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【GDC 2019】「Blood & Truth」が魅せるVRを超えたリアリティ

AAAゲームの手法で切り開くVRゲームのビジュアル新基準とは

【GDC 2019】

3月18日~3月22日(現地時間) 開催

会場:Moscone Center

 本年もあっという間に会期を終えたGDC 2019。初日の18日の振り返りとして、Sony Interactive Entertainment(以下「SIE」)のPS VR向けシューター「Blood & Truth」のキャラクター製作に関するセッションの模様をお伝えしたい。

 GDC 2016以降、VRDCとしてVRコンテンツに特化したセッションが開催されるようになって、はや4年。ハードウェアのほうは、HTC、Oculusともに世代交代が進み、そろそろ第2世代と呼べるHMDがリリースされつつある。

 対するPS VR陣営の方は、コンソール向けということもあって、マイナーチェンジを繰り返してはいるものの、ハードウェアの更新の話題は噂の域を出ない。ハードウェアのライフサイクルが長いのはコンソールの特徴だがら、これは予想通りの展開だ。ハードウェアの仕様が動かないということは、ソフトウェアが開発しやすい一面もあり、必ずしも悪いことではない。

 そんなPS VRに対して、PS VR専用タイトルが2019年も引き続き準備されている。日本ではやはり「みんなのGOLF VR」が待ち望まれているということになるのだろうが、海外スタジオでは、本作の他にも、英Media Moleculeの「Dreams」、米シアトルベースのHighwire Gamesによる「Golem」といったタイトルが発売を控えている。

登壇したSIE London StudioでCharacter Supervisorを務めるToby Hynes氏

 SIEロンドンスタジオが開発する本作については、現時点で2019年のリリースとされている。2017年の発表以降、公開されている情報がかなり少ないことから、本セッション前には、全然できていないのかと思っていたのだが、実際にはそんなことはなく、少なくともビジュアルに関しては、すでにかなりのところが出来上がっている印象だ。はからずも本セッションがひさびさの情報公開となった。

 登壇したCharacter SupervisorのToby Hynes氏は、VRゲームでは、その特性上、強烈な没入感が得られるが、その効果を最大化するためには、通常のコンソールやPCゲーム以上のリアリティが必要だという。真に迫ったビジュアルを実現するためにSIEロンドンスタジオが採用したキャラクター製作の手法について、本稿でご紹介したい。

 冒頭で触れたとおり、「Blood & Truth」はSIEロンドンスタジオが開発しているシューターだ。プレーヤーはロンドンの特殊部隊の隊員Ryan Marksとなり、冷酷な犯罪組織に拉致された家族を救出すべく、単身ロンドンの暗部での作戦行動を敢行する。世界観的には、PS VRのデモ集「PlayStation VR Worlds」に収録されていた「The London Heist」の流れを汲むもので、シューターでもあり、スニークアクションでもあるという印象だ。

【ゲームビジョン】

 ビジュアル面においても、プレーヤー自身がスーパーヒーローになる、という実にVRゲームらしい王道体験を提供することに全力を尽くしている。初期のプロトタイプ開発段階から、3Dスキャンされたストックのモデルに加えて、Artecのハンディスキャナーを活用して簡易的に3Dスキャンを行い、特に衣服に対してさまざまなポーズのスキャンを行なっている。

 このテストは、各ポーズ間で生じる衣服のシワの形状変化をノーマルマップのブレンディングで実現するためのもので、ゲームグラフィックスでは珍しいアプローチだ。通常、ポリゴンモデルによるアニメーションの場合、衣服の大きなたわみやシワなどの表現はポリゴンで作り、微細なものはノーマルマップで表現する。ポリゴンで形作られたシワ部分は、スケルタルアニメーションによるスキンの変化に追従させることはできるのだが、あらかじめシワの形状にポリゴンを不均等に割いてモデルを作ってしまっていることから、スケルタルアニメーションとの相性が悪い。

 現実の衣服のように関節の動きにあわせて自然に伸び縮みさせることは意外と難しく、どんなポーズを取っても、ノーマルマップに落とし込まれている部分のみならず、ポリゴンの部分までシワが固いままにしているものも多い。

