Taipei Game Show 2010現地レポート

台湾ゲームショップ特別レポート Ver.2010
PCゲームへの回帰と活況のコンシューマー市場。海賊版はPS3不在の中、再び悪化傾向に

2月5日~9日開催

会場:台北世界貿易中心

入場料:大人 150台湾ドル
    子供 100台湾ドル


 今年も台湾取材の締めくくりとしてGAME Watch恒例となっている台湾ゲームショップ巡りに行ってきた。

 赴いた先は、台北市を代表する電脳街である光華商場と台北地下街、西門町の3箇所。いずれも交通の便に優れた場所にあり、この期間はTaipei Game Showの帰りに立ち寄ったらしい大きな紙袋を提げたゲームファンの姿が目に付く。

 台湾電脳街ウォッチャーとして今年掲げたテーマは3つ。ひとつは、Taipei Game Showの会場で感じられた非オンライン型のPCゲームの盛り上がりは本物かどうかということ。もうひとつは、近年拡大を続けているコンシューマーゲーム市場の最新動向。そして最後が、アジアの悪しき伝統である海賊版の実態調査だ。

 台湾ゲーム市場も10年前に比べるとすっかり成熟し、果物でも売るように白昼堂々とかごに入れたコピーディスクを売り歩く老父の姿や、改造機で店頭デモを行なうなど、いかにも大アジア的なカオスな風景は見られなくなった。欧米や日本と同じように、“普通”のゲーム市場になりつつある。しかしそれでも注意深く観察すると、台湾でしか出会えないユニークな風景に出くわし、楽しいこともあればうんざりさせられることもあった。なお、今回は特別編として台中レポートもお届けするのでぜひ最後まで一読頂きたい。




■ 台湾で巻き起こるPCゲーム回帰運動。「オンラインゲーム辞めてPCゲームをやろう」?

光華商場の中心的スポット光華數位新天地。まずはここに行かなければ台湾ゲームショップ巡りは始まらない
旧正月前ということもあって混み合っている。頭上に掲げられているのはインテルの広告だ
PCゲームを推奨するスローガン「Back to the PC回答単機(PCへ帰ろう)」

 まずは非オンライン型のPCゲームの盛り上がりの真否から紹介していきたい。結論からいうと事実で、売り上げという点では具体的な確証は得られなかったものの、台湾でPCゲームを盛り上げようという機運が確かに高まっていた。

 この背景には2つの要因が考えられる。ひとつは、台湾はAcer、ASUS、Gigabyteなど世界を代表するPC関連メーカーが存在しており、マイクロソフトの最新OSであるWindows 7やインテルの最新CPUが、ヘビーなPCゲームを楽しむために有効なソリューションであることから、業界を挙げて取り組んでいるという流れ。それはTaipei Game ShowでPC関連メーカーが複数出展していたことでも裏付けられるし、電脳街における取り扱い店舗の増加や、店頭デモの内容でも感じることができた。

 もうひとつの要因は、台湾ゲーム産業のメインストリームであるPCオンラインゲームに対するアンチテーゼとしてのPCゲームという流れ。どういうことかというと、PCオンラインゲームは、日本を含む多くの国や地域でも指摘されていることだが、その中毒性の高さや反社会性の部分で問題視される動きがあり、それは台湾でも例外ではない。また、純粋にゲームとして捉えた場合でも、多くのオンラインゲームが貧弱なストーリーに、同じようなキャラクター、ゲーム性で、ゲームの本質をユーザーに伝えられていないという批判が台湾でも高まりつつあるという。

 そこで生まれたスローガンが「Back to the PC回答単機(PCへ帰ろう)」。これは光華商場のいくつかのPCゲームショップで見ることができた。このスローガンには「オンラインゲームを辞めるべき51の理由」といったオンラインゲーム業界を完全に敵視したサブスローガンも併記されており、PCゲーム業界のプロモーションとしては日本では考えられないほど激烈である。

 とはいえ、光華商場の入り口では、AMDが日本の代表的なオンラインゲームである「魔物獵人(モンスターハンターフロンティアオンライン)」を使った共同プロモーションを展開し、各フロアの天井や床にはオンラインゲームやブラウザゲームの広告がデカデカと掲げられており、正直なところあまり効果があるとは思えない。しかしながら、PCゲームを、オンラインゲームとコンシューマゲームに並ぶ、第3の勢力として復活させようという気概が伝わってきて頼もしかった。


【光華數位新天地】
光華數位新天地では、PCゲームショップが増えているだけでなく、客の入りも目立つ。これは今年感じられた変化のひとつだ。右下のカイワレは、店先のチラシを見て、「この『開心牧場』のリアル体験版の『種子+土壌で99台湾ドル』とは何か?」と質問したら、レジスターの下からこれが出てきたという笑い話。この凄まじい便乗商売ぶりが好きだ

【光華商場】
光華商場のトピックのひとつとして、東京秋葉原を代表するPCショップ ドスパラが出店していた。しかも汎用のPCショップではなく、PCゲームショップとして。台湾ではおもしろいぐらいにPCゲームが盛り上がりつつある



