ガンホー、PS Vita「Dokuro」体験版インプレッション
開発チームの市川氏と風間氏に直撃インタビュー!
ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社は、PlayStation Vita用ギミックアクションゲーム「Dokuro」を7月5日に発売する。価格は、PS Vitaカード版が2,400円、ダウンロード版が1,800円。CEROレーティングはA(全年齢対象)。今回は、配信中の体験版インプレッションと開発者スペシャルインタビューをお届けする。
「Dokuro」は、魔界の手下“ドクロ”と、ヒーロー“イケメン”を切り替えながら、ギミックだらけの魔王城からお姫様を脱出させるパズル要素を大きくフィーチャーしたアクションゲーム。黒板にチョークで描かれたかのような“暖かみ”のあるグラフィックスが印象的だ。
某月某日、筆者は体験版プレイとインタビューを行なうべく、ガンホー・オンライン・エンターテインメントへと足を運んだ。実は直前まで「『Dokuro』とはなんぞや?」というありさまで、ホームページとムービーを見て「なんとなくわかった……かな?」といったおぼろげな認識だったのだが「まぁ百聞は一見にしかず、アクションゲームは触ってナンボっしょ!」と、いつもの調子で会議室へと案内される。
あらかじめ説明すると、主人公のドクロくん(個人的に情が移ってしまったので、ここからは“くん”表記といたします)は、魔界で働く下っ端。囚われの身となり涙を流すお姫様に憐憫の情を抱いたドクロくんは、幽閉されていた部屋のカギをあけてお姫様を逃がしてしまう。悲しいことに、ドクロくんの姿は“お姫様には見えない”ため「あらまぁ、勝手にカギが開いたわ! 私って超ラッキー!」とばかりにスタスタと牢屋を後にする。
嬉しそうに(といってもグラフィック的には表現されていないのだが)逃げるお姫様の後を追うドクロくん。だが、魔王の城にはさまざまなトラップが仕掛けられており、そう簡単には逃げられない。案の定、足場がなくなった通路の端でさめざめと悲しんでいるお姫様。ここからがゲームのスタートだ。
ドクロくんの操作は、左スティックが移動、×ボタンがジャンプ、○がギミックやスイッチ類のオン・オフ、□ボタンが武器攻撃、△ボタンがステージやりなおしなどのメニューとなっている。
姿こそ見えないが「なんとかしなければ!」と健気にスイッチ類を操作してお姫様の逃走ルートを確保していくドクロくん。このお姫様、大変困ったことに「前に進める状況であれば、なにがあっても自動的にスタスタと歩いてしまう」という習性をお持ちで「おい、そこのお前! この状況の変化に何も違和感を抱かないとか、おかしいだろ! 本当は見えてて見えないフリしてるだろ!!」と口から泡を飛ばしてツッコミたくなるが、これはゲームなので……。
お姫様を脱出させるべく奮闘するドクロくん。その様子が見えないお姫様は、スタスタとひたすら先に進んでいく。あからさまなトラップに自らハマることはないのだが、足元のトゲや敵などに接触すると死んでしまう。必死でお世話するドクロくんのかいがいしさが、思わず涙を誘う |
行き止まりでは反転、敵に見つかると驚いて逃げるなど、状況によってはそれなりのリアクションを示すお姫様だが「敵に接触したらアウト」、「段差は越えられない」、「足元のトゲなどには気づかず、当然接触するとアウト」など「……まぁ、お姫様だからね!」と自らを強引に納得させざるをえない脆弱っぷり。これらを解決するのが、ドクロくんとヒーローの“二面性”だ。
ゲームを進めていくと、道中「あれ!? ここはドクロくんでは何もできんぞ?」という場面に出くわす。このとき、R1ボタンを押すかPS Vita裏面を2回素早くタッチすると、さっきまであんなに貧弱だったドクロくんが「なにこのしなやかなイケメン!」とばかり大変身!
