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【EVO Japan 2020】まさに異常事態! 8人中6人がリロイ使いとなった波乱の「鉄拳7」ファイナルを制したのはタイのBook選手!
なぜこんなことになったのか? リロイの「壊れ」具合を徹底解説する
2020年1月26日 20:47
- 1月24日~26日開催
- 会場:幕張メッセ 国際展示場
1月24日~26日にかけて開催された格闘ゲームの世界大会「EVO Japan 2020」。会場となった幕張メッセには、世界中から6,000人を超えるプレーヤーが訪れ、しのぎを削った。
本大会のメインタイトルの1つである「鉄拳7」部門には、900人を超えるプレーヤーが参戦し、優勝賞金100万円を賭けて壮絶な戦いが繰り広げられた。「鉄拳ワールドツアー」覇者のチクリン選手をはじめとする日本の強豪プレーヤーだけでなく、Knee選手ら韓国の古豪たち、そして昨年の鉄拳シーンを大いに賑わせたパキスタンのArslan Ash選手も参加した本大会は、まさに世界トップレベルの大会といえる。
「鉄拳7」が12月に新バージョンに更新されたばかりであることもあって、本大会は番狂わせの応酬、大混戦となった。3日間に渡って繰り広げられた大会の模様を、写真とともにリポートする。
右も左もリロイだらけ! 新キャラクターが猛威を振るう!
本大会を語るうえで絶対に外せないのが、新バージョンと共に追加された「リロイ」というDLCキャラクターだ。配信当初からその性能の良さから、コミュニティからは「壊れキャラ」なのではないかという声が絶えなかったが、「EVO Japan 2020」でコミュニティの疑惑は確証へと変わった。
これまでにも「鉄拳7」に性能的にずば抜けて強いキャラクターが存在していたことはある。最近では豪鬼などがその例だろうか。パキスタンのプレーヤーたちが豪鬼のポテンシャルを最大限引き出したことで、2019年後半には豪鬼は最強キャラとして認められるまでになった。しかし、同じ高性能キャラクターである中にも、豪鬼とリロイでは大きな違いがある。一番の違いはその手軽さだろう。
豪鬼の強さはコンボ火力や迎撃の強さなどであるが、これらは全て一定以上の操作精度が求められる、難易度の高い行動だった。しかしリロイの場合、その強さは純粋に「技の強さ」であり、フレーム・リーチ・ダメージどれをとっても非常に高水準な技を複数備えている。
例えば「連環拳破」は、発生10フレームでありながらヒット確認可能で、最終ヒットはダウンもしくは壁やられ誘発と、破格の性能だ。この技のおかげでリロイの確定反撃・空振り反撃はずば抜けたリターンとなっている。「謄空落斧」は発生21フレームとギリギリ反応できない発生の早さを持ちながら、ジャンプステータス付き中段コンボ始動技であり、ある程度横移動も追う上に、ガードされて-3フレームと、ローリスクハイリターンで攻守ともに使える万能技だ。
他にも「義絶寸勁」は、発生12フレームの中段技でありながら、カウンターで膝崩れを誘発する。リターンが高いうえに空振りの隙も少なく、ガードされても確定反撃がなしと、リロイの近距離戦での防御力を底上げしている技だ。またリロイは固有システムとして“1試合に1度しか使えない技”を持っている。その「杖戒連撃」という技はレイジドライブ顔負けの性能で、長リーチ・中段技でありながら45ダメージのコンボ始動技、ガードで+8フレームという傍若無人ぶりだ。
以上はリロイの強さのほんの一部でしかないが、ここまで強い技が揃っていると、優秀な技を振っているだけで、他のキャラクターとの差別化ができてしまう。(無論、それだけでは大会上位にはいけないだろうが)実際、本大会のTOP8のうち6人がリロイを使ってTOP8入りを果たしており、配信から2か月弱でここまでの成績が出てしまうなんて現象は、豪鬼の時には起こらなかった。
本大会でリロイに敗れてトーナメント敗退を期したトッププレーヤーは数知れず、反対にいち早くこのキャラバランスに気づき、リロイを起用したプレーヤーが勝ち上がったという印象だ。例えばプールでのLiquid所属弦選手対TEAM Yamasa所属ノビ選手の一戦では、ノビ選手はスティーブ、ドラグノフとメインキャラ2体を使用して立ち向かうも、弦選手のリロイにストレート負けしてしまう。
試合後に弦選手にインタビューすると「リロイは最強キャラクターですね。一番有効な対策は、リロイをかぶせることだと思います。」とのこと。もちろん弦選手の地力あってこその勝利だろうが、リロイの強さは使用選手自らが認めるほどだ。
また前回チャンピオンのRed BullアスリートArslan Ash選手対Cooas所属のノロマ選手の試合では、Ash選手はザフィーナで対抗するも、こちらもノロマ選手のリロイに敗北してしまう。試合後に感想を伺うとAsh選手は、「リロイは……強いね……」と悔しさを隠し切れない様子だった。
筆者が見かけた限りでは他にも、韓国のCHANEL選手、Kkokkoma選手やJDCR選手、インドのTejan選手、日本のぺコス選手らもリロイを使用していた。ここまで大勢のプレーヤーが同一のキャラクターを使っている大会は、今世紀の格闘ゲームではほとんど無かったのではないだろうか。
TOP8にはリロイ6名! 鉄拳の世界は守られるのか?
