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【Unite Japan 2014】「rain」が採用した「風ノ旅ビト」式プロモーション活動

宣伝よりもコミュニケーションを大事に。「rain」にしかできない施策を意識

4月7日~4月8日開催

会場:ホテル日航東京

左から、「rain」プロデューサーの鈴田健氏と、ディレクターの池田佑基氏

 Unite Japan 2014では、ソニー・コンピュータエンタテインメントよりプレイステーション 3「rain」に関する講演が行なわれた。登壇したのは本作プロデューサーの鈴田健氏と、ディレクターの池田佑基氏。

 「rain」は今年のGDC 2014でもポストモーテムセッションが講演されており、この講演でも同じ内容が話されたが、今回はUnity Japanバージョンということで「rain」のプロモーション戦略についても言及があった。様々な苦労があったという制作過程についてはGDC 2014での記事を参考にしていただくとして、本稿ではこのプロモーション戦略部分についてご紹介する。

インディーズ精神で挑んだじわじわ浸透型プロモーション

作風以外ににも影響を与える「風ノ旅ビト」。成功の裏には地道なプロモーションがあった
記憶に残るプロモーション「雨の日に会いましょう」
「迷子」のゲームと伝えることで、聞き手が気持ちを動かしやすくなった
鈴田氏が感銘を受けたという「AntiChamber」のプロモーション事例

 「rain」におけるプロモーション戦略では、プロモーションを「目標」と「現状」と「表現方法」の3つに区分して説明した。まず「目標」は、開発者同士では評価が高かった「rain」を「隠れた名作」に留まらせないようにすること。しかし「現状」はダウンロード専用で新規IP、プレイ時間は3~4時間という小規模な作品である。小規模な作品であるがゆえに、派手すぎる宣伝はかえって逆効果になるため「表現方法」は世界観に沿うことにした。

 「宣伝はしないとマズイが、お金もなく、やり過ぎもダメ」という難しい案件だが、鈴田氏はそこで同じ境遇を持った先輩タイトルとして「風ノ旅ビト」のプロモーションを参考にした。

 「風ノ旅ビト」も同じようにダウンロード専用、そしてプレイ時間も数時間と小規模なタイトルであるが、「風ノ旅ビト」のプロモーションは「宣伝活動というよりコミュニケーション」になっていたという。

 ゲーム系のイベントには積極的に参加して、ディレクターやプロデューサーが「風ノ旅ビト」について説明する。説明は具体的なゲーム内容ではなく、プレイによってどのような感情を抱くかを説くような感じで行なわれた。

 またコミュニティの中でファンがペーパークラフトを作ればそれを公開し、コンセプトアートも惜しげもなく公開していく。賞へのノミネートなど嬉しいニュースがあれば積極的に知らせていく。

 これを鈴田氏は「ゲームを取り囲むあらゆるもの、文化の紹介を追求している感じ」と表現し、例えば音楽が良いと興味を持った人や、イベントでのトークテクニック、また「美人ディレクター」という言葉に引っ張られて興味を持った人もいたなど、あらゆるきっかけからゲームに触れる機会を作り出していたと分析した。

 そこで「rain」ではインディーズ精神を持ち、「風ノ旅ビト」と同じようにじわじわと浸透させていく手段を講じた。ただし、そこには「rain」らしさを意識して、「rain」にしかできないことを目指したという。

 例としてあげられたのは、特設サイトの「雨の日に会いましょう」という施策。特設サイトでは普段単なる街の絵だけが置かれているだけだが、関東地方が実際に雨の時はサイトの中にも雨が降り、街の中に少年と「rain」というタイトルが浮かび上がる。

 漫才師の常套句のように「名前だけでも覚えて帰って下さい」との思いでの施策だったというが、他のゲームにはできない「粋な感じ」を演出できたのではと分析した。これ以外にも、発売まではPVを公開したり、コンセプトアートを公開したり、人を好きになる過程を参考に段階的にゲームを知ってもらうようにプロモーションを行なっていった。

 またゲームの説明に「迷子」というキーワードを入れて、聞き手が「自分のこと」だと気持ちを作ってもらえるようにした。「迷子」というキーワードは制作スタッフにも影響を与え、物事がスムーズに決まるようになったそうだ。

 このほか、地道にメディアを回る、Facebookページを意見交換の場として使う、「月の光」に歌詞を乗せたテーマソングを作る、ダウンロード専用販売では珍しい予約販売の実施、手作りの手紙に付属させたダウンロードコードの積極的な配布などを行ない、地道な周知を目指していった。

 鈴田氏が「rain」のプロモーションで学んだのは、「自分自身のポジショニングをよく分析する」、「何をどう売りたいかしっかり共有する」、「いいと思ったことはとにかくやってみる」の3つだという。

 なお鈴田氏は感銘を受けた事例としてGDC 2014で講演された「AntiChamber」を挙げた。「AntiChamber」は無名のインディーズタイトルとして一からパイプを築き上げ、最終的に大きな成功に至ったタイトルだ。限られた資金の中でも、開発とプロモーションが一体になれば最高の成果を上げることはできる。そのような制作体制が、今後はより一層求められるのではないだろうか。

細かに刻み込まれた公開実施スケジュール
「風ノ旅ビト」に倣い、ゲームの周りの状況も含めて「rain」を紹介・露出していった

(安田俊亮)