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驚きアイディアの10作品!「センス・オブ・ワンダー ナイト 2014」
遊び甲斐ある“ゲームらしいゲーム”に脚光。未来のスター作品を見つけよう!
(2014/9/22 11:12)
“見た瞬間、コンセプトを聞いた瞬間に、誰もがはっと、自分の世界が何か変わるような感覚”=「センス・オブ・ワンダー」を引き起こすようなゲームのアイディアを発掘するイベント、「センス・オブ・ワンダー ナイト(SOWN)」が今年のTGSでも開催された。
7回目の開催となる「SOWN」は、今回からTGSメインステージイベントのひとつに昇格するなど、ますます規模を拡大している。今年は過去最多となる27の国と地域から136作品の応募を受け、非常に質の高い10作品がファイナリストに選出された。
今回の選出作品の特徴は、どれもが奇抜なアイディアを形にしながら、実際のゲームとしてよくまとまり、遊び甲斐のありそうな“ゲームらしいゲーム”が多く見られたことだ。中にはすでにSteamやApp Storeなどのオンラインマーケットで成功を収めている作品もあり、今回はゲームファンにとってさらに親しみやすい「SOWN」になったと言えるだろう。
会場では例年通りIGDA日本名誉理事の新清士氏が司会進行、マサボ・イザベルさんがMCを担当し、珠玉のファイナリスト10作品を紹介。その全作品を本稿でもご紹介していこう。
カテゴリー1:新しい対戦ゲームの可能性
【SpeedRunners / Casper Van Est (tinyBuild Games) / 米国】
初代「Halo」の画面分割対戦からヒントを得たという本作は、1画面内に4人のプレーヤーが同時に登場するスピード・ランニングゲーム。多くのオンライン対戦ゲームは自分視点で、ポーカーのように相手の状況を完全には把握できない“不完全情報ゲーム”の形をとっているが、本作はチェスのように相手の状況が完全にわかる“完全情報ゲーム”であることが特徴だ。
山あり谷ありトラップありのステージを高速スクロールしながら、4人のプレーヤーがラン、スライディング、ジャンプ、グラッピングフックといったアクションを駆使して軽妙なスピードで駆け抜けていく。遅れて画面外に脱落するとそこでノックアウトだが、プレーヤーが減ると画面が次第に狭くなっていき、残ったプレーヤーたちのデッドヒートはますます加熱。ゲームテンポを加速させる粋なアイディアが光る、オンライン対戦が熱く盛り上がりそうな作品だ。
【Push Me Pull You / Stuart Gillespie-Cook (House House) / オーストラリア】
Best Game Design Award 受賞
Audience Award 受賞
新たなタイプのスポーツゲームを目指したという本作は、あまりもの奇抜さと普遍的な面白さが共存。そのインパクトの大きさに、Best Game Designと「SOWN」最高賞であるAudience Awardのダブル受賞となった。
本作のコンセプトはスポーツの新しい協力スタイル。様々なペア競技を検討した結果、できたのが2人の人間が胴体でつながったムカデ人間のような強烈なキャラクターだ。2つの頭部をそれぞれ別のプレーヤーが操作し、胴体を伸ばしたり、縮めたり、丸めたりすることで様々な形状になれる。
これを利用して相手チームとボールを奪い合い、自陣に長くボールをホールドしたチームが勝つというシンプルなルールだ。ルールはシンプルながら、グネグネと伸び縮みする蛇のような胴体が強烈なインパクトを発する。2つのペアが文字通り絡み合ってボールを奪い合うさまは、もはやこの世のモノとは思えないシュールさだ。
それでいて本質的な内容は決してイロモノで終わるものではなく、協力型スポーツゲームとしての要件と、操作の手軽さ、駆け引きの広がりといったものが自然に成立しているソリッドなゲーム性で、ぜひ1度遊んでみたいと思わせる作品だ。来場者の大きな反響を受けたことも納得のデキである。
【PICOLECITTA / TECO / 日本】
Best Presentation Award 受賞
子供の頃からゲームが大好きで、よく皆で集まってゲームをしていたというTECO氏は、未来のゲームはもっと大勢で遊べるんだろうと思っていたそうだ。そしてオンラインの時代になり、マルチプレイを手軽に楽しめるようになったが、なにか違う。TECO氏が子供の頃に夢見たのは、1つのテレビの前に皆で集まって遊ぶ風景だったのだ。
そこで本作では、ローカル10人マルチプレーヤーというシステムを提唱。USBハブに大量のコントローラーを接続して、全プレーヤーが一同に会して遊ぶというゲームだ。ゲームのルールは簡単、ひとり1キャラを操作して、全員がゴールに辿り着ければクリアだ。