恐ろしいことに、さっきまで何も見えなかったはずのお姫様、このイケメンだけは視界に捉えられるご様子。しかも「あなたなんとかして」といわんばかりに“お姫様だっこ”で抱え上げられ段差をクリア。
ここで、ドクロくんとヒーローの二面性“能力の違い”について説明したい。
【ドクロくん】
・攻撃 …… 敵を押し戻す(ノックバックさせる)ことは可能だが、ダメージゼロで倒せない。
・ジャンプ …… 最初のジャンプ中に再度ジャンプボタンを押すと二段ジャンプが可能。
・お姫様抱っこ …… できない。
・変身 …… スクリーンまたは背面タッチパッドをダブルタップ。R1ボタンでも可。
【ヒーロー】
・攻撃 …… 敵にダメージを与えられる。ただしダメージが通じない敵もいる。敵を押し戻す能力はドクロくんに遠く及ばない。
・ジャンプ …… ジャンプは1回だけ。
・お姫様抱っこ …… 段差を越えられないお姫様を抱えて移動する唯一の手段。抱えた状態でジャンプはさすがに無理。
・変身 …… ドクロくんと同じ。
【ドクロくん】 | ||
---|---|---|
大きくノックバックさせるだけで敵は倒せないが、二段ジャンプで高所に移動できる。仕草がとてもかわいい |
【ヒーロー】 | ||
---|---|---|
青いポーションの力を借りてドクロくんが変身した姿だが、お姫様がそれを知らない。鋭い剣は一部をのぞき敵にダメージが与えられる。ジャンプは一段のみ。必殺“お姫様抱っこ”で段差も楽々クリア |
導入部で魔王様が飲み干しガチムチマッチョに変身した、青い液体の入ったポーション。飲んで変身すると、画面右上にあるポーション型のアイコンが少しずつ減少していき、無くなると変身が解けてしまう。未使用時は時間の経過に応じて減った分が自動で補填されていく。ざっくりいうと「変身後にのんびりやっていると、時間がなくなり困ったことになる」というわけだ。
ふたりの能力を使いわけ多種多様なトラップをクリアしていくと、ステージ1のとあるエリアで“白チョーク”というアイテムが手に入る。これはドクロくんの“物体連結能力”を引き出すもので、画面内で途切れたオブジェクトがあれば、タッチパネルを実際に指でなぞって“チョークの線で繋ぐ”ことが可能。
白チョークは物体を連結させられるドクロくんの特殊能力。上画面・右のように画面左上アイコンに×がついているときは使えない |
ステージ3では、新アイテム“赤チョーク”が出現。これは画面内にある炎と何かをつなぐ“導火線”の役割を果たす。いかにも爆発しそうな樽に着火したり、置いてある大砲で“人間大砲”よろしくお姫様をぶっとばし離れた場所に移動させるなど、なかなか刺激的なギミック。ちなみに、置いてある大砲に何の疑問もなくスッとお姫様が入ったときは、あまりのシュールさに盛大に笑ってしまった。
赤チョークは画面内の炎を導火線の要領で何かにつなぐことが可能。それにしても、人間大砲の砲身に何の疑問もなくスッと入れるお姫様のぶっといメンタルには恐れ入る |
お仕事であることを完全に忘れ去ってキャッキャいいながら筆者が楽しんでいると、開発チームのプロデューサー・市川彰彦氏とディレクター・風間紀明氏のおふたりが会議室のドアから姿を見せ、早速インタビュー開始となった。
■ プロデューサーの市川彰彦氏、ディレクターの風間紀明氏に直撃インタビュー!
