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嵐の前の静けさか? Oculus VRの徹底した“秘密主義”
「Crescent Bay」インプレほか、関連セッションも総合的にレポート
(2015/3/8 10:41)
昨年は春に「Oculus Rift DK2」、秋に「Samsung Gear VR」の発表・出荷と、1年を通じて大きなニュースが立て続いたOculus VR。新時代VRゲーミングの騎手として業界の注目を一身に浴びているだけに、このGDC 2015でも大きな発表、あるいは重要な情報のアップデートがあるのではないかと期待していた。
が、完全に意表を付かれた。このGDC期間中を通して、Oculus VRは何の新情報ももたらさなかったのだ。例外はGalaxy S6ベースの新しい「Gear VR」がSamusungからアナウンスされたことだが、Oculus VR自身が開発しているはずの「Oculus Rift」製品版(CV1)については全くの沈黙が保たれたままである。最新プロトタイプの「Crescent Bay」についても、GDC Expoのブースで試遊が行なわれてはいたものの、それだけで、まだスペックシートすら公開されていない。
GDC期間中のうち、Oculus VRスタッフが直接話しをしたセッションは2つ。Gear VRチームを率いるJohn Carmack氏による“Dawn of Mobile VR(モバイルVRの夜明け)”スピーチと、エンジニアチームによるOculus SDKの解説セッションである。どちらも、CV1につながるような重要な情報は全く含まれていなかった。
さすがにこれは不自然なので、普段は行くことのないビジネスミーティングルームまで足を伸ばし、Oculus VRの広報担当者に接触を試みた。そこで明らかにされたのは「Oculusは、このGDCでいっさいのインタビューを受け付けていない」ということだった。設立者のPalmer Luckeyはもちろん、Oculusの全スタッフが誰からのインタビューも受けない。つまり、Oculus全体に緘口令が敷かれていたのだ。
ただ少なくとも、そこでPR担当者が話した言葉によれば、昨年10月にロサンゼルスで開催されたOculus VRのプライベートカンファレンス「Oculus Connect」にて“製品版まで1年以内”と言っていた件については、今でも真実であるという。では6月のE3で何らかの発表を期待していいか?と聞いた所、答えは“May be”(もしかしたら)。
というわけで、今回のGDCでOculus VRに漂う秘密主義な雰囲気は、おそらく嵐の前の静けさというやつだ。彼らが「Crescent Bay」に続く製品バージョンを準備していることは間違いないのだが、今はまだ明かすタイミングではないということだろう。技術的か、マーケティング的な判断かはわからないが、いずれにしても、6月のE3までにはことの真偽が明らかになるはずである。
ようやく「Crescent Bay」を触った!
今回のOculus VRについては“ニュースがないことがニュース”ということになってしまいそうだったので、どうにかして最新プロトタイプの「Crescent Bay(以下CB)」を触っていくことにした。
Expo会場のOculus VRブースでは3~4つの試遊ルームが用意され、CBのデモが一般に公開されていたのだが、あまりにも人気が高く、2時間並んでも試せる気配が無いレベル。朝、Expo会場のオープンに合わせて1番乗りで突撃もしてみたものの、開場前に出展者パスで入場していた他のブース関係者が既に長い行列を作っており絶望。ついにブースでの体験はできなかった。
そこでビジネスミーティングルームに向かった。そして交渉の結果、ブースとは別のデモとなるが、ついにCBを体験することができた。ただし機材の撮影は一切禁止されていたので、基本的に文章でのインプレッションになることをお許し願いたい。
CBは昨年10月のOculus Connectで初披露された新型プロトタイプ。非常に限られた機会でしか公開されてこなかったため、筆者も触るのは今回が初めてだ。
リフレッシュレートは、DK2をやや上回る90Hz。これは「Steam VR」と同じ数字だ。解像度は非公開で、スタッフに聞いても数字は教えてくれなかったが、実際に見た感じではフルHD以上だが4Kには遠く及ばない。おおむね2,560×1,440くらいの解像感で、画質的にはGalaxy Note S4を搭載する「Gear VR」と全く同等の印象だ。
網目感はDK2よりは解消されているが、サブピクセルの構成はDK2のパネルと変わらない感じで、意識すればはっきり感じられる。色再現については、DK2は白飛びしやすい傾向があるが、CBではかなり改善されているようで、コントラストが鮮明だ。視野角も非公開だが、DK2よりやや広い感じである。水平100度くらいだろうか?
DK2の課題であった重さやバランスの問題は、はっきりと改善されている。全体的な軽量化に加え、後頭部にもマーカーユニットが配置されるようになったこともあり、体感的には半分くらいの負荷だ。ただし、装着感はやや窮屈になった。メガネをつけたままの装着はできなくもないが、DK2よりずっと苦しい感じになる。
トラッキングセンサーは壁に据え付ける形のカメラとなっており、その範囲はDK2よりも広い。360度回転しても大丈夫だ。トラッキングの遅延も、全く感じられないレベルになっている。HMD部の品質は、新型Morpheus(60Hzコンテンツ)をやや上回るレベルにあるように思える。ただし、VR向きの入力装置がまだないため、総合的な没入感や楽しさ、システム全体としての完成度は今のところ新型Morpheusが上だ。
このシステムで今回体験したのは、Oculus VRの内部チーム「Oculous VR Story Studio」が作っているという、一種のVRシネマ。鬱蒼とした森のなかで、戦車くらいの大きさの、手の形をしたロボットが何かを探すかのように周囲をウロウロしている。しばらくその様子を見ていると、轟音とも言える足音が近づいてきた。現われたのは見上げるほど巨大なロボット。ロボットは失っていた手首を回収してしゃがみこみ、プレーヤーに向き直る……プレーヤーは巨大なロボットと目が合ってビックリ……というものだ。ちょっとジブリとガイナックスを混ぜたようなファンタジー感。
このデモでは高品質の映像も見どころだが、手のロボットや巨大ロボットが発する足音、草木との接触で発生するガサガサ音など、3Dオーディオの表現もひとつのポイントとなっている。それについていうと、音の定位感は期待したほどではない。新型Morpheusの“本当にそこから鳴っている感”を体験した直後だったので余計に、音源の距離や位置などの表現が曖昧に思えた。もちろん、筆者が体験したハード個体の環境がたまたまそうであった可能性もある。
いずれにしても、Oculus VRではこのように、コンテンツ面の開発も独自で進めているようである。ちなみに、このデモがゲームでなくVRシネマ、つまりノンインタラクティブなものになっているのは、Gear VRでも使えるようにするためだろう。
このGDCではあまり新しいことがなかったOculus VRだが、これを嵐の前の静けさだと思えば、そこに不気味さすら感じられる。次の大きな発表機会となるE3 2015までおよそ3カ月。その間にも新情報が明らかになれば随時お知らせしていきたい。