「F1 2017」レビュー

F1 2017

F1ゲームの鉄板、円熟の境地! プレーヤーを育てる濃密な1本

ジャンル:
  • レースゲーム
発売元:
  • Codemasters
開発元:
  • ユービーアイソフト
プラットフォーム:
  • PS4
  • Xbox One
  • Windows PC
価格:
7,980円(税別)
 
6,080円(税込、Steam)
 
発売日:
2017年9月14日

2017年のF1世界選手権、ゲームでも開幕!
「F1 2017」はシリーズの集大成といえる出来栄えに

 今年もゲーマーのF1グランプリがやってきた。ユービーアイソフトが9月14日に発売する「F1 2017」は、おなじみ、レースゲームの老舗CodemastersによるF1公式ライセンスシリーズの最新作だ。

 “最もメジャーなモータースポーツのジャンル”といえば、GTレースやラリーをはじめ多種多様なものが存在するが、やはりF1はその中でも特別だ。マシンの圧倒的なパフォーマンス、強烈なスピードと、比類のないほどにクイックな応答性。他のカテゴリーではブレーキ&ギアダウンして回るコーナーを、暴力的なダウンフォースを活かしてフルスロットルで駆け抜ける。数あるジャンルの中でも、最も迫力ある走りが楽しめるのがF1だと言えるだろう。

 もうじき10年近い歴史となるCodemastersのF1シリーズは、そんなF1の迫力とスピード感を、初心者からマニアまで幅広い人が楽しめるよう再現することを使命としてきた。今年の「F1 2017」は、その集大成と言える、過去最高の1本だ。

 本作はPC版が一足早く8月25日からSteamでの配信が行なわれているため、本稿は主にPC版をプレイしてのレビューとなる。ただ、ゲーム内容としてはPS4/Xbox Oneとも全く同等のものが提供されるため、コンソールマシンユーザーの皆さんもぜひ参考にしていただければ幸いだ。

シリーズの集大成。ゲーム内容、挙動、映像、音、演出……すべてが格別

F1のあらゆる要素を、遊びやすく再現しようというシリーズ

 「F1 2017」は、2017年のF1世界選手権を追体験するためのレースゲームであり、高性能なF1シミュレーターだ。Codemasters作品としては「F1 2010」から数えて8作目。「F1 2012」くらいまでは本当に走るだけのゲームだったが、毎年の改良で、近年ではレースゲーム全体の中でも最も完成度の高いシリーズになってきた。

 「F1 2015」ではPS4/Xbox One世代への最適化で挙動・映像とも刷新し、「F1 2016」では遊びの幅を増やすべくマシンR&Dの概念を導入するなど様々なゲームプレイ上の拡張を実施。もちろん、車両挙動の再現も毎年改良されてきている。そのすべての要素が、今年の「F1 2017」では、収まるべきところに収まり、ほぼすべての面でスキのない完成度になった、という印象だ。

車両挙動

迫力満点の走りを極めるのがF1

 車両挙動に関しては、もともと完成度の高かった前作「F1 2016」と大きく変わるところはない。とはいえ、F1選手権自体のレギュレーション変更によりタイヤがワイド化されたこと、ダウンフォースも増加したことを受けて、全体的にコーナリングが快適になった。グリップを失って横滑りするような挙動に入っても、完全スピンに至るまでの許容幅はかなり大きくなっている。走りやすいし、前作より良いタイムを出せる。

 特に、ステアリングやスロットルの繊細な制御が難しいゲームパッドでのプレイが、非常に快適になっている。レギュレーション刷新によるタイヤのグリップ増加が、大雑把な操作をある程度許容してくれるようになったためだ。なんでもないコーナーで簡単にスピン・クラッシュしてやる気もしぼむという状況は、本作ではほとんどないだろう。もちろん、本当にいいタイムを出すためにはそこから更に精度を高めていく必要があり、奥は深い。総じて、F1の圧倒的パフォーマンスを存分に楽しめるようになったと言える。

ウェットコンディション特有の横滑りしやすい挙動も、説得力たっぷり。走りやすさとリアリティを高いレベルで兼ね備えたレースシムだ

映像

どこまで実写に近づけるか?!