(上画像・左より)プロデューサーの市川彰彦氏とディレクターの風間紀明氏 |
-- すいません、キャーキャーいいながら遊んでる醜態をお見せしてしまいました(汗)。
風間氏:楽しんでいただけたみたいで、光栄です(笑)。
市川氏:こうやって触っていただけると、ゲームの世界観やギミックアクションの良さが伝わると思うんです。グラフィックスや世界観を売りにはしているんですけど「このゲーム、どんなん?」というところがあったりするので、やはり触っていただかないと……。
2月に「ラグナロク オデッセイ」を出させていただいたんですけど、こちらはわかりやすいじゃないですか。見た目も派手だし(触る前に)想像しやすい。「Dokuro」に関しては、本当に触っていただかないとわかりづらいかと思います。先日から体験版を配信して、ぼくらはドキドキなんですよ。
-- こういうタイプの作品ですから、ユーザーの方々の反応はとても気になりますよね。
市川氏:結構ドキドキ! 体験版でステージ3まで出してしまうので「おなか一杯になっちゃうのでは?」、ステージ1で「もう無理だよ!」とかなったら、発売日までに終了してしまうので……。体験版って、そういうリスクがあるじゃないですか。
ステージ1はチュートリアルのイメージ、ステージ2はアクション要素、ステージ3はその応用という形で作っていたんです。作り手側としては、難易度的に「そんなに高くない」と思って作っていたんですけど……。PS Vitaのユーザーさんって、どちらかというとコアゲーマーがターゲット。なので(体験版として)ステージ1~3が難易度的に本当にあっているのか? というのが非常に悩んだところです。
-- グラフィックス的な“さわり”がとてもやわらかく、暖かい。絵本的というか、みなさんそう仰ると思うんですけど。ゆえにライトユーザー向けという第一印象があります。
市川氏:最初の印象は、そうでしょうね。どういうものかわからないけど、ソフトタッチのグラフィックスと世界観。「どういうゲームか?」というのが謎なんでしょうね。
-- 初期コンセプトとしては、ライトユーザー向けだったんでしょうか?
市川氏:(風間氏に向け)ライトではないよね?
風間氏:ライトとかヘビー、コアゲーマーというのは、考えていなかったですよね。
市川氏:ターゲットユーザーとかは別にして、とにかく絵本の世界観をゲームとしてどう表現しようか、というのが最初ですね。
-- 「Dokuro」というワードは、最初からあったんでしょうか? それとも後から?
市川氏:最初からお話すると、ある絵本が始まりです。風間が「絵本のような世界観でやりたい」って。
風間氏:市川に絵本を渡したけど、最初はなかなか読んでくれなかった(笑)。
市川氏:風間から「この2冊を、どうしても読んでもらいたい」という話がきたけど「絵本なんか読めるかよ!」っていう感じで(笑)。「企画の元にしたいんだろうな?」というのはわかっていたんですけど、忙しくて机の端っこに放置していたんですよね。
で、1週間くらい経って夜に時間があって「そういえば絵本、ちょっと読んでみよう」と。絵本って、子供のときくらいしか読まないですよね。母親が読んでくれながら寝るとか。今39歳なんですけど、本当に、30年以上絵本なんて読んでない。そんな気持ちで読んだら、夜だから疲れていたのもあったのかもしれないですけど……非常に心が温かくなって気持ちが浄化された。
-- こうした大人向けの絵本は、女性、特にOLさんに流行して定番になりましたね。しかし……絵本を読ませるとか、そういう“仕掛け”というか“せめぎあい”をしなくちゃいけないのですか?
市川氏:せめぎあいというか、とにかく「こういう世界観でゲームを作りたい」というのは、なんとなく僕もわかっていて。たぶん「OKを取る」とかじゃなくて「同調してもらいたかった」というイメージだと思うんです。
風間氏:先に“同志”を作る作戦です(笑)。
-- 確かに、先に味方を増やしていくというのは(企画において)とても大切です。
市川氏:それで「絵本って素晴らしいな」と改めて思いました。
-- 風間さん、してやったりじゃないですか。
市川氏:策にハマった、という感じ(笑)。ただ、本当にソフトタッチというか「これでゲームって、どうやって作るんだろうか?」と思ったんですけど、そこは風間もたくさんゲームを作ってきている。とにかく良かったので「じゃぁ、ちょっと企画を考えてみよう」というのが始まりですね。
-- インスピレーションは、絵本からきているんでしょうか? それとも何かを探していて絵本にたどりついた?
