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「大東京トイボックス」漫画家“うめ”インタビュー(後編)
ネタバレ御免で作品深堀り! ゲーム業界の“今”にも切り込んだ2人の思いとは?
(2013/10/4 00:00)
ゲーム業界を舞台に、さまざまな人物と想いが交錯する漫画「東京トイボックス」シリーズ。その最終巻となる「大東京トイボックス」10巻が9月24日に発売されたばかりだが、10月5日にはドラマが、10月30日発売の月刊コミックバーズ(幻冬舎コミックス)では「東京トイボックス」シリーズの新展開がスタートする。
本作の制作秘話などを語っていただいたインタビュー前編に続き、この後編では10月5日にテレビ東京系6局ネットでスタートするドラマについてや「大東京トイボックス」という続編が生まれるまで、さらには、より作品に切り込んだ話をお伝えしていきたい。
ちなみに、かなりネタバレな質問も含まれているので、ぜひともコミックスを最終巻まで読み終えてからインタビューを読むことをオススメする。その分、作者である“うめ”――小沢高広(おざわたかひろ)氏、妹尾朝子(せおあさこ)氏が本作に込めた、熱い想いをお届けする。
「東京トイボックス」打ち切りから「大東京トイボックス」へのスピード復帰
――「東京トイボックス」から「大東京トイボックス」が生まれた経緯をお聞きかせください。
小沢氏: 「東京トイボックス」の2巻打ち切りが決まったのが、1巻の発売前日だったんですよ。1巻の売れ行きの初動を見てもらう前に決められてしまって。自分たちとしては、もちろんヤル気のある企画だったのでもっと続けたかったんですが。
いつの間にかベテラン担当の方が「作者が連載をやめたがっている」と編集部に伝えていたようです。そのことをつい最近、モーニングの関係者複数から聞いて、たいへん驚きました。勝手に取材を申し込んだり、ひとつ飛ばしで編集長にネームを見せたのが気に入らなかったのか、それとも別の力学が働いたのかはわかりませんが(苦笑)。
ただ少なくとも今の時代では起き得なかったことかなと思いますね。Twitterとかで作家さん同士の横のつながり、ファンとの直接的なやりとりができるようになって、様々な状況が変わりました。
――作家同士の繋がりも生まれて、編集側の情報も共有されて可視化される時代になりましたね。
小沢氏: だからもうそこは、お互いに誠実に仕事をするしかありません。締め切りを守るという基本や、作中の7巻でチーフプログラマーの依田(よだ)が言っていた「ほうれんそう(報告・連絡・相談)」は本当に大事です。こっそり動いて、いいように丸め込むとか、難しい時代ですよね。
移籍について話を戻しますが、打ち切りが決まったときに、あと3話か4話ぐらいしか残っていなくて、無理やり畳んだんですよ。それで、連載終了後に声をかけてくださったゲーム会社の人がいて、その方とも米光一成さんの講座で知り合ったんですが、その方から「月刊コミックバーズ」の人を紹介してもらいました。こちらは続きを描く気満々だったので、そこからは早かったですね。
――確かに「東京トイボックス」2巻発売から、約3カ月後というスピードで「大東京トイボックス」がスタートしましたね。
小沢氏: なぜか打ち切られた後にサイン会もありました(苦笑)。これも読者さんのなかにイベント開催が慣れている方がいて「サイン会をやりたいです。場所はゲームセンター、秋葉原GIGOさんを押さえました」と言われて「えっ!?」と。その後に秋葉原の有隣堂さんが乗ってくれて、サイン会を開催できたんです。
あと、書店員さんからも推してもらえて、渋谷のBook1stさんでは「バガボンド」が24面陳されている横で、部数が何十分の一のはずの「東京トイボックス」も24面陳してもらったり。おかげで打ち切られたはずなのに重版がかかりました。これが生まれて初めての重版でしたね。
妹尾氏: あのとき、書店員さんに推してもらえることがこんなに大事なんだなって、身にしみて思いましたね。ほんとうにありがたかったです。
小沢氏: 当時の2ちゃんねるでも、書店員さんが「なんで打ち切ってんの!? 書店の力で売ってみせる!」という書き込みがあったり。書店には書店の戦いがあるってはじめて知りました。「東京トイボックス」が「大東京トイボックス」として続けられたのは、そういう読者や書店員のみなさんに後押ししてもらえたおかげですね。
当時はTwitterもFacebookもなくて、ブログや2ちゃんねる、紹介制でまだ身内感が強かったmixiぐらいしかない中で、今のソーシャルメディアでの動きに近い盛り上がりをしてもらえたのは、今考えるとたいへん幸せな出来事だったと思っています。