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【GDC 2019】「デビル メイ クライ5」、感情から逆算するゲームデザイン
強い感動作りのためにはセオリーすら崩す!(重大なネタバレあり)
2019年3月22日 15:34
3月8日に発売されたばかりのプレイステーション 4/Xbox One/PC用スタイリッシュアクション「デビル メイ クライ5(以下、DMC5)」。GDC 2019にて、さっそく本作をテーマにした講演が行なわれた。
登壇したのは、カプコン「DMC5」ディレクターの伊津野英昭氏。伊津野氏が話したのは、「感情から逆算して開発するゲームデザイン」というテーマ。伊津野氏が考えるゲームデザインのコツと、「DMC5」での実際の取組みについて述べていった。
なお本講演は「DMC5」のネタバレ満載で進行していった。「知らないでプレイする味わいと、知ってからプレイするのでは、体験がまったく変わってしまう」と伊津野氏本人も会場に呼びかけていたほどなので、未プレイという方はぜひ注意していただきたい。
開発者は様々な体験がすべて財産になる!
伊津野氏はまず言葉の定義から始めた。ここで言う「感情」とは、プレイによって生まれる感動や気持ちよさ、つまりゲームのモチベーションにつながる心の動きを指す。感情から逆算する、ということは、ゲームをプレイしたときにプレーヤーを狙い通りの気持ちにさせられたら成功というわけだ。ではそれはどうやるのか。
方針をブレさせないためには、目的をしっかりと定めることだという。たとえば今回なら、目的はプレーヤーに狙い通りの感情を持たせること。そのために手段があるのであって、手段と目的は混同してはいけない。このとき、目的は1つにすること。手段はたくさんあってもいいが、特定の手段にこだわりすぎると開発現場の混乱のもとになるとした。
狙い通りの感情を作るためには、開発者自身が「感情のライブラリ」を充実させるべき、と伊津野氏は話す。たとえば様々なイベントに参加してみたり、スカイダイビングのような未知の体験をしてみたり。特に若いうちは、若いときにしかできないようなものまで積極的に体験することで、感情のライブラリを蓄積してほしいとした。
感情のライブラリを溜めるコツは、その体験から来る感情を先に想像しておくこと。実際の感情が想像を下回れば自分の想像力が勝っていたということだし、想像以上のに感動があれば新しい知識を得たことになる。「いずれにしても開発者の財産になる」と伊津野氏は語った。
ちなみに、期待に期待して買ったゲームがクソゲーだったときについても、上の理由から「めちゃくちゃラッキーなこと」とした。「ゲームに出しているお金以上に体験で儲けている。だから開発者はゲームをどんどん買ってほしい。ただし、自分のお金じゃないとダメ(笑)」と会場に呼びかけた。
伊津野氏自身もトライアスロンを完走したり、高級ふぐ料理を食べてみたり、積極的にさまざまなことを体験している。また感情を揺さぶったものとしては、ロボットアニメの存在が大きいという。
ここで伊津野氏はロボットアニメのシーンを紹介した。それは、あるヒーローロボットが敵にボロボロに負けているシーンのこと。2年間見続けたヒーローがまさに敵に殺されんと大ピンチを迎えている。もうダメか、万事休すかと追い詰められると、それまで行方不明だった主人公の父親が突如として登場する。
しかも父親の横には新しいロボットがいる。新ロボットは颯爽と飛び立ち、崖の上でバシーンとポーズを決めている。それだけでなく、新ロボットはあれだけ強かった敵を一撃ずつ、圧倒的強さで殲滅させてしまった。
伊津野氏、このとき4歳。実はこの演出、次の週から始まる新しいロボットアニメの予告的なもの。当時のよくある手法だったのだが、新ロボットに一気に心を持っていかれた伊津野少年は、「来週から絶対見る!」と誓ったのだそうだ。
