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【新春特別企画】中国ゲームマーケットレポート(杭州・廈門編)
偽装新品に怯える中国市場。この焦土から生まれるものは一体何か?
(2013/1/17 00:00)
連日お伝えしている中国ゲームマーケットレポートもこれで最後になる。今回の中国取材は、カシュガル編でも触れたように、スケジュールや空席状況の関係から、杭州から入り、西安、ウルムチを経由してカシュガルに行き、帰りはウルムチ、鄭州、廈門経由で帰国した。このうち、西安と鄭州はトランジットで数時間立ち寄っただけだが、杭州と廈門はそれぞれ一泊して、こちらのゲームマーケットも覗くことができた。
カシュガル編、ウルムチ編に続く、中国ゲームマーケットレポート締めくくりとなる第3弾では、杭州、廈門のゲームマーケットの様子をレポートすると同時に、今回の中国ツアーで見えてきた中国ゲーム市場の現状と、その未来についても触れてみたい。
街の真ん中に世界遺産がある“古都”杭州。ゲームマーケットは最新ハードのWii Uから偽装新品まで何でもある“小上海”状態
杭州は、上海から新幹線で1時間ほどの距離にある中国を代表する古都のひとつで、街の中央に世界遺産の西湖が鎮座する。経済的には上海の影響化にあり、街にある工場の多くは上海向けの製品を製造している。このため、杭州の繁華街は、ショッピングモールというよりは問屋街という雰囲気で、小綺麗なショッピングモールはあるにはあるが少数に留まり、カーテンの向こう側で、クオリティの低い偽ブランド品を扱う個人商店が入るアングラモールばかりが目に付く。こうした状況から、裕福な杭州市民は、杭州ではあまり買い物をせず、上海まで買い出しに行くという。
今回は正月に訪れたためか、世界遺産の西湖周辺を含め、どの街路も全体的に人通りは少なく、全体的に古都らしく静かで落ち着いた街という印象を持った。これは本格的にオフシーズンだなと思ったのは、とある西湖沿い茶屋の湖畔にある庭が、ブルドーザーやショベルカーを入れてリノベーションを掛けていたことだ。秦の始皇帝が眺めたという優美な景観が完全にぶちこわしで、そうした行為が許されるぐらい観光客が少ないのだろう。
さて、杭州のITモールは、繁華街から少し外れた学生街文三路の一帯にあった。近くには大小のソフトウェアパークもあり、IT関連がここ一帯に集められているようだ。杭州オリジナルのITモールをはじめ、グローバル展開するPCショップやスマートフォンの正規代理店が軒を連ね、少し外れたところには中国最大規模のITモールチェーン「百脳匯(Buy Now Hui)」もあり、モールの入り口には、中古携帯の買い取りを行なう業者が座り込んで商売を行なうなど、さながら“小上海”といった感じだ。
モールの品揃えは、Apple、Lenovo、ソニー、サムスン、Acerなど売れ筋のデバイスを擁するメーカーの新製品を中心に、ノートPC、タブレット、スマートフォン、その関連製品を扱うショップが多かった。ゲームショップも存在したが、上海と同様にその数は減少傾向で、棚のポスターやロゴにはゲーム関連でも、扱っている商品は別のものなど、業態変更をしているショップも目立った。
ただし、ゲームを扱っているお店は、いずれもやる気のある店ばかりで、ハードは、最新ハードのWii Uを含め、据え置き機、携帯機を問わずすべてのハードが、全色、全ラインナップ、何でもある感じで、日本でもなかなか手に入らないような各ゲームハードの限定モデルも、それぞれ1.5倍から2倍程度のプレミアムを付けて販売されていた。とにかく何でもひっかき集めて展示するという感じはお隣の上海にそっくりで、共通の業者がビジネスをやっているのかもしれない。
