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【祝!PS4中国発売記念】中国ゲームマーケットレポート(上海編)
果たして中国にコンソールゲームは根付くのか!? Xbox Oneの最新状況は? 実地調査で確かめてみた
(2014/12/19 12:17)
GAME Watchで何度かお伝えしているように2014年、ついに中国でコンソールゲームが解禁となり、9月にはXbox Oneが、そして先日お伝えしたようにプレイステーション 4が2015年1月11日に発売となる。
今回のコンソールゲームの中国解禁について業界関係者の見方は様々だ。ネガティブな意見としては中国ゲーム市場はモバイルゲームとPCゲームがすでに支配的であり、今更リリースした所で市場に受け入れてもらえない。つまり、中国に市場価値はないし、何をどうしようが失敗するという見方。
一方でポジティブな意見としては、コンピューターゲームの最高峰がゲームコンソールであることを中国のゲームファンは海賊版や並行輸入品を通じて知っており、かつ購買力のある中間層だけで日本の数を上回っており、適切な価格、ビジネスモデルが提供できれば、日本をしのぐ肥沃な市場があると言う見方。筆者はどちらかといえば後者の可能性を信じる立場を取る人間だが、どちらの意見も一理あるように思える。
ところで9月に中国ローンチを果たしたXbox Oneについてはローンチ以来、ほとんど情報が出てきていないが、一部報道によればセルインで10万台規模を出荷し、日本を上回る滑り出しだという。ただ、肝心のセルスルーの数字は不明で、ソフトの販売本数や装着率もまったくわからない。中国での報道を受けて、いかに市場規模の大きい中国とはいえ、実際に6万円もする高価なゲームハードが飛ぶように売れるものだろうかと疑問を持った。
そこで今回は7月のChinaJoyから9月のXbox Oneの中国ローンチを経て、12月現在、中国のゲームショップの風景はどのように変わったのか、上海の電脳街を丸一日歩き倒して実地調査してみることにした。
家電量販店の1階で存在感を示すXbox One。完美世界運営のアンテナショップもスタート
今回は徐家匯、准海路、中山公園、五角場、そして浦東の商城路などの電脳ビルがひしめくエリアを主に攻めてみた。目当ては百脳匯(Buy Now Hui)や蘇寧電器(Suning)、太平洋数碼(Pacific Digital Plaza)といった数階建てのビルの中にIT系のテナントがギッシリ入った家電量販店だ。
今回訪れてみたところ、7月の時点では影も形もなかったXbox One関連コーナーが、1階正面入り口の目につきやすい場所に設置されていた。入った瞬間に変化がわかるのはゲームファンとして嬉しい。中国にもついにこういう時代が来たかと感慨に浸る瞬間だ。
ブースデザインは統一で、Xboxのブランドカラーであるグリーンの棚、その両側面にXbox One本体とゲームソフト、ペリフェラルの空箱が置かれ、手にとって確認できるようになっている。棚の両端にはモニターとXbox One本体が備え付けられた試遊コーナーになっていて、コントローラーを手にとって、あるいはKinectを駆使して自由にプレイすることができる。試遊できたのは「Kinect Sports Rivals」か「Forza Motorsport 5」のいずれかで、ここも全店舗で統一だ。
本体とペリフェラルには値札がつけられ、これは全店舗で統一価格。空箱をレジに持っていくと奥から製品を持ってくる仕組みだ。現在、Xbox Oneは「高すぎる!」という批判を受けたためか、全店舗で一律500元(約1万円)の割引キャンペーンを実施している。一応2015年1月までの期間・数量限定措置としているが、12月11日にSCESHが値下げ後の価格をも凌ぐ値段設定でPS4を発表したため、恒久的なキャンペーンとなるのは確定的で、場合によっては追加の値下げもありうるというのが関係者の見方だ。