 PS4/Xbox One世代への最適化が行なわれた「F1 2015」の時点で本シリーズのグラフィックスは非常に高いレベルに磨かれていたが、そこから2作を経たことで、まさしく目を見張るようなレベルに到達している。PC/PS4 Pro/Xbox One Xにおける4K HDRのサポートなどハード面のトレンド導入はもちろんとして、車両、人物、背景、それぞれの質感も大幅に向上している。

 特にF1マシンのボディの質感は本当に素晴らしい。ボディはカーボンファイバーを焼成することで“陶器”のように作られているが、塗装やデカールが施されて“つるり”とした面と、カーボンファイバーがそのまま露出した面では質感が大きく異なる。本作ではその質感の違いがキッチリ再現されていて、カーボンファイバー特有のギラギラとしたラメ感の表現はあまりにセクシーで見とれてしまうほどだ。

 コース上のアスファルト面や縁石等のテクスチャーも非常に精密になり、フォトモードでどこを接写してもスキの無い絵が撮れる。ドライ、ウェット、ヘビーウェットといったコンディションの違いによる変化もバッチリだ。走るのは苦手でも、サーキットを駆けるF1マシンを見るのは大好き、という方も大いに満足できるだろう。

カーボンファイバーの質感がたまらない

多数のマシンが発するエンジン音が反響し、独特の音場を作り出す

 サーキットに響き渡る、怒涛のようなエンジン音。タイヤやギアが発するメカノイズ。流線型のボディが風を切り裂く音。サウンド表現においても本作は随一の出来映えだ。

 特に感動したのは、リプレイモードでの音響効果だ。全23台のマシンが一斉に走り出し、うなりを上げて1コーナーへ。そんなときの“音”というのは観客席の歓声や各マシンのエンジン音がないまぜになりつつ、周囲の建物からの反響音も手伝って独特の音場を構成するものだが、本作ではそれが実写さながらのクオリティで再現されている。ここまで、音を聞いているだけで興奮できるレースゲームはなかなか無い!

 さらに言うと、筆者のお気に入りなのが、車両がリプレイカメラのすぐ側を通過するときの“ブォッ”という音。ウィングが風を切る音と、ボディが周囲の空気を押し出して周辺に叩きつけるときに発生する、強烈な風圧を感じられる音だ。高速コーナーに連なったマシンたちが次々に通過するときの、連続する音圧の衝撃は感動モノである。ついでに音圧を受けたカメラも細かく振動して、迫力満点ご満悦。

マシンが次々に通過していくときの音圧がたまらない

演出

レース前後の演出が気分を盛り立ててくれる

 レース前のスタンバイシーンから、表彰台でシャンパンをぶっかけあうセレモニーの瞬間まで、本シリーズでは伝統的に様々な演出シーンが取り入られてきている。今作ではそのあたりもさらに改良が加えられており、テレビ中継さながらの演出とともにF1グランプリを楽しむことが可能だ。

 特に人物の3Dモデルの改良や、全体的な質感の向上、そしてアニメーションがより自然になったことで、様々なシーンが前作以上に生き生きと描写されるのがいいところだ。また、レース前のコースやレースグリッドの紹介を含めた実況・解説についても、F1ドライバーの心理やコース毎のレース戦略に即したセリフがいろいろと追加されており、プレイ上の参考にもなる。そうして、本作はプレーヤーをストイックなF1ドライバーの世界に導いていくわけだ。

 このあたり、レースシムでは不要な部分だが、レースゲームとしては絶対に必要な部分。その両方をカバーしようとする本作に抜かりはない。

レース前のコース紹介シーン。解説コメントが結構的確でわかりやすいので、不慣れなコースでは特によく聞いておきたい

アクセルのひと踏みにも長期的な戦略を意識。より豪華になったキャリアモード

長期楽しめるキャリアモード
まずはチーム内でのライバル争い。ファーストドライバーを目指そう

 本作はレースゲームなので、好きなコースや車を選んでサクッとレースを楽しんだり、オンラインのマルチプレイレースで世界のバーチャルドライバーたちと技術を競い合うこともできる。そういう楽しみ方もいいが、ぜひひととおり遊んでおきたいのが本作のメインコンテンツと言える「キャリア」モードだ。

 このモードでは自分自身が新人ドライバーとなって、好きなチームでレースキャリアをスタート。全20戦で構成される2017年のF1世界選手権を、実際のスケジュール通りに戦っていくという内容だ。このモード自体は伝統的に本シリーズに搭載され続けているが、今作では、前作で導入されたR&D要素をさらに大幅拡充することで、F1ならではの長期的な戦略を深く体験できるようになっている。

R&Dと長期戦略

長くお世話になるR&D責任者
R&D基本画面
技術ツリー
タイヤだけでなくエンジン寿命も加味して“エコ運転”が必要になることも

 F1のシーズン戦はおよそ9カ月にわたり、各地の会場でレースを実施していく。現実のスケジュールでは、本作の発売直後にシンガポールGP、2週間後にマレーシアGP、その1週間後に日本GP……という感じである。その間、各チームは同じマシンで戦うわけではない。エンジン系統やエアロダイナミクス等、あらゆる部分で改良のための研究開発が継続されており、テストが完了した新パーツを取り付けては、新たなレースに挑んでいるのだ。