ゲームソフトは、海賊版ばかりかというと意外とそうでもなく、正規品も香港や台湾から大量に仕入れられていた。中国の業者は、機を見るに敏であり、儲からない商材はまず店に置かないし、ゲームからスマートフォンへの大胆な業態変更も厭わないし、儲かるものならイリーガルでも置く。そうした彼らが、大量の正規品ゲームソフトを扱っているということは、所得水準の高い杭州では正規品がビジネスになるという何よりの証拠だろう。こうした正規品を扱うショップは上海でも増えており、こうした状況を見ると、海賊版の問題は、倫理観や道徳の問題というより、単純に現地の所得水準に価格設定やビジネスモデルが適合しているかどうかというだけの問題のような気もする。
ただ、要注意だと思ったのは、上海や杭州、深センなどと同様に、一部ニセモノや偽装新品を扱っている店が見られたことだ。ニセモノの生産拠点となっている広州や深センのように特定のモールは全部ニセモノというほどではないが、本物の中に巧妙にニセモノや偽装新品がまぶされており、なかなか危なっかしい。
ITモールの上層階には、その生産拠点らしき中古ショップがひしめいており、PCはそのまま完動品を中古で販売しているため、ある程度安心だが、スマートフォンやPSPの基板を扱う店も確認でき、ここから中古品のみならず、偽装新品も生まれていることが確実視される。ここもまた上海に勝るとも劣らないほどカオスな市場だと実感させられた。杭州を観光等で訪れて家電製品を購入する際は、くれぐれもニセモノにお気を付け頂きたい。
台湾攻略の作戦基地「廈門」。昔の敵は今の友。大嶝島の一部を台湾企業に解放した実験都市を歩く
続いては、新疆ウイグル自治区からの帰りに立ち寄った福建省を代表する経済都市「廈門」を紹介したい。
廈門は今でこそ日本企業も進出する経済都市として知られるが、かつては台湾との間で砲撃戦が展開された中国側の最前線であり、その面影は今でも街中に残っているどころか、今も廈門島のすぐ目の前に大金門島、小金門島という大小2つの“台湾領”の軍事拠点があり、今なお喉元にナイフを突きつけられたような状態になっている。
それでは廈門は、韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線のように、さぞかし緊張状態の高い都市なのかと思いきや、現実はまったく逆で、現在はもっとも台湾と親密な都市として知られ、経済交流の一環として台湾領の大金門島まで橋を架ける計画があったり、廈門にある小島の一部を埋め立てて台湾を行き来するための空港を建設する計画が進んでいる。さらに実証実験として、台湾企業の中国進出を促すための実験都市も造られているという。廈門の空港からほど近いということでまずはそこに赴いてみた。
その場所は、廈門島から本土に渡ってすぐ東側にある大嶝島にあった。大嶝島は、かつての戦禍の傷跡もあまり感じられない、島土着の人々が昔ながらの生活を維持するのんびりとした小島といった印象だが、島の中ほどまで行くと、いきなり現代的で大げさな門や大がかりな建物が見えてきて、ここが政治的に特殊なエリアであることに気づかされる。
施設の名前は、「廈門大嶝対台少額商品交易市場」といい、廈門政府が、台湾のために用意した広大な免税エリアとなっている。ここで台湾の業者を迎え入れるためにわざわざ税関まで用意されているが、この中では台湾の業者に限り、関税を払わずにビジネスをすることができる。中国人もまた、ここで購入した製品は税金を払う必要はなく、双方にとってお得な免税エリアとなっている。日本人からすると、直接台湾に行った方が、新鮮で美味しいモノ、魅力的な新製品が手に入りそうだが、中国人が台湾に行くためにはビザが必要で、まだお手軽に旅行というわけにはいかない。そこで主に台湾に行けない中国人がこの地を求めて訪れているという。