ちなみに現在Microsoft Chinaのオンラインストアでは、当初の発表から価格を500元下げた上、さらに299元相当のゲームコントローラーを無料で同梱するキャンペーンを実施しており、実質799元値下げした2,899元相当の値段で販売している。これは奇しくも先日発表されたPS4と同じ設定で、PS4の発売前から両社は激しい火花を散らしている印象だ。
さて、今回訪れた中でもっともXbox Oneのプロモーションに力が入れられていたのは、徐家匯の超大型店 美羅城(Metro City)だった。この美羅城は、何でも入っている大型のショッピングモールで、テナントとして百脳匯(Buy Now Hui)が丸ごと入っている。この百脳匯側の入り口付近にXbox One特設エリアが設けられ、女性コンパニオンが試遊者に対してゲームの内容を説明していた。この10年、中国ではまったく見られなかった光景だけにちょっと感動してしまった。
その特設コーナーは試遊だけで、その左手にあるオフィシャルショップで本体やペリフェラルが購入できる。そこにも試遊コーナーが用意されているのだが、訪れた際は、OSのアップデートを実施しており、プレイする事ができなかった。この辺りのツメはまだまだ甘い。
美羅城が凄いのはその2カ所で終わりではないところだ。そこからさらにまっすぐ奥に少し進むと、通路が細くなり、そこにソニーの正規店であるSony Storeと、Microsoft Storeが向かい合わせで展開されている。正確に言うとMicrosoft Storeではなく、同社の公認を受けた正規代理店のショップで、入り口近くのショップと同じ代理店が運営している。
一方、Sony Storeでは、昨夜(12月11日)発表したばかりのプレイステーション 4のポスターが全面展開され、予約受付も開始されていた。いずれも盛り上がっているという感じはなく、来場者も「ああ、そうなんだ」という程度の控えめな印象で、「すわ中国でもコンソールゲーム戦争か!?」というと言い過ぎだが、それに近い風景が偶然生まれていたのはおもしろかった。
そして中国ゲームマーケットの新たな動きという点で、非常にユニークだったのは、中国大手ゲームパブリッシャー完美世界(Perfect World)が展開しているリアル店舗「Perfect World Game Experience Center」だ。
上海のやや外れの郊外都市 五角場にあり、そのショップは地下鉄駅の改札を出てすぐの絶好の立地にある。白とクリアガラスを基調としたショップデザインは、ゲーム専用のスペースとは思えないほどオシャレで、女性や子供でも入りやすい。店内には、ゆったりとしたスペースを割いてXbox Oneの試遊台が10台以上配置されており、自社タイトルである「Neverwinter Online」のみならず、現在中国で発売されている10タイトルから自由に選んでプレイすることができる。
完美世界は、このアンテナショップを無料で開放しており、ゲームに詳しい店員の説明を受けながら、思う存分ゲームを楽しむことができる。もともとのコンセプトは、Xbox Oneの中国進出に合わせてコンソールゲームに参入した完美世界のアンテナショップであり、リアルタッチポイントのひとつだが、実際にはXbox Oneのアンテナショップになっているのがおもしろい。ただ、入り口にはPS4への参入も積極的にアピールしており、2015年1月11日以降はPS4も置かれるようになるようだ。
不振のXbox Oneは早くも799元の値下げでPS4と同価格に。ただし不振の理由は価格だけではない
それにしても今回ゲームショップを回ってみて驚いたのは、確かにXbox Oneを販売するショップは存在していたものの、まったく盛り上がっていないことだ。丸一日10時間以上見て回ったが、試遊者を見るのすら稀で、1台も売れているのを見ることができなかった。ハッキリ断言してしまっていいと思うが、Xbox Oneは中国でまったくうまくいっていない。
価格設定やタイトルラインナップから当初の座組ではなかなか難しく、ロングスパンでの戦いになると思われていたが、ここまで動きが鈍いのは予想外だった。しかし、何故うまくいっていないのかは綺麗に説明できる。一言でいうと、10年以上前にSony ChinaがPS2で大失敗し、這々の体で中国市場からコンソールゲームビジネスを撤退したときの過ちをそっくりそのまま繰り返しているからだ。