ただし、クリアのためには全員が協力する必要があるというのがミソ。5人がかりでないと押せないブロックや、コントローラー操作の多数決で動かすキャラクター、あるいは10人で操作するブロック崩しなど、趣向を凝らした多様なステージが用意されている。オンラインプレイにも対応すればいいと思うが、それはしない。その場に皆で集まって、わいわい楽しむことを目指した作品なのだ。
【8Bit MMO / Robby Zinchak (Archive Entertainment) / 米国】
Best Technological Game Award 受賞
古き良きJRPGで育ち、「Ultima Online」で青春を燃やしたZinchak氏の長年の夢は、たったひとりでMMORPGを開発することだった。高校時代に開発した粗末なプロトタイプは3人目がログインするとクラッシュするシロモノだったものの、遠く離れた見知らぬ人と同じ空間を共有できるという体験は、その後、本当にひとりでMMORPGを作るという夢を実現化する原動力になったようだ。
こうして完成したのが本作「8Bit MMO」。ファミコン時代を彷彿とさせる2Dグラフィックスワールドは、その実、マッシブなユーザーによるクリエイション空間。ブロックごとに地形を変え、建物をつくり、ダンジョンを構築するという仕組みで、なんと今ではリアルの英国よりも巨大な土地が開拓されているという。
本作は現在Steamで提供中で、登録ユーザー数は60万人以上。熱心なコミュニティによるWikiページやファンビデオなども製作さるほどの人気で、すでに大きな成功を収めている。インディーズの登竜門である「SOWN」になぜ出てきたのかわからないレベルだが、とにかく、たったひとりでここまでの物を作り上げたというのは審査員陣も高く評価。見事Best Technological Game Awardを受賞した。
カテゴリー2:音と探るインタラクション
【FILL / 林陽一(YO1 KOMORI GAMES) / 日本】
日曜大工的な形で趣味のゲーム開発を行なっている林陽一氏が発表したのは、「解き方」そのものを解き明かすこを遊びにしたパズルゲームだ。シンプルな図形、白黒のミニマムなグラフィックスで表現されたパズルのピースは、タッチ操作によって様々な反応を示す。その反応を観察することで法則性を見出し、画面全体を白地で埋めることができればクリアとなる。
たとえば、あるステージでは矩形がスワイプに反応してスライドする。別のステージでは、回転。さらに別のステージでは、拡大縮小。あるいは特定の方向に動かすことで、巨大な図形の別の部位が現れ、それが解法のカギになっているなど、様々な仕掛けがある。
50以上も用意された全てのパズルが単純な幾何学模様と操作法則に従っており、言語が違っても、あるいはベースとする文化が違っても遊べるという普遍性を備えた作品である。林氏が「動物や宇宙人でも遊べるかも」というほどのシンプルさは、間違いなく多くの人に受け入れられそうだ。
【DubWars / Joe Albrethsen (MURA Interactive Inc) / 米国】
北米で展開中のAndroidゲームマシン「Ouya」向けに、ダブステップのサウンドに合わせたゲームを開発中のインディーズ開発者が披露したのは、音楽そのものがゲームを駆動させるという、新解釈のシューティングゲームだ。
サウンドとアクションを組み合わせたゲームはこれまでも多数存在しているが、本作がユニークなのは「音楽がアクションを発生させる」という点。つまり、本作における自機の武器(ミサイルやビーム等)は、ダブステップのビートに合わせて自動的に発射されるのだ。
プレーヤーは自機の移動と武器の照準が操作できる。同じ曲なら同じ音符に合わせて武器が発射されるので、曲の展開をより良く知るほどにプレイが洗練されていくというのが面白いところ。ゲームに曲を利用するというよりは、曲そのものがゲームの主人公となる点で、従来のサウンドゲームとは全く逆の解釈となっている。どんな曲でもゲームに利用できる汎用性に加え、余計な効果音を配し、曲そのものを楽しみながらプレイできるというゲームデザインも秀逸だ。
【LURKING / Justin Ng Guo Xiong(DigiPen Institute of Technology Singapore) / シンガポール】
ディジペン工科大学の学生チームによる本作は、音によって風景を映し出すというホラーアドベンチャーだ。目の不自由な人が杖を叩いた反響音で周囲の地形を把握する「エコーロケーション」という手法にヒントを得たという本作では、プレーヤーの足音やさまざまなものから音が発生するたび、レーダーのように音源周辺の風景が暗闇から浮かび上がる。