 「キャリア」モードではそこが非常に大きなゲーム要素となっている。マシンのR&D要素は「耐久性」、「シャーシ」、「エアロダイナミクス」、「パワートレイン」の4カテゴリーがあり、それぞれに「R&Dツリー」という、系統樹的に伸びていく大量の開発項目がある。そのどれを開発するかはプレーヤーの判断次第だ。

 ただし、項目ごとに規定の「リソースポイント」を消費する必要があり、また、R&Dチームが同時に開発できる項目数にも制限がある。さらに、1項目の開発には概ね2週間を必要とし、実戦投入は次のレースか、その次のレースからだ。時間をかけて、1歩1歩、着実に改良していくしかない。

 このあたり、マシンパフォーマンスが比較的劣勢な下位のチームにとっては極めて重要な判断要素となる。コーナリングを改良すればいいか、それとも直線でもっとスピードを出せるようにすればいいのか、それとも……という感じで、各レースの内容に応じて的確なアップグレードをしていく。戦略がきちんとハマれば、上位のチームに対し、総合性能ではかなわなくとも、レース結果では勝ることができるだだろう。

 更に本作では、実際のF1のルールどおり、1シーズンで使用できるパワーユニット(エンジン)の数が4基に制限されている。エンジンは使い込むごとにパフォーマンスが落ちていくので、どこかで交換していかなければならないのだが、そのタイミングが重要だ。20戦で4基ということは、平均すると1基で5戦するということだ。だが、R&Dの状況や、コースの得意・不得意を踏まえつつ考えると、これがなかなか難しい。

 たとえば、次のレースは得意コース、新パーツの受領タイミングとも重なり、通常よりも良い結果が期待できる。エンジンはまだ3戦しか使っていないが、ここで新品に交換し、最大のパフォーマンスを出せるようにすれば、表彰台も見えてくる……。といった感じだ。その判断が吉と出るか凶と出るか、それはシーズン全体を通して見なければならない。

 あるいは、その前のレースではエンジンに負荷をかけないよう走行して、エンジン寿命を稼いでおくという戦略もありである。ウェットコンディションでのレースなら、いずれにしてもベタ踏みがしにくいので、自動的にエンジン寿命を稼げるということもあるだろう。人知と天の采配の双方が、すべて長期戦略に影響してくる。これこそF1の醍醐味だと言えよう。

練習セッションが充実しまくり、もはや決勝レースはおまけレベル!?

優勝すればリソースポイントもたくさんもらえるが……
やっぱり練習セッションで稼ぐのが王道
しっかりとプログラムをこなしていく
走り込むうちにプレーヤーの腕前も向上していく

 R&Dで必要となる「リソースポイント」を稼ぐには、主に2つの方法がある。1つは「レースで勝つ」、もう1つは「練習セッションで目標を達成する」だ。

 レースに勝つだけでもそれなりにリソースポイントは稼げるが、R&Dをさらに早めたければ、絶対に外せないのが練習セッションだ。F1では予選の前に30分×3回の練習セッションが実施され、フリー走行を行なえる。そこはチーム全体が一丸となって、マシンのパフォーマンスを測り、レース戦略を立て、マシン改良の方向性を見出すための場であり、まごうことなき戦場である。

 それを再現するため、本作の練習セッションでは各種の「練習プログラム」が用意されており、これを遂行することでより多くのリソースポイントを獲得できるようになっている。

 「練習プログラム」は前作からさらに拡張されており、5項目がある。レーシングラインを正確に辿る「コース順応」、タイヤを節約して走行する「タイヤ・マネージメント」、燃料を節約して走る「燃費」、タイムアタックを行なう「予選ペース」、そしてピット戦略を定める「レース戦略」だ。

 それぞれの項目でパーフェクトを取ると得られる最大限のリソースポイントを獲得できるが、慣れないうちは非常に難しい。「コース順応」では、ライン通りであっても、スピードが遅いと減点になるし、タイヤ・マネージメントや燃費も、節約しつつ良いタイムで走らなければ失敗だ。全てを完璧にこなすにはかなりの走り込みが必要である。

 また、すべてを1発でパーフェクト達成するにしても、コース順応、タイヤ・マネージメント、燃費、予選ペースの4項目で少なくとも各1周づつのアタックを行なう必要があり、さらに、レース戦略の項目では2周。合計で6周のアタックを行なうことになる。もちろん、うまくいかなければもう一周、もう一周……と増えていく。

 やっているうちに練習だけでヘトヘトになるレベルだが、これで将来のマシンパフォーマンスが上がっていくと思えばなんのその。それぞれの項目を極めていくうちに、不慣れだったコースもきちんと走れるようになってきて、自信を持って決勝レースに望めるという塩梅だ。これはいやがおうにも、プレーヤーを育ててしまう!