1つはリージョンロックを掛けていることだ。これにより、香港や台湾から大量に入ってくる並行品が動作しない。もちろん、中国市場に滞留する中古品も同様に動かない。しかも、今回のXbox Oneはパッケージ版を扱っておらず、デジタルダウンロードのみの取り扱いとなっているため、百脳匯や蘇寧電器、太平洋数碼などに入居しているゲームショップが、まったく正規ソフトを取り扱っていないという事態になっている。当然、中古市場も存在しないが、その代わり、一切の流通活動もないわけだ。彼らは彼らで、9月の正式ローンチ後も、香港や台湾からの並行品を仕入れて売り続けている。なぜこういうちぐはぐなことになってしまったのか。
結局、1階にあるMicrosoftの正規店/正規代理店と、階上にあるゲームショップでは、同じXbox Oneでもまったく互換性のない別々のプロダクトを扱っていることになる。しかも、中国と香港ではBlu-rayのリージョンも異なるため、Blu-rayディスクの互換もない。これだけないないずくめでは消費者が手を伸ばしにくいのも自明だろう。
今回、Microsoftがパッケージ流通を断念した理由は明らかではないが、考えられるのはやはりコピー対策だ。Xbox 360はDVD-ROMを採用していたため初期段階でハックされ、あらゆるゲームタイトルが5元(当時、約75円前後)で売られまくった。これに対し、PS3は高い堅牢性を誇るBlu-rayディスクを採用し、完全にハックされたのはかなり後期、ほんの数年前で、それまでは長らく海賊版業者を切歯扼腕させ続けた。このため前世代機の戦いは、中国を中心としたアジア市場では、シェアの面でXbox 360の圧勝だったが、Microsoftは海賊版業者に対して何ら有効な対策を打てず“なすがまま”だったため、サードパーティーの信頼を失ったと言われる。
思い返せば米MicrosoftがXbox One発表初期にアナウンスした、24時間ごとのオンライン認証や中古版に対する起動規制は、実は中国を強く意識した対策だったことはよく知られている。欧米ユーザーの激しい反発により、それらの施策はまとめて撤回されたが、中国ではデジタル版のみの販売という形で実現されたようだ。
そして第2に、センサーシップ(中国政府機関の検閲)への対応がまったくうまくいっていない。ChinaJoyでは、Microsoftは「Watch Dogs」や「Titanfall」など、欧米の活きの良いタイトルを次々に披露し、Xbox Oneのゲームコンソールとしての先進性をアピール。方やSCEはあえてPS3の「グランツーリスモ6」やPS Vitaの「FINAL FANTASY X/X-2 HD Remaster」を持ってくるなど、ひたすら大人しい出展に留まっていた。
ところがXbox Oneはいざローンチのタイミングでは、それら活きの良いタイトルは影も形も無くなり、レースゲームやスポーツものを中心にわずか10タイトルのリリースに留まり、その後のタイトルラインナップは未だ不透明な状況が続いている。リージョンロックが掛かったゲームコンソールで、新規タイトルが出ないとなると、もうゲームプラットフォームとしては終わっている。中国でのXbox Oneはリリースから3カ月で早くも正念場を迎えているといった印象だ。
一方、PS4はどうだろうか。SCESHプレイステーションカンファレンス詳報でも触れたように、基本的には十数年前のPS2の失敗から多くを学んでおり、同じ轍を踏まぬようあらゆる面で細心の注意を払った戦略を採っている。ここまでのところ100点といっていいのではないだろうか。
ただ、事前準備が100点でも、うまくいくかどうかわからないのが、“コンソールゲーム未開の地”である中国ゲーム市場の恐ろしさだ。
