクリアしたものを今さら」という人もいるかもしれないが、それについてはローディング時間が大幅に改善された点を強調したい。特に「II」は感涙モノで、当時やりこんだ人ほど身に染みるはずだ。
リマスターではなく“ほぼ移植”という点など、言いたいことはもちろんある。ただ、それらを踏まえても「シェンムーIII」を来年(あくまでも予定)にひかえた今、「シェンムーI&II」がこのタイミングで発売されるのは、素直に喜ばしいことだと思う。筆者も今回のレビューで十数年ぶりにプレイして、改めて「シェンムー」の良さを再確認できたし、それが「III」への期待をより増幅させてくれた。
当時「I」と「II」には約2年ほどの間があったが、今「I&II」と立て続けにプレイすることで新たな発見もあるはず。「まだドリームキャストとゲームソフトが手元にある」というコアなファンも少なくなさそうだが、再プレイに際してはローディング時間が大幅に短縮されたPS4版を素直におすすめしたい。
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