ただし、“少額商品”とあるように、ここで取り扱える商品は、あまり高価なものでないもの、具体的には6,000元(約85,000円)までの、特定の品目に限られる。ここで扱って良い商品は食品、酒、衣服、工芸品、日用品、医療品などで、PCやゲームハードといった電化製品は含まれていない。が、そこは中国であり、台湾なので、さりげなく台湾製品ではないPS3やXbox 360が売られていたり、日本製のビデオカメラやデジカメが置かれている。さらに、店の奥にはさらに小部屋があり、偽ブランド品や、禁制品のスマートフォンなどを取り出して売りつけようとしていた。やはりここもカオスな空間だった。
「廈門大嶝対台少額商品交易市場」は、一説には、もともと廈門が台湾からの密貿易で栄えた都市で、それを辞めさせるための一種のガス抜きとして設置したものとも言われるし、台湾に中国大陸でのビジネスのメリットを実感させることで、中国統一に結びつけようという大戦略の一環とも言われる。
ただ、今回、現地視察を行なった限りでは、そのどちらも正しくないのではないかと思った。というのも、現在は両地域との間で経済交流が進み、わざわざこの地を介さずとも台湾から物を仕入れることはできるし、ここでしか手に入らない台湾製品は何ひとつないし、そもそも、すでに経済的、技術的に中国が台湾を追い抜いており、中国が台湾の製品を欲する時代は過去のものとなっているからだ。
強いていえば、当時中国から撃ち込まれた大砲の弾を溶かして刃物にした当地名物の「金炮刀業」ぐらいだが、廈門の観光名所として、中国全土から訪れるには、免税エリアとしてやや弱すぎるし、店もあまり本気で売ろうとしている雰囲気が感じられない。いくら非課税でも、買う人が少なければ店を出すメリットは薄いし、商売として成立しない。ここはあくまで表の顔で、裏の顔が別にあるのではないかと勘ぐりたくなる。
しかし、廈門政府は長期計画で今後もこの市場を拡張する方向を打ち出している。今後予定通り空港や橋が完成すれば、大きく変貌を遂げる市場になるのかもしれないが、現状は、政治的な決断ありきで設置されたあまり賑わっていない市場だった。
廈門のITモールを歩く。ゲームショップに忍び寄る「偽装新品」の暗い影
さて、続いて廈門市中心部のITモールも覗いてみた。廈門を代表するITモールは湖濱南路と白鷺洲路の交差点にある「百脳匯(Buy Now Hui)」がメジャーで、ほかは個人商店ばかりという感じで、規模としてはあまり大きくない。この台湾系のモール百脳匯は、今回行った杭州、鄭州、西安を含め、中国全土に展開している。余談だが、カシュガルにも百脳匯があったが、ここは名前だけ模したニセモノショップだった。ともあれ百脳匯は中国人にとってそれほど馴染み深い存在となっている。
ちなみに「百脳匯(Buy Now Hui)」は、日本におけるヤマダ電機やヨドバシカメラといった家電量販店の中国版だと錯覚してしまうが、実はそうではなく、百脳匯の本業は不動産業で、中に入っているショップはすべてテナントとなる。でありながら、建物のデザインや内部のデザイン、カラー、それから1階は必ずPC関連で、地下1階はモバイル関連といった、施設としてのフォーマットは綺麗に統一されており、中国人はどこの都市に行っても統一されたフォーマットで安心して買い物ができる。こうした点はまさしく日本の家電量販店風である。ただ、百脳匯は、各テナントショップの扱う商品まではチェックしていないため、ここにニセモノや偽装新品、海賊版がいくらでも入り込む余地があるわけである。
さて、店内は、PC、モニター、スマートフォン、デジカメなどを中心に、日本と変わらぬ新製品が何でも揃っていた。ただし、ざっと見た限りでは、本当にニセモノや偽装新品が多い。物理的に広東省の広州、深センという中国の二大ニセモノ市場に近いためか、業者向けに偽装新品用のケースや箱を売る店などもあり、今回訪問した都市の中ではもっともディープだった。