これを利用して地勢を把握し、残虐な追跡者から逃れ、脱出するというのが本作の目的だ。秀逸なのはマイク入力もゲーム入力に利用している点。プレーヤーの声や呼吸音がゲーム内の“灯火”となって、周囲の風景を浮かび上がらせるのだ。
完全な静寂は完全な暗闇を作り出し、追跡者から逃れるために利用できるが、移動もできなくなるため解決にはならない。室内で見つかるオーディオレコーダーなどの音源を投げれば、遠くの風景を映すトーチや、あるいは追跡者の興味を惹くデコイとなり、脱出に利用できるのが秀逸。ゲームとしての完成度が高く、現在は後継作品の企画も進めているとのことだ。
カテゴリー3:パズルと生み出す物語の世界
【Chained / Keith Leiker(DigiPen Team Those Guys) / シンガポール】
Best Art Award 受賞
こちらもディジペン工科大学の学生チームによる作品だが、そのテーマは「負の依存」という人生哲学。本作は鎖に繋がれた鉄球を引きずるキャラクターが主人公で、崩壊しつつある館内を脱出することが目的だ。鉄球は主人公の動きを重く制限するネガティブな存在だが、それと同時に、投げつけたり、転がすことによって道を開くことができ、主人公をゴールへと連れて行ってくれる存在でもある。
本作ではこの鉄球を使い様々な移動パズルを解いていく。そうして奥へ奥へと進んでいくうち、いつしか鉄球に対する愛着が湧いてくるというのが本作の狙いだ。これこそが「負の依存」である。やがて深部へ進んでいくと、ある時、主人公は鉄球を失ってしまう。鉄球は探せばまた手に入るのだが、実は、鉄球を無視しても先へ進める構造となっているのがミソだ。それでも、多くの人は鉄球を探し求め、また自分の身を重石でつないでしまう。
こういった心理効果による選択は、ゲームのグッドエンディング・バッドエンディングに結びつけられている。果たして、鉄球を捨て去ることがグッドエンディングにつながることを知らずに、プレーヤーは鉄球を捨て去る事ができるだろうか? 本作はこういった深いテーマ製と、完成度の高いアートスタイルが評価され、Best Art Award賞を受賞した。
【Expand / Chris Johnson and Chris Larkin / オーストラリア 】
非常にミニマルなグラフィックスで表現された、ステージ踏破型のパズルアドベンチャーゲーム。踏破すべきステージが全て同心円で構成されているのが本作の特徴で、先へ進むたび、同心円を元にした幾何学図形が様々に変化し、不思議なシルエットを浮かび上がらせていくのが美しい。
プレーヤーの動きに連動して歯車のように構造が回転するステージや、同心円であることを利用して、外側へ行く度にステージ全体が拡大・縮小して新たな構造が見えてくるなど、不思議な詩的感覚をもったアートスタイルが非常に印象的だ。
見た目の面白さは非常に高いレベルにあるが、ゲーム的な面白さという点ではプレゼンテーションの範囲であまり把握することができず、いまひとつ反響が薄かったのが残念。
【Miegakure / Marc ten Bosch(mtb design works, Inc.) / 米国】
Best Experimental Game Award 受賞
5年間も開発に取り組んでいるという本作は、「4次元の移動」という奇想天外テーマを真正面からゲーム化しようという試みが光る。本作ではトップビューの画面でプレーヤーキャラクターを操作して、様々な障害物を越えてゴールを目指すというのが基本的なルールだが、その移動方法にもうひとつの次元が存在するというのがキモなのだ。
つまり、キャラクターとプレーヤーには通常、現実と同じ3次元空間が見えている。そこで障害物にぶつかったとき、どうするか。もうひとつの次元を呼び出し、ひとつズレた空間でふたたび移動を試みるのだ。例えば森林ステージから4次元軸を1歩動いた隣の空間は、まっさらな砂漠であったりする。4次元目の座標は1つずれているが、3次元座標は同等の位置にあるため、砂漠を3次元的に移動したのち、また4次元軸をたどって森林にもどれば、移動の障害になっていた壁などを超えた先に到着することができるというわけだ。
我々は3次元で生まれ育っているため、4次元軸というのはにわかに理解しがたく、直感的にも把握は難しい。それでも本作は、4次元の移動という要素を工夫を凝らしてゲーム化し、さまざまなパズルを創りだそうとしており、苦労がうかがい知れる内容だ。そのチャレンジ精神を評され、本作はBest Experimental Game Awardを受賞した。