■ 広告、販売共に盛況なコンシューマーゲーム市場。懸念点は中古市場の拡大傾向

多くの人でごった返す台北地下街。ゲームのほかにも、ホビーショップや同人系のショップが軒を連ねる。台北の中心部にもっとも濃い電脳街があるのが台湾のユニークなところだ
地下街には「ファイナルファンタジー XIII」の広告が至るところで見られた
いわゆる“地べた遊び”はなくなっていたが、フリーのデモ機を使った遊びは1台だけだが残っていた。ユーザーはPS3ライトニングエディションと「ベヨネッタ」を持ち込み、体操服姿のベヨネッタでハイレベルアクションを来場者に見せつけていた
どの店舗でも中古の売買を積極的に行なっていたのが気がかりだ

 次にコンシューマーゲームについては、昨年にも増して活発だった。Taipei Game Showで中文版の発売が発表され、台湾でも人気の高いフランチャイズである「ファイナルファンタジー XIII」を筆頭に、台湾では数少ない自社パブリッシングで中文版を積極的に展開しているコーエーの「真・三國無双5 Empires」、そのほか「ベヨネッタ」(プラチナゲームズ)、「鉄拳6」(バンダイナムコゲームス)などが目に付いた。

 台湾コンシューマーゲームのメッカである台北地下街では、上記のゲームに加え、「Bioshock 2」(2K Games)、「Army of Two 40DAY」(Electronic Arts)、「Dante's Inferno」(Electronic Arts)、「The Saboteur Studios」(Pandemic)といった海外ゲームタイトルの全面広告が目立った。その密度は日本の秋葉原を上回るほどで、ますますメッカ度が向上しているという印象を受けた。ちなみにオンラインゲーム関連の広告は、先ほど紹介した光華商場のようなPC特化の電脳街のほか、テレビCMも激増している。

 ゲームファンの遊び方という点では、もう飽きてしまったのか、あるいは邪魔になりすぎて行政指導が入ったのか具体的な理由は不明だが、台北地下街で見られた、店先に座り込んでPSPやDSなどのゲーム機を持ち寄って遊ぶという台湾独自の遊び方である“地べた遊び”が無くなっていた。さらにマニアックな遊び方として、ゲームファンが自前のゲーム機を持ち込んで店先のフリーのモニタに接続して、お気に入りのゲームの腕前を披露するという行為も、確認できた限りでは1カ所だけだった。台湾名物だっただけに多少寂しい思いがする。

 品揃えに関しては、PS3、Xbox 360、Wiiの3プラットフォーム共にハード、ソフト共に非常に潤沢で、ゲームショップが正規ビジネスだけでしっかり回るようになってきている印象を受けた。ゲーム機の販売状況に関しては、いずれも数字を公表しておらず、並行品もあるため、正確な数字は不明だが、PS3、Xbox 360、Wiiともに50万台程度で混戦模様と推測される。

 昨年勢いのあったハードは正規の取り扱いを開始したWiiだということだが、中文化されたゲームの取り扱いが少なく、期待されたWii Wareやバーチャルコンソール、各種Wii Channelといったオンラインサービスがいつまで経っても始まらないため、早くも失速気味だという。ニンテンドーDSに関しても、オンライン機能を充実させた新ハードDS i、DS i LLの発売は行なわれておらず、並行輸入品の天下となっている。

 PS3とXbox 360は、値下げとラインナップの充実を機に販売を伸ばしつつあるが、他のアジア諸国への転売行為が目立つため、数字ほどには台湾内で流通していないという。両社は数年掛けて並行輸入業者対策を徹底的に行ない、完全に閉め出したと思われていたが、輸入がダメなら今度は輸出で、というのがおもしろい。

 PSPは台湾だけで100万台以上が出荷され、台湾における国民的ハードの地位を盤石のものにしている。PSP goは日本と同様、あまりショップサイドの受けがよくなく、引き続き3000番台が売れているという。

 ゲームソフトに関しては、Taipei Game Showでもお伝えしたように共に実りの時期を迎えつつあるが、PS3はコピーがなく、Xbox 360はコピーが容易という点で大きな違いがあり、一説には両ハードで装着率が倍以上異なるという。現時点ではアジアでのプラットフォーム戦争は、PS3の“不戦勝”で確定のように思われる。

 あと多少気になったのは、中古品の取り扱いが増えていたことで、中には実質的に中古ショップと化している店舗も何軒か見られた。どの店舗も中古品の買い取り、販売に熱心で、このまま推移すれば、やはり新品市場に深刻な影響をもたらしかねないと感じた。

【台北地下街】
コンシューマーゲームを手に入れるなら台北地下街で決まり。これほどの一極集中は世界でも類を見ないかも知れない。日本産のゲームのほか、欧米産ゲームの広告も多く、台北地下街がコンシューマーゲームの有効な販売チャネルとして活用されていることを伺わせる