ゲームショップも何店舗か見つけることができたが、ディープな割には、利用者はそれほど多くなく、客の姿もまばらだった。それもそのはずで、エンドユーザー向けの小売店のはずなのに、業者向けのケースや箱を堂々と売っているため、多少知識のある人間なら、そこがニセモノや偽装新品ばかりを売っている店だとわかるからだ。実際、値段を聞いてみると正規品より数割価格を下げて割安感をアピールしていたが、それこそが偽装新品を売ってる何よりの証拠だと言える。
筆者は10年近くにわたって中国の様々な大都市のITモールで、無数のゲームショップの生態を覗いてきたが、この廈門ほど進化の方向を間違えたマーケットは見たことがない。小売りショップなのに、業者向けのイリーガルな商材が混在しており、それが自ら首を絞める結果になっている。
昨年6月に取材した深センでは、偽装新品の本拠地を取材し、その問題の深刻さをレポートした。ゲームソフトの海賊版(違法コピー)や、エミュレーター等が遊べるパチモノハードは、圧倒的な所得格差が生み出す、一種の“自然の摂理”であり、究極的には彼我の間で所得格差がゼロになるか、ビジネスモデルをフリーミアムを切り変えない限り、絶対なくならないものだと思っている。と書くと、カチンと来る業界関係者もいると思うが、ただ、視点を変えればこの問題は供給側である程度コントロール可能であり、今後十分克服可能な課題と言える。
しかし、動くかどうかわからないような中古品を中国全土から安価で買い集めてきて、外箱とケースを“偽”の新品に張り替え、偽のマニュアル、ビニール等で新製品と偽装し、新品と同等か、それより少し安い程度の価格で販売する「偽装新品」だけは、純粋悪であり、業界団体や行政の力を借りて可及的速やかに根絶しなければならない問題だと思っている。
偽装新品は一言でいうと詐欺であり、高価で修理不能な中古品を掴まされるわけだから、この被害を受けたユーザーは、再度購入してゲームを楽しもうと思ったり、その楽しさを友人に伝える気持ちにはなかなかならないだろう。結果としてゲームコミュニティの縮小再生産が繰り返され、せっかく生まれたゲームマーケットがどんどんしぼんでいくことになる。
この偽装新品の問題はゲームコンソールだけではなく、むしろここ数年は、より高価なスマートフォンが主戦場になってきており、深センレポートでもお伝えしたように、俗に“1対1”(すべての部品が1対1で配置されているからそう呼ぶ)と呼ばれる、極めてクオリティの高いiPhoneやGalaxyなどのスマートフォンが続々生み出されている。これは本当に恐ろしい話だと思う。
そうした中でも中国でゲームハードやスマートフォンを手にするユーザーの数は増え続けており、中国独自のスマートフォンも増えてきている。それはつまり、それだけ潜在的なゲームファンも増え続けていることになる。最初は粗悪なパクリゲームや、エミュレーターで遊んでいたユーザーもそれだけでは飽き足らなくなり、“本物”を求め始めるはずだ。それも当然、中国人が自ら生み出したコンテンツを求めるだろう。
おそらく、こうした焦土の中から生まれてくるゲームコンテンツは、当然コンソールゲームやアーケードゲームといった旧来の枠にはまったものではなく、中国の問題をすべて逆手にとったフリーミアムモデルで、特定のハードウェアに依存せず、なおかつ伝播力の強いソーシャルゲームになるはずだ。しかも、日本のようにガチャで稼ぐ焼き畑モデルでもなく、GoogleやFacebook(中国からはアクセスできないが)のような、集客そのものが売上に繋がるようなビジネスモデルにならざるを得ないだろう。
その際のプレーヤーは誰になるのか。日本のメーカーはプレーヤーのひとりに名を連ねることはできるのか。まだまだ答えは見えないが、今後も引き続き世界でもっともホットなゲームマーケットである中国市場をウォッチしていきたいと思う。