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【特別企画】台湾ゲーム市場から見た中国でのPS4発売延期の意味
リージョンロックは是か非か!? PS4の対応によって中国ゲーム市場の未来が変わる
(2015/2/12 11:00)
今回の中国でのPS4発売延期は、2015年最初の残念なニュースだった。Xbox Oneも土壇場で発売延期になったため、その可能性はゼロではないと思っていたが、まさか発売日の2日前に延期が発表されるとは思わなかったし、Xbox Oneが延期発表から1週間で発売が開始できたのに対して、PS4は延期発表から1カ月が経過したが、まだ正式なアナウンスを出すまでには至っておらず、依然として予断を許さない状況が続いている。
今回は台湾出張に合わせて、中国市場に詳しい様々な関係者にPS4の発売延期について取材したが、発売延期の理由について確定的な情報を得ることはできなかった。これはSCEJAがこれ以上の事態の難局化を避けるため、一切コメントを出していないことも大きい。中国のゲームファンたちはPS4に関する新しい情報に飢えており、ちょっとした一言が予期しない結果を生む可能性があるため、これは致し方ないところだ。
噂ではシュリンク(パッケージの透明なフィルム)の包装ミス、パッケージの表記エラー、コンペティターや一部流通業者による妨害工作、ローンチタイトルのセンサーシップの問題、そしてリージョンロックに関する方針転換などなど、様々な噂が飛び交っているが、もっとも可能性が高いのはリージョンロックとセンサーシップだ。
PS4は世界統一規格としてリージョンロックが掛かっていないが、中国の関係当局がPS4の統一規格の基本仕様と、その意味するところを十分に理解していなかった可能性がある。もしくは当局としては理解していたが、一部のユーザーがリージョンフリーを問題視し、対応を求める声が大きくなったため、対応を検討せざるを得なくなったという可能性もある。
センサーシップについては、プラットフォーマーサイドが求めるゲーム表現の良し悪し、規制の有無に関する明確な線引きを希望したことに対し、ローンチのタイミングまでにキッチリとした回答が出なかったのではないか。真相はわからないし、真相究明が本稿の趣旨ではない。本稿ではTaipei Game Showレポートの締めくくりとして“リージョンロック”をキーワードに、その本質的な意味と、リージョンロックが市場にもたらす影響について述べていきたい。
台湾から任天堂が撤退した理由はリージョンロックによるマーケット停滞
今回、会場取材の合間を縫って、台北地下街、光華商城、西門町、Taipei 101の周辺など、ゲームショップが集まるエリアを視察した。台湾のゲームショップは、まだ光華商城がガード下にあった10年以上前から取材しているが、SCETの根強い努力と、台湾政府の協力により、わずか10数年で“海賊版の巣窟”から、誰もが安心して買い物にいける“小洒落たゲームショップ”にまで華麗に変貌を遂げた。
台湾のゲームマーケットから海賊版や違法改造屋は綺麗に消えてなくなり、今では日本と同じように、AAAタイトルをアピールする大型看板や、体験会などのイベント、ゲームのコスプレをしたチラシ配りのお姉さんがいたりする。実はGAME Watchではほぼ毎年お届けしていた台湾ゲームショップ特別レポートも2010年を最後に更新を止めた。理由は簡単で、もはや日本のゲームファンに伝えるほどのユニークな風景がなくなり、日本と変わらないごくごく普通のゲームマーケットになったからだ。
しかし、これは台湾にとっては良いことだと思う。違法改造や海賊版がなくなり、マーケットが正常化した結果、サードパーティーが中文化に本腰を入れるようになり、台湾のゲームファンは、日本や海外のAAAタイトルの中文版という、願ってもなかなか得がたい果実を得ることができるようになったからだ。
翻って中国はというと、大前提としてまだ正規マーケットが存在しないため、違法改造や海賊版、偽装新品を売る詐欺行為、海賊版を使ったウィルス頒布行為などに対してまったくの無力なままだ。ショップは昔ほどおおっぴらに海賊版や違法改造をしなくなったが、ネットを探せばまだいくらでも出てくるし、おおっぴらにやらなくなったのは、市場が正常化したからではなくて、PS3やXbox 360、PSPなどが現役のゲームプラットフォームではなくなり、単に儲からなくなったからだ。