1つは、親を味方に付けられるかどうか。通常版が2,899元(約55,500円)、PS Camera同梱版が3,299元(約63,000円)という価格設定については文句の付けようがない。値下げをしたXbox Oneをなお上回る値頃感は、中国のゲームファンの心を刺激するだろう。しかし、都市部ですら5,000元程度の月給であることを考えると、多くの人にとってPS4は高嶺の花で、ある程度の高所得層か、所得のある親が子供に買い与えるというパターンが多くなると見られる。
そこで重要になるのが、親が認めるハードになれるかどうかだ。中国は一人っ子政策の結果、今や日本や韓国を凌ぐほどの教育大国となっている。勉学に繋がらない「ゲーム機を買う」文化は皆無だ。中国でPCゲームやモバイルゲームが急成長した理由は、「中国政府が規制しなかったから」ではない。PCやスマートフォンが教育や日々の生活に必要なデバイスということで親を味方に付けることに成功したからだ。PCやスマートフォンを買い与えられて育った子供達は、大人になってもそれらを買ってくれるし、親の目を盗んでゲームで遊ぶうちに、我々と何ら変わらぬ“立派なゲーマー”に育ってくれる。この点、Xbox Oneは、BesTVと提携し、ゲームのみならず各種映像コンテンツが視聴できるセットトップボックスというニュアンスも含んで売り出したが、残念ながら親を味方に付けることには成功していない。
この点、PS4はSCEJAデピュティプレジデント織田博之氏がインタビューで語っているように、中国においても正々堂々とゲーム機として売り出していく。この正々堂々感は「一切為了玩家(すべてはゲーマーのために)」というキャッチフレーズにも現われており、逃げも隠れもしないという態度はすがすがしさすら感じさせる。その一方で、両親をどう味方に付けるのかという点においてはまだ不透明だ。
もうひとつは、中国のメーカーを味方に付けられるかどうか。中国では任天堂やSCEのようなプラットフォーマーが長らく不在の状態が続いているため、プラットフォーマーのエコシステムのもとでビジネスを広げていくというシステムに慣れていない。今回の発表会では26社の参入が発表されたが、多くは独立系のデベロッパーで、いわゆるAAAを制作できる大手メーカーの参入はPerfect WorldやThe 9、Snailなど一部に留まる。AndroidやiPhoneのように、メーカーの規模を問わずなだれを打って参入していくという状況はまだ訪れていない。
PS4/PS Vitaの中国成功の形は今回発表されたSnailの「King of Wushu」のように、AAAクラスのPCゲームタイトルをPS4にも出すというパターンがひとつあるが、これをモバイルとPS Vitaというパターンも含めて、多くの類例を作り、それが常態化できるかどうかがひとつ鍵になると思われる。中国メーカーの新規参入も含めて注目していきたいところだ。
そして最後は、中国のゲーマーを味方に付けられるかどうか。今でこそ、中国産のオンラインゲームやモバイルゲームが過半数を占める中国ゲーム市場だが、中国でゲームメーカーが育つ10年以上前は、現地のゲームファンは日本や欧米のゲームを遊んでいた。プラットフォームはアーケード、PC、そしてPSPだ。
中国でPSPがゲームマシン兼メディアプレーヤーとして飛ぶように売れた時代があり、そのほとんどは海賊版だったにせよゲームも幅広く遊ばれ、一部のメジャータイトルは中文簡体字に改造した海賊版も出回っていたほどだ。中国でゲームイベントを開催すると、同地で1度も発売されていないにも関わらず、多くのファンが押し寄せるのはそのためだ。クリエイターは例外なく複雑な苦笑を浮かべるが、この力を無視すべきではないと思う。
今回、SCESHは、PS4に加えて、PS Vitaの展開も決めたのは、PS VitaそのものがPS4とのエコシステムの一部に組み込まれていることもあるが、それ以上の理由として、当時PSPで遊んだ層に対する潜在需要を刺激するためだと強く感じた。こうした潜在的なコンソールゲームファンを如何に刺激し、大きなムーブメントと変えていくのか。これはXbox Oneにとってもまったく同じように言いうる。今後も引き続きSCESHとMicrosoft Chinaの中国での取り組みに注目していきたいところだ。