風間氏:元々はドクロじゃなくて、イケメンと騎士が主人公の“抱っこ”をフィーチャーしたゲーム企画を、社内の別の人が出していたんです。絵のコンセプトは8bit、レトロゲーム風でやりたいというのがあった。ただ、それは「惜しいところで止まっちゃっているな」と思っていたんです。グラフィックスにパンチがないと、たとえば今の3Dバリバリの作品に対抗できない。たとえリアリティあふれるグラフィックスを作ったとしても、今そういうゲームは山ほどある。もうちょっと個性的なグラフィックスじゃないと、ダメだなと思っていたんですね。
そのときに、この(絵本の)タッチに出会って「あっ、これは正解のひとつかもしれないな」と思った。騎士と姫の世界観のなかにチョークの世界観を持ち込んで……でも主人公が騎士だと、ちょっと凡庸だった。本当はザコとして描いてもらったドクロを見たとき「これが主人公だったほうが、面白いんじゃないかな?」と思いましたので、こいつを主人公にしました。
-- えらく出世しましたね。実際、ホームページだけの情報から、ゲーム中で動きが加わったものを見たとたん、ドクロくんに抱く印象がガラリと変わりました。ただ、キャラクター付けという部分では、やりすぎると鼻についてしまいますから、そのあたりのバランスは難しかったと推察いたします。ドクロくんは何パターンくらい作られたんでしょうか?
風間氏:ドクロはわりとすんなり決まったかな? 姫が1番大変でしたね。最初はヤンチャ姫でしたので、当時はミニスカートでしたし。
市川氏:黄色でチョークタッチ、っていうのに悩んでなかった? 何回もリテイクしてたよね?
風間氏:最初は青地に白い模様で兵士っぽい服を着ていましたからね。
-- 活発ということであれば、そうですよね。どうしても軽装になりがちですよね。でも実際には“中世ヨーロッパの王妃”という感じに落ち着いた。
風間氏:線がどんどんシンプルになっていったんです。最終的には、シルエットは基本でわかりやすくと言うことを心がけて作りました。
-- ここまでシンプルなのに表現豊かにやるというのは、とても難しいですよね。
市川氏:これは本当に、グラフィッカーが頑張りましたね! チョークで描いたようなグラフィックスは開発陣も苦労した。ただ、先ほど風間が申し上げたとおり「この世界観でいくんだ!」と決めたら、そこを追求していかないと……今たくさんゲームがあるなかで、売りがなくなってしまう。
-- アートディレクションには、どれくらい時間をかけたんでしょうか?
風間氏:相当かけましたね。最初にコンセプトアートを描いてもらったあと、キャラクターデザインはずいぶん揉めましたし。姫の試行錯誤もあった。
-- それに対する決定権は、市川さんが下すんですか? それとも全体の総意?
風間氏:みんなに意見を出してもらいましたけど、1番多かったのは、グラフィッカーが出してきたデザインをそのまま「これ良過ぎるから、採用!」って。いや本当に、良かったです。ほぼ迷いなく、イメージした以上のものを描いてくれました。
-- グラフィッカーさんに「こういうのが欲しい」といった提案はされたんでしょうか?
風間氏:はい、しました。ステージのモチーフは企画サイドで決めた。たとえば「この面は厨房」、「この面は時計塔」、「この面は水の牢屋」ってやると、向こうから「じゃぁこんな感じで」というキャッチボールを何回かやって「じゃぁ、これでいこう!」と。
-- ステージバリエーションは、どれくらい用意されたんでしょうか?
風間氏:10以上です。
-- 基本的に、すべてお城のなかというイメージでよろしいんでしょうか?
風間氏:庭に出たりもします。あと墓場とか。
-- ドクロってそもそもは異形なんですけど、プレイするに従い異形ではなくなっていく。とても愛しくなります。
市川氏:そういっていただけると、なんか嬉しいですね。ひとつの作品として落とし込んで、もちろんストーリーもちゃんとついています。ドクロを動かしながら愛着、感情移入していっていただけると、最後までいったとき何かしら感じてもらえるものがあるんじゃないかと思います。それ以上はネタバレになるので言わないです!
-- 全体のプレイ時間などは、どれくらいでしょうか?
市川氏:クリア時間であれば、20~30時間くらいでしょうか。
-- えっ、このお値段でそんなにやれていいんですか?
市川氏:ガンホーのスタンスとして、やれていいんです!
