ニュース

【夏休み特別企画】ミャンマーゲームマーケットレポート(ヤンゴン編)

“アジア最後のフロンティア”のゲーム市場としての可能性を覗いてきた

2013年7月視察

 去る7月、ChinaJoyの取材で中国上海を訪れた後、コンサルタント会社主催のミャンマー視察ツアーに潜り込むことができ、“アジア最後のフロンティア”として世界中から注目を集めているミャンマーを視察する機会に恵まれた。訪れた都市はミャンマー最大の都市であるヤンゴンと、最後の王朝があったことで知られる第2位の都市マンダレーの2都市。上海から昆明経由でミャンマーに入り、現地ではフィールドワークを主体に、バイクタクシーやトラックタクシーも駆使して街中を歩きに歩き、現地の状況を視察して回った。

 参加者の目的は人それぞれだったが、筆者の目的は日本にはまだほとんど情報が下りてきていない未開の地ミャンマーに、デジタルエンターテインメントの代表格である“コンピューターゲーム”が果たして存在するのかということと、存在するとすればそれはどのように消費されており、消費者像とは一体どのようなものかを実際にこの目で確かめるというものだ。

 今年1月に新春特別企画と称して、中国ゲームマーケットレポート(カシュガル編ウルムチ編杭州・廈門編)をお届けしたが、今回は夏休み特別企画としてヤンゴン編、マンダレー編をお届けしたい。今回は7月下旬、東南アジアの夏、そして雨期ということで、照りつける太陽や土砂降りの雨で視察は困難を極めたが、ミャンマー人の予想以上のゲームに対する関心の高さや、ゲームマーケットの萌芽のようなものを見つけることができ、非常に興味深かった。まずはヤンゴン編をお届けしたい。

【上海から昆明経由でヤンゴンへ】
中華東方航空で上海から昆明経由でヤンゴンへ。このルートが現在最安値だが、中国で一泊する必要がある。ヤンゴンの通貨Kyats(チャット)は、米ドルかユーロでしか両替できず、定額紙幣ではレートが悪くなる

東南アジアの中でも随所に異質さを感じさせるミャンマー。最大の敵は超低速なネット回線

新興市場としては極めて珍しくバイクがまったく走っていない。法律で禁止されているという
市民の足はトラックとバス。常に満載だ
沿道は昼夜を問わず屋台が出て活況を呈している
屋台は飲食店が多いが、このようなコピーソフト屋も多い
サクラタワーから見たダウンタウンの様子。中心に黄金のパゴダ(仏塔)が鎮座している
ダウンタウンは英国植民地時代の建物がいまだに使われている。これは1911年に建設されたTelegraphOffice。旧日本軍も使用したことがあるという
ダウンタウンから少し外れると、このようなトタン屋根の住宅街が顔を覗かせる。しかし実は電気は引かれ、パラボナアンテナもあり、煮炊きは練炭で行なうなど、ある程度の生活インフラは整っており、いわゆる貧民窟とは違う

 ヤンゴンは、ミャンマーの総人口の10%以上が暮らす、人口約700万人を誇るミャンマー最大の都市。2006年にネピドーに移転するまで首都だった。首都移転後もミャンマー経済の中心地であり続けており、全日空を含む海外線の多くはここヤンゴンを結んでいる。所得水準はASEAN諸国の中でももっとも低いため、近年の経済開放に伴い、労働集約型産業の受け皿として、世界中から熱い注目を集めている。

 ヤンゴンに降り立って最初に驚いたのは、バイクがまったく走ってないことだ。空港からダウンタウンまでの幹線道路だけかと思いきや、ダウンタウンの中心部でもそうで、東南アジア独特の幹線道路をバイクの群れが走り回り、環境音のほとんどが無数のクラクションとエンジン音で埋め尽くされる喧噪はここにはない。

 エマージングマーケットでは、名目GDPが1,000ドルを超えたあたりからモータリゼーションが始まり、まずは1,000ドルでバイク、3,000ドルで車に乗り出すと言われる。事前に調べていたミャンマーの名目GDPは800ドル台半ばということなので、最初はGDPがまだ少ないためかとも思ったが、冷静に考えたらタクシーやバス、トラックの類いはいくらでも走っているためそうではないということに気づいた。後で調べたところ、正確な理由は不明ながら、ヤンゴンでは全域でバイクと自転車の走行が規制されているということだ。

 このため市民の足は、日本から払い下げた古いバスや、荷台の付いたトラック、そして人力の力車の類いが中心になっている。バスやトラックはいずれもすし詰め状態で、運賃を受け取るために雇われている若い青年が半身外に乗り出した状態で、行き先を告げる声を張り上げている。旅行客向けには普通車のタクシーもあるが、エアコンが効かなかったり、窓が締まらなかったり、クオリティは高くない。走り出すとETCカードの挿入を日本語で促されたり、カーナビが日本語で喋り出したりして、驚かされた。古い日本車の余生はここで送られているようだ。