■ 海賊版は一掃されたものの、ゲーム機の改造行為は盛況、過去もっとも深刻な事態か

流れ作業で新品のWiiが開けられ、何事かの処理が行なわれていく。ここまで露骨な行為は初めて見た
ある店ではXbox 360用のHDDやDVD-ROMドライブに加えて、真偽のほどは不明ながら開発機が売られていた。黙認なのか放置なのか、いずれにしてもありえない話だ

 さて、それでは非常に気が重いが、海賊版について紹介しておきたい。結論から言うと、ほぼ野放し状態に近く、私が台湾の定点観測を始めた2003年あたりまで戻った印象を受けた。

 もちろん、2003年当時と比べると、白昼堂々とコピーディスクを売る人も、物陰に呼びつけてゲームカタログを広げてどれが欲しいかを聞いてくるような人もいなくなって、一見クリーンな状況になっている。しかし、数年前から海賊版のデータはオンライン上でやりとりされるようになっており、店舗での海賊版の取り扱いがなくなったからといってそれは海賊版の絶滅をまったく意味しない。

 チェックすべきポイントは、ゲームハードの修理を扱うショップの有無だ。海賊版のゲームソフトを遊ぶためには、ハードを改造する必要があるが、改造したハードはもはやプラットフォーマーの正規の修理に出すことがないため、アウトローのユーザーはイリーガルな修理店の門を叩く。逆に言えば、修理店があれば、確実に海賊行為は存在する。それがどれだけ表面しているかで、海賊版の“普及率”が見えてくる。言うまでもなく、世界共通でゲーム専用機は自社以外の修理行為は認めておらず、幾重もの違法行為となる。そもそも修理店が存在している時点でおかしいわけである。

 今回、冒頭でもお伝えしたように3カ所の電脳街を回ったが、そのいずれでも修理行為を確認することができた。対応ハードはPS3以外すべて。違法改造を含めたオーバーホールから、個々のパーツの販売、そして交換用の剥き出しのマザーボードまで、まさによりどりみどりの状況だった。中でも、開店中の店のカウンターで、複数台のゲーム機を開けて粛々と改造行為にいそしんでいるのを見たときは唖然とさせられたが、どう控えめに表現しても“野放し”としか言いようがない。

 こうした凄まじい実態について、台湾在住の関係者数名にヒアリングしたところ、違法コピー行為が状態化している実態を確認することができた。中には正規品を取り扱うショップで、“無改造ハードの取り扱いがない”ため、並行品に手を出さざるを得ないという、悪い冗談のような話も聞くことができた。

 今回の状況悪化の背景には、PS3が海賊版戦争に終止符を打ち、SCE Asiaが従来のようなローラー作戦による摘発を行なわなくなったことが確実に影響していそうで、SCE Asiaの不在が結果として業者の暗躍を許してしまっているのではないかと思われる。海賊版問題はまだまだ予断を許さない状況と言えそうだ。

【修理屋】
修理屋にもピンキリだが、ほとんどの場合、奥が作業スペースになっており“全部やってくれる”ようになっている。右の写真は、ゲーム機のマザーボードが剥き出しで売られていた。上段からWii、PS2、Xbox、Xbox 360



■ 最初で最後になりそうな“台中”ゲームショップ特別レポート

台中駅。台北は雨期にあたり、連日肌寒い感じだが、台中は好天が続き、日差しが強い

 台中は、台北駅から台湾高速鉄道で約1時間、台湾島中央に位置する台湾第3の都市だ。人口は約100万人で、列車を降りると、駅前は名物の「太陽餅」屋が並び、地方の観光都市らしいのんびりした雰囲気を感じる。駅の近くに電気屋やパソコンショップが集まった台中電子街があるが、台北の光華商場に比べるとその規模ははるかに小さい。

 地元で働く人に聞いてみても、ゲームショップが集中しているスポットはないようで、台中電子街の一角に「哈日GAME館」というゲームショップを確認するに留まった。名前の通り、日本のゲームやアニメのグッズを扱う店で、フィギュアまで飾ってある。ただ、それほど品揃えがよいわけではなく、数年前に萌えブームが台湾に到来した時にできた店がそのまま惰性で続いているといったたたずまいだった。

 駅前には小さなゲームセンターが数店あった。中は、クレーンゲームがメインで、IGSのゲーム機や、台北でも多く見かけたダンスゲームがあり、子どもが一生懸命プレイしていた。少し大きめの18歳未満立ち入り禁止のゲームセンターもあったが、こちらは中が薄暗く訪れたのが真昼だったこともあってそれほど人は入っていなかった。

 台北で大量のゲームショップが立ち並ぶ様を見たあとでは、台中ではゲームはあまり流行っていないのかな、と思わせるような寂しい雰囲気だったが、話を聞いてみるとオンラインゲームも家庭用ゲームもごく普通に遊ばれているということだ。台北まで在来線でも2時間なので、品揃えのいい台北に買い物に行ってしまうようだ。

【台中のゲームショップ】
多くの電脳街がそうであるように、この台中のゲームショップもまた、日本製のゲーム、アニメ、漫画、フィギュア、同人誌等々、幅広いアイテムが手に入る

(2010年 2月 10日)

[Reported by 中村聖司 ]