ロボットアニメの事例はもう1つ。こちらのアニメでは主人公ロボットが3体いる。ある敵と戦っているのだが、3体ともまったく歯が立たない。3体が3体ともボロボロになり、やはり大ピンチに陥ってしまう。
しかしそのとき、宇宙から突然現われた妖精がこう言う。「大丈夫、3人の力を合わせなさい!」。アドバイスを受けた3人は、合体して1体の巨大ロボットへと変形する。巨大ロボは超強力な必殺技を繰り出し、そこから1歩も動かないまま敵をいとも簡単にやっつけてしまった。
このシーンのあまりの格好よさに、伊津野氏は泣いてしまったそうだ。伊津野氏、このとき32歳。28年間変わらないロボットファンスピリットに、会場は爆笑するとともに大きな拍手を送っていた。
「やりたいこと」のためにあえてセオリーを崩す
伊津野氏は大きな感動を得たら、何が原因でその感動に繋がっているかをしっかり分析することが大事だとした。裏を返せばどの要素がなかったら感動できなかった。そのロジックを理解できれば、同じ感動をゲーム上で再現できるようになる。
注意点としては、感動の要因には必要不可欠なトリガー要素と、感動を増幅させる要素の2種類があること。間違えやすい部分だが、その違いをしっかり分析できれば開発に役立つだろうとした。
では、「DMC5」では何を狙ったのか。伊津野氏が話したコンセプトは「挫折と覚醒」だ。人は、挫折の後の覚醒を見ると燃えるような感動を引き起こされる。そのうち最も力を入れていたのは、ネロの覚醒シーンだ。
伊津野氏には「DMC5」で「やりたかった画」があったという。すなわち、左側にダンテ、右側にバージルがいて、その中央のネロが2人の衝突を止めている画。「この画でプレーヤーを泣かせよう」と考え、そのためにすべてのシナリオを作っていったという。
アクションゲーム作りでは、20章立ての12章くらいでフルパワーになり、そこから最後まで遊ばせるものが通常のセオリーと言われている。しかし「DMC5」では最後に感情の最高潮を持ってくるためにあえてセオリーを崩し、クライマックスでフルパワーになるのだとした。
30年変わらないアクションゲームの真理とは?
アクションゲームをクリアしたとき、「やった!」という感情が起こるのは「30年変わらないアクションゲームの真理ではないか。アクションゲームを遊ぶ人は、この感情を得たいと思っているはず」と伊津野氏は語る。
そのために大事になるのは、「自分で攻略法を見つけること」、「練習すること」、「練習を諦めないこと」の3つをプレーヤー自らの手でやってもらうことだという。
「自分で攻略法を見つける」ためには、敵がどんな攻撃をしてくるか、見た目からある程度わかるようにしておくという。たとえば拳の大きい敵がいたら「絶対パンチを打ってくる」など思わせるなど、簡単なことが大事になるという。
また「練習すること」を促すために、たとえばネロのMAXアクトには「大成功」、「中成功」、「小成功」の3つのタイミング判定を入れている。「DMC4」では1フレームしか成功のタイミングがなかったためプレーヤーが途中で練習を止めてしまったが、「DMC5」では大成功のタイミング自体は同じにして、少しミスしてもそれなりのリターンを得られるようにしたことで練習を諦めないようにしたという。
さらに「練習を諦めないこと」の例としては、コンティニュー画面を挙げた。本作のコンティニュー画面で「レッドオーブ」を支払って復活する際に、どれくらい支払うかで体力の回復量が変わるようにしたという。プレーヤーが回復量を選べるようにしたことで、「この量があればできると自分にベットする」ような気持ちになる。
その上でまた失敗してたとしても、ゲームのせいではなく「自分のミスだ」と反省できる。最後に、「“コントローラーを投げる”のではなく“自分の顔を殴る”ように気持ちを持っていくことで、プレーヤーは練習を諦めずに繰り返してくれる」と伊津野氏は語った。
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