-- 最初からこの価格帯でいこうと決めていたんですか?
市川氏:最初はもっと高かったですよ、正直いって(笑)。でも、何回もいうようですけど“ひとつの絵本”の作品として落とし込んでいるので、できるだけたくさんの人に触れてもらいたかった。これも重複してしまうんですけど「遊んでいただいて、良さがわかるゲーム」って、あるじゃないですか。「Dokuro」はそういうたぐいのタイトルだと思います。
僕ら的には、自信があって送り出す作品。そういった意味では、価格もある程度企業努力で頑張れるところまで下げさせていただいて、なるべく多くの人たちに、この作品に触れていただきたいという想いから、こういう値段設定になりました。
-- 先々、追加配信などDLCで新しいステージが遊べるといったご予定はありますか?
市川氏:DLCは一切ありません! それはわざとないようにしてあります。体験版でステージ1~3を3週にわけて配信しつつ発売日を迎えて、そのあと1週ごとにステージ追加をやろうと最初は思っていました。でも、ぼくらの考え方というか、このタイトル「Dokuro」は一冊の絵本なので、「DLCで追加していくのは、この世界観にあわない」という話を風間として、元々DLCとして予定されていたものもROMのなかに全部入れました。
-- ……英断ですね。でも、考え方はすごくわかります。足して、さらに足してを繰り返していくと、印象が変わっていってしまいますよね。
市川氏:ゲーム性によってはDLCもいいんですけど、しつこくいうようですが「絵本」。やっぱり1冊の本なので、ひとつのROMで完結させたい。
-- いまの業界の流れとは真逆の方向性です。
市川氏:ガンホーは、そういうのが得意な会社なんですけどね(笑)。そういった意味では、こういう形で作品を提供する考え方は、世の中と逆行しているかもしれないですけど。「ひとつのタイトルとして届けたい!」という意味から、DLCを削除するのではなく「ROMのなかに全部入れちゃって、お客様にたくさん遊んでもらおう!」という発想ですね。
-- 作品性に主眼が置かれている?
市川氏:ビジネスも大事ですけどね(一同笑)。たくさんの方々がゲームを作られていると思うんですけど、やっぱりゲームって“ひとつの芸術作品”なんです。そういった意味ではユーザーのみなさんに夢を与えていかなきゃいけないですし、内容もそうだし、手に取りやすい価格も、最大限ガンホーとして努力したという形です。
-- 最近はユーザーさんも山のような情報に曝されて、我々も反省しなきゃいけない部分なんですけど……わりとすれちゃってて。そういった意味で“デトックス”される作品になるかもしれませんね。ひとつ完結、完成されたものを、ちゃんと受け止めて、なにか印象を覚える、記憶に残る……。
市川氏:PS Vitaはローンチからバリバリの3Dグラフィックスのタイトルとかたくさんあります。その点「Dokuro」は2Dの暖かみのあるグラフィックス、こんなことを言うものなんですけど、それほど派手さはない。でも“ゲームの本質”を考えたうえで開発しましたし、我々としては満足のいく作品になったと思います。
-- キャラクターを動かしていて、凄く楽しかったです! 40過ぎてこういうことをいうのもアレですけど(汗)。
市川氏:同世代の方々に触れていただけると“どこか懐かしい感じ”もありながら、デトックスというか、社会の波に揉まれ錆びれてしまった心を浄化してくれるんじゃないでしょうか。
-- ひとつひとつ試していく“タッチアンドトライ”の繰り返しが苦痛にならない。これは私が考えるいいアクションゲームの1番の条件で、失敗の繰り返しで「あれ? あれれれ?」っていうプチマゾいところが、オールドゲーマーにはたまらない。コアな方向性かもしれませんけど、もしかしたら本作が1番刺さるのは、そういった世代やユーザー層かもしれませんね。
風間氏:作っているチームの連中も、まさにそのへんが大好きなんです!
-- ステージ構成から伝わってくる“主張”がたまりません。ミスするたびに「あー、作り手の思惑にハマってるんだろうなぁ……」と。
市川氏:ゲームの仕様としてギミック要素が結構入っているんですけど、複数パターンでクリアできるような形にしています。解法がひとつではないんです。
-- アイデアを組み合わせているから、そこにいい感じの“隙間”ができるんですね?