 そして決勝レースである。練習セッションと予選で繰り返したランを思い出し、最良の走りをなぞる。最短の5周レースなら、練習より早く終わってしまうであろう。レース長20%でも、練習に費やした時間とそうかわらない時間で終わりだ。むしろ練習こそが本番なのだ!

 もちろん、レース設定を調整すれば、フルレース(オーストラリアGPなら56周)を走ることもできる。1回やったが、しばらく立ち上がれないほど疲れた。その分、やりきった感は大きなものがあったが、まあ当分はいいかなという感じである。

「コース順応」では無理をせずきれいなラインで走ることを学ぶ
「タイヤ・マネジメント」では繊細なスロットルとステアリング操作を追求
練習の合間にライバルの走りを見ることも可能だ
マシン設定を詰めるのも練習セッションの大事な目的。各項目を細かく調整することもできる

その他の遊びもさらに充実。唯一最大の懸念は、VR非対応

クラシックマシンとの競演
2万回転の超高音を響かせる00年代のマシン

 というわけで、「F1 2017」はF1の醍醐味を非常に高いレベルで、奥深くまで楽しめる1本になっている。上述のキャリアモード以外にも、さまざまなゲームモードがあり、短時間のプレイでもきちんと楽しめるようになっていることも嬉しい。

 例えば「グランプリ」モードでは、F1 2017シーズンのマシンのほか、歴代の名車を使ったヒストリックレースをプレイすることもできる。アイルトン・セナに栄冠をもたらした1988年のマクラーレンMP4/4にはじまり、90年代、2000年代の名車がズラリ。筆者の場合は特に、2000年代の高回転エンジンが響かせる、甲高いエンジンノイズが好きだ。これぞF1!という感じがする。

 オンラインマルチプレーヤーモードでは、いきなり決勝のクイックレースはもちろん、練習セッション・予選・決勝と、F1選手権をフル体験できるチャンピオンシップモードも用意。カジュアルとコアの双方のプレーヤーに適切な遊びが用意されている。また、今作からはプレーヤー統計とレベリングのシステムが導入され、近しいレベルの相手と遊べるようマッチングシステムが改良されている。地味だが、オンライン派のプレーヤーには大変重要な改良だ。

公式大会「F1 Esports Series」対応のイベントモード

F1 Esport Seriesサイト(http://f1esports.com/)
本作で予選を実施中

 さらに、決定的に改良されたのが「イベント」モードである。前作以前では、あらかじめ設定された各種のチャレンジを選んで走行するモードだったのだが、今作では、チャレンジ内容がオンラインで定期的に更新される仕組みとなった。

 そしてこのモードは、F1公式のeSportsシリーズである「F1 Esports Series」に連動。これは本作「F1 2017」を使用して開催されるeSports大会で、決勝は11月にアブダビで開催される模様だ。

 レビュー時点では、イタリアGPのセルジオ・ペレスとして表彰台を獲得する、というチャレンジが実施中。これは「F1 Esports Series」の予選も兼ねている。チャレンジ結果はワールドワイドのリーダーボードに掲示されるので、高難度プレイに挑戦する良い機会にもなるだろう。

最後に

 このように本作はあらゆる面で「F1 2016」を超え、大幅に改良され、集大成とも言える完成度の作品となっている。ただ、ひとつだけ、大変惜しいことがある。VR非対応なのである。PS VRのみならず、PC向けのVR(Vive/Rift)にも対応していない。今年こそはVRでF1を楽しめるかなと思っていただけに、個人的には非常に残念だ。「DiRT」シリーズは早々にVR対応しているのに、なぜだろう………。

 と、VRシステムオーナーにはがっかりな点もあったものの、従来通りの平らな画面でプレイする分には、本作は最高のF1ゲームであり、レースゲーム全体の中でもトップレベルの作品だ。F1のパワー、スピード、クイックネスに憧れるバーチャルドライバーの皆さんはもちろん、レースゲームに興味のあるゲーマーの皆さんにもオススメできる。本作をプレイすれば、バーチャルドライバーとしてさらなる成長を得られること、間違いなしである!