 驚きその2としては、歩道を歩く歩行者が少ないことだ。その代わり、バス停は人で溢れ、幹線道路は行き先の異なるバスやトラックで渋滞している。つまり、移動手段として徒歩が当たり前ではないのだ。これは関係者に聞くと、民族的な要因が強いという。ミャンマーの人々は老若男女を問わずロンジーと呼ばれる腰巻きを民族衣装として着用している。筒状の布を足から入れて腰の位置で絞って結ぶ。足下はくるぶしまでで、履き心地は腰から下だけ浴衣を着たような感じ。歩く分には問題ないが、走るのは難しいし、長時間歩くのは億劫な感じだ。この影響が大きいようだ。

 またこれはロンジーの影響がどの程度あるのかは不明だが、ミャンマーの学校では体育の授業がない。だから歩いたり、走ったり、泳いだり、運動することに慣れていないのだという。国が違えば文化風習も異なる。それを久々に強く感じることができた。

 そして滞在中、泣かされっぱなしだったのはネットの遅さだ。滞在中、ホテル、レストラン、カフェなど様々なところで接続を試みたが、1MB以上の速度が出たことは1度もなく、良くて500KB程度がせいぜいで、しかもぷつぷつ切れた。動画の再生はおろか、静止画をダウンロードするのも難しく、GAME Watchを含む画像込みのWebサイトは見るのを諦めるレベルだった。聞くところによれば、7月下旬、我々がミャンマーを訪れる直前に、インターネット用の海底ケーブルが切断され、それで国中がネット速度が遅くなっているという。

 ヤンゴンのホテルやカフェでは、利用者への基本サービスとしてWiFiが無料で提供されていたが、繋がっても上記のような具合か、IPすら取れないものが多く、日本の感覚で言えばまったく使い物にならなかった。余談だが、この状況を知って「これは困ったぞ」と思った。なぜなら当時、まだChinaJoyのレポートで未掲載のものが残っており、ヤンゴンから東京へデータを送信する必要があったからだ。

 この窮状をミャンマー在住の方々にそれとなく訴えたところ、シャングリラ系列の高級ホテル「トレーダーズホテルヤンゴン」がヤンゴンでは1番速いという情報を複数から得ることができた。理由はこのホテルは、インターネット回線をタイ経由で結んでいるため、タイ水準の速度が出せるのだという。

 その情報を教えてくれた某機構ヤンゴン事務所のスタッフは、事務所のネットが遅くなるとこのホテルに足を運び、ロビーにあるレストランでコーヒーを頼み、まとまった量のデータを日本に送信しているという。去年まではコーヒー一杯で3時間、微笑みでさらに3時間粘れたが、現在ではこの情報が駐在日本人の間で知れ渡ってしまったため、キチンとした食事を頼まないと使わせてくれないという。こうした情報にも、ミャンマー経済の沸騰ぶりが感じられておもしろい。

 筆者もわらにもすがる気持ちでこのホテルを訪れ、サンドイッチとコーヒーのセットを頼み、WiFiのパスワードが書かれた紙を貰ってさっそくWiFiに接続してみたところ、予期していたことではあったが、やっぱり凄く遅かった。VPN経由でサーバーに接続して更新するのを諦め、サスペンド機能のあるFTPクライアントで、少しずつ少しずつデータを送って事なきを得た。ミャンマーを訪れる際にはネットの遅さにはくれぐれもご注意を。

【日本人向けのビジネスセンター】
全日空、日本航空など、日系企業が多く入居するサクラタワーでは、日本企業向けのビジネスサポートも行なわれている。いずれもネット回りのソリューションをアピールしているのがポイント

【トレーダーズホテル】
現地の方にネットが高速だと聞いて訪れたトレーダーズホテル。1階のレストランでランチを頼んでWiFiを使わせて貰ったが、スピードは遅いままだった。このネット回線の遅さは、ゲームビジネスでは大きなボトルネックになりそうだ

【ボージョーアウンサンマーケット】
ミャンマーの英雄アウンサン将軍の名を冠したヤンゴン最大規模のマーケット。地方出身者向け、あるいは観光客向けといった感じで、ミャンマーの特産品が集められている。ここにゲーム系の商品は一切扱われていなかった

【Junction Square】
ヤンゴンを代表する大規模ショッピングモール「Junction Square」。規模は日本のデパートぐらい。中は非常に綺麗で、衣類、小物、家電、モバイルショップ、フードコート、映画館、ゲームセンターなどが入っている。ソフトウェアショップはやはりすべてコピー品だった
Samsungも店舗展開してGalaxyシリーズをプッシュしていた。彼らのセールスポイントは、独自のフォントを組み込みミャンマー語に対応しているところ。彼らはほとんど英語表示のまま使っているため、これは凄いことだ

(中村聖司)