市川氏:仰るとおりですね。そういった設計をしています。別に1本道でもいいんですけど、それだとたぶん投げちゃいますよね。
-- その、遊びの幅ってとても重要ですよね。見た絵だけではない“やわらかさ”にもつながる部分だと思います。作っている人が、恐らく1番このゲームをわかっている、楽しんでいるのが伝わってきます。そういった意味では、楽しむあまり「やりすぎちゃった」ことはありますか? たとえば難しく作りすぎちゃったり?
市川氏:最初は難しかったですよー! 途中は某脆弱で有名な主人公のアクションゲーム並。ギミックはいいんですよ。複数の答えがあるので、自分なりに応用をきかせてクリアできる。アクションも好きで苦じゃないんですけど、たくさんの人に触ってもらうことを考えたとき、最初は当たり判定(コリジョン)とか厳しくて! 「これ、もう無理だぞ!」っていう話は何回かしました。
-- ドクロの骨、ヒーローの剣はかなりシビアに調整されたと?
風間氏:最初は見た目のコリジョンしか持っていなかったんですけど、ゲームとしてもう少し大きめに当ててあげなくちゃいけないので、あとで調整しました。
-- アクションゲーム寄りの考え方だと、人によってかなり幅がありそうですね。
風間氏:そういうのは、だいぶ揉みましたね。アクションとパズルの按配でいうと、最初はかなりアクション寄りで、途中から「もう少しじっくり考えるタイプ」に寄せました。今のテンポがベストだと思っています。
-- 床が熱せられるシーンなんかは相当ハラハラさせられました。そこで感じたんですが、インフォメーションがいい感じですよね。時間の経過を感じさせる表現とテンポがいい。
風間氏:あまりゲージとかUIに頼った表現はしたくなかった。キャラクターのダメージ表現も、キャラクターだけを見ていればわかるようにしています。
-- そのあたりのアナログ感は、最初から狙っていたんでしょうか?
風間氏:はい。本当はもっと減らしたかったんですけど、必要最低限は残しました。
市川氏:僕はゲーム性として、横スクロールでもなんでも“長ったらしいもの”が嫌いなんです。テンポに関してはまったく指示していないんですが、出てきたものは凄くテンポがいいもので、言うことはなかった。1ステージ10エリアで、プレイしていただいたからわかると思うんですけど、1エリアは物凄く短いですよね。ギミックが解けないと時間がかかることはあるんですけど、基本的には非常に短く、サクサク次に進める。今時はゲームをやる時間も少ないですし、そういった意味では短い時間でストレスがないよう遊べる設計になっています。
-- 「Dokuro」は、サクッと解けたときの爽快感、悩んだ末にクリアできたステージの達成感、どちらも凄く良かったです。
市川氏:やりきったー! っていう。「Dokuro」は1ステージ10エリアあるので、10回やり遂げた気持ちになれます。-- もうひとつ地味に凄く良かったのは、エリア終了後にゲーム画面が“暗転”しませんよね。無意識の継続性とテンポのよさは、なかなか意図して出せるものではないと思います。より深くゲームに入っていける。
風間氏:そういっていただいてメチャメチャ嬉しいです。強く意識して作った部分です。
-- 一般的には、エリアクリア後にリザルトを出してしまいがちです。
市川氏:それを一切無くしたものね。
風間氏:ある程度ストーリーも見ていただきたい作品ですので、ゲーム中せっかく掴んだプレーヤーの気持ちを離すような演出は、最初から絶対やりたくなかったのです。途中で、反対意見がすごくありましたが。
-- 実は先ほどの体験プレイ中、時間が足りなくなりそうになって「ちょっと飛ばして先に進めましょうか」って本体をさっと手元から持っていかれたんですね。ここ数年、滅多になかった感覚なんですけど「お気に入りのオモチャを取り上げられた!」感覚に陥りました。久しくなかったです、この感覚。
市川氏:先ほどのエリアでの達成感にもつながりますけど、ちゃんと物語もついていますので、達成感のあとにストーリーも味わえるエッセンスが加わえてあります。
-- ライフの増やし方も、いいですよね。お姫様がプレゼントしてくれる宝石だから、印象深い。ゲームにすっと入っていける。ただ……プレイしているうちにお姫様に対しては「なにやってんだよ!」って思っちゃう。背後にモノが落下しても微塵も動じないし。
市川氏:最初は思いますよね(笑)。それが感情移入するに従い……自分が動かしているのがドクロじゃないですか。そういう気持ちになってきていただけると思います。
-- ファーストプレイで感動したのが「姫はドクロの姿が見えない」こと。センスあるなぁ! と思いました。ドクロのかいがいしさがたまらないです。
市川氏:そこはポイントですからね!
