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【GDC 2014】“見えない”主人公を操る「rain」の憂鬱
制作期間は2年9カ月。「PlayStation C.A.M.P!」から生まれた「ゲームのタブー」への挑戦
(2014/3/23 17:54)
昨年10月に配信されたプレイステーション3「rain」は、雨が降りしきる街の中で、雨が降っている場所では姿を表し、それ以外のところでは姿が見えなくなってしまうというアクションアドベンチャーだ。
小規模なタイトルながら“見えない”主人公と雨が織り成す孤独感や静けさ、恐怖、そしてそれだけではない暖かみが感じられる作品として、国内外から評価を受けている。
しかし本作は紆余曲折あり、完成までに2年9カ月の制作期間がかかり、様々な失敗を経験したタイトルになったという。セッションに登壇したのは本作プロデューサーの鈴田健氏と、ディレクターの池田佑基氏。「rain」の制作過程やそこから得られた経験を語っていった。
企画の発端は、SCEのクリエイター発掘支援プログラム「PlayStation C.A.M.P!」から始まっている。「PlayStation C.A.M.P!」は新しい価値を持ったゲームを作るという目的を持った支援プログラムで、どんなジャンルでもいいから突き抜けた個性を生み出そうとしてきた(現在では終了)。
企画では、驚かせるアイデアを出すことに集中するため、まずゲームの要素をシステムや世界、キャラクター、ストーリーなどと分解していき、ゲームのシステムの中からヒントを見つけ出そうとした。
作業の中で池田氏が思いついたアイデアが、「見えない」キャラクターの操作というものだった。見えないものの操作は、ゲームのタブーに挑戦する意味では画期的だったが、透明という要素に何を掛けあわせてもゲームとして成立しなかった。
そこでキャラクターを「どう見せるか?」という発想に切り替えた所、「雨」を思いついたという。雨はキャラクターを出現させるだけでなく、感情的なモチーフでもある。そこから「夜」、「誰もいない街」、「孤独」、「男の子」、「女の子」といったキーワードが次々に湧いてきたという。
そこからすぐにゲームのイメージができあがり、プロトタイプが制作される。プロトタイプ版では手描きの絵を手で貼り付けるという作業を行なっており、雰囲気は出るがあまりに非効率ということですぐに断念。すぐに3Dモデルに変更した。しかし手描きのテクスチャやリフレクションにこだわることで、「独自の質感は出せたのでは」とした。
この時点でのデモ版では、雨を利用して姿を消したり現わしたりするという基本はそのまま、敵からの注目を表すマークや行動を選択できるUIなどが表示され、もう少しステルスアクション色の強い仕上がりになっていた。
これが2011年の冬だったのだが、その後東日本大震災が発生することとなる。主人公は雨に濡れ、得体のしれない怪物に追い掛け回されるというもの。池田氏は、重苦しい雰囲気を持ったこのゲームを、どうしても作り続ける気にはならなかったと話した。
しかし、「必ずエンターテイメントが必要になる時が来る」という周りの励ましが気持ちをリセットさせ、ゲームプレイによって「どう心を動かすか、どんな気持ちになって欲しいかデザインすればいい」と思い直し、「素敵な夜の物語を作ろう」という考えに変わったのだという。
そこで主軸となっていた「孤独」や「1人きり」というキーワードに「好奇心」や「勇気」を加え、またファンタジックな要素を強調することにした。こうしてゲームのUIは排除され、明るい場所を増やし、メインテーマは「月の光」にすることにした。なお光源はピンクや緑といった特別なものを数多く使うことで、幻想的な雰囲気を演出しているという。
その後レベルデザインにリアリティを持たせるため、レベルデザインを含めた風景デザインをディレクター主導での制作やカメラワークの改善などを行ない、プレイテストを経てフィードバックの評価を上げていった。
そうして完成した「rain」だが、2つの課題が残ったという。1つは、ユーザーの負担を減らしたため、やりがいがなかったこと。2周目でも難易度が変わらないなど、遊びのボリュームを増やせなかった。
もう1つは、ストーリーが全員に受け入れられるものではなかったのではと感じていること。テストは日本だけだったため、もう少し広い範囲でテストをするべきだったとした。
2人は既存のアンチテーゼに挑戦することがいかに難しいかを痛感したが、結果としては良いゲームになり、資産になったという。「チャレンジするのは大変だが、そこにはイノベーションが生まれるので臆せず取り組むことが大事」だとした。