 衣服のシルエットによって感じる違和感に差はあるが、男女ともにパンツスーツなどはかなり相性が悪く、手足を曲げきったり、伸びきったりしたときに、肘や膝とその周辺部分に顕著に現れる。また上半身を左右によじった時に、胸や腹まわりに作られたシワがやはり固いままで残っているのが目立つことがある。これを関節の屈伸アニメーションにあわせたノーマルマップのブレンディングアニメーションを行なって、自然に見せようというのがテストの目的だ。

【プロトタイプキャラ製作】

 研究開発段階では、この他にも、フェイシャルアニメーションのテスト、メインキャスト、その他大勢のNPCのみなさん、それぞれのキャラクターを想定して、さまざまな衣装や個性付けのための小道具を装着した状態でスキャンして、ルックの確認をしている。特に、ミリタリーモノの小道具は、その筋で定評のあるショップから購入している。なかでも日本のDevtacのマスクはなかなか高価で、できるものなら中国製の安価なものにしたかったとして会場の笑いを誘っていた。

【ディティール検証】

 本製作のフェイズに入ってからは、その他大勢のNPC用として汎用のベースボディを作成して、それに衣装を適用してそれぞれのNPCを製作している。また顔についてもパーツ替えが効くように設計されている。

 メインキャストについては、この段階で俳優のキャスティングを行ない、衣装合わせをして、衣装の変形用のマップを得るために、想定されるありとあらゆるポーズでスキャンを行なっている。

【キャラクター製作】

 スキャンしたデータからの頭部の製作は、UnrealEngineのパートナーとして「Hellblade」や「Horizon: Zero Dawn」のキャラクター、リアルなデジタルヒューマン「SIREN」や俳優Andy Serkisのデジタルコピーを製作してきた3Lateralに製作を委ねている。

 ヘア表現については、パフォーマンス上の制約からリッチな表現ができずチャレンジだったとしていたが、平面ポリゴンに、ノーマルやスペキュラ、ノイズ等で変化を持たせるゲームではおなじみの手法が取られているようだ。日本のゲームだと毛先を柔らかくするために、アルファチャネルで透明度を持たせるところだが、パフォーマンスを優先して不透明オンリーと割り切っているように見えた。

【ヘア表現】
【完成したキャラクター】

 テスト段階で十分な検証を終えていることもあり、プロダクション段階の洋服や、手のシワの変化は見事なものだ。実際にテストアニメーションを流し込んで動いている状態を見ることができたのだが、筆者の知る限りここまで綺麗にデフォームするモデルは見たことがない。ゲームに限らず、国内のリアル調CGアニメなどの特にアップめのカットで、情報量を増やすために取って付けたような硬くて動かないシワが、どうしても気になって気になって仕方がなかったのだが、これならまったく気にならない。

 本作では、その他にも、タトゥーや洋服のロゴプリント、素肌に対する傷の表現、衣装のバリエーション、といった部分に、細部に至るまで詳細でリアルなデザインを起こしている。

【洋服の変形】
【手の変形】
【ディティール表現】

 プレーヤーの視点で最もリアリティを強く感じるのは、こういったディティールであり、ちょっとした部分に変化がないだけで急に作り物っぽさを感じてしまうものだ。本作では、3Dスキャン、フォトグラメトリ、パフォーマンスキャプチャと、現在のリアル志向で確立しているすべての技法を取り入れた上に、本作オリジナルの世界観を具現化するディティールデザインと、ノーマルブレンディングによるデフォームと独自の工夫も行なっている。

「Blood & Truth」のカットシーンの1シーン

 VRゲームのマーケットは、すでに先駆者利益を追って成功する市場ではなくなっていることから、AAAクラスのゲーム開発手法で高い品質ゲームを投入しないと生き残れない状況にあるのだろう。成熟期に入った市場では手堅い方法論だが、それでコストに引き合うかは別の話だ。

 またリアルなVR空間表現という意味で最高のものを実現したとしても、エキサイティングでプレーヤーを虜にする魅力を持ったゲームになるかどうかも、これもまた別の話だ。リリースが迫ってきている現在、そのあたりを詰めている最中だと思われる。是非とも素晴らしい完成度に仕上げてもらって、VRゲームのクオリティ基準を示してもらいたい。