-- ここでネタバレは勘弁してください! 私、個人で買って最後まで遊ぶつもりなんですから!!
市川氏:続けていけば、もっと感動しますよ!
-- 感情のレイヤーが重なっていくんですよね。最初はただ可哀相で、かいがいしいドクロが、最初のエリアをクリアしたとき「ニコッ」とするじゃないですか。「あれ? 報われてる?」って。そういった流れがたまらないです。
市川氏:たぶん(クリアしたら)泣くと思いますよ。僕でもウルッときましたからね! たぶん、同世代の方はジャストでハマると思います。
風間氏:ぜひ泣いてください(笑)
-- 酷い人たちだ……それはさておき。全何ステージを用意されているんでしょうか?
風間氏:基本的に、全ステージ数は明らかにしていません。
-- トロフィーばれ(トロフィー一覧で全体構成や隠し要素が発覚する意味)は大丈夫ですか?
風間氏:トロフィー名ではバレないと思います。なんとなく匂いはすると思うんですけど、ゲットしたあとに解説を見ると「あぁ、なるほどね」と。全ステージ数をいわない理由のひとつは、物語にからんでいるんです。
-- ステージ構成も、ストーリー全体に深く関与しているんですね……これは楽しみです。ドクロしかり、敵キャラクターの造形も非常に印象的かつ魅力的です。おふたりが1番気に入っているのは何ですか? ネタバレにならない範疇でお願いします。
風間氏:Lady Dark(頭がモンスターのように後方に伸びているキャラクター)ですね。組み終って「いいキャラクターになったなぁ」と思いました。勝手に物語のなかで走り始めてくれた。
-- 漫画家さんがよくいう「勝手にキャラクターが動き出した」というやつでしょうか。
風間氏:私、あの感覚は始めて味わいました。
市川氏:最後に詰まっているから(ネタバレになるので)いえないですね(笑)。最後まで遊んでください、としかいえません。
-- こういった強い作品性を持つパズル重視のゲームは、珍しいかもしれません。
市川氏:あまりないですよね。パズルに世界観って、なかなかつけづらい。世界観を重視するなら、RPGなどのほうが最適でしょうし。
-- スピンアウトでRPGがあってもいいな、と思いますけど? 大人のすれた考え方かもしれませんが……。
風間氏:売れてくれれば、社長を説得します(笑)。
市川氏:絵本は出したいですね。
-- 初回版に添付するとか。
市川氏:夢として。僕らはゲームメーカーなので。たくさんの人に支持していただけたら本にしたい。どうなのかなぁ、タイトルはローマ字じゃないんだろうなぁ。「ドクロさん」みたいな形で(笑)。そうなれたら嬉しいですねぇ。
-- 楽しいお話もつきないのですが、そろそろお時間がきてしまったようです。最後に期待しているユーザーの皆様にメッセージをお願いします。
風間氏:月並みですけど、誠実に思いのたけを封じ込めて作りました。ぜひよろしくお願いします!
市川氏:この世界観を堪能していただきたいですし“ひとつの絵本”としてゲームを作り上げているので、たくさんの人に触れていただいて、がんばって最後までプレイして見届けていただきたいな、と思います。
-- ありがとうございました。個人的にも発売日を心待ちにしております!
【スクリーンショット】 | ||
---|---|---|
(C)GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.
(2012年 6月 14日)