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【GDC 2019】「One Hour One Life」の開発者が教える"インディーの終焉"時代の生存術

そもそも今ってホントに"INDIEPOCALYPSE"なの?

【GDC 2019】

3月18日~3月22日(現地時間) 開催

会場:Moscone Center

 インディーゲームは過当競争の最中にある。Steamというプラットフォームに限っても年を追うごとにローンチ数は増加の一途を辿り、そんな多数のゲームの中で商業的に成功を収めるのは容易なことではない。まさにそんな状況はインディー開発者にとっての地獄、「INDIEPOCALYPSE(Indie+Apocalypse)」とも言えるが、そんな状況に「本当にそうか?」と疑問を投げかけた人物がいた。独立系ゲームデザイナーで14年のキャリアを持つJason Rohrer氏だ。

 Rohrer氏はGDC 2019において自身が携わったタイトルである「The Castle Doctrine(2014年)」と「One Hour One Life(2018年)」をベースに、「2014 VS. 2018: THE SHAPE OF FINANCIAL SUCCESS BEFORE AND AFTER THE INDIEPOCALYPSE」と題したセッションを行なった。

ゲームデザイナーのJason Rohrer氏
INDIEPOCALYPSE?

 「One Hour One Life」はオンラインのマルチプレイタイトルで、プレーヤーは他のプレーヤーの子供として世界に生を受け、無事成長することができれば今度は他のプレーヤーの親となって世代を繋いでいくというタイトルだ。人生が1時間に濃縮されてはいるが、親となるプレーヤーがまともに子育てをしてくれるかどうかはわからないので、人生を全うできるか以前にそもそもちゃんと大人になれるかどうかすら全くわからない。ともすれば"運ゲー"ともいえる作りだが、そのリプレイ性の高さや滲み出るバカゲーっぽさがウケて、カルト的な人気を博しているタイトルでもある。

 本作は約4カ月前にあたる2018年11月のローンチ以来、Steamにおいて計685,595ドル、直近1カ月では平均して日に2,889ドルを稼ぎ出す大ヒット作品となった。さらに最新のグラフィックスを用いているわけでも技術的に新しいわけでもない、いわば"古い"つくりの「One Hour One Life」は、これまで氏が携わったゲームよりはるかに多い、110人の同時接続を集めている。

大ヒットとなった「One Hour One Life」
ここに至るまでに様々な苦難が……

 とはいえ、この成功は予期していたものではなかったようだ。「The Castle Doctrine」と同じく「One Hour One Life」もローンチ後に売り上げにピークを迎え、その後は低空飛行……という試算だったが、「One Hour One Life」は初速で売り上げをグッと伸ばし、その後も長いスパンにわたって売れ続けている。

「The Castle Doctrine(赤)」と「One Hour One Life(緑)」の初月売り上げ。予測(青)を大きく裏切り、「One Hour One Life」は継続的な売り上げを見せた
発売後2カ月目を迎えても安定して売れ続けていることがわかる。ちなみにグラフが急上昇しているのはクリスマスシーズンとのこと

 また、Rohrer氏はゲームにまつわる動画やレビュー投稿についても言及。「The Castle Doctrine」は発売週に3つのYouTube動画が投稿され、24,654回の視聴に留まったのに対し、「One Hour One Life」は31本の動画で684,208回の視聴数を集めた。通算してみると「The Castle Doctrine」のトップビデオでは282,469回、「One Hour One Life」では2,255,293回の視聴とその差は歴然。さらにタイトル毎のレビュー数と同時接続人数がまさに反比例している点を指摘した。

「One Hour One Life」は動画投稿数&視聴数が非常に多い
レビューの本数はわずか2本だが、56本のレビューが投稿された「Tacoma」と比べても同時接続数は10倍
文字ベースのレビューよりも動画のほうが遥かに効果が高い……つまり「プレスは死んだ」という厳しい言葉も

 また、プレイ時間に注目してみると、「Tacoma」の平均プレイ時間は4.32時間なのに対し「One Hour One Life」の平均プレイ時間は44.7時間。最長で1,896時間(!)プレイしているユーザーもいるほか、プレーヤーの10%は4カ月……つまり発売から現在に至るまでの長期に渡ってプレイしている。

「Tacoma」の平均プレイ時間は4.32時間なのに対して……
「One Hour One Life」の平均プレイ時間は44.7時間。最長で1,896時間プレイしているユーザーもいるほか、プレーヤーの10%は4カ月にわたってプレイしている

 これらを踏まえてRohrer氏は、"古い"ゲームは「短い時間で1度プレイをする」スタイルのものであり、これから求められる"新しい"ゲームは「長期間にわたる趣味やライフスタイルとして、コミュニティに受け入れられる」ものと結論付ける。

 つまりは「あれ、やったことある?」というよりも「あれ、やってる?」というように、継続してプレイされ続けるゲームということで、その為に必要なのはまさに「One Hour One Life」のプレイ体験のように「無限にユニークな状況を作り出し続ける(Infinite unique situation generators)」ことだとした。こうしたゲームはプレイごとに展開が変わり、プレーヤーの「動画を投稿したい!」という欲を刺激する。そしてまたそれを見たプレーヤーが「自分でもやってみたい!」という好循環を生むのである。

"消費されるゲーム"は超キケン!
「無限にユニークな状況を作り出し続ける」ゲームは「動画を投稿したい!」という気持ちをあおる。そして投稿された動画数と視聴数はは売り上げに直結する

 Rohrer氏は「One Hour One Life」のようなタイトルがヒットしたことを鑑みると、現在は「INDIEPOCALYPSE」ではなく、「Consumable-gamepocalypce(消費型ゲームの終焉)」なのだと語る。そしてその時代で生き残るためには「ユニークな状況を作り出し続けるゲームを作る」ことが、今の飽和状態にあるインディー界で成功を収めるポイントだと締めくくった。