台湾と中国は、いずれもITに関して高い関心を持つ地域であり、中国の大都市についてはショップの大きさ、品揃えなどに関しては台湾に勝るとも劣らない規模の店がいくらでもあるが、その実態は天と地ほども違うのである。
話を台湾ゲームショップに戻すと、今回台湾のゲームショップエリアを歩いていて1番印象に残ったのは、数年前まであれだけ目立っていた任天堂の存在感がまったくといっていいほどなくなっていたことだ。理由は任天堂が台湾法人をクローズし、実質的に台湾市場から撤退してしまったためだ。
任天堂は2014年4月に台湾法人を閉じ、台湾は香港法人の管轄に入った。台湾は、任天堂ファンの多い地域のひとつで、過去には宮本茂氏も渡台してメディアに説明するなど進出に力を入れていたが、任天堂がそこまで追い詰められた理由もまた「リージョンロック」だ。
任天堂のリージョンコントロールに関する特異点は、アジア特有の政府や関係機関による指導などではなく、自社規制というところだ。任天堂のアジア展開は、ゲームコンソールとソフトウェアにリージョンロックを掛け、現地ローカライズを行なった上で展開するという、完璧なまでに丁寧なローカライズ施策を採っている。現在は、ローカライズポリシーについては、若干緩和され、日本語版や英語版もリリースされるようになっているが、リージョンロックのポリシーだけは変わっていない。
リージョンロックのメリットは、並行輸入品とは完全に別のマーケットになるため、並行品の“侵略”からマーケットを守れることだ。たとえば、リージョンフリーだと、日本でAAAタイトルがリリースされたタイミングでローカライズ版をリリースしてしまうと、せっかくローカライズしたタイトルを手に取る人が減ってしまう。現地メーカーからしてみれば契約金まで払ってローカライズの権利を獲得したのに、いざ売り出したら並行品の影に隠れてしまっては商売にならない。任天堂はこうした並行品の侵略からマーケットを守るために、リージョンロックを掛けている、とされる。
デメリットは、マーケットをプラットフォーマーサイドが完全にコントロールできる代わりに、現地向けのタイトルを、海外と同じタイミング、ボリュームで出さなければ、マーケットから見向きもされず、「タイトルが出ないから買わない、誰も買わないからタイトルが出ない」という負のスパイラルに陥り、ゲームプラットフォームとして死んでしまうことだ。正規品を購入する正直者がバカを見ることは避けなければならないが、台湾の場合はそうなってしまっている。負のスパイラルに陥り、撤退という結果に陥ってしまったのが今回の任天堂であり、同じスパイラルに陥っているのが中国のXbox Oneだ。
任天堂の「現地のゲームファンにしっかりローカライズされたタイトルをお届けする」というロジックは一見正しかったように思うが、なぜうまくいかなかったのか。中国のXbox Oneが失速したままなのは何故なのか。
その答えは単純ではなく、海賊版対策やセンサーシップ、流通、ダウンロードなど非常に複雑な問題が絡み合っているので綺麗に答えるのは難しいが、ひとつ確実に言えるのは、現地のゲームファンが待っているのは、ローカライズというより、ゲームそのものだということだ。ゲームがあってのローカライズであり、その逆ではない。結果として任天堂の施策は、「我々が指定した(ローカライズ)タイトルだけ遊んで下さい」という本来の意図とはかけ離れた傲慢な施策になってしまっていた側面がある。
台湾では、ニンテンドー3DSの正規参入以来、1度も並行品が正規品を上回ることはなかったということが、いかに任天堂の施策が現地ゲームファンに支持されていなかったかを物語っている。この視点で言うと、任天堂は鼎の軽重を誤っており、ローカライズや現地メーカーの利益を重視するあまり、肝心要のゲームを現地に届ける機会そのものがおざなりになってしまっていたといえるのではないだろうか。
中国Xbox Oneの場合は、任天堂のそれとは若干ニュアンスが異なる。ハードにリージョンロックを掛け、遊べるタイトルが少ないという点では同じだが、Xbox Oneの場合はそれは現地パブリッシャーのE-Homeが意図したものではないからだ。すなわち、センサーシップ対策をおざなりにしたまま発売まで突っ走ってしまったという中国展開戦略そのものに大きなミスがある。中国のXbox Oneの場合、リージョンロックに加えて、センサーシップの問題も抱えており、ゲームプラットフォームとして非常に危険な状態だと言える。奇しくも台湾では、台湾デベロッパーに対してXbox Oneを通じて中国展開を呼びかけるセミナーが開催されるなど、センサーシップのトラブルによるタイトル不足の問題は、台湾にも波及している。