大混戦の予選を通過しTOP8入りを果たしたのは、日本からTHY所属のチクリン選手、Liquid所属の弦選手、Cooas所属のノロマ選手、ITO所属のみきお選手、ゼウガル選手、柾選手の6名。そしてタイからTalon所属のBook選手、韓国からEQNX所属のUlsan選手の2名だ。日本開催の大会にしても、ここまで日本人プレーヤーが多いTOP8は珍しい。日本勢は新バージョン・新キャラクターへの移行が他国に比べて上手いということか。
8名の内みきお選手、Ulsan選手の2名がリロイ以外のキャラを使っているのだが、会場の観客も本大会の異様な事態を察知し、この2名の選手がリロイに対して勝つと大きな歓声が上がり、リロイが勝つとブーイングが上がる。完全にリロイがヒールになっている構図だ。
「TWT FInals 2019」準優勝した韓国の若手筆頭Ulsan選手は、持ちキャラのボブと一美を駆使してリロイに立ち向かった。TOP8の1回戦ではゼウガル選手のリロイ、2回戦では「TWT Finals 2019」覇者であるチクリン選手のリロイも下して見せた。Ulsan選手は主にボブを使ってリロイ対策を練ってきているようで、中距離からの中下段択でダメージを取り、リロイが特に強い近距離ではパワークラッシュで守る、といった戦術がみられた。
しかしそんなUlsan選手も、3回戦でノロマ選手のリロイに敗れてしまう。ボブで負けたあとは恐らく一番使い込んだキャラであろう一美も投入するが、惜敗。ノロマ選手の無駄のない技振りと、勝負所での当て勘には対応しきれなかったようだ。Ulsan選手は試合前に自身のツイッターで「リロイを倒して鉄拳世界を救いたい」とツイートしていたこともあって、ファンの期待も高かったが、宣言通りにはいかなかった。
みきお選手は本大会で自身初のTOP8入りを果たした、ジュリア使いのプレーヤーだ。みきお選手も地元名古屋でリロイ対策を随分と練っていたとのことで、チクリン選手のリロイを下してグランドファイナルへ駒を進めた。彼の対策は、まずUlsan選手と同じように2択を積極的にかけること、そして横移動からのスカし確定を徹底することだ。Ulsan選手敗退後、最後の非リロイ使いとなったみきお選手は、完全に会場を味方につけていた。
決勝戦、タイの英雄Book対名古屋の雄みきお!
ウィナーズファイナル・グランドファイナルのカードは共に、先述のみきお選手VS世界大会TOP8常連でありタイ最強プレーヤーのBook選手となった。Book選手は今まで仁使いとして名を馳せていたプレーヤーで、地元開催の「TWT Finals 2019」においても3位に輝くなど、非常に優秀なプレーヤーだ。そんなBook選手が今回いち早くリロイを導入し、かなりの精度まで仕上げてきている。
会場の注目は「みきお選手がどこまでBook選手に食い下がれるか」の一点だった。みきお選手はBook選手に対してもこれまで通りジュリアを選択する。ジュリアは中距離から一気に距離を詰める戦い方に長けているため、リロイ側の不意を突いて奇襲をしかけることができる。みきお選手は持ち前の攻めの姿勢で、Book選手を仕留めにかかる。
Book選手は優秀な選手でありながら、大きな大会での優勝は数えるほどしかなく、メンタル面で課題が残る選手だ。そのためみきお選手のアグレッシブな攻めに圧倒される場面も多かった。ウィナーズファイナルの序盤は特にみきお選手優勢に見えた。1-2とゲームカウントでリードすると、2本先取マッチと勘違いして飛び上がって喜ぶ姿が見られたほどだ。
しかしBook選手は次第にみきお選手のスタイルに対応していく。後のインタビューでは「みきお選手対チクリン選手の試合をよく観察していたので、勢いで押されるのが一番危ないだろうと思い、精神を落ち着かせることに集中していた」と語っている。その意識の甲斐あってか、第4ゲーム以降徐々にBook選手がみきお選手の奇襲をガードする場面が増えていた。みきお選手は検討するも、ウィナーズファイナルはBook選手が3-2で勝利した。
みきお選手がルーザーズファイナルを勝ち上がったことで、決勝戦の舞台で再び相まみえた両者。会場からはみきお選手を応援する声が絶えない。その声援を味方につけ、みきお選手が再び2-1とリードする。後にBook選手が「みきお選手は集中した時の動きが野試合のそれとは段違いに精確で、かなり手ごわかった」と語っているように、みきお選手の集中力はすさまじかった。横移動の精度や要所でのガードなど、駆け引きにおいてBook選手を圧倒しているようだった。
しかしここから徐々にBook選手がペースを取り戻す。防戦一方だった展開から、徐々に手を出すようになり、技があたってしまえばリロイの圧倒的火力でジュリアの体力が溶けていく。さらにBook選手のリロイは他のリロイ使いたちに比べて捌きの使い方が上手い。これは同じ捌き持ちの仁を使っていた経験からくるものだろうが、みきお選手の攻撃が捌かれてしまう場面も多くみられた。
そうして立て直したBook選手はみきお選手圧倒し、リセットを許すことなくウィナーズのまま優勝に輝いた。これは「EVO Japan 2020」通して1セットも負けていないということになる。リロイの強さもそうだが、この結果はBook選手の地の強さがもたらした結果だろう。みきお選手に話を聞くと「Book選手は他のリロイ使いに比べ試合中の対応力が優れています。僕も相当リロイ対策をしてきましたが、その対策にも試合の中で対応してきました。」とのことだ。
大会後、選手たちにインタビューを行なった。まずみきお選手に心境を尋ねると「今までで大きな大会でTOP8に入れたのは初なので、とてもうれしいです。リロイについては早く調整してほしい、というのが正直なところですが、おかげで会場の声援が得られたのでそれはよかったです」と語ってくれた。
また優勝したBook選手にも話を聞いた。心境を伺うと「過去2年間TWTを周り続けて、これまで優勝は『Thaiger Uppercut 2018』しかありませんでした。どうしても勝ちきれない大会が多く、そのせいで自信を無くしつつありました。なので今回優勝できて、複雑な気持ちですが嬉しいです」と答えてくれた。
「どうして複雑なのですか?」と問うと「優勝できたのは、今明らかに最強キャラクターであるリロイのおかげだからです。それにネット上でリロイ使いに対するアンチコメントを多く見かけました。彼らのプレーヤーを尊重しない、悪意ある態度に胸が痛み、仁を使おうか一晩中悩みました。しかし、最強キャラクターであるリロイを敢えて使わないことは、ネット上の彼らと同じように、対戦相手への侮辱になってしまうと思いました」と、本人も悩んだうえでの決断だったそうだ。
キャラクターの強さは確かに関係したものの、これだけリロイ使いがいた中で、Book選手のみがウィナーズで優勝したということは、彼の実力あってのことだ。大会を優勝しても気持ちよく終われないようなキャラクターは、確かに非難されるべきかもしれない。しかし今はそれを抜きにして、Book選手の素晴らしいパフォーマンスを称えたい。
「EVO Japan 2020」の鉄拳部門は、以前から懸念されていたリロイの強さがいかにゲームバランスを崩しているか、それをはっきりと露呈させる結果となった。「鉄拳7」は格闘ゲームである以上に、プロ選手が数多く存在するeスポーツ競技でもある。リロイのようなバランスブレイカーがいては、選手たちが報われないのみならず、「鉄拳7」の競技としての品位が落ちてしまうのではないだろうか。
これからリロイの再調整は確実視されるにしても、それはそれでこの1カ月間をリロイの練習に費やしたプレーヤーの努力を踏みにじることになる。圧倒的に強い新キャラクターがコミュニティに与える影響、リロイは我々にその大きさを再確認されてくれた。今後DLCキャラクターが追加される際は、リロイの件を踏まえ、是非コミュニティにプラスになるようなキャラクターを追加してほしい。
また大会後に「鉄拳7」プロデューサーMichael Murray氏より、1月28日に「みなさんお待ちかねのバランス調整が予定されている」と発表された。この調整でリロイに修正が入ることが確実視されるが、その場合はリロイが他キャラと同等程度の強さ、つまり今のリロイ使いたちが、リロイを使い続ける意味を見失わない程度の